2007年09月14日
「オーシャンズ13」が認めた清酒「久保田」
映画「オーシャンズ13」が世界ブランドとして扱った日本酒が、新潟県の銘酒「久保田」だ。名優アル・パチーノがラスベガスに開く新カジノの盛大なお披露目パーティーで、貴賓・上客に振る舞われたのが「クボタ」だった。無数の出演作を持つパチーノが映画で初めてしゃべったかも知れない日本語が「久保田」。朝日酒造(長岡市)の高級酒として名高い「久保田」はかねてから日本では人気の高い銘柄だったが、この瞬間、「ドン・ペリニヨン」クラスのワールドブランドになった。
ポータル(玄関口)サイトの「goo(グー)」が発表した「一度は飲んでみたい有名日本酒ブランドランキング」で、「久保田」は「越乃寒梅」(石本酒造)に次ぐ第2位を占めた。ポイントで見ると、1位「越乃寒梅」の100とは僅差の95.4ポイントの支持を受け、3位「「八海山」(八海醸造)の65.3に大きく水を空けた。4位以下は「美少年」「雪中梅」「一の蔵」「十四代」「天狗舞」「〆張鶴」「浦霞」と続いた。
「久保田」ブランドは雑味の少ない、スッキリと引き締まった飲み口に定評がある。米を30%台まで磨き込んだ純米大吟醸の「萬寿」から、本醸造の「百寿」まで、製法・価格の異なる6商品がある。「碧寿」は純米大吟醸山廃仕込み。720ミリリットル瓶だけを用意した「翠寿」は大吟醸生酒で、4〜9月の季節限定商品だ。
特別純米酒「紅寿」は日本酒度+2のたおやかな味わいを持つ。「千寿」は日本酒度+6の辛口で、吟醸規格の特別本醸造酒。それぞれに異なる飲み口を持ち、「翠寿」以外はすべて1.8リットル入りと720ミリリットル入りの2種類がある。
どこででも買えるわけではない。品質を保つのに必要な温度管理ができる会員酒販店だけに直送している。卸を通さない直送方式を貫くのは、品質管理を徹底させる目的からだ。品質を守るための約束事は43項目にものぼる。現在は全国の約730の店で扱っている。取り扱い店で作る「久保田会」は今やそれ自体が酒販店のブランドとなりつつある。営業担当者が一軒一軒訪ね歩いた店ばかりだ。
新潟県内最大手の清酒メーカー、朝日酒造が「久保田」を世に出したのは1985年。朝日酒造の創業当初の屋号「久保田屋」に由来する「久保田」は、県外ではほとんど無名に近かった同社の社運をかけた商品だった。
米を限界まで磨き込んで、喉越しがよくて辛口という斬新な味わいを実現した。甘めの日本酒が主流だった頃に、時代を先取りする「淡麗・辛口」を提案した「久保田」はたちまち日本酒好きの舌を魅した。アサヒビールが「辛口」を打ち出し、日本のビールに革命をもたらした「スーパードライ」を発売する2年も前に売り出された、次代を見据えた挑戦的商品だった。
スーパーの酒売り場の棚で、無造作に置かれている一般的な日本酒のイメージもあって、日本酒にはワインほどの温度管理が必要ないと思っている人が多い。でも、ワインと同じく醸造酒の日本酒は温度の影響を受ける。香りと飲み口は温度状態で変化する。こうした事情から、朝日酒造は「久保田」の味わいを保つために、流通段階での低温維持に心を砕いてきた。「久保田」が発売から22年を経てもブランド力を失っていないのは、こうした心配りの賜物と言える。
「摂氏25度以下での保存」を、販売の条件に据えた。常温での流通・販売が当たり前だった日本酒の世界では異例の要請だった。個人経営の酒販店を応援する意味を込めて、小規模店中心に販売する方針も異色だ。売り手の顔が見える、「売りっ放し」ではない関係を築く姿勢も「久保田」ブランドを支えてきた。
朝日酒造は「久保田」以外にも、「久保田」誕生前からの主力商品で、新潟清酒の本流を守る「朝日山」ブランドや、復活米「千秋楽」を原料に使った2000年スタートの新ブランド「越州」、純米酒でありながら、スッキリとした清楚な飲み口の「越乃かぎろひ」などのブランドも持つ。江戸時代後期の1830年(天保元)の創業という老舗だ。
「久保田」は通信販売をしない。広告も打たない。インターネットショップやマーケティング全盛の時代に逆行するかのようにも見えるが、「まっとうな商売」とは、こういうものなのだろう。