2018年08月30日
処方前の甲状腺機能検査実施は3割 抗認知症薬の新規処方患者を調査 直せる認知症,甲状腺機能低下症,慢性硬膜下血腫,脳腫瘍,水頭症
処方前の甲状腺機能検査実施は3割 抗認知症薬の新規処方患者を調査
直せる認知症,甲状腺機能低下症,慢性硬膜下血腫,脳腫瘍,水頭症
2018年08月02日 06:10
医療経済研究機構の佐方信夫氏と奥村泰之氏は、わが国で抗認知症薬を処方する前に甲状腺機能検査がどの程度行われているかを調べた結果、約3割にしか実施されていないことがわかったとClin Interv Aging(2018; 13:1219-1223)に報告した。
同氏らは「『認知症疾患診療ガイドライン』では抗認知症薬処方前に甲状腺機能検査を実施することが推奨されていることから、約7割で実施されていないことは問題である」と指摘している。
26万例のレセプトデータを解析
日本の認知症罹患率は人口1,000対22.3と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も高く、抗認知症薬の処方率も上昇している。
認知症を診断する上では、甲状腺機能低下症など治療可能な疾患による認知症reversible dementiaと、アルツハイマー病など不可逆的な認知症を鑑別することが重要であり、日本をはじめとする世界各国の認知症診療ガイドラインで甲状腺機能検査の実施を推奨している。
しかし、これまでわが国において抗認知症薬の処方前に甲状腺機能検査がどの程度実施されていたかは明らかでなかった。
そこで今回、佐方氏らは2015年4月〜16年3月に認知症の診断直後に抗認知症薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン)を新規に処方された65歳以上の患者を対象に、甲状腺機能検査〔甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離サイロキシン(FT4)の測定〕が抗認知症薬の処方開始日から365日前までの期間に実施されていたかどうかをレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を基に調べた。
その結果、2015年4月〜16年3月に新規に抗認知症薬を処方された患者は医療機関3万4,492施設で26万2,279例存在し、甲状腺機能検査の実施率は32.6%(95% CI 32.5〜32.8%)だった。
診療所で低い実施率
医療機関の種類別に実施率を見ると、病院(10万6,048例)における実施率は診療所(14万1,489例)の1.5倍だった〔38.3% vs. 25.8%、調整リスク比(aRR)1.47、 95%CI 1.41〜1.53〕。また、認知症疾患医療センター(1万4,742例)における実施率は診療所の2.2倍だった(57.1% vs. 25.8%、同2.17、2.01〜2.33)。
年齢層別の実施率は、
65〜69歳(9,066例)が39.4%、
70〜74歳(2万3,175例)が37.2%、
75〜79歳(5万54例)が36.6%、
80〜84歳(7万7,389例)が33.9%、
85歳以上(10万2,595例)が28.1%と、
年齢が高くなるにつれて実施率が低くなる傾向が認められた。
85歳以上では65〜69歳の4分の3程度しか実施されていなかった(28.1% vs. 39.4%、aRR 0.74、 95%CI 0.72〜0.77)。
以上の結果、認知症診断直後に抗認知症薬を処方された患者のうち、処方前の1年間に甲状腺機能検査を受けていない患者は約67%存在した。
佐方氏らは「『認知症疾患診療ガイドライン』で甲状腺機能検査の実施が推奨されていることから、この実施率の低さは問題である」と述べている。
また、甲状腺機能検査実施率が診療所に比べて認知症疾患医療センターや病院で高かった原因として、設備的に血液検査を実施しやすい状況にあること、神経内科や精神科などに所属する認知症の鑑別に習熟した医師が多いことなどが挙げられるとした。
甲状腺機能低下症は、加齢に伴う身体機能の変化と区別が難しく、診断されにくい傾向にある。しかし、早期に治療すれば認知機能障害の回復も期待できるため、典型的な所見が認められない場合でも、認知症の診断時には甲状腺機能検査を実施すべきある。
同氏らは「治療可能な疾患による認知症を適切に鑑別すべきことを周知する必要がある」と結論している。
(大江 円)
直せる認知症,甲状腺機能低下症,慢性硬膜下血腫,脳腫瘍,水頭症
2018年08月02日 06:10
医療経済研究機構の佐方信夫氏と奥村泰之氏は、わが国で抗認知症薬を処方する前に甲状腺機能検査がどの程度行われているかを調べた結果、約3割にしか実施されていないことがわかったとClin Interv Aging(2018; 13:1219-1223)に報告した。
同氏らは「『認知症疾患診療ガイドライン』では抗認知症薬処方前に甲状腺機能検査を実施することが推奨されていることから、約7割で実施されていないことは問題である」と指摘している。
26万例のレセプトデータを解析
日本の認知症罹患率は人口1,000対22.3と、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中で最も高く、抗認知症薬の処方率も上昇している。
認知症を診断する上では、甲状腺機能低下症など治療可能な疾患による認知症reversible dementiaと、アルツハイマー病など不可逆的な認知症を鑑別することが重要であり、日本をはじめとする世界各国の認知症診療ガイドラインで甲状腺機能検査の実施を推奨している。
しかし、これまでわが国において抗認知症薬の処方前に甲状腺機能検査がどの程度実施されていたかは明らかでなかった。
そこで今回、佐方氏らは2015年4月〜16年3月に認知症の診断直後に抗認知症薬(ドネペジル、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチン)を新規に処方された65歳以上の患者を対象に、甲状腺機能検査〔甲状腺刺激ホルモン(TSH)、遊離サイロキシン(FT4)の測定〕が抗認知症薬の処方開始日から365日前までの期間に実施されていたかどうかをレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を基に調べた。
その結果、2015年4月〜16年3月に新規に抗認知症薬を処方された患者は医療機関3万4,492施設で26万2,279例存在し、甲状腺機能検査の実施率は32.6%(95% CI 32.5〜32.8%)だった。
診療所で低い実施率
医療機関の種類別に実施率を見ると、病院(10万6,048例)における実施率は診療所(14万1,489例)の1.5倍だった〔38.3% vs. 25.8%、調整リスク比(aRR)1.47、 95%CI 1.41〜1.53〕。また、認知症疾患医療センター(1万4,742例)における実施率は診療所の2.2倍だった(57.1% vs. 25.8%、同2.17、2.01〜2.33)。
年齢層別の実施率は、
65〜69歳(9,066例)が39.4%、
70〜74歳(2万3,175例)が37.2%、
75〜79歳(5万54例)が36.6%、
80〜84歳(7万7,389例)が33.9%、
85歳以上(10万2,595例)が28.1%と、
年齢が高くなるにつれて実施率が低くなる傾向が認められた。
85歳以上では65〜69歳の4分の3程度しか実施されていなかった(28.1% vs. 39.4%、aRR 0.74、 95%CI 0.72〜0.77)。
以上の結果、認知症診断直後に抗認知症薬を処方された患者のうち、処方前の1年間に甲状腺機能検査を受けていない患者は約67%存在した。
佐方氏らは「『認知症疾患診療ガイドライン』で甲状腺機能検査の実施が推奨されていることから、この実施率の低さは問題である」と述べている。
また、甲状腺機能検査実施率が診療所に比べて認知症疾患医療センターや病院で高かった原因として、設備的に血液検査を実施しやすい状況にあること、神経内科や精神科などに所属する認知症の鑑別に習熟した医師が多いことなどが挙げられるとした。
甲状腺機能低下症は、加齢に伴う身体機能の変化と区別が難しく、診断されにくい傾向にある。しかし、早期に治療すれば認知機能障害の回復も期待できるため、典型的な所見が認められない場合でも、認知症の診断時には甲状腺機能検査を実施すべきある。
同氏らは「治療可能な疾患による認知症を適切に鑑別すべきことを周知する必要がある」と結論している。
(大江 円)
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