2018年10月27日
心臓の周りの脂肪が減ると死亡が減る
心臓の周りの脂肪が減ると死亡が減る!?:
“imaging biomarker(画像診断から得られる指標)”としての新しい冠動脈CT検査(CTCA)の使い方
提供元:臨床研究適正評価教育機構 公開日:2018/10/03企画協力 J-CLEAR
コメンテーター 中野 明彦( なかの あきひこ ) 氏
群馬県済生会前橋病院 循環器内科 代表部長
冠動脈炎を非侵襲的に検出する新バイオマーカー/Lancet(2018/09/10掲載)
CTCAは装置がどんどん多列化し解析プログラムも多様化し、
その診断精度は向上、臨床応用の範囲は広がり患者さんにも優しい検査へと日進月歩で進化しています。
しかし、評価対象の中心が冠動脈の内腔(狭窄度)あるいはプラークであることに変わりはありません。
また「中等度リスクを有する症候性症例、
あるいは急性冠症候群(ACS)を疑う胸痛については
ECG/enzyme(心電図上の変化,CK(CPK)AST(GOT)LDHなどの逸脱酵素)変動のない低〜中等度リスクの症例」を適応とする
現行のガイドラインがCTCAに期待しているのは、
高度狭窄性病変の有無を判定し“今”を切り取ることでしょう。
【CTCAでの予後予測は?】
冠動脈病変を有する患者の予後を左右するのは、
言うまでもなく急性冠動脈症候群
(ACS:狭心症、急性心筋梗塞)の発症です。
そして「命運を決するのは狭窄度ではなく
プラークの性状」だということもわかってきています。
最近はCTCAから得られたプラークで“将来”を予測できるか、
という検証結果が集積されつつあります。
メタ解析では微小石灰化・低吸収プラーク・陽性リモデリング・ナプキンリングサインで
定義されるhigh risk plaque(=不安定プラーク)と
ACS発症との強い関連が示されました。
【CRISP CT studyの描く新機軸】
一方20年も前から、
(冠)動脈硬化は炎症性疾患であり、
その炎症がACSの引き金となるプラーク破綻を惹起する、
と指摘されています。
つまりCTCAで検証されている不安定プラークは
現在進行中の炎症の「結果」を見ていることになります。
これまで炎症のbiomarkerとして
高感度CRPや一部のサイトカインが報告されていますが、
冠動脈硬化に特異的ではなく、
ましてや炎症の局在などわかるはずもありません。
では、その炎症が可視化・定量化できるとしたらどうでしょう。
本研究ではin vitro・ex vivo・in vivoで実証された
「血管の炎症が周囲のpreadipocyteの分化・成熟を抑制し、adipocyteの脂肪含有量を減少させる」
という事実から、
これまで見向きもされなかった冠動脈の『外側』に着目したのです。
通常のプロトコルで撮像されたCTCAを用いて
主要冠動脈近位部でのfat attenuation index(FAI)を算出し、
炎症のサロゲートマーカーとしました。
3枝間のFAI相関が良好だったため右冠動脈のFAIを中心に解析、
4.5〜6年間の予後(総死亡・心臓死)との関連
が証明されただけでなく、
FAIはさらに、古典的冠危険因子・高感度CRP・冠動脈石灰化・high risk plaqueなどとは
独立した予後予測因子でした。
【CRISP CT studyの歯応え】
ACSの半数は狭窄度50%以下の「病変」から発症すると言われており、
したがって冠動脈造影やCTCAでの狭窄度評価からその発症予測は困難です。
50%以上の狭窄性病変の有無にかかわらず
FAI陽性(cut off値≧−70.1HU)例で心臓死に高いハザード比を示した本試験は、
図らずしもそれを裏付けました。
たとえ有意な冠動脈病変がなくてもaggressive preventionが必要な症例があり、
imaging biomarkerとしてのFAIはその層別化に有用な可能性があります。
本試験は炎症局所でのイベント発生を予測するものではありません。
むしろ、3枝のFAIが良好に相関していた事から考えれば、
冠疾患症例は冠動脈全体に炎症(pan-vasculitis;全身性血管炎)が生じうる
vulnerable patient(傷つきやすい患者)として捉えるべきなのかもしれません。
もちろん、今後の検証が必要な課題もあります。
たとえば、炎症の強い局所でイベントが起こりやすいのかどうか、
それを予測できるのかどうか。
あるいは薬剤の介入がどう反映されるのか。
折しもPCSK-9阻害薬や抗IL-1βモノクローナル抗体など強力かつ高価な抗動脈硬化薬が登場し、
residual riskをどうコントロール(狭心症・心筋梗塞再発予防)するかに注目が集まっています。
imaging biomarkerがこうした薬剤の効果判定、on-offのタイミングの見極めに役立つかもしれません。
さらに日常臨床をそのまま当てはめた本研究の解析対象は、
50%狭窄以上が14〜15%、
観察期間内の心臓死が1〜2%と結果的にはリスクの高くない症例群でした。
これがガイドラインに下支えされたCTCAの現状かもしれませんが、
もっとリスクの高い症例、あるいは無症候性の1次予防群だったらどうなのでしょうか?
今後の研究が待たれます。
これまでimaging biomarkerの代表格はcoronary calcium score(CCS)でしたが、
残念ながらこれはirreversibleな指標です。
おそらくreversibleと考えられるFAIを使ったプロジェクトが順調に進んでいけば、
いつかガイドラインが変更される日が来るかもしれません。
“imaging biomarker(画像診断から得られる指標)”としての新しい冠動脈CT検査(CTCA)の使い方
提供元:臨床研究適正評価教育機構 公開日:2018/10/03企画協力 J-CLEAR
コメンテーター 中野 明彦( なかの あきひこ ) 氏
群馬県済生会前橋病院 循環器内科 代表部長
冠動脈炎を非侵襲的に検出する新バイオマーカー/Lancet(2018/09/10掲載)
CTCAは装置がどんどん多列化し解析プログラムも多様化し、
その診断精度は向上、臨床応用の範囲は広がり患者さんにも優しい検査へと日進月歩で進化しています。
しかし、評価対象の中心が冠動脈の内腔(狭窄度)あるいはプラークであることに変わりはありません。
また「中等度リスクを有する症候性症例、
あるいは急性冠症候群(ACS)を疑う胸痛については
ECG/enzyme(心電図上の変化,CK(CPK)AST(GOT)LDHなどの逸脱酵素)変動のない低〜中等度リスクの症例」を適応とする
現行のガイドラインがCTCAに期待しているのは、
高度狭窄性病変の有無を判定し“今”を切り取ることでしょう。
【CTCAでの予後予測は?】
冠動脈病変を有する患者の予後を左右するのは、
言うまでもなく急性冠動脈症候群
(ACS:狭心症、急性心筋梗塞)の発症です。
そして「命運を決するのは狭窄度ではなく
プラークの性状」だということもわかってきています。
最近はCTCAから得られたプラークで“将来”を予測できるか、
という検証結果が集積されつつあります。
メタ解析では微小石灰化・低吸収プラーク・陽性リモデリング・ナプキンリングサインで
定義されるhigh risk plaque(=不安定プラーク)と
ACS発症との強い関連が示されました。
【CRISP CT studyの描く新機軸】
一方20年も前から、
(冠)動脈硬化は炎症性疾患であり、
その炎症がACSの引き金となるプラーク破綻を惹起する、
と指摘されています。
つまりCTCAで検証されている不安定プラークは
現在進行中の炎症の「結果」を見ていることになります。
これまで炎症のbiomarkerとして
高感度CRPや一部のサイトカインが報告されていますが、
冠動脈硬化に特異的ではなく、
ましてや炎症の局在などわかるはずもありません。
では、その炎症が可視化・定量化できるとしたらどうでしょう。
本研究ではin vitro・ex vivo・in vivoで実証された
「血管の炎症が周囲のpreadipocyteの分化・成熟を抑制し、adipocyteの脂肪含有量を減少させる」
という事実から、
これまで見向きもされなかった冠動脈の『外側』に着目したのです。
通常のプロトコルで撮像されたCTCAを用いて
主要冠動脈近位部でのfat attenuation index(FAI)を算出し、
炎症のサロゲートマーカーとしました。
3枝間のFAI相関が良好だったため右冠動脈のFAIを中心に解析、
4.5〜6年間の予後(総死亡・心臓死)との関連
が証明されただけでなく、
FAIはさらに、古典的冠危険因子・高感度CRP・冠動脈石灰化・high risk plaqueなどとは
独立した予後予測因子でした。
【CRISP CT studyの歯応え】
ACSの半数は狭窄度50%以下の「病変」から発症すると言われており、
したがって冠動脈造影やCTCAでの狭窄度評価からその発症予測は困難です。
50%以上の狭窄性病変の有無にかかわらず
FAI陽性(cut off値≧−70.1HU)例で心臓死に高いハザード比を示した本試験は、
図らずしもそれを裏付けました。
たとえ有意な冠動脈病変がなくてもaggressive preventionが必要な症例があり、
imaging biomarkerとしてのFAIはその層別化に有用な可能性があります。
本試験は炎症局所でのイベント発生を予測するものではありません。
むしろ、3枝のFAIが良好に相関していた事から考えれば、
冠疾患症例は冠動脈全体に炎症(pan-vasculitis;全身性血管炎)が生じうる
vulnerable patient(傷つきやすい患者)として捉えるべきなのかもしれません。
もちろん、今後の検証が必要な課題もあります。
たとえば、炎症の強い局所でイベントが起こりやすいのかどうか、
それを予測できるのかどうか。
あるいは薬剤の介入がどう反映されるのか。
折しもPCSK-9阻害薬や抗IL-1βモノクローナル抗体など強力かつ高価な抗動脈硬化薬が登場し、
residual riskをどうコントロール(狭心症・心筋梗塞再発予防)するかに注目が集まっています。
imaging biomarkerがこうした薬剤の効果判定、on-offのタイミングの見極めに役立つかもしれません。
さらに日常臨床をそのまま当てはめた本研究の解析対象は、
50%狭窄以上が14〜15%、
観察期間内の心臓死が1〜2%と結果的にはリスクの高くない症例群でした。
これがガイドラインに下支えされたCTCAの現状かもしれませんが、
もっとリスクの高い症例、あるいは無症候性の1次予防群だったらどうなのでしょうか?
今後の研究が待たれます。
これまでimaging biomarkerの代表格はcoronary calcium score(CCS)でしたが、
残念ながらこれはirreversibleな指標です。
おそらくreversibleと考えられるFAIを使ったプロジェクトが順調に進んでいけば、
いつかガイドラインが変更される日が来るかもしれません。
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