2018年09月19日
糖質制限食 その真価はまだ証明されていない.糖質制限食推奨者からの反論
糖質制限食 その真価はまだ証明されていない.糖質制限食推奨者からの反論
メディカルトリビューン 山田悟Dr 糖質制限食に対する新たな反対論への反駁から抜粋
“栄養バランスの良い食事”の概念は成立するのか
2018年08月29日 10:50
研究の背景:糖質制限食への反対論は終息したと結論していた
私は明確に糖質制限食推奨者である。
2014年にわれわれがランダム比較試験(RCT)でエネルギー制限食に比較して糖質制限食が血糖管理に優れることを示し(Intern Med 2014; 53:13-19、関連記事「日本人でも糖質制限食は有効−初のRCT」)、同じ年にNIPPON DATA80というコホート研究において日本人では糖質摂取が少ない方が死亡率が低いことが示された(Br J Nutr 2014, 112, 916-924)。
少数例のRCTと多数例の観察研究のデータが合致していることから、緩やかな糖質制限食を日本人に対して推奨することはなんらデメリットをもたらさず、メリットのみを供給できると結論した(関連記事「糖質制限食にまつわる論争の終焉」)。
また昨年(2017年)には、PURE studyというコホート研究が報告され、五大陸18カ国共通の観察結果として、糖質摂取量が少ない方が死亡率は低かったことが報告されている(Lancet 2017;390:2050-2062)。このことから、糖質制限食に対する反対論はもはや存在しえないと私は結論していた(関連記事「世界の食事摂取基準を変える!新研究」)。
しかし、このたび、またまた糖質制限食反対論ともいうべき、新たな仮説が提唱された。
以前ご紹介したように、古くから欧米では糖質摂取が少ない方が死亡率が高くなるというコホート研究のデータがあった(関連記事「糖質制限食をめぐる議論の沸騰<1>」)。
これは線形関係で糖質摂取が多ければ多いほどよいとするような(低糖質スコアが1点上昇するごとにアウトカムが悪化するという)データであった。
今回の新たな仮説は、米国のコホート研究のデータを基にしたもので、糖質摂取量と死亡率との関係性はU字であり、糖質摂取比率50〜55%で死亡率が最も低くなるというものである。それがしかも、Lancet関連誌(Lancet Public Health2018年8月16日オンライン版)に報告された。
糖質制限食推奨者として直視すべき論文と考え、(糖質制限食推奨者からの視点という色眼鏡は除外し切れないが)こご紹介したい。
研究のポイント1:有名なARIC研究からの解析
ARIC(Atherosclerosis Risk In Communities)研究は最近も取り上げた(関連記事「変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?」)、30年の歴史を持つ米国の重要なコホート研究である(Am J Epidemiol 1989;129:687-702)。
1987〜89年の第1回訪問で43〜64歳の米国人が登録され、第6回訪問(2016〜17年)まで行われている。
今回の研究では、コホート全体の1万5,792人から食事記録がしっかりしていなかった人や極端にエネルギー摂取量が少ない(男性600kcal/日未満、女性500kcal/日未満)、あるいは多い(同4,200kcal/日超、同3,600kcal/日超)人を除外して、1万5,428人を中央値で25年フォローアップした結果を示している。
まず研究者が実施したのは、ベースライン(第1回訪問)における糖質摂取比率でコホートを五分位に分け、各分位の死亡リスクを検討することであった。この解析方法は、これまでも多くのコホート研究で行われている。
次に、restricted cubic splines(制限三次スプライン補間)という解析法を用いて、死亡リスクが最低となる糖質摂取比率を求めた。これが既存の研究にはなかった1つ目のポイントである。
さらに、既報のコホート研究のデータを含めて解析し、死亡率の低くなる糖質摂取比率を求めている。この解析が既存の研究にはなかった2つ目のポイントである。
研究のポイント2:糖質摂取比率50〜55%で死亡リスクが最低
コホートを糖質摂取比率で五分位にした際の、各分位の臨床特性を示した。
糖質摂取の最も少ない群の特性は、女性が少なく、白人が多く、糖尿病が多く、エネルギー摂取量は少ないが運動している者の比率が低くてBMIが高く、現喫煙者が多いということであった。
中央値25年の観察期間中に6,283人が死亡した。
最も死亡率が高かったのは糖質摂取が最も少なかった第1五分位であった。
しかし、糖質摂取比率と死亡率との関係性は線形ではなく、U字形であった。
最も死亡率が低いのは糖質摂取比率50〜55%であり、
例えば50歳の人の平均余命は糖質摂取比率が30%未満なら29.1年、
50〜55%なら33.1年、
65%超なら32.0年と計算された。
研究のポイント3:従来の観察研究を統合しても糖質摂取比率50〜55%で死亡リスク最低
次に研究者らは、ARIC研究の結果に既存のコホート研究のデータを統合して解析した。
今回のARIC研究のスプライン曲線に、昨年報告されたPURE studyのスプライン曲線を重ね合わせてみると、やはり糖質摂取比率50〜55%程度で死亡リスクが最低となっていた。
さらに、前記の研究を比較的糖質摂取比率の低いコホート研究(低糖質と中等度糖質を比較した研究と、糖質摂取比率の高いコホート研究(中等度糖質と高糖質を比較した研究)に分けてみると、いずれにおいても中等度糖質で死亡リスクが低くなっていた。
研究のポイント4:代替食品が動物性か植物性かで結果が異なる
既存のNHS、HPFS、NIPPON DATA80の各研究においては、糖質摂取が少ない分位においてエネルギー摂取が少ないわけではなく、代わりに脂質あるいは蛋白質摂取が多くなっており、増えている脂質や蛋白質が植物性か動物性かで糖質摂取比率と死亡率との関係に影響が出るかについて検討がなされている。
そこで、今回のARIC研究も含めて動物性食品で代替した場合と植物性食品で代替した場合の死亡のハザード比を求めると、植物性食品で代替している場合には糖質摂取比率が低ければ低いほど死亡率が低いという関係性であった。
これを糖質摂取比率50%での死亡率を1とし、糖質摂取分布のZスコア〔(当該数値−平均値)/標準偏差〕を用いて糖質摂取と死亡率の関係性を見ると、植物性食品で代替している場合には、線形に糖質摂取が少ないほど死亡率が低かった。
すなわち、糖質摂取比率50〜55%で全死亡率が最も低いという現象は、さまざまな条件を超え一貫して見られる確固としたものでないことは明らかである。
しかし、これらの結果を基にして、研究者らは「動物性食品で代替する糖質制限食は推奨できず、体重減量や心血管リスク低減のために糖質制限食を導入するのなら、植物性食品で代替することは考慮できる」と結論している。
私の考察1:交絡因子の存在が明らか、因果が逆転
本研究はコホート研究であり、もとより直接的に因果関係を示すものではない。本研究の著者らと同様に「糖質摂取は50〜55%が適切なのだ」と明言する人も出てこよう。
しかし、私は今回の著者らの主張に全く同意することができない(この辺り、私が糖質制限食推奨者であるということを踏まえて、読者の先生方にはお読みいただきたい)。
まず、糖質摂取比率が50%未満から死亡率が上がっていることについて私の考えを述べる。
この点についてはバイアスや交絡因子の問題があると考える。
まず、このARIC研究では動物性食品で代替するか、植物性食品で代替するかで結果が変わってしまっており、交絡因子の存在が明らかである。
交絡因子が存在している以上、その結果は間違いなく因果関係ではない。
そして、バイアスとして想像されるものはそれだけではない。そもそも、ARIC研究では糖質摂取の少ない群では女性が少なく、糖尿病が多く、エネルギー摂取量は少ないが運動している者の比率が低くてBMIが高く、現喫煙者が多かったのである。
これは、糖尿病や肥満が元来あって、その治療のために糖質摂取を控えている集団がこの中に少なからず存在していることを意味する。
よく、因果の逆転というが、インスリン注射をしている糖尿病患者の方が、経口薬で済ませている糖尿病患者よりも平均HbA1cが高いことが知られている。
これは、インスリン注射が治療薬として弱いからではなく、インスリン注射が必要となるような糖代謝能力の弱い集団だからである。
糖質摂取が少ない人の方で糖尿病が多く、BMIが高いと聞けば、ここに因果の逆転が存在することはほぼ間違いないであろう。
一般集団よりも死亡率が上がりそうな集団であることが容易に予測される。
糖質摂取量の多寡が死亡率を決めているのではなく、死亡率を決めるなにがしか(例えば肥満や糖尿病の存在)が糖質摂取量を決めさせていると予測されるのではなかろうか。
私の考察2:介入試験での確認が必要
次に,人種差、民族差というものについての考察が欠如している。
研究ごとの糖質摂取比率の違いは、単に国ごとの生活習慣の差異であることを意味するし、さらにそれを無視して50〜55%という糖質摂取比率を世界中の人々に推奨するためには、糖質処理能力に関する人種差の存在を否定する必要があろう。
そして、それは不可能である(Diabetes Res Clin Pract 2004;66 suppl1:S37-S43、Diabetes Care 2013;36:1789-1796)。
そもそも既存の複数の研究をプールして解析する目的とは、検出力不足の解消や偶然を排除するためである。
コホート研究は基本的に多数例での解析が可能な研究法なので、通常、検出力不足は生じ難いという利点を持つものの、弱点としてバイアスや交絡因子を除外できない。
そして、それは複数の研究をまとめたところで払拭できない。
よって、このような形で複数のコホート研究をまとめても、一切、因果関係に近づくことはできないのである。
今回のARIC研究の著者らが示す結論が真に賛同を得るためには、糖質摂取比率を50〜55%に設定する介入試験での確認が必要だと指摘せざるをえない。
現時点で糖質摂取比率50〜55%を良い栄養バランスの指標とするなど、私にはとてもできないのである。
「コホート研究を基に因果関係の存在を断定して臨床上の勧告をつくり上げる」というと、
2010年の日本脂質栄養学会のコレステロールガイドラインを思い出す(関連記事「検証・日本脂質栄養学会コレステロールガイドライン」)。
ARIC研究の著者らの「動物性食品で代替する糖質制限食は推奨できず、もし、体重減量や心血管リスク低減のために糖質制限食を行うのであれば、植物性食品で代替することは考慮できる」という結論は、コホート研究で因果関係を読み込めると信じている、データの読み方を知らぬ人たちには受容されてしまうであろう。
8年ぶりに頭痛を感じる思いである。
メディカルトリビューン 山田悟Dr 糖質制限食に対する新たな反対論への反駁から抜粋
“栄養バランスの良い食事”の概念は成立するのか
2018年08月29日 10:50
研究の背景:糖質制限食への反対論は終息したと結論していた
私は明確に糖質制限食推奨者である。
2014年にわれわれがランダム比較試験(RCT)でエネルギー制限食に比較して糖質制限食が血糖管理に優れることを示し(Intern Med 2014; 53:13-19、関連記事「日本人でも糖質制限食は有効−初のRCT」)、同じ年にNIPPON DATA80というコホート研究において日本人では糖質摂取が少ない方が死亡率が低いことが示された(Br J Nutr 2014, 112, 916-924)。
少数例のRCTと多数例の観察研究のデータが合致していることから、緩やかな糖質制限食を日本人に対して推奨することはなんらデメリットをもたらさず、メリットのみを供給できると結論した(関連記事「糖質制限食にまつわる論争の終焉」)。
また昨年(2017年)には、PURE studyというコホート研究が報告され、五大陸18カ国共通の観察結果として、糖質摂取量が少ない方が死亡率は低かったことが報告されている(Lancet 2017;390:2050-2062)。このことから、糖質制限食に対する反対論はもはや存在しえないと私は結論していた(関連記事「世界の食事摂取基準を変える!新研究」)。
しかし、このたび、またまた糖質制限食反対論ともいうべき、新たな仮説が提唱された。
以前ご紹介したように、古くから欧米では糖質摂取が少ない方が死亡率が高くなるというコホート研究のデータがあった(関連記事「糖質制限食をめぐる議論の沸騰<1>」)。
これは線形関係で糖質摂取が多ければ多いほどよいとするような(低糖質スコアが1点上昇するごとにアウトカムが悪化するという)データであった。
今回の新たな仮説は、米国のコホート研究のデータを基にしたもので、糖質摂取量と死亡率との関係性はU字であり、糖質摂取比率50〜55%で死亡率が最も低くなるというものである。それがしかも、Lancet関連誌(Lancet Public Health2018年8月16日オンライン版)に報告された。
糖質制限食推奨者として直視すべき論文と考え、(糖質制限食推奨者からの視点という色眼鏡は除外し切れないが)こご紹介したい。
研究のポイント1:有名なARIC研究からの解析
ARIC(Atherosclerosis Risk In Communities)研究は最近も取り上げた(関連記事「変わる糖尿病腎症の概念、治療も変わる?」)、30年の歴史を持つ米国の重要なコホート研究である(Am J Epidemiol 1989;129:687-702)。
1987〜89年の第1回訪問で43〜64歳の米国人が登録され、第6回訪問(2016〜17年)まで行われている。
今回の研究では、コホート全体の1万5,792人から食事記録がしっかりしていなかった人や極端にエネルギー摂取量が少ない(男性600kcal/日未満、女性500kcal/日未満)、あるいは多い(同4,200kcal/日超、同3,600kcal/日超)人を除外して、1万5,428人を中央値で25年フォローアップした結果を示している。
まず研究者が実施したのは、ベースライン(第1回訪問)における糖質摂取比率でコホートを五分位に分け、各分位の死亡リスクを検討することであった。この解析方法は、これまでも多くのコホート研究で行われている。
次に、restricted cubic splines(制限三次スプライン補間)という解析法を用いて、死亡リスクが最低となる糖質摂取比率を求めた。これが既存の研究にはなかった1つ目のポイントである。
さらに、既報のコホート研究のデータを含めて解析し、死亡率の低くなる糖質摂取比率を求めている。この解析が既存の研究にはなかった2つ目のポイントである。
研究のポイント2:糖質摂取比率50〜55%で死亡リスクが最低
コホートを糖質摂取比率で五分位にした際の、各分位の臨床特性を示した。
糖質摂取の最も少ない群の特性は、女性が少なく、白人が多く、糖尿病が多く、エネルギー摂取量は少ないが運動している者の比率が低くてBMIが高く、現喫煙者が多いということであった。
中央値25年の観察期間中に6,283人が死亡した。
最も死亡率が高かったのは糖質摂取が最も少なかった第1五分位であった。
しかし、糖質摂取比率と死亡率との関係性は線形ではなく、U字形であった。
最も死亡率が低いのは糖質摂取比率50〜55%であり、
例えば50歳の人の平均余命は糖質摂取比率が30%未満なら29.1年、
50〜55%なら33.1年、
65%超なら32.0年と計算された。
研究のポイント3:従来の観察研究を統合しても糖質摂取比率50〜55%で死亡リスク最低
次に研究者らは、ARIC研究の結果に既存のコホート研究のデータを統合して解析した。
今回のARIC研究のスプライン曲線に、昨年報告されたPURE studyのスプライン曲線を重ね合わせてみると、やはり糖質摂取比率50〜55%程度で死亡リスクが最低となっていた。
さらに、前記の研究を比較的糖質摂取比率の低いコホート研究(低糖質と中等度糖質を比較した研究と、糖質摂取比率の高いコホート研究(中等度糖質と高糖質を比較した研究)に分けてみると、いずれにおいても中等度糖質で死亡リスクが低くなっていた。
研究のポイント4:代替食品が動物性か植物性かで結果が異なる
既存のNHS、HPFS、NIPPON DATA80の各研究においては、糖質摂取が少ない分位においてエネルギー摂取が少ないわけではなく、代わりに脂質あるいは蛋白質摂取が多くなっており、増えている脂質や蛋白質が植物性か動物性かで糖質摂取比率と死亡率との関係に影響が出るかについて検討がなされている。
そこで、今回のARIC研究も含めて動物性食品で代替した場合と植物性食品で代替した場合の死亡のハザード比を求めると、植物性食品で代替している場合には糖質摂取比率が低ければ低いほど死亡率が低いという関係性であった。
これを糖質摂取比率50%での死亡率を1とし、糖質摂取分布のZスコア〔(当該数値−平均値)/標準偏差〕を用いて糖質摂取と死亡率の関係性を見ると、植物性食品で代替している場合には、線形に糖質摂取が少ないほど死亡率が低かった。
すなわち、糖質摂取比率50〜55%で全死亡率が最も低いという現象は、さまざまな条件を超え一貫して見られる確固としたものでないことは明らかである。
しかし、これらの結果を基にして、研究者らは「動物性食品で代替する糖質制限食は推奨できず、体重減量や心血管リスク低減のために糖質制限食を導入するのなら、植物性食品で代替することは考慮できる」と結論している。
私の考察1:交絡因子の存在が明らか、因果が逆転
本研究はコホート研究であり、もとより直接的に因果関係を示すものではない。本研究の著者らと同様に「糖質摂取は50〜55%が適切なのだ」と明言する人も出てこよう。
しかし、私は今回の著者らの主張に全く同意することができない(この辺り、私が糖質制限食推奨者であるということを踏まえて、読者の先生方にはお読みいただきたい)。
まず、糖質摂取比率が50%未満から死亡率が上がっていることについて私の考えを述べる。
この点についてはバイアスや交絡因子の問題があると考える。
まず、このARIC研究では動物性食品で代替するか、植物性食品で代替するかで結果が変わってしまっており、交絡因子の存在が明らかである。
交絡因子が存在している以上、その結果は間違いなく因果関係ではない。
そして、バイアスとして想像されるものはそれだけではない。そもそも、ARIC研究では糖質摂取の少ない群では女性が少なく、糖尿病が多く、エネルギー摂取量は少ないが運動している者の比率が低くてBMIが高く、現喫煙者が多かったのである。
これは、糖尿病や肥満が元来あって、その治療のために糖質摂取を控えている集団がこの中に少なからず存在していることを意味する。
よく、因果の逆転というが、インスリン注射をしている糖尿病患者の方が、経口薬で済ませている糖尿病患者よりも平均HbA1cが高いことが知られている。
これは、インスリン注射が治療薬として弱いからではなく、インスリン注射が必要となるような糖代謝能力の弱い集団だからである。
糖質摂取が少ない人の方で糖尿病が多く、BMIが高いと聞けば、ここに因果の逆転が存在することはほぼ間違いないであろう。
一般集団よりも死亡率が上がりそうな集団であることが容易に予測される。
糖質摂取量の多寡が死亡率を決めているのではなく、死亡率を決めるなにがしか(例えば肥満や糖尿病の存在)が糖質摂取量を決めさせていると予測されるのではなかろうか。
私の考察2:介入試験での確認が必要
次に,人種差、民族差というものについての考察が欠如している。
研究ごとの糖質摂取比率の違いは、単に国ごとの生活習慣の差異であることを意味するし、さらにそれを無視して50〜55%という糖質摂取比率を世界中の人々に推奨するためには、糖質処理能力に関する人種差の存在を否定する必要があろう。
そして、それは不可能である(Diabetes Res Clin Pract 2004;66 suppl1:S37-S43、Diabetes Care 2013;36:1789-1796)。
そもそも既存の複数の研究をプールして解析する目的とは、検出力不足の解消や偶然を排除するためである。
コホート研究は基本的に多数例での解析が可能な研究法なので、通常、検出力不足は生じ難いという利点を持つものの、弱点としてバイアスや交絡因子を除外できない。
そして、それは複数の研究をまとめたところで払拭できない。
よって、このような形で複数のコホート研究をまとめても、一切、因果関係に近づくことはできないのである。
今回のARIC研究の著者らが示す結論が真に賛同を得るためには、糖質摂取比率を50〜55%に設定する介入試験での確認が必要だと指摘せざるをえない。
現時点で糖質摂取比率50〜55%を良い栄養バランスの指標とするなど、私にはとてもできないのである。
「コホート研究を基に因果関係の存在を断定して臨床上の勧告をつくり上げる」というと、
2010年の日本脂質栄養学会のコレステロールガイドラインを思い出す(関連記事「検証・日本脂質栄養学会コレステロールガイドライン」)。
ARIC研究の著者らの「動物性食品で代替する糖質制限食は推奨できず、もし、体重減量や心血管リスク低減のために糖質制限食を行うのであれば、植物性食品で代替することは考慮できる」という結論は、コホート研究で因果関係を読み込めると信じている、データの読み方を知らぬ人たちには受容されてしまうであろう。
8年ぶりに頭痛を感じる思いである。
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