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2021年06月18日

ハインリヒ・マンの「Die Branzilla」で執筆脳を考える2

2 ハインリヒ・マンの「Die Branzilla」のLのストーリー 

 北ドイツのリューベックで生まれ、亡命の地カリフォルニアで亡くなったハインリヒ・マン(1871−1950)は、強みが短編小説にあり、気質や才能から経歴については、気まぐれな表現に予め定められていた。例えば、三分間ローマンスは、出来事の短縮がとても強く、Weisstein(1981)によると、読者を巻き添えにして引き裂くため、心理的な作用を強く否定している。
 ブランツィッラは、単なる冷静な熱中以外の何も認識しない。精神は技術から成長するというコメディアンのパラドックスのような響きがある。実際に人形のように歌う。ハインリヒ・マンにとって、実際の体験は、数か月により衛生や長波により浄化され冷やされねばならない。生活の傍観者としてのみ芸術家は価値がある。三分間ローマンスの主人公は、彼の孤独を破壊し彼に現実を授ける権利を誰にも与えない。
 ブランツィッラの真の敵は、ウリッセ・カバッツァーロである。舞台に立つときは、生活の中にあるも、女性やアルコールに浪費したことが価値ある声や目の輝きを台無しにした。ブランツィッラが怠惰なドンファンカバッツァーロに会ったとき、女性の本能が目覚めた。憎しみが愛に変わることはなく、ウリッセから解放されたブランツィッラにとり、人情を包むことは不可能であった。ハインリヒ・マンにより別の所で強烈に宣伝された、悪物の対話術にもはや支配されなかった。ハインリヒ・マンが直観的に認識したように、独自の私の孤立と弱みに耐えられない個人の場合、権力への意思や救済の探求は除外されない。
 ハインリヒ・マンの作品を目の前にすると、人間の世界は、繁栄と滅亡を繰り返す社会政治的な種別として構成され、政治、芸術そして人間的なものを幾重にも結びつけるすべを彼が心得えているところに、作家としての偉大さがある。そこで購読脳は、「真の人間性と多重性」にする。芸術家、戦争そして専制君主たちの偉大なる孤独は、彼らが自らを放出した社会で常に演じられている。 
 「真の人間性と多重性」が入力となる「Die Branzilla」の執筆脳は、「多層とニューラルネットワーク」である。双方をマージした際のシナジーのメタファーは、「ハインリヒ・マンと多重の綾」にする。

花村嘉英(2020)「ハインリヒ・マンの『Die Branzilla』の執筆脳について」より

ハインリッヒ・マンの「Die Branzilla」で執筆脳を考える1

1 はじめに

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。 
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なおLのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 なお、メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「ハインリヒ・マンの『Die Branzilla』の執筆脳について」より

2021年04月20日

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害13

5 まとめ  
 
 受容の読みによる「不安と恐怖」という出力は、すぐに共生の読みの入力になる。続けて、データベースの問題解決の場面を考察すると、「自我とパーソナリティ」という人間の脳の活動と結びつき、その後、信号のフォーカスは、購読脳の出力のポジションに戻る。この分析を繰り返すことにより、「シュテファン・ツヴァイクとストレス反応」というシナジーのメタファーが見えてくる。 
 この種の実験をおよそ100人の作家で試みている。その際、日本人と外国人60人対40人、男女比4対1、ノーベル賞作家30人を目安に対照言語が独日であることから非英語の比較を意識してできるだけ日本語以外で英語が突出しないように心掛けている。 

参考文献

片野善夫監修 ほすぴ180号 ヘルスケア出版
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座3 心の健康管理 ヘルスケア出版 2014
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015 
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019 
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
藤本淳雄他 ドイツ文学史 東京大学出版会 1981
佐藤晃一 ドイツ文学史 明治書院 1979
手塚富雄 ドイツ文学案内 岩波文庫 1981
Stefan Zweig Angst Reclam 1954
Kurt Rothman Kleine Geschichte der deutschen Literatur Reclam 1981
Richard Friedenthal Nachwort für Angst Reclam 1954

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害12

A 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。 
B 情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。
C 情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。
D 情報の認知1はBその他の反応、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へ、人工知能は@多層である。 
E 情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へ、人工知能は@多層である。   
   
結果
 言語の認知の出力「不安と恐怖」が情報の認知の入力となり、まず何かに反応する。次に、その反応が情報の認知で新情報となり、結局、この場面では、問題未解決のままだが推論が続き、「不安と恐怖」が「自我とパーソナリティ」からなる組みと相互に作用している。 

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害11

【連想分析2】
表3 情報の認知

A 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 2
B 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
C 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
D 表2と同じ。情報の認知1 3、情報の認知2 2、情報の認知3 2
E 表2と同じ。情報の認知1 2、情報の認知2 2、情報の認知3 1

分析例 
(1)「Angst」執筆時のシュテファン・ツヴァイクの脳の活動を「自我とパーソナリティ」と考えている。彼の文体は、我々の最も内なる自我を放棄しないように警告する人の心得と見なされる。  
(2)情報の認知1(感覚情報)
このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の反応である。 
(3)情報の認知2(記憶と学習)
このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。
(4)情報の認知3(計画、問題解決)  
このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へ、である。   
(5)人工知能1 執筆脳を「自我とパーソナリティ」としているため、自我の表出が重要になり、そこに専門家としての調節が効力を発揮する。@自我、Aパーソナリティ、Bその他。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害10

分析例
(1)イレーネがすすり泣く。耐えられないことで緊張し、神経が擦り切れ、苦痛で体には感覚がなかった。 
(2)ここでは、「不安」の執筆脳を「自我とパーソナリティ」と考えているため、意味3の思考の流れは、自我に注目する。
(3)意味1 1視覚、2聴覚、3味覚、4嗅覚、5触覚、意味2 喜怒哀楽、意味3 心像 1あり2なし、意味4振舞いの1直示と2隠喩。
(4)人工知能 @自我、Aパーソナリティ  
テキスト共生の公式
(1)言語の認知による購読脳の組み合わせを「不安と恐怖」にする。
(2)文法や意味には、一応ダイナミズムがある。連想分析1の各行の「不安と恐怖」を次のように特定する。
  
A不安と恐怖=A聴覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。   
B不安と恐怖=A聴覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。     
C不安と恐怖=D触覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。     
D不安と恐怖=@視覚+B哀+@あり+A隠喩という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。
E不安と恐怖=@視覚+B哀+@あり+@直示という解析の組を、@自我+Aパーソナリティという組と合わせる。
 
結果 上記場面は、「不安と恐怖」という購読脳の条件を満たしている。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害9

【連想分析1】
表2 言語の認知(文法と意味)

A "Irene", beruhigte er, "Irene, Irene", immer leiser, immer beschwichtigender den Namen sprechend, als könnte er den verzweifelten Aufruhr der gekrampften Nerven durch die immer zärtlichere Töning des Wortes glätten. Aber nur Schluchzen antwortete ihm, wilde Stöße, Wogen von Schmerz, die den ganzen Körperdurchrollten. Er führte, er trug den zuckenden Körper zum Sofa und bettete ihn hin.
意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B Aber das Schluchzen wurde nicht still. Wie mit elektrischen Schlägen schüttelte der Weinkramp die Glieder, Wellen von Schauer und Kälter schienen den gefolterten Leib zu überrinnen. Seit Wochen auf das Unerträglichste gespannt, waren die Nerven nun zerrissen, und fessellos tobte die Qual durch den fühllosen Leib.
意味1 2、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C Er hielt in höchster Erregung ihren durchschauerten Körper, faßte die kalten Hände, küßte, zuerst beruhigend und dann wild, in Angst und Leidenschaft, ihr Kleid, ihren Nacken, aber da Zucken fuhr immer wie ein Riß über die hingekauerte Gestalt, und von innen rollte die aufstürzende, endlich entfesselte Welle des Schulchzens empor. 意味1 5、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

D Er fühlte das Gesicht an, das kühl war, von Tränen gebadet, und spürte die hämmernden Adern an den Schläfen. Eine unsägliche Angst überkam ihn. Er kniete hin, näher zu ihrem Antlitz zu sprechen.
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 2、人工知能 1

E "Irene", immer wieder faßte er sie an, "warum weinst du…Jetzt…jetzt ist doch alles vorbei…Warum quälst du dich noch…Du mußt dich nicht ängstigen mehr…Sie wird nie mehr kommen, nie mehr..."
意味1 1、意味2 3、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害8

4 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容はそれぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。 

【データベースの作成】
表1 「Angst」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1  五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2  喜怒哀楽 喜怒哀楽と記事なし。 
意味3  振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
意味4 自我 あり、なし。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の共有点。構文や意味の解析から得た組「不安と恐怖」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。 
記憶 短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述) 作品から読み取れる記憶を拾う。長期記憶は陳述と非陳述に分類される。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識は、既存の情報と共通する特徴があり、未知の情報は、カテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。記憶の型として、短期、作業記憶、長期(陳述と非陳述)を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 自我とパーソナリティ
エキスパートシステム 自我とは、イドから発する衝動を外界の現実に従わせるように働く。パーソナリティとは、性格とほぼ同義で、特に個人の統一的な持続する特性のこと。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害7

 通知が来なくなって4日経った。(Nun waren es schon vier Tage, dass die Person sich nicht gemeldet hatte.)恐喝の手紙を受け取るという不安は、金の支払により夕べの安らぎを買うことになった。ベルの呼び出しでドアを開けると、驚いたことにそこには醜い顔の恐喝女ワーグナー夫人(das verhasste Gesicht der Erpresserin Frau Wagner)がいた。すぐに片付くとして厚かましくも家の中に入ってくる。何がほしいのか。ワーグナー夫人は、金が必要である。400クローネ。(Sie braucht vierhundert Kronen.)イレーネ夫人は、金がないといい、代わりに婚約指輪を渡す。夫には指輪を掃除に出しているという。(Frau Irene kann nicht. Dier Person sah sie an, von oben bis unten, als wollte sie sie abschaetzen. Zum Beispiel der Ring da. Sie hat deinen Ring zum Putzen gegeben.)外に出てあたりを見回しても誰にも会わない。通りの反対方向から夫の視線を感じた。
 かつての愛人の家の前に来た。イレーネは、喜びで体が震えた。愛人が鍵を開けてドアが開いた。彼に助けを求めるも幻想にとりつかれ荒れ狂う。外に出ると辺りは暗く、夫と思われる人がいても追いかけるには不安があった。彼の姿が影に消えた。薬局で夫に出会う。通りで見た男である。顔は青白く、額に汗をかいている。(Sein Gesicht war fahl, und auf der Stirn funkelte ihm feuchter Schweiss.)通りを並んで歩く。部屋に入り二人は黙っている。夫が優しく接近する。突然イレーネがすすり泣く。耐えられないことで数週間緊張し、神経が擦り切れ苦痛で体には感覚がなかった。(Seit Wochen auf das Unertraeglichste gespannt, waren die Nerven nun zerrissen, und fessellos tobte die Qual durch den fuehllosen Leib.)もう心配することはない、すべてが終わったと夫はいう。(Jetzt ist doch alles vorbei. Du musst dich nicht aengstigen mehr.)イレーネにキスして愛撫する。
 翌朝目を覚ますと部屋のなかは明るく雷雨が去ったようである。何が起こったのか思い出だそうとする。(Sie versuchte sich zu besinnen, was ihr geschehen war, aber alles schien ihr noch Traum.)驚いたことに、指には指輪があり、思考と嫌疑がかみ合って全てのことが理解できた。(An ihrem Finger funkelte der Ring. Mit beinem Male war sie ganz wach.)夫の質問、愛人の驚き、全ての縫い目が巻き戻った。(die Frage ihres Mannes, das Erstaunen ihres Liebhabers, alles Maschen rollten sich auf.)微笑みが彼女の唇に現れ、何が自分の幸福なのかを深く享受するために目を閉じて横になった。(Mit geschlossenen Augen lag sie, um all dies tiefer zu geniessen, was ihr Leben war und nun auch ihr Glueck.)
 シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の不安は、第一次世界大戦前夜のヨーロッパにあった日常のものである。イレーネの症状は、疲れやすく集中できず、緊張して眠れないという全般性の不安障害の診断項目に該当し、また、動悸・息切れがする、吐き気がする、不快感があるといったパニック障害の診断項目も確認できるため、購読脳は、「不安と恐怖」にする。「不安と恐怖」が入力になる「Angst」の執筆脳は、「自我とパーソナリティ」である。双方をマージした際のシナジーのメタファーは、「シュテファン・ツヴァイクとストレス反応」にする。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より

シュテファン・ツヴァイクの「Angst」で執筆脳を考える−不安障害6

3.2 不安障害

 8年間の結婚生活は、イレーネにとって幸福の振り子が快適に揺れる時間で、子供を授かり我家も得た。しかし、彼女の不安が心の小部屋に入口を見出そうと、小さな思い出を内気なハンマーで叩く。3日間イレーネは家から出なかった。8年間の結婚生活より長い時間である。(Drei Tage hatte sie nun das Haus nicht verlassen. Diese drei Tage im Kerker der Zimmer schienen ihr laenger als die acht Jahre ihrer Ehre.)3日目の晩、彼女は夢を見た。どこへ行っても恐喝女が彼女を待ち伏せし、家に戻れば夫がナイフを振り上げる。助けを求める。夫がベッドの縁に座って彼女を病人のように見る。叫んだからである。強い不安感に襲われているため不安障害の症状が出ている。
 イレーネは、どうやら自分の感情に捕らわれて不安を生み出す性格のようである。次の日、昼食中に女中が手紙を持って来た。(Am nechsten Tage, als sie gemeinsam beim Mittagessen sassen - brachte das Dienstmaedchen einen Brief. )封を開けると、持参者にすぐ100クローネを渡すように3行で書いてある。日付も署名もない。Der brief war kurz. Drei Zeilen: “Bitte, geben Sie dem Ueberbringer dieses sofort hundert Kronen.” Keine Unterschrift, kein Datum.)封筒に紙幣を折り畳んで玄関で待機している配達人に渡す。躊躇することなく催眠術にかかったように。恐ろしい不快感、見たこともない夫の視線が気になった。心の奥が震えているのを感じる。これもまた強い不安感に襲われている不安障害の症状である。幸運なことに昼食は、すぐに終わった。また、手紙を暖炉の中に投げ入れ、気持ちは落ち着いた。一応心のコントロールはできている。
 次の日にまたメモ書きが届く。今度は200クローネの請求である。次第に額が増えていく。イレーネは、不安から動悸がし手足が疲れて眠れない。やはり不安障害の症状である。夫は、彼女を病人のように扱うようになった。
 おばさんが数日前に少年に色とりどりの子馬を贈った。年下の少女は羨ましい。次の日突然馬は消え、偶然に細かく切られてストーブの中で見つかった。勿論少女に嫌疑がかかる。最初は否定していた彼女も兄弟を傷つけたことを問われると、泣いて詫びる。イレーネの夫は、自分の罪だと認識したことがよいことだという。

花村嘉英(2021)「シュテファン・ツヴァイクの「Angst」の執筆脳について−不安障害」より
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プロフィール
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール