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2023年10月12日

短編怪談『向かい合う神社』【神社にまつわる怖い話】



ハイキング中に見つけた奇妙な神社。
谷底の道の両脇に鳥居を構え、急斜面に石段を積み上げ、
向き合っている神社。

まあ、急ぐ山行ではないので、まず右側の石段を登り始めたが、
気まぐれを起こした自分を恨みたくなるほどきつい登りだった。

ようやく上までたどり着くと、小さなお堂があり、
こんな場所にしては珍しく多くの絵馬がぶら下がっている。

絵馬というより、木簡に近い代物だが、
そこに書かれているのは、何者かを深く怨み、不幸を願う気持ち。
木簡には、記入者の持ち物と思われる時計や、
筆記用具などが縛り付けられている。

未記入の新しい木簡が、黒い木箱に入れられている。

嫌な気分で石段を降り、下まで行けば、
そこには向き合って建つ神社の石段。

どうするべきかと考えたが、
このまま立ち去るのは非常に心残りなので、
先ほどの神社を背中に感じながら、
目の前の石段を登りつめた。

小さなお堂に、ぶら下がった木簡。
向き合った斜面の、似たような光景の神社。

手にとって読んだ木簡に書かれていたのは、
誰かの幸福や成功を願う言葉。
記入者本人に向けられた言葉もある。
そして、やはり身の回りの品が結び付けられている。

幸福を願う気持ちに触れても、なぜか心温まらない。

腑に落ちぬ思いを抱えて石段を降りていると、
竹箒を持った老人が登ってくる。

老人は俺の顔をじっと見つめ
「奉納に来た顔じゃないな」
そのまま石段に腰を降ろしてしまった。
成り行き上、俺もそこに座らざるを得ない。

老人によれば、木簡を記入し、奉納するなら、
両方の神社でそれをしなければならないという事だった。

怨むだけでは駄目。
幸福を願うだけでも駄目。

決まりを守らない場合、記入者本人を、
とんでもない不幸が見舞うとの事だった。

「死ぬんですか?」
「寿命が伸び、ひたすら苦しんで生き続ける」
「幸福を願うだけでも?」
「そのようだ」

怨み、不幸を願う木簡は、
幸福を願う木簡よりも圧倒的に多かった。

そして、もうひとつの決まり事を教えられた。
自らの不幸、幸福を願って奉納してはならない。

首都圏に、この山はある。


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