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2024年10月17日

机の上にある箸@短編小説






机の上に置かれた一本の箸が、ただそこにあるだけで、まるで時間が止まったような静寂が漂っている。白木の箸は、長い間使われた形跡を残し、薄くなった漆の表面がぼんやりとした光を反射している。箸の先端にはわずかな擦り傷があり、使う者の指の感触が長年積み重なって染み込んでいるようだ。その微かな痕跡は、日常の営みの名残でもある。

部屋は薄暗く、窓から差し込む午後の光が柔らかく畳の上に広がっている。その光は静かに箸を照らし、影を作り出している。まるで箸がこの空間の中心であり、世界の時間がすべてそこに集まっているかのような錯覚を引き起こす。その箸の存在が、なぜか気にかかる。何か大切なことを語りかけてくるかのように。

この箸は誰のものだったのか?今となってはもうわからない。机の上に置かれたまま、忘れ去られていたのだろうか。それとも意図的にここに置かれたのか。無数の時間がここに積み重なり、箸は何も語らずに静かに佇んでいる。食事の時間が終わり、人々が去った後の余韻が、まだどこかに残っているような気がする。

机は古びていて、使い古された木の表面には小さな傷が無数に走っている。その傷の一つ一つが、机と共に生きてきた日々の証だ。誰かがこの机に肘をついて考え事をしたのだろうか。それともここで長い夜を過ごし、物思いにふけったのだろうか。その時、箸はどんな風景を見つめていたのか。何も言わず、ただそこに置かれているだけで、箸はすべてを知っているかのようだ。

風が窓の外からそよぎ、わずかにカーテンが揺れる。その動きは箸に触れることもなく、空気だけが静かに流れていく。箸は相変わらず机の上に横たわっているが、その存在感は変わらない。静かな力がそこにはある。

箸はただの道具であり、普段は誰も気に留めない。しかし、ここに今、こうして置かれていると、まるで何かの象徴のように見える。食事が終わり、人々が立ち去り、そして時間が過ぎてもなお、箸だけがここに残っている。この箸は何かを待っているのだろうか?それとも、何かを終わらせたのだろうか?

その箸を手に取ると、冷たい木の感触が指先に伝わる。使われなくなった箸は、長い間人の手を離れ、机の上でひっそりと眠っていたのだろう。手の中でその重みを感じると、箸がただの物ではないように思えてくる。そこには過去の記憶が詰まっているようだ。無数の食事をともにしてきた箸が、今この瞬間もなお、何かを語りかけようとしている。

そして、その箸を元の位置に戻す。まるで、箸がそこにあることがこの空間の一部であり、そこから動かしてはいけないような気がするからだ。机の上に再び箸が置かれると、その場に再び静寂が戻る。時間は静かに流れているが、箸の存在は何かを守っているかのようだ。

この箸が語る物語は、誰にも聞かれることはない。しかし、確かにそこにある何かを感じ取ることができる。その箸は、過ぎ去った時間、失われた記憶、そして誰かの手によって刻まれた日々を象徴しているかのようだ。

箸が机の上に静かに置かれたまま、午後の日差しが少しずつ色を変えていく。それでも箸は動かず、時間の流れをただ黙って見つめている。

posted by こーら at 21:22 | Comment(0) | TrackBack(0) | 短編小説
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