台風が接近する日の午後、瑞穂は図書館の隅で静かに本を読んでいた。
外は雨が激しく降り続け、風が木々を揺らしていた。
彼女はその音を聞きながら、ページをめくる手を止めることなく、一心に物語の世界に没頭していた。
「こんな日は、どこか特別なことが起きる気がする。」と、彼女はふと思った。
瑞穂はいつも通りの日常に退屈していたが、台風の日だけはどこか非現実的な雰囲気が漂うのが好きだった。
そのとき、図書館の扉が激しく開いた。雨に濡れた少年がひとり、中に飛び込んできた。
彼はびしょ濡れで、髪の毛は水で重くなっていた。
瑞穂は彼を一瞥し、再び本に視線を戻した。しかし、彼の濡れた靴がカーペットに残した足跡が気になり、視線を向けると、彼が瑞穂の目の前に立っていた。
「すみません、お尋ねしてもいいですか?」少年の声は震えていた。
「この図書館、台風のときに避難所として使えますか?」
瑞穂はその質問に少し驚いたが、うなずいて答えた。
「ここは避難所じゃないけど、雨宿りにはいいかもね。」
少年はほっとしたように見えた。彼の名は浩司、近くの家が倒れてしまって、家族と連絡が取れなくなったという。
瑞穂は浩司に温かいココアを作ってあげることに決め、図書館の小さなカフェスペースに案内した。
「ありがとう。」
浩司は感謝の意を示しながら、ココアを手に取った。
「君もひとり?」
「うん、そうだよ。」
瑞穂は少し笑って答えた。
「でも、大丈夫。今日は本を読んでいるだけだから。」
二人はしばらく静かに過ごしたが、次第に話が弾んできた。
浩司は学校でのことや趣味について話し、瑞穂も自分の好きな本や興味を持っていることを話した。
外の嵐がさらに激しくなる中、図書館の中は穏やかで暖かい時間が流れていた。
台風が去った翌朝、瑞穂は浩司と別れた後、心に何かが変わったのを感じていた。
彼との会話で、日常に彩りを加えることの大切さに気づいたのだ。
台風の日に出会った小さな奇跡が、彼女に新たな希望をもたらしてくれたのだった。
瑞穂は図書館の窓から外を眺めながら、今後のどんな嵐も、誰かと一緒に乗り越えることで、より良いものになると信じていた。
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