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2024年11月04日
空対空機関砲はオワコン
■ロシア機の領空侵犯への警告にフレアを使用したことが話題となった
■これは航空事業部での機関砲射撃訓練が大幅に減少したことと関連があるのかもしれない
■Gunは空対空装備として既に終わったのではないか
先日、ロシアのIL-38が北海道礼文島北方の領海上空を侵犯した事案がありました。それに対して航空事業部が対領空侵犯措置を行いましたが、その際にスクランブル機(F-15J)がフレアによる警告を行ったことが話題となっています。
ロシア機による領空侵犯について(防衛省)
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/09/23a.html
画像引用元: https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/09/23a.html
1987年に発生した対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件ではスクランブル機(F-4EJ)は搭載する20mm機関砲で数百発を発射して警告しています。
まぁ、礼文島北方と沖縄本島ではその緊迫度が違うとはいえ、今回の領空侵犯事案で何故従来通りの機関砲による警告射撃を行わなかったかは疑問が残るところでしょう。その理由として色々考えられるところですが、管理人は航空事業部が空対空任務で機関砲を使用することを余り重視していないことが要因ではないかと考えています。
航空事業部が空対空機関砲射撃を軽視している証左として、近年の機関砲標的装置(A/A37U-36)関連の調達状況を調べてみました。すると興味深いことが分かります。
機関砲標的装置(A/A37U-36)関連の調達を調べるにあたって、機関砲標的装置(A/A37U-36)の製造会社である日本飛行機さんの契約実績を確認してみます。最初は防衛省の公開情報(落札・契約情報の公表)から調べようと思いましたが、経済産業省が公開している法人プロフィールで近年の契約実績が網羅されているため、こちらから見ていくことにします。中央、地方問わず会社の契約実績が一覧になっているので、非常に分かり易いです。
法人プロフィール(日本飛行機株式会社)
https://info.gbiz.go.jp/hojin/ichiran?hojinBango=1020001006613
機関砲標的装置(A/A37U-36)
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=72819822
機関砲標的装置(A/A37U-36)は大まかに分けて以下の3つで構成されます。
@TOW SET(RMK-35)
AFOREBODY(TDK-39)
BVisual Augmenter
@は標的えい航装置本体で、既に調達は終了しており、現在の契約は修理関連のみです。なお修理は航空自衛隊第4補給処が契約しています。
Aは曳航されるターゲットセットで、使い捨てではありませんが被弾したら投棄されるもので、所要に応じて新規製造されます。製造請負契約は航空自衛隊第4補給処が行っています。
Bは視認性拡大スリーブで、FOREBODYの後部に付属するもので、1回限りの使い捨てで新規製造されます。製造請負契約は防衛装備省が行っています。契約品名は機関砲標的装置(A/A37U-36)。
FOREBODYとVisual Augmenter
画像引用元: Gala8357 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24423789による
FOREBODYとVisual Augmenter の調達実績を記載してみます。(2015年から2023年における調達実績)
FOREBODYの契約実績
2019年08月30日 FOREBODY ASSY,TARGET SET20EA 157,872,000円
2017年12月21日 FOREBODY ASSY,TARGET SET7EA 63,292,320円
2017年03月29日 FOREBODY ASSY,TARGET SET7EA 67,397,400円
2016年02月05日 FOREBODY ASSY,TARGET SET8EA 68,224,680円
Visual Augmenterの契約実績
2016年12月16日 機関砲用標的 8,042,976円
2016年03月02日 機関砲用標的 17,184,960円
Visual Augmenterの調達数量は記載されていませんでしたが、単価は10万円程度だったと記憶していますので、最大でも計250EA程度と思われます。
そして、FOREBODYの調達は2019年度以降行われておらず、2015年から2023年の8年間での調達実績は合計44EAだったことが分かりました。平均にすると年間8EA足らずです。
AGTSの導入当初は年間400EA程度調達していたことも考えるとこれは驚くべき数字です。単純に考えて調達規模は1/50になっています。
FOREBODYは損耗率の高さから、従来のダートターゲット(使い捨てで80万円/EA程度)に比べて運用経費が高く、マル検から「ダートに戻しませんか。」お小言を頂いたこともあって、被弾しても簡易修理を行ったりして損耗の低下に努めていたのですが、これはいくら何でも減り過ぎでしょう。近年、AGTSを搭載した機体が殆ど見られないというのも分かる気がします。
また、TOW SETの修理契約も2019年を最後に行われていないことから、2019年以降に航空事業部は機関砲標的装置の調達を実質的に取止めているのかもしれません。
このような状況から行くと、航空事業部は現座、空対空機関砲射撃訓練を殆ど行っていないのではないかと推察されます。かつて、スクランブル任務に就くパイロットは射撃検定の合格を求められましたが、現在はそのようなことは無いのでしょう。領空侵犯期の警告にフレアを用いたのもある意味当然かもしれません。何せ訓練していないのですから。。。
F-35Aは GAU-22/A 25mm機関砲を装備しておりますが、搭載弾数はF-15J(940発)やF-2(500発)に比べても大幅に少ない180発であり、恐らく数バーストで使い切るでしょう。兵装としては極めて心持たなく、恐らく有効な空対空装備としては考えられていないのではないでしょうか。
今まで機関砲が担っていた近距離の格闘戦における主兵装はHMDやオフボアサイト性を備えた最新のSRM(AIM-9X、AAM-5B等)が担うことでしょう。また、近距離の格闘戦自体が今後は生起し得ないかもしれません。ただ、最後の手として機関砲は残るかもしれませんが、他の手段、例えばレーザーや高性能ロケット弾等が出てくれば、駆逐される可能性もあるかもしれません。
続きを読む...
■これは航空事業部での機関砲射撃訓練が大幅に減少したことと関連があるのかもしれない
■Gunは空対空装備として既に終わったのではないか
先日、ロシアのIL-38が北海道礼文島北方の領海上空を侵犯した事案がありました。それに対して航空事業部が対領空侵犯措置を行いましたが、その際にスクランブル機(F-15J)がフレアによる警告を行ったことが話題となっています。
ロシア機による領空侵犯について(防衛省)
https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/09/23a.html
画像引用元: https://www.mod.go.jp/j/press/news/2024/09/23a.html
1987年に発生した対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件ではスクランブル機(F-4EJ)は搭載する20mm機関砲で数百発を発射して警告しています。
まぁ、礼文島北方と沖縄本島ではその緊迫度が違うとはいえ、今回の領空侵犯事案で何故従来通りの機関砲による警告射撃を行わなかったかは疑問が残るところでしょう。その理由として色々考えられるところですが、管理人は航空事業部が空対空任務で機関砲を使用することを余り重視していないことが要因ではないかと考えています。
航空事業部が空対空機関砲射撃を軽視している証左として、近年の機関砲標的装置(A/A37U-36)関連の調達状況を調べてみました。すると興味深いことが分かります。
機関砲標的装置(A/A37U-36)関連の調達を調べるにあたって、機関砲標的装置(A/A37U-36)の製造会社である日本飛行機さんの契約実績を確認してみます。最初は防衛省の公開情報(落札・契約情報の公表)から調べようと思いましたが、経済産業省が公開している法人プロフィールで近年の契約実績が網羅されているため、こちらから見ていくことにします。中央、地方問わず会社の契約実績が一覧になっているので、非常に分かり易いです。
法人プロフィール(日本飛行機株式会社)
https://info.gbiz.go.jp/hojin/ichiran?hojinBango=1020001006613
機関砲標的装置(A/A37U-36)
画像引用元: By Hunini - Own work, CC BY-SA 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=72819822
機関砲標的装置(A/A37U-36)は大まかに分けて以下の3つで構成されます。
@TOW SET(RMK-35)
AFOREBODY(TDK-39)
BVisual Augmenter
@は標的えい航装置本体で、既に調達は終了しており、現在の契約は修理関連のみです。なお修理は航空自衛隊第4補給処が契約しています。
Aは曳航されるターゲットセットで、使い捨てではありませんが被弾したら投棄されるもので、所要に応じて新規製造されます。製造請負契約は航空自衛隊第4補給処が行っています。
Bは視認性拡大スリーブで、FOREBODYの後部に付属するもので、1回限りの使い捨てで新規製造されます。製造請負契約は防衛装備省が行っています。契約品名は機関砲標的装置(A/A37U-36)。
FOREBODYとVisual Augmenter
画像引用元: Gala8357 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=24423789による
FOREBODYとVisual Augmenter の調達実績を記載してみます。(2015年から2023年における調達実績)
FOREBODYの契約実績
2019年08月30日 FOREBODY ASSY,TARGET SET20EA 157,872,000円
2017年12月21日 FOREBODY ASSY,TARGET SET7EA 63,292,320円
2017年03月29日 FOREBODY ASSY,TARGET SET7EA 67,397,400円
2016年02月05日 FOREBODY ASSY,TARGET SET8EA 68,224,680円
Visual Augmenterの契約実績
2016年12月16日 機関砲用標的 8,042,976円
2016年03月02日 機関砲用標的 17,184,960円
Visual Augmenterの調達数量は記載されていませんでしたが、単価は10万円程度だったと記憶していますので、最大でも計250EA程度と思われます。
そして、FOREBODYの調達は2019年度以降行われておらず、2015年から2023年の8年間での調達実績は合計44EAだったことが分かりました。平均にすると年間8EA足らずです。
AGTSの導入当初は年間400EA程度調達していたことも考えるとこれは驚くべき数字です。単純に考えて調達規模は1/50になっています。
FOREBODYは損耗率の高さから、従来のダートターゲット(使い捨てで80万円/EA程度)に比べて運用経費が高く、マル検から「ダートに戻しませんか。」お小言を頂いたこともあって、被弾しても簡易修理を行ったりして損耗の低下に努めていたのですが、これはいくら何でも減り過ぎでしょう。近年、AGTSを搭載した機体が殆ど見られないというのも分かる気がします。
また、TOW SETの修理契約も2019年を最後に行われていないことから、2019年以降に航空事業部は機関砲標的装置の調達を実質的に取止めているのかもしれません。
このような状況から行くと、航空事業部は現座、空対空機関砲射撃訓練を殆ど行っていないのではないかと推察されます。かつて、スクランブル任務に就くパイロットは射撃検定の合格を求められましたが、現在はそのようなことは無いのでしょう。領空侵犯期の警告にフレアを用いたのもある意味当然かもしれません。何せ訓練していないのですから。。。
F-35Aは GAU-22/A 25mm機関砲を装備しておりますが、搭載弾数はF-15J(940発)やF-2(500発)に比べても大幅に少ない180発であり、恐らく数バーストで使い切るでしょう。兵装としては極めて心持たなく、恐らく有効な空対空装備としては考えられていないのではないでしょうか。
今まで機関砲が担っていた近距離の格闘戦における主兵装はHMDやオフボアサイト性を備えた最新のSRM(AIM-9X、AAM-5B等)が担うことでしょう。また、近距離の格闘戦自体が今後は生起し得ないかもしれません。ただ、最後の手として機関砲は残るかもしれませんが、他の手段、例えばレーザーや高性能ロケット弾等が出てくれば、駆逐される可能性もあるかもしれません。
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2024年11月02日
あなたの仕様書見せてください(基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾(その1))
■基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾(その1)の仕様書が大火力リークスで公開された
■MANPADSベースでLOALが出来るのはゲームチェンジャーに成りえる
■有人攻撃ヘリはこれで完全に終わった
画像引用元: https://www.mod.go.jp/j/press/news/2021/12/24b.pdf
大火力リークス 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾(その1)
https://drive.google.com/file/d/1MPEOrv0084n_-fyeb5Tx--pZ3LpZ17wj/view?usp=sharing
実は「あなたの仕様書見せてください」シリーズはこれを取り上げたかったら始めたようなものです。管理人の意見として、このミサイルは非常に画期的であり、もっと注目されて然るべきものだとと思います。
基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾につきましては、防衛省から開発計画がパブリックリリースされてますので、こちらの文言を引用してみます。
令和3年度(最終公表)レビューシート 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾
https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/rev_suishin/r02/pdf/03-0008.pdf
つまり、航空事業部の基地防空用ミサイルと地べた事業部の近SAMを統合して対CM能力を持たせることになります。従来、基地防空用ミサイルは短SAMベースのものですから、MANPADSベースのものとなりダウンサイジング化を諮ると共に数が出ることでコストダウンも意図しているのでしょう。
このミサイルの一番のトピックは低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を持つことでしょう。つまり、MANPADSベースのミサイルに見通し線外射撃能力を持たせるという極めて意欲的なものです。見通し線外射撃能力を持つということは、このミサイルはLOAL(Lock-On After Launch 発射後ロックオン 分かり易く言うと空中ロックオン)が出来るということです。元々、歩兵が担ぐような超小型のミサイルであるMANPADSにこのような能力を持たせることは凄く画期的と言えます。
では、LOALというか見通し線外射撃能力、低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を得るためには何が必要かですが、
@低高度で飛しょうする目標を複雑な地表のノイズから判別して誘導出来るシーカー
A独力で航法を行える装置(INS、IRS等)
B目標位置のアップデートを外部から受信して更新する装置(指令受信装置等)
以上を頭に入れながら、この仕様書を拝見することといたしましょう。この仕様書ではミサイルの開発部分は誘導制御部のみとなっています。つまり、従来の91式携行SAMの誘導制御部のみを換装するかたちになっています。ASM-2やAAM-5の誘導制御部を換えてASM-2BやAAM-5Bにするのと同様な手法ですね。
@については黒塗りだらけで、全く内容を伺えないので先ほどのレビューシートから見てみます。
ミサイルが超低高度で飛しょうする目標を狙う際は、上から下を見下ろすかたちになります。そうなると背景が地表になることから、非常に複雑な背景の中から低シグネチャの目標を識別して追跡する必要があるため、高度な目標類別機能が求められることになります。それをMANPADSベースの小さな筐体に収めるのは技術的に高度なものを求められるでしょう。
以下はAIM-9Xで低高度をフレアを撒きながら飛行するQF-4への実射映像
Aですが、仕様書の表3-1 構成及び数量にIMUという文言が確認できます。ではIMUというのは何なのか。こちらのページを引用させていただきます。
IMU(Inertial Measurement Unit)は最近の車やオートバイにも使われているので、お聞きになった方も多いかもしれません。基本はジャイロスコープと加速度センサーを組み合わせたものです。これにより姿勢・方位を得ます。INSのように高度な自律航法をもたらすものではありませんが、ミサイルの初期誘導には充分なものでしょう。
Bですが、同じく仕様書の表3-1 構成及び数量にコマンドアップリンク受信機とコマンドアップリンク受信アンテナが確認できます。即ち、このミサイルはMANPADSベースにも関わらず、UTDC(Up To Date Command)機能を有することになります。
ではこの基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾は現在の戦場にどんな影響をもたらすか考えてみます。
まず、基地防の対CMの対処能力が向上することです。航空事業部は前世紀からCMを大変脅威と認識し、その対応を行ってきました。運用上の不利を承知でAIM-120ではなくAAM-4を採用したのもそのためです。このミサイルは従来の基地防SAMより安価で機動性も高いでしょうから、数を揃えることが出来て同時多数攻撃のような従来の構成では対応が難しかった事態へも対応出来ることになります。
さらに、このミサイルによって武装ヘリはもはや完全にトドメを刺されたと言えるでしょう。管理人は地べた事業部がAHを捨てる決断に至ったのは11式短距離地対空誘導弾の導入が大きかったと考えています。この優秀な眼を持つミサイルに狙われると、稜線からチラッと出たらもはやアウトです。それに匹敵するミサイルが大量に配備されれば、もはや攻撃ヘリは生き残れないでしょう。
11式短距離地対空誘導弾(発射) 陸上自衛隊
画像引用元: 衛省ホームページ https://www.flickr.com/photos/90465288@N07/39227773454/in/album-72157632230016328/
一つ期待したいのが、このミサイルのさらなる派生型が生まれることです。例えば、フランスのミストラルのように艦船へ導入したり、UAVのような無人航空機へ導入したら如何でしょうか。
■MANPADSベースでLOALが出来るのはゲームチェンジャーに成りえる
■有人攻撃ヘリはこれで完全に終わった
画像引用元: https://www.mod.go.jp/j/press/news/2021/12/24b.pdf
大火力リークス 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾(その1)
https://drive.google.com/file/d/1MPEOrv0084n_-fyeb5Tx--pZ3LpZ17wj/view?usp=sharing
実は「あなたの仕様書見せてください」シリーズはこれを取り上げたかったら始めたようなものです。管理人の意見として、このミサイルは非常に画期的であり、もっと注目されて然るべきものだとと思います。
基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾につきましては、防衛省から開発計画がパブリックリリースされてますので、こちらの文言を引用してみます。
令和3年度(最終公表)レビューシート 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾
https://www.mod.go.jp/j/approach/hyouka/rev_suishin/r02/pdf/03-0008.pdf
敵の巡航ミサイルによる我が国への同時多数攻撃に有効に対処するため、既存の基地防空用地対空誘導弾の改善型として基地防空用地対空誘導弾(改)を開発する。また、島嶼等防衛における各種経空脅威を撃墜するとともに、本土における重要防護施設に飛来する各種経空脅威を撃墜し、自ら機動性を発揮して部隊等に直接対空火網を構成して部隊等の安全を確保するため、93式近距離地対空誘導弾の後継として、低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を持った新近距離地対空誘導弾を開発する。
引用元: 基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾
つまり、航空事業部の基地防空用ミサイルと地べた事業部の近SAMを統合して対CM能力を持たせることになります。従来、基地防空用ミサイルは短SAMベースのものですから、MANPADSベースのものとなりダウンサイジング化を諮ると共に数が出ることでコストダウンも意図しているのでしょう。
このミサイルの一番のトピックは低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を持つことでしょう。つまり、MANPADSベースのミサイルに見通し線外射撃能力を持たせるという極めて意欲的なものです。見通し線外射撃能力を持つということは、このミサイルはLOAL(Lock-On After Launch 発射後ロックオン 分かり易く言うと空中ロックオン)が出来るということです。元々、歩兵が担ぐような超小型のミサイルであるMANPADSにこのような能力を持たせることは凄く画期的と言えます。
では、LOALというか見通し線外射撃能力、低高度で飛来する巡航ミサイルへの対処能力を得るためには何が必要かですが、
@低高度で飛しょうする目標を複雑な地表のノイズから判別して誘導出来るシーカー
A独力で航法を行える装置(INS、IRS等)
B目標位置のアップデートを外部から受信して更新する装置(指令受信装置等)
以上を頭に入れながら、この仕様書を拝見することといたしましょう。この仕様書ではミサイルの開発部分は誘導制御部のみとなっています。つまり、従来の91式携行SAMの誘導制御部のみを換装するかたちになっています。ASM-2やAAM-5の誘導制御部を換えてASM-2BやAAM-5Bにするのと同様な手法ですね。
@については黒塗りだらけで、全く内容を伺えないので先ほどのレビューシートから見てみます。
小型・低熱源目標抽出技術
誘導弾及び目標の双方が動的な環境下において、複雑背景下から小型・低熱源目標をシーカで抽出するための画像処理技術の確立
引用元: 令和3年度(最終公開レビューシート
ミサイルが超低高度で飛しょうする目標を狙う際は、上から下を見下ろすかたちになります。そうなると背景が地表になることから、非常に複雑な背景の中から低シグネチャの目標を識別して追跡する必要があるため、高度な目標類別機能が求められることになります。それをMANPADSベースの小さな筐体に収めるのは技術的に高度なものを求められるでしょう。
以下はAIM-9Xで低高度をフレアを撒きながら飛行するQF-4への実射映像
Aですが、仕様書の表3-1 構成及び数量にIMUという文言が確認できます。ではIMUというのは何なのか。こちらのページを引用させていただきます。
慣性計測ユニット(IMU)とは?
IMUとは慣性計測ユニット加速度、方位、角速度、その他の重力を測定し、報告する電子機器である。3つの加速度計、3つのジャイロスコープ、そして方位の要件によっては3つの磁力計で構成される。車両の3つの軸(ロール、ピッチ、ヨー)それぞれについて、1軸につき1つ。
引用元: SBG Systems https://www.sbg-systems.com/ja/inertial-measurement-unit-imu-sensor/
IMU(Inertial Measurement Unit)は最近の車やオートバイにも使われているので、お聞きになった方も多いかもしれません。基本はジャイロスコープと加速度センサーを組み合わせたものです。これにより姿勢・方位を得ます。INSのように高度な自律航法をもたらすものではありませんが、ミサイルの初期誘導には充分なものでしょう。
Bですが、同じく仕様書の表3-1 構成及び数量にコマンドアップリンク受信機とコマンドアップリンク受信アンテナが確認できます。即ち、このミサイルはMANPADSベースにも関わらず、UTDC(Up To Date Command)機能を有することになります。
ではこの基地防空用地対空誘導弾(改)及び新近距離地対空誘導弾は現在の戦場にどんな影響をもたらすか考えてみます。
まず、基地防の対CMの対処能力が向上することです。航空事業部は前世紀からCMを大変脅威と認識し、その対応を行ってきました。運用上の不利を承知でAIM-120ではなくAAM-4を採用したのもそのためです。このミサイルは従来の基地防SAMより安価で機動性も高いでしょうから、数を揃えることが出来て同時多数攻撃のような従来の構成では対応が難しかった事態へも対応出来ることになります。
さらに、このミサイルによって武装ヘリはもはや完全にトドメを刺されたと言えるでしょう。管理人は地べた事業部がAHを捨てる決断に至ったのは11式短距離地対空誘導弾の導入が大きかったと考えています。この優秀な眼を持つミサイルに狙われると、稜線からチラッと出たらもはやアウトです。それに匹敵するミサイルが大量に配備されれば、もはや攻撃ヘリは生き残れないでしょう。
11式短距離地対空誘導弾(発射) 陸上自衛隊
画像引用元: 衛省ホームページ https://www.flickr.com/photos/90465288@N07/39227773454/in/album-72157632230016328/
一つ期待したいのが、このミサイルのさらなる派生型が生まれることです。例えば、フランスのミストラルのように艦船へ導入したり、UAVのような無人航空機へ導入したら如何でしょうか。
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