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2018年10月02日

『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 第2話

『おもてなし〜聖夜の奇跡〜』 



<第2話>



○同・男湯・中(夜)

   半分露天になっている温泉。

   落ち武者が湯船に浸かっている。

   雪が少し吹き込んでくる。

落ち武者「おーい」

   すりガラスの向こうに小雪がいる。

小雪の声「はい」

落ち武者「背中を流してくれんか?」

小雪の声「はい、ただいま」

落ち武者「着物は脱いでくるのだぞ」

小雪の声「え?それはちょっと……」

落ち武者「なんだ?」

小雪の声「恥ずかしいというか、セクハラというか」

落ち武者「恥ずかしがることはない。何もせぬ」

小雪の声「脱がなかったら?」

落ち武者「打ち首じゃ!」

小雪の声「ひぃぃ」

落ち武者「ガハハハ!冗談じゃ」

小雪の声「ちょっとお待ちくださいませ」

   落ち武者は、温泉のお湯で豪快に顔を洗う。

○同・同・外(夜)

   小雪と加奈子が脱衣所にいる。

   着物と刀が置いてある。

   小雪は刀を両手に持って震える。

加奈子「ど、どーするんですかー?」

小雪「どーするもこーするも、やるしかないべ」

加奈子「えーーー」

小雪「やるしか」

   小雪は、刀を睨みつけている。

加奈子「わ、わたし、大女将呼んできます」

   加奈子、走り出す。

○同・同・中(夜)

   落ち武者が、湯船から出て、椅子に座わっている。

落ち武者「おーい、まだか!」

   と、ガラス戸が開いて、小雪が入ってくる。

小雪は、黒のビキニを着ている。

髪をポニーテールにしている。

落ち武者はニヤリとする。

小雪「お待たせしました」

落ち武者「頼む」

   小雪は落ち武者の背中を流す。

   落ち武者は、筋肉質でセクシーな体。

   小雪、ちょっと見とれる。

   落ち武者が立ち上がり、小雪に体を見せつける。

小雪は、顔をそむける。

落ち武者は笑いながら、椅子に座る。

落ち武者「これはなんじゃ?」

   落ち武者は、シャンプーのボトルを持っている。

小雪「シャンプーでございます」

落ち武者「なにするものぞ?」

小雪「頭を洗います」

落ち武者「ほう」

小雪「洗いましょうか?」

落ち武者「いい」

小雪「昔、美容院でアルバイトしてたから、洗うのうまいですよ」

落ち武者「……意味がわからぬ」

小雪「洗わせてください」

   落ち武者、無言。



naguri.jpeg




○同・恭子の部屋(夜)

   恭子はこたつで猫を撫でている。

   と、加奈子が来て、

加奈子「大女将!てーへんです!」

   恭子は、猫をこたつに隠す。

恭子「なに?」

加奈子「若女将が落ち武者にヤラれちゃいます!あれ、やっちゃうのかな?」

恭子「ぶっ!なに?ヤラれちゃうって?」

加奈子「ヤバいんですよ、今、お風呂に一緒に入ってて……」

恭子「まぁ、お風呂に?」

加奈子「はい!ヤバくないっすか?」

恭子「新しいサービス、始めたのかしら?」

加奈子「そこ?」

恭子「純平さんはどうしたのかしら?」

加奈子「そういえば、旦那さん、いないっす」

恭子「まさか、愛人?」

加奈子「えーーー」

恭子「どれ、見に行こう!」

   恭子と加奈子は走り出す。

○同・男湯・中(夜)

   小雪が、落ち武者の頭からお湯をかけている。

落ち武者「刃物を持ってきてくれ」

小雪「は、刃物、ですか?」

落ち武者「ああ」

小雪「いけません!」

落ち武者「なんじゃと?」

小雪「切腹なさるおつもりでは?」

   落ち武者は豪快に笑って、

落ち武者「馬鹿者!拙者はそんなことはせん!」

小雪「では、なにを?」

落ち武者「頭を剃ってほしい」

   小雪は、鏡越しに落ち武者を見る。

   落ち武者の逞しいカラダが鏡に映っている。


○同・同・外(夜)

   脱衣所の安全カミソリを手に取る小雪。

   と、恭子と加奈子が来て、

恭子「アンタなにそのかっこう?」

小雪「しょうがないじゃない」

加奈子「だいじょぶでした?」

小雪「うん。大丈夫。これから髪を剃ってあげるんだ」

恭子「髪を?」

   恭子は、落ち武者の方を見る。

   恭子は、色めき立つ。

加奈子「落ち武者の髪を剃る女将なんて、世界中探しても女将さんだけですよ」

   小雪は笑って、

小雪「ふふ。そうかもね。でも、私がやらなきゃ」

恭子「まって!私がやる」

小雪「いいわよ、お母さん、邪魔しないで」

恭子「邪魔って、お前、私だって」

小雪「私だって、なに?」

恭子「お前は、旦那がいるだろう、旦那に悪いじゃないか」

   小雪は笑って、

小雪「これは仕事だから」

恭子「お前に、もしものことがあったら」

小雪「大丈夫。私はもう十分大人だから」

   小雪は笑顔を作る。

小雪は、男湯に入っていく。

   恭子と加奈子は見送る。

○同・同・中(夜)

   落ち武者が、恭子と加奈子に気付き、立ち上がる。

落ち武者「なんじゃ、あのババアとたぬきは?」

  恭子と加奈子は悲鳴を上げる。

小雪「母と従業員です」

落ち武者「母上はわかるが、じゅうぎょううんぬんとは?敵か?」

小雪「この宿の下働きですよ。敵じゃありません」

落ち武者「ならばよい」

   小雪が落ち武者の髪の毛を剃っていく。

   小雪は、手を止めて、

小雪「あ」

   落ち武者は目を閉じている。

   恭子と加奈子がのぞいている。

   落ち武者の首に血が垂れる。



0507image6.jpeg



つづく

※この物語はフィクションです。コピーライトマーク齋藤なつ










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