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2018年10月16日

『羽化のとき』 第七話 最終回

『羽化のとき』 第七話






○テレビ局・全景

○同・スタジオ

   神谷と黒沢がにらみ合っている。

神谷「大人の事情?」

黒沢「頼むよ〜神谷ちゃ〜ん、怒らないでよ〜」

神谷「このセリフのどこがいけないの?」

黒沢「競合他社の広告のキャッチコピーとかぶってるってスポンサーからクレームがきちゃって」

神谷「“人生、笑っていればニャンとかなる!”は一番大事なセリフなんだ!」

黒沢「かえてほしい!」

神谷「いやだ!」

黒沢「俺の言うことが聞けないのか?」

神谷「絶対いやだ!」

黒沢「じゃあ、クビだ」

神谷「は?」

黒沢「クビだっていってるんだ!」

神谷「ふざけるな!監督は俺だ」

黒沢「俺はプロデューサーだ!」

神谷「花の脚本は俺が撮る!」

黒沢「かえれ!」



image2.jpeg



○喫茶店「オリジナル」外観

○同・中

   花がコーヒーを飲んでいる。

   と、神谷が髪を掻き毟りながら入ってくる。

神谷「あ」

花「あ」

神谷「ここ、いい?」

花「どうぞ」

   神谷は、花の前に座る。

   花はコートと鞄をどかす。

神谷「あ、メールありがと」

花「いえいえ」

神谷「パリ、行ってたんだ?」

花「うん」

神谷「あ、体、だいじょぶ?」

花「うん。おかげさまで」

神谷「そう。よかった」

   言葉を無くす二人。

   ウェイターがきて、

ウェイター「ご注文は?」

神谷「クリームソーダ」

ウェイター「かしこまりました」

   ウェイターがいなくなる。

花「撮影、順調ですか?」

神谷「順調じゃな〜い」

   神谷は伸びをする。

花「まじですか?」

神谷「まじ〜」

花「どうしたんですか?」

神谷「どうしたもこうしたも、あのクソオヤジ」

花「ああ、黒沢さん?」

神谷「ぶっころしたい」

花「そんなこと言っちゃダメ!」

神谷「死ねばいいのに」

花「ダメ!」

   神谷はテーブルに突っ伏している。

花「人は必ず死ぬんです。人生はたった一度だけ。どんな命も大切にしなきゃいけないんです」

   神谷は顔をあげて、

神谷「えー、だってー、大事なセリフ削るっていうんだぜ」

  花はテーブルを叩いて、

花「なんですって?」

   花は立ち上がり、走り出す。

   神谷は慌てて荷物を持って追いかける。

   と、神谷は戻ってきてお金を払う。

○テレビ局・スタジオ

   黒沢が後ろ向きに立っている。

   花が駆け込んできて、

花「プロデューサー!」

   黒沢が振り向く。

黒沢「?」

花「どこですか?」

黒沢「?」

花「変えなきゃいけないセリフって、どこですか?」

黒沢「ああ、ここなんだけどね」

   黒沢は台本をめくって、ページを見せる。

花「わかりました。15分ください」

   花は、セットのブランコに乗る。

   花はブランコに揺れている。

   花は目をつぶっている。

   ×  ×  ×

   神谷が駆け込んでくる。

   神谷が花を見て、

神谷「なに?なに?」

   黒沢が、口に人差し指をあてる。

   花が、ブランコを止める。

   花は、スマートフォンを取り出し、打ち出す。

花は、ぶつぶつつぶやく。

花「できました」

   花は、スマートフォンの画面を黒沢に見せる。

   黒沢と神谷が覗き込む。

   画面には、“人生、泣いて笑ってまた明日”と書いてある。

   黒沢と神谷は顔を見合わせる。

黒沢「いいんじゃない?」

   花ガッツポーズ。

花「やった!」

   神谷が花を見つめている。



ki.jpeg




○東京タワー・全景(夜)

○同・前(夜)

   花と神谷が並んで歩いている。

神谷「俺、一度もメール返さなかった」

花「いいの」

神谷「ごめん」

花「見返りを求めるのは、やめたの」

神谷「見返り?」

花「そう。自分が好きなら、相手が自分のこと好きじゃなくても、いいかもって」

神谷「つらくない?」

花「わたし、はじめて本気で人を好きになれたのかもしれない。遅すぎるけど」

神谷「それって、プロポーズ?(笑)」

   花は両手でピースをする。

   神谷は笑って、

神谷「ありがとう」

   神谷は、花の手を取って、握る。

   花は、神谷を見つめる。

   と、猫が寄ってくる。

神谷「たまこ?」

花「え?」

神谷「たまこ!」

   神谷は猫を抱き上げる。

花「え?たまこって死んだんじゃ……」

神谷「どこいってたんだ!たまこ!」

   花は笑い出す。

   神谷も笑い出す。

花「泣いて笑って、また明日」

   神谷が、花にキスをする。

   猫がニャーと鳴く。

○イメージ

   蝶が羽を伸ばして羽ばたいている。

○空港・ロビー

   成実がスーツケースを押して歩いている。





                
<終>

※この物語はフィクションです。

コピーライトマーク齋藤なつ










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