「放射能でガンが増えるわけではありません。
なぜなら、ガンは“不幸な人”がなる病気です。
今回の地震や原発事故を、これまでの生き方・考え方を見直すチャンスとしてとらえましょう」
内視鏡医学の世界的な第一人者であり、いまも日本とニューヨークを行き来しながら現役医師として活躍されている新谷弘実氏。著書『病気にならない生き方』がミリオンセラーを記録して以来、知名度が一気にアップし、氏の提唱する食事健康法に関心を持つ人がずいぶんと増えてきました。その氏は、震災後の日本の現状をどうとらえているのか? 『解毒力を高める食べ方』(マガジンハウス)の刊行に合わせ、インタビューしました。
★「食べ物のことよりも、心や意識が大事です」
――先生、3.11以降準備を進めてきた『解毒力を高める食べ方』がようやく刊行になりましたね。帯でもうたっているように、いま問題になっている放射線の内部被曝にどう対処すべきかということをテーマにしているわけですが……。
新谷 まあ、あまり恐れる必要はないと思いますね。
――エエッ、本にいろいろ書かれたじゃないですか。何を食べればいいかとか、どうデトックスすればいいかとか。
新谷 もちろん、それらはとても大事なことです。今度の本をしっかり読まれて、勉強されたほうがいいでしょう。でも、みなさんは少々オーバーに考えている。被曝の害はそれほどない可能性もあります。
――害はない? その根拠はあるんですか?
新谷 もちろん、事故を過小評価しているわけではありません。震災の被害も含めて多くの人が生活をめちゃくちゃにされてしまった、その責任が国や東京電力にあることは言うまでもありません。
――彼らをフォローしているわけではないと。でも、もう少し説明していただかないと……。
新谷 そうですね、まず私が言いたいことは、あまりくよくよ思わないようにするということ。それが一番大事なんです。確かに私は、食べ物のことを本でたくさん書いています。それは内視鏡のドクターとして40年以上にわたって臨床を続けてきた経験から、確信を持って伝えていることですが、それ以上に大事なのが心や意識の領域なのです。
――何を食べるかよりも、その人が何を感じ、何を思って生きているかのほうが大事だということですね。
新谷 そうです。繰り返しますが、食事はとても大事です。それは、今回の本を読んでしっかり勉強してください。放射性物質のデトックスに関しては、皆さんがご存じでない情報もたくさん得られるはずです。しかし、良い食事をしてさえいれば健康になれる、被曝のダメージが防げるというわけでもありません。
――先生は、何を食べるべきかということを「腸との相性」から判断するべきだおっしゃってきましたね。内視鏡によって観察できる腸の健康状態のことを、手相や人相になぞらえて「腸相」と呼んで……。
新谷 (さえぎるように)そのへんはもう十分に語ってきたことですから、いまさら繰り返すことはないでしょう。
――いや、このインタビューで先生を初めて知る人もいるわけですから……。
新谷 私のすすめる食事健康法は、とてもシンプルなものです。日本の栄養学の本にあるように面倒なカロリー計算を強いたり、栄養バランスがどうだとかうるさくいったりすることはありません。
――先生の食事法はきびしいとか、難しいとかいう人もいますが……。
新谷 それは頭で考えて食べているからですよ。食事をするのは体ですから。もっと言えば消化管、腸が食べているのです。だから、腸に聞けばすべてがわかる。私に聞かなくても、自分自身のおなかに聞いてみればいいんです。
――感覚が大事だということですね。そして、その感覚の基準になるのが腸の反応であると。
新谷 頭で考えているから食事が面倒で、つらいものになるんです。私の本に書いてあることを学ぶことは結構ですが、自分自身で判断しなければなりません。それは頭で考えることではなく、感じることなんです。
――ポイントはそこですね。考えるのではなく、感じると。
新谷 そうです。それで、最終的には自分のしたいことをすればいいんです。
★「食事を気をつけるだけではガンになる?」
――自分のしたいことをする、でも、それが難しいと感じるのかもしれません。本や人の話に答えを求めるというか、書かれたことを真面目に守るほうが健康になれると思っている人も多いでしょうから。
新谷 そうした人は、いくら食事に気をつけていたとしても、残念ですがやがてガンになってしまうかもしれません。放射能がどうという問題ではありません。
――新谷食事健康法を実践していてもガンになると。ある意味、ショッキングな発言ですねえ(笑)。
新谷 ガンは生き方の病気ですから、発ガン物質などよりも、最後はその人の生き方が関係してくるんです。
――そう言えば、先生はおっしゃっていましたね、「ガンは不幸な人がなる病気である」と。ずいぶん語弊がある言い方ですが(笑)。
新谷 それは真実です。だって、ニコニコ楽しそうに生きていてガンにかかったという人にお目にかかったことはないですから。あまり難しいことを考える必要はありません。
――ただ、不幸かどうかというのは、なかなか客観的に判断できないですよね? たとえば、健康診断の数値のようにはわからないでしょう。
新谷 だから、ガンの本質がわからないという人が多いんです。医者にしても、数字だけ見て判断しようとするから、どういう人がガンにかかるのか、どうすればガンにならないで済むかが、感覚的にとらえられないのかもしれません。
――なるほど。放射能のことをあまり恐れる必要がないと言ったのも……。
新谷 そうです、放射能を恐れれば恐れるほどガンになるでしょう。くよくよ心配していてもガンになる。皆さんはこの点を理解できないまま、ガンになる、ガンになると言っている。私からしたら、とても愚かしい話です。
――被曝の影響があったとしても、それでガンになったのか? 被曝を恐れていたからガンになったのか? どちらが原因かわからないですね。
新谷 生きることの喜び、楽しみを失ってしまってはダメなんです。そんな状態が続いては、いくら治療をしても治すのは難しいでしょう。
――うーん、すごく大事なことをお話になっているように思えます。
新谷 私の言っていることはいつもそうです(笑)。
――いや、先生はこともなげに言うから、適当に言っているように聞こえてしまうんですよ(笑)。でも、食事よりもメンタルが上位にあるというのは実感としてもわかります。安保徹先生を取材した時も、まったく同じことをおっしゃっていました。
新谷 そうでしょう。人間のことがわかっていれば、誰だって同じことを言うはずです。医者は患者を安心させて、希望を持たせなければならない。……当たり前のことですが、それが実際にどれくらいできるかが問題なんです。
――一般の医者も患者さんを励まそうとはすると思いますが、どうやらそういうこととは意味合いが違っていそうですね。
新谷 まったく違いますよ。そもそも、そういう医者はガンを治せると本気で思っていないでしょうから。病変ばかりを見て、それを取り除くことが治療することだと思っているわけですから、正直、考え方そのものが違いすぎます。
★「悪いところを取り除くだけが医学ではない」
――先生は1963年に渡米され、ニューヨークで研修医として活動されるなかで、まだ開発されたばかりの内視鏡に出会うわけですね。それで、自ら挿入法を考案し、1年後には大腸全域の観察を可能にされました。
新谷 そうです。そして、1969年には開腹せずに大腸ポリープを除去する「ポリペクトミー」という手術法も、世界で最初に考案しました。
――そうやって内視鏡医学の基礎を切り開かれたことは、ご著書でも詳しく書かれていますが、先生は腸の内部を観察していったどの段階で「腸と食べ物の関係」に気づかれたんでしょうか?
新谷 すぐにわかりました。これも直観です(笑)。私の「腸相理論」は初期のころからすでに出来上がっていました。
――先生は1980年代以降、日本にもたびたび戻ってこられて、医師を対象に内視鏡のセミナーも開くようになりました。日本に内視鏡の技術を導入されたパイオニアでもあったわけですが、こうした腸相理論はレクチャーしなかったんですか?
新谷 彼らは私から技術は学びました。しかしそれだけです。病変を見つけて、それを取ることをおぼえただけなんです。
――なるほど。ガンの話と同じですね。
新谷 腸の内部を観察した瞬間に、もっと全体的に、直観的に問題をつかみとらなければならないんです。
――そうすることで、腸と食べ物との関係が見えてくるわけですね。病気を治すという概念もずいぶん違ってきますね。
新谷 腸相を観察していけば、病気を治すというより、ならないほうがいいということがおのずとわかります。だから、予防が大事なんです。
――予防医学ということは、口にする人が多いですが……。
新谷 私から言わせれば、表面的なんですよ。たとえば女性を見た場合、ただいやらしい感情でしか見ない場合と、女性を女性としてとらえ、きれいだなあと感じる場合とではまったく違うでしょう?
――ヘンなたとえですが、おっしゃる意味はわかります(笑)。どちらの認識も間違ってはいないと思いますが、深さが違いますよね。
新谷 一つの事象から10のことを学んだ人と30のことを学んだ人とでは、認識力、理解力が違ってくるのは当然です。内視鏡という技術を用いても同じことです。その人の理解力が反映されるんです。
――現代医学では、とりあえず悪いところを取り除けば治療はうまくいったと考えます。それは間違いではないかもしれませんが……。
新谷 間違いではありませんが、それは女性を性的な対象としてしか見ないのと同じです。女性を神のように見ている私とは根本が違うでしょう?(笑)
――またそのたとえですか(笑)。要するに、ある部分を切り取るのではなく、全体を見るということが大事だということですね。
新谷 どれくらい好きか、どれくらい愛しているかが大事なんです。それは患者さんに対しても同じです。
★「大事なのは、生き方を変えること。自分の考え方を見直すこと」
――放射能の問題に対しても、このへんがすごくヒントになるような気がするなあ。確かにいろいろな「事実」がわかっています。僕自身、取材しているので一般の人よりはかなり詳しいと思いますが、事実に縛られると全体が見えなくなる気がします。
新谷 たとえば、いやなことが続くとストレスがたまり、脳のなかにいやな考え方が少しずつストックされていきますね。これも毒素なんですよ。こうした毒素もカラダに備わった治癒力である程度は消していけますが、リミットはあります。
――ただ、事実から目を背けていいのかと反論する人もいるかもしれません。
新谷 そういうことではないのです。生きている以上、問題はたくさんあります。食べ物や環境のことについては、私もずいぶん発言してきました。
――放射能の問題もその一つということですね。
新谷 そうです。いまに始まったことではないのです。
――生きている以上、ストレスは無数にある。それを肯定するとか、仕方ないとか言っているわけではなく、むしろ向き合い方についてお話されているわけですね。
新谷 ネガティブな考え方が心を曇らせ、影になります。その人の生きる喜びや楽しみを見失わせてしまうんです。
――そうやって生じる毒素についても、自然界の有害物質と同じようにとらえないといけないということですね。
新谷 だから、くよくよしてはダメなんです。現実から目を背けるのはよくないですが、それに心を支配されるのはもっと良くない。
――現実につらい、苦しいと感じている人もいると思いますが……。
新谷 私はガンにかかった人、そのほかの様々な難病に苦しむ人もたくさん診てきました。でも、そういう人だから特別ということはないんですよ。同じなんです。自分の人生なんだから、まず自分自身が変わろうと思わなければなりません。
――そこですね。意思を持たないと何も始まりませんよね。たとえば、先生に頼ってくる患者さんもいると思いますが、頼っているだけではダメだということですか?
新谷 頼ってくるのはいいんです。ただ、自分で変わろう、自分で治そうという思いがなければ、治療をしても効果はないでしょう。
――先生が何とかしてくれるということではないと。これは、一般の病院にも言えることですね。患者さんに自分で治そうと思っている人がどれくらいいるか、それを受け止められる医者がどれくらいいるか……。
新谷 私がみなさんに言いたいのは、もっと正直に生きようということです。こう言ったらどう思われるかとか、これをしたらどう反発されるのかとか考えず、もっと素直に生きなさい。
――僕自身に言われているような気もします(笑)。
新谷 本当に自分を変えたいのならば、本音で勝負しましょう。心を開くんですよ。
――ますますそういう気がしてきた(笑)。
新谷 あなたにはこれまでもずいぶん話をしてきましたが、私は何も隠していない、すべてオープンでしょう? それが一番なんです。
――オープンすぎるくらいです。そこはホントにすごいと思います。
新谷 このインタビューをお読みになっている方も、いろいろと難しいことを考える前に、正直に生きること、心を開くこと、心の曇りに毒されないこと……まずそうしたことを実践するようにしてください。
――日本人全体のテーマなんですね。確かに、放射能の問題、地震の問題を語る以前に、なんだか社会全体がビクビクしていて、人目を気にしていて、心の開けずに生きていて……そのほうがよっぽど有害な気もします。
新谷 人を感動させるには何も隠さないこと! オープンにすること!
――今度そういう本を作らないといけないですね(笑)。この続きはまた機会を改めてお聞かせください。今日はありがとうございました!
★Profile
新谷弘実 しんや・ひろみ
1935年、福岡県生まれ。1960年、順天堂大学医学部を卒業後、’63年にニューヨーク・アメリカに留学。研修医として、ベス・イスラエル病院に勤務。’68年に新谷式と呼ばれる内視鏡の挿入技術を考案、世界で初めて開腹することなく内視鏡でポリープ除去手術(ポリペクトミー)に成功。以後、日米で35万人以上の内視鏡検査と10万人以上のポリープ除去手術を行うなど、大腸内視鏡医学の世界的権威として活躍。現在、アルバート・アインシュタイン医科大学外科教授、北里大学客員教授(研究員)。著書にミリオンセラーになった『病気にならない生き方』シリーズ(サンマーク出版)、『酵素力革命』『細胞から若返る生き方』(以上、講談社)、『20歳若返る力』(ビジネス社)、『30日間で腸から美人になる』『免疫力を高める生き方』『水と塩を変えると病気にならない』(以上、マガジンハウス)などがある。
(編集後記)
新谷先生は、「病気にならない生き方」がミリオンセラーになって以来、クスリを使わずに病気を治す食事療法の先生のように思われていますが、「人の心をつかむ力に長けたホームドクター」というのが本当の姿なんだと思います。
なにしろ、まだ1ドルが360円だった時代に単身でアメリカに渡られ、「まわりに日本人が全くいない」ハングリーな環境の中で膨大な数の患者さんと日々向き合い、実績を積み上げられてきた方です。
外科医、内視鏡医としての技術もさることながら、「人の心をつかむ力」がなければ、いまよりももっと強固だった言葉の壁、文化の壁、人種の壁は突き破れなかったでしょう。異国の地に永住して、患者さんに「この先生は信頼できる、また診てもらおう」と思ってもらうことは、容易なことではありません。今回のインタビューも、そうした先生の経歴をふまえて一読されると、また意味が違ってくるのではないでしょうか。
放射能が安全だとか、原発事故は大したことがないと言っているわけではありません。そうした事故の実態以上に大事なのが、ヒトに備わっている「心の法則」をしっかり理解するということ。
いくら「事実」であったとしても、「その事実によって何を感じるか?」は人それぞれ。私たちは事実と感じていることをごっちゃにして、不安や恐怖を必要以上に増幅してしまっているところがあります。そのことをもっと強く自覚しないと、事故の「被害」はさらに拡散することになるかもしれません(広い意味での風評被害ってやつですね!)。
「そうなんだよなあ、人間っていろんな意味で厄介な生き物なんだよなあ」と改めて思った次第。それと同時に、「結局は自分次第、自分の意識次第なんだな」と個人的にはハラの据わった気持ちになれました。機会を設けて、またこの「続編」をお届けしたいと思っています。
いやあ、新谷先生はいつもの新谷先生でした(笑)。