恵比寿 海の神様
Ebisu: God of the Sea
遠い昔の神話の海よ
葦の舟が運ぶ運命
西宮の波間に漂い
福を宿した小さき神
えびすの神よ、釣り糸垂らし
波間に揺れる希望の灯り
商売繁盛、豊漁の夢を
今日も届ける福の船
Long ago in the sea of myths,
A reed boat carried a fateful drift.
Floating through the waves of Nishinomiya,
A tiny god bore the gift of fortune.
Oh Ebisu, the god who casts the line,
A beacon of hope on the waves that shine.
Bringing wealth and dreams of bountiful seas,
The boat of fortune sails with ease.
遠い昔、天の神々イザナギとイザナミの間に生まれた一柱の神がいた。その名を戎(えびす)という。しかし、この神は生まれながらにして足腰が弱く、3歳になっても立つことができなかった。これを見た父母は、心を痛めながらも彼を葦で作った小さな船に乗せ、運命の波に委ねた。
海は広く、波は穏やかに戎を運んだ。漂い流れたその先、彼がたどり着いたのは西宮の地であった。そこは豊かな自然に囲まれ、やがて戎はこの地で育てられることとなる。
彼の幼き頃の記憶には、青い空と広がる海、そして浜辺に打ち寄せる白い波が刻まれていた。海に抱かれた彼は、次第に釣りの技を身につけるようになった。その姿は人々の目に福を呼ぶものとして映り、やがて彼は「福の神」として信仰されるようになる。
戎の姿は風折烏帽子(かぎおりぬ)を被り、指貫(さしぬき)をまとい、釣り上げた大きな鯛を抱えるものとして描かれる。海から訪れた神、釣りを愛した神、そして人々の商売繁盛をもたらす神――それが戎、すなわち「えびすさま」である。
だが、彼が海に深い縁を持つ理由はそれだけではなかった。人々は古くから漂着物に神秘を見出していた。海を越えて運ばれるものは、未知の福や富をもたらす贈り物とされたのだ。異邦の者を意味する「夷(えびす)」の名を持つ彼が、やがて七福神の一柱として信仰されるようになった背景には、海を越える神秘的な力があったのだろう。
えびすさまは今日も西宮の地に、その福を求める者を迎える。彼の優しき眼差しの向こうには、青く広がる海と、無限の可能性が広がっているかのようだった。
商人には商売の神様、農民には田の神、山の神として豊作の神様になりました。
漁海の恵みをもたらし、豊漁を約束する神――そんな恵比寿様の存在は、荒れた海に挑む漁師たちの心に希望の光を灯したのだ。彼らは恵比寿様を敬い、祈りを捧げ、海での無事と大漁を願った。
しかし、恵比寿様の名声は海辺に留まらなかった。豊かな実りを求める農民たちの耳にもその噂は届く。いつしか、彼は田を守る神、山を守る神として祀られるようになり、稲穂が揺れる田畑には、恵比寿様の加護が降り注ぐと信じられるようになった。
さらに、商いの道を行く商人たちもまた、恵比寿様に心を寄せるようになる。取引の繁盛、商売の成功――その願いを託された恵比寿様は、商人たちの間で「商売繁盛の神」として崇められるようになった。
こうして恵比寿様は海を越え、山を越え、田畑にまでその福を届けた。どこにいても人々は恵比寿様に祈り、感謝し、福を求めた。その姿は、釣り上げた鯛を抱え、穏やかな笑顔を浮かべる親しみ深い神として、今なお多くの人々の心に息づいている。
恵比寿様は今日も、遥かなる福の風に乗り、豊かさと繁栄を運んでくる。その姿を、人々は海辺に、山里に、田畑に見出し、静かに手を合わせるのだった。