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2024年09月16日

芥川龍之介の「河童」の多変量解析−クラスタ分析と主成分6

◆場面2 大寺院

長老は僕の話を聞き、深い息をもらしました。
「我々の運命を定めるものは信仰と境遇と偶然とだけです。(もっともあなたがたはそのほかに遺伝をお数えなさるでしょう。)トックさんは不幸にも信仰をお持ちにならなかったのです。」「トックはあなたをうらやんでいたでしょう。いや、僕もうらやんでいます。ラップ君などは年も若いし、……」「僕も嘴さえちゃんとしていればあるいは楽天的だったかもしれません。」A1、B2、C2、D2

長老は僕らにこう言われると、もう一度深い息をもらしました。しかもその目は涙ぐんだまま、じっと黒いヴェヌスを見つめているのです。「わたしも実は、――これはわたしの秘密ですから、どうかだれにもおっしゃらずにください。――わたしも実は我々の神を信ずるわけにいかないのです。しかしいつかわたしの祈祷は、――」A1、B2、C2、D2

ちょうど長老のこう言った時です。突然部屋の戸があいたと思うと、大きい雌の河童が一匹、いきなり長老へ飛びかかりました。僕らがこの雌の河童を抱きとめようとしたのはもちろんです。が、雌の河童はとっさの間あいだに床の上へ長老を投げ倒しました。
「この爺め! きょうもまたわたしの財布から一杯やる金を盗んでいったな!」A1、B2、C2、D2

十分ばかりたった後のち、僕らは実際逃げ出さないばかりに長老夫婦をあとに残し、大寺院の玄関を下おりていきました。「あれではあの長老も『生命の樹』を信じないはずですね。」A2、B1、C1、D1

しばらく黙って歩いた後、ラップは僕にこう言いました。が、僕は返事をするよりも思わず大寺院を振り返りました。大寺院はどんより曇った空にやはり高い塔や円屋根を無数の触手のように伸ばしています。なにか沙漠の空に見える蜃気楼の無気味さを漂わせたまま。……A1、B1、C2、D1

花村嘉英(2020)「芥川龍之介の『河童』の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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