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2024年03月27日

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に11

5.2 前頭葉と作業記憶

 前頭葉は、刻々と変化する決定、選択、切り替えのプロセスを経て記憶を制御している。この種の記憶は作業記憶と呼ばれていて、特に、思い出すという行為は、この作業記憶と前頭葉との関係である。前頭葉は、どの情報がどこに蓄えられているのかを知っており、情報の貯蔵場所を突き止めると、脳のその部分に連絡をとって、該当する記憶(記憶痕跡)を含んだ回路を活性化するため、当の記憶を思い出すことができる。Goldberg(2007)によると、作業記憶は、優先事項に基づいた適応型の意思決定と関係がある。一方、真実、つまり唯一の答えを探す決定論型の意思決定がある。
 ゴーディマとマックスの意欲は、適応型の意思決定(反アパルトヘイト)であるため、そこに解決策を求めていく。適応型の意思決定では、状況依存型と状況独立型がうまくバランスを取れると良いが、一概にそうはいかいない。集団で見た場合、女性は状況独立型を、男性は状況依存形を好む。また、比較的変化のない状況では、独立型の方が懸命であろうし、不安定な状況では、依存型の方が好ましい。
 前頭葉は、そもそも性差があり、右前頭葉が左よりも突き出ているのは男性の方で、女性はそれほどでもない。状況依存型の意思決定は、男性の場合、左前頭前野皮質が活動し、女性の場合、左右両側の後部皮質(頭頂葉)が特に活動している。また、状況独立型の意思決定は、男性の場合、右前頭前野皮質が活動し、女性の場合、左右両側の前頭前野皮質が特に活動する。
 男性と女性の大脳皮質の機能的なパターンの相違として、男性の脳では左右の違いが女性よりも明白であり、女性の脳では前部と後部の違いが男性よりも著しい。言語情報を処理する場合、男性は、左半球の前部と後部がともに活動するのに対し、女性は、左右の大脳半球の前頭葉がともに活動している。(Goldberg 2007:127)

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に10

5.1 前頭連合野とやる気
 
 前頭連合野は、思考や推測などの学習能力を支えるとともに、人間らしく振舞うように指令を出す。学習能力を向上させるには、動機づけや学習意欲を保ちながら、やる気を引き起こすことが大切である。このやる気の調節に前頭葉が関与している。
 学習能力は、神経伝達物質ドーパミンの分泌を高めることにより向上する。喜びや達成感、褒められたり愛されたりしたときの精神的な報酬が大脳辺縁系にある側座核を刺激することにより、ドーパミンの分泌が高まる。片野(2017)によると、ドーパミンは、脳幹の中脳にある黒質緻密部と腹側被蓋野という神経核から分泌され、視床下部や大脳皮質など脳全体に届けられる。黒質緻密部は、運動の調節と関わりがある。適度な運動をすると気分が爽快になり頑張ろうと思うのは、運動によりドーパミンが高まるからである。
 ドーパミンは、目標を立てたときと目標を達成したときに分泌が高まる。「ブルジョア世界の終わりに」の中で見ると、当時の南アフリカで男を望むとしたら、グレアムが良い。語り手の私は、18歳で結婚して子供を作り、その後マックスと離婚した。マックスが刑務所にいたとき、グレアムは嘆願書を提出する手助けをしてくれた。彼の妻は髄膜炎で亡くなった。政治告発されている人たちを弁護していて、身に降りかかるものがあってもひるまずに活動している人たちである。ヨーロッパの黒い森に行って二人で楽しく過ごした。結婚を望めばそうなるだろう。グレアムは、諦めず、やり遂げて、約束を守る。磁石に吸い寄せられるように引き付けられることに気がつく、そういう関係である。 
 目標の設定は、適度に難しく、頑張れば達成できるぐらいがよい。自分の部屋で文字にして目視できるようにすると、ドーパミンの補給にもなる。頑張って目標に到達したら、自分であれ家族や仕事仲間であれ褒めてあげると、次の目標に向けてまた頑張ろうという気になる。それが学習能力向上のサイクルとなる。例えば、学習目標設定→ドーパミン分泌→モチベーションUP→勉強する→学習目標達成→ドーパミン分泌→次の目標のためにモチベーションUP→学習目標設定。(片野2017:18)
 「ブルジョア世界の終わりに」の中で見ると、マックスの死が重要な問題になる。マックスは大学をやめて仕事についた。しかし、長続きせず、大学時代に共産党の細胞メンバーだったため、COD(民主主義者会議)に入りアフリカ人の政治運動と直接協力しながら活動した。その後、ンマガンドラというアフリカ社会主義運動のグループの師匠格となり、民衆(黒人のこと)に近づいていく。アフリカ社会主義方法論の原稿は押収されることはなかった。離婚後、私の前から姿を消してはまた現れ、白人の革命グループと地下で付き合いがあるという噂も聞かされたが、マックスは、まんまと死ぬことに成功した。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に9

5 ゴーディマの執筆脳

 表2で説明したように、意欲とは、人が何かの行動を起こすとき、欲求や衝動、願望などが動機づけとなって、意味や目的を持って行動しようとする意志の働きである。「ブルジョワ世界の終わりに」を書きながら、ゴーディマは、反アパルトヘイト運動が成立しない白人社会の終焉のために、白人が南アフリカの変革にどのように関与できるのか、問いかけていた。しかし、意欲を持って計画をしても、欲求が満たされないことがある。意欲、計画、欲求に関する脳の作用は、主に前頭葉が担っているため、前頭葉のあらましについて以下で説明する。
 前頭葉は、頭頂葉や側頭葉や後頭葉といった他の連合野と相互関係にあり、聴覚、体性感覚、視覚と結びつきがある。また、本能を司る視床下部とか情動や動機づけに対して判断を下す扁桃体と結びつきが強い。(Goldberg 2007:57)
前頭葉には、意志、計画、意欲、感情、言語の発音、運動の統合などの働きがある。また、思考や推測などの学習能力は、前頭連合野が支えており、五感から入った情報は、最終的に前頭連合野に送られて、何をするべきかが判断される。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に8

表3 ゴーディマのメディカル表現
メディカル用語の使用場面(原文頁)
He died, Bobo. They sent me a telegram this morning. It’ll be in the papers, so I must tell you -- he killed himself. (15)
用語の説明 自殺。自分で自分を殺すこと。

I was excited with hatred of her self-pity. The very smell of her stank in my nostrils. Oh we bathed and perfumed and depilated white ladies, in whose wombs the sanctity of the white race is entombed! (25)
用語の説明 鼻腔は、顔面の中央、鼻の側面、頭蓋の前後にある空洞。前方は外鼻腔によって外界に通じ、後方は後鼻腔によって咽頭に通じている。機能は、発生時の共鳴作用、呼気の加湿、加温などである。子宮は、人や哺乳類の体内で胎児を育てるところ。茄形の筋肉管。

I don’t know whether they ever knew that he was a member of a Communist cell, probably not. (25)
用語の説明 生物体を組成する構造的、機能的単位。分裂によって増殖する。核を持つ真核細胞と、それを持たない原核細胞とがある。核以外の部分を細胞質と呼び、各種の細胞小器官や顆粒を含む。

I suppose that was why she was inclined to take with sophisticated tolerance, unlike my won parents, the fact that I got myself pregnant at eighteen. (26)
用語の説明 妊娠は、女子が体内に受精卵またはそれが発育した胎児を包容している状態。正常器官、即ち受精から分娩までの期間は、最終月経から数えて約280日。

What I'm asking you to look out for is - is moral sclerosis. Moral sclerosis. Hardening of the heart, narrowing of the mind; while the dividends go up. (31) ….
用語の説明 動脈硬化とは、老化とともに、動脈内にLDLがたまり、内腔が狭くなっていき、弾力性を失ったりした状態をいう。そこから精神的な動脈硬化を引き出す。

I'm not talking about the sort of thing some of them have, those who have had their thrombosis, I don't mean veins gone furry through sitting around in places like this fine club and having more than enough to eat. (31)
用語の説明 血栓とは、血管内にできた血のかたまり、動脈がぼろぼろになる。動脈硬化のこと。

More widespread than bilharzia in the rivers, and a damned sight harder to cure. (31)
用語の説明 住血吸虫とは、吸虫類の住血虫科の扁形動物の総称。雄雌異体。雄虫は体調約1.5センチ、外見は細長い。後体は幅広く左右から覆面に向かって巻き込まれ、通常この中にメスを抱き込んでいる。雌虫は体調約2センチ、細長くて紐状。前端に口吸盤、腹面に腹吸盤があり、人畜の静脈、門脈系内に寄生して血液を吸う。

It's a hundred per cent endemic in places like this Donnybrook Country and Sporting Club, and in all the suburbs you're likely to choose from to live in. (31)
用語の説明 感染地区とは、細菌、有毒物質、放射性物質などにより、汚れること。

He had a wife once; she was a girl he'd gone know with since they were schoolchildren, and she died of meningitis when she was younger than I am now. (36)
用語の説明 脳脊髄膜炎と同じ。一般に発熱し、脳脊髄液の圧力上昇のため、激しい頭痛、嘔吐、頸部強直の圧力上昇などが現れる。流行性のものは法定伝染病で、髄膜炎双球菌によって起こり、治療後も神経障害を残すことが多い。結核性のものや化膿性のものもある。

Boao and I went down for two weeks at Christmas and every day the three of us walked along the cliff road above the sea, where the polyps of seaweed reach up from far down in the water. (53)
用語の説明 皮膚、粘膜などの面から突出し、茎を持つ卵球形の腫瘍。慢性炎症から生じるものと、良性腫瘍性のものとがあり、鼻腔(鼻茸)、胃腸、子宮、膀胱などにできやすい。

Among the very small white-haired old ladies, the dying diabetic, taking so long to die, was till there, humped on her side, smoking. (57)
用語の説明 血液中のブドウ糖が多いと、血管や神経、腎臓や目など、全身の様々な組織に障害がでる。食後は血中ブドウ糖(血糖値)が増えるが、同時にインスリンが分泌されブドウ糖が処理されて、やがて血糖値が下がる。しかし、インスリンの分泌が少なくて働きが悪かったりすると、食後の血糖値が下がらず、血糖値の高い状態が続く。それが糖尿病。

Well, your gums was sore this morning, grannie, don't you remember? (58)
用語の説明 歯の昆布を包む口腔の粘膜層。骨膜と固く結合し分泌腺がない。
Angina attacks (58)
用語の説明 狭心症の発作。

I'm not a doctor … it sounds like middle ear. (76)
用語の説明 聴覚器官の一部。中耳腔と耳管からなる。外側は鼓膜を隔てて外耳道に、内前方は耳管によって咽頭に開き内耳に接する。内部に3個の耳小骨(ツチ、キヌタ、アブミ)が連なり、鼓膜の振動を内耳に伝える。

That's what's up there, behind the horsing around and the dehydrated hamburgers and the televised blood tests. (93)
用語の説明 血液検査は健康診断の基本項目である。ガンの腫瘍マーカーはガンの発見や治療に利用されている。アトピーやスギ花粉や食べ物に対するアレルギー反応についてもわかる。また、エイズ、貧血、白血球、動脈硬化、心疾患、脳血管疾患などの発病のリスクもわかる。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に7

4 ゴーディマのメディカル用語

 医学の分野には、世界中でし烈な競争が繰り広げられている細胞レベルのミクロの研究と身体全体に通じる外部環境も含めた体内時計のようなマクロの研究がある。システム系もミクロは電子レベルの研究であり、マクロは地球規模の環境問題や交通とか震災システムのような研究である。経済でも、ある企業と日本全体の問題とか日本国内と世界の国、地域からなるミクロとマクロの研究がある。  
 いずれもミクロの研究は、個人やグループのアイデアが評価の対象となり、マクロはそれに基づいたグローバルな分析から結論を導いていく。こうしたミクロとマクロの発想や調節を人文科学、特に文学分析にも適用していきたい。個人が個人の研究をすればよいのでは、文系脳で頭打ちとなり、20世紀型で時代遅れも甚だしい。
 中でも特に注目する点は、問題解決の場面である。問題未解決の場面に比べて、作家の執筆脳は強く働いていると思われる。例えば、どうにもならない精神状態を説明するときに、ゴーディマは、メディカル表現を用いて問題解決を試みる。以下に、作品の中で使われているメディカル表現を抽出して用語を説明し、その場面を紹介する。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に6

【シナジーのメタファーのプロセス】
@ 知的財産が自分と近い作家を選択する。
A 場面のイメージのDBを作成する。場面が浮かぶように話をまとめる。
B 解析イメージから何かの組を作る。言語解析は構文と意味が対象になる。
C 認知科学のモデルは、Lのプロセス全体に適用される。例、前半は言語の分析、後半は情報の分析。
D 場面ごとに問題の解決と未解決を確認する。
E 問題解決の場面では、信号がLに縦横滑ってCに到達後、人体を一周してから、再び解析イメージに戻る。問題未解決の場面では、すぐにリターンする。
F 各分野の専門家が思い描くリスク回避を参考にしながら、作家の執筆脳の活動を想定する。
G 問題解決の場面を中心にして、テキストの共生について考察する。

@、A、Bは受容の読みのプロセス、Cは認知科学の前半と後半、D、Eは異質のCとのイメージ合わせになり、Fで作家の脳の活動を探り、Gでシナジーのメタファーに到達する。(花村 2015) 

@ 一文一文解析しながら、選択した作家の知的財産を追っていく。例えば、受容の段階で文体などの平易な読みを想定し、共生の段階で知的財産に纏わる異質のCを探る。この作業はAとBでも行われる。
A 場面のイメージが浮かぶような対照表を作る。
B テキストの解析を何れかの組にする。例えば、トーマス・マンは「イロニーとファジィ」、魯迅は「馬虎と記憶」、鴎外は「感情と行動」という組にする。組が見つからなければ、@からBのプロセスを繰り返す。
C 認知プロセスの前半と後半を確認する。
D 場面の情報の流れを考える。問題解決と問題未解決で場面を分ける。
E 問題解決の場面は、信号が異質のCに到達後、人体を一周してから解析イメージに戻る。問題未解決の場面は、すぐに解析イメージにリターンする。こう考えると、システムがスムーズになる。
F 各分野のエキスパートが思い描くリスク回避と意志決定がテーマである。緊急着陸、救急医療、株式市場、震災そして環境問題などから生成イメージにつながるようにリスク回避のポイントを作る。そこから、作家の意思決定を考える。
G これにより作家の脳の活動の一例といえるシナジーのメタファーが作られる。「ゴーディマと知能」というシナジーのメタファーは、テキスト共生に基づいた組のアンサンブルであり、文学をマクロに考えるための方法である。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に5

【Lのストーリー】

◇縦に受容:言語文学(ゴーディマ)→言語の認知→空間と時間(無限)
◇横の共生:空間と時間→情報の認知→意欲と知能(リスク回避と適応能力)

 社会系や理系と同様に、文学の分析にもミクロとマクロの研究を想定している。ミクロは、対照言語の専門分野が研究の対象となり、マクロは、一つが地球規模、人文の場合、国地域の比較(東西南北)であり、また一つが研究のフォーマットのシフトが評価項目となる。フォーマットのシフトとは、Tの逆さの認知科学の定規を縦横に崩して、縦に言語の認知、横に情報の認知をとるLのフォーマットのことであり、購読脳(受容)と執筆脳の活動(共生)を考察の対象にする。(図1と図2を参照すること。)
 筆者はこれまで文学作品をランダムに比較研究し、その際に作家を一種のエキスパートと見なして、作品に見るリスク回避という内容で論文を作成している。三人とも20世紀前半という同時代に活躍した作家である。一般的に作家は、エキスパートとしてしばしば警鐘を鳴らすことがある。例えば、魯迅は、作家として中国人民を馬虎という精神的な病から救済するために小説を書き、鴎外は、明治天皇や乃木大将が亡くなってから、後世に普遍性を残すために歴史小説を書いた。また、トーマス・マンは、20世紀の最初の四半世紀に、ドイツの発展が止まることを危惧して論文や小説を書いている。 
 ミクロは、研究者個人の工夫が評価の対象となる。一方、マクロの場合は、誰が考えてもある作家が作品を執筆している時の脳の活動は〇〇である、というように結論づけたい。これをシナジーのメタファーと読んでいる。例えば、「トーマス・マンとファジィ」、「魯迅とカオス」、そして「鴎外と感情」がこれまでに考案したシナジーのメタファーである。 (花村 2005、花村 2015、花村 2017)

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に4

3 ミクロとマクロ
 
 ヘンドリック・フェルブールト首相(在任期間は1958−1966)に象徴されるアパルトヘイト全盛の時代は、政治や法律によって南アフリカ国民は強く拘束されていた。意欲や計画があっても、挫折や頓挫は日常のことで、状況を打開するまでには至らない。
 アフリカ民族会議やそこから分裂した過激派のパンアフリカ会議と並ぶ白人による反アパルトヘイト運動、アフリカ抵抗運動も、当時、盛んにサボタージュを繰り返した。1964年7月の全国一斉捜査で、活動家が逮捕され、その中にアフリカ抵抗運動の指導者マークも含まれていた。福島(1994)によると、彼の所持していた文書や供述からアフリカ抵抗運動の活動が明るみになり、10年前後の判決を受けた。
 転職を繰り返すマックスは、こうした白人のサボタージュ運動に属していて、運動初期の段階で逮捕された。結局、死を選ぶため、社会に適応する能力がなかったことになる。
 重大な生活上の変化やストレスに満ちた生活が原因となる適応障害は、個人にとって重大な出来事(就学、独立、転居、結婚、離婚、失業、重病など)が症状に先んじて原因となる。本人の性格や考え方の癖、また、ストレスの感じ方も大きな影響を及ぼす。日本成人病予防協会(2014)によると、一般的に誰でもつらい出来事や思いどおりにならないこと(社会生活上のストレス)により、不安やイライラが強くなったり、憂鬱になったり、ときには投げ出したくなったりもする。しかし、適応障害の場合、ストレスに対する反応が強く現れ、精神的にも身体的にも特有の症状がみられる。

表2 適応障害の症状
適応障害 精神症状  
症状 憂鬱な気分や不安感が強くなるため、涙もろくなったり、過剰に心配したり、神経が過敏になったりする。ほかに気分の落ち込み、集中力の低下、自信の欠如、意欲の低下、対処能力の低下などがみられる。また、無断欠席や無謀な運転、喧嘩、物を壊すなどの行動面の症状がみられることもある。
適応障害 身体症状
症状 不安が強く緊張が高まると、ドキドキしたり、汗をかいたり、めまいなどの症状がみられる。ほかにも倦怠感、頭痛、腰痛、焦燥感、神経過敏、怒り、不眠、起床困難、食欲不振、下痢などがみられる。
悪化した場合 会社では職場不適応、学校では不登校、家庭では別居や離婚といった形に変わり、ひどくなると酒やギャンブルの中毒に陥ることもある。ストレスとなる状況や出来事がはっきりしているため、その原因から離れると、症状は次第に改善する。ストレスの原因となっている環境から離れられない場合には、症状が慢性化することもある。

 どうにもならない無限の状態を表す「空間と時間」は、意欲を介して適応能力となり、理解、思考、判断などの総合的な能力が、南アフリカの将来を見据えたゴーディマのリスク回避につながっていく。作家もエキスパートであり、作品執筆時には特定の脳の活動があるためである。なお、一般的に空間は右脳が処理をし、時間は感覚的にも論理的にもイメージできるため、左右の脳が関係する。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に3

 感情には、本能のことをいう情動と人間特有の感情といえる畏敬があり、時間的な見方をすると、情動は瞬間的な思いであり、畏敬は継続的な思いになる。また、感情には、喜怒哀楽のようにどちらにも入るものがある。情動の起因には、内的要因(創発)と外的要因(誘発)による反応があげられる。(花村2017)では、鴎外の歴史小説にも内的要因と外的要因による思考があり、誘発が主の作品として「山椒大夫」を分析している。合わせてDBも作成し、鴎外の執筆脳の活動を感情として、「鴎外と感情」というシナジーのメタファーについて考察した。 
 思考は、課題や問題が与えられたときに生じる一連の精神活動の流れで、周囲の状況に応じた現実的な判断とか結論へ至るものである。花村(2015)では、意識と無意識そして思考といった精神活動を調べながら、魯迅の「阿Q正伝」や「狂人日記」を考察し、その結果、「魯迅とカオス」というシナジーのメタファーを作ることができた。
 意欲は、人が何かの行動を起こすとき、欲求や衝動、願望などが行動の動機づけとなって、意味や目的を持って行動しようとする意志の働きである。この行動を制御する意志と欲求を合わせて意欲といい、物事を積極的に行おうとする精神作用を指す。食欲、性欲、睡眠などがその例である。
 判断は、物事の真偽、善悪、美醜などを考え決めることであり、知能は、人間が環境に適応していく能力を表し、理解、思考、判断などの総合的な能力のことをいう。知能の障害は、精神の遅延や認知症などでみられる。(日本成人病予防協会2014)

表1 人間の精神的な活動

人間の精神活動 言語
説明 人間が情報を伝達する際に用いるツールの一つ。
人間の精神活動 記憶
説明 新情報を受け入れて既存の情報と調節しながら、必要なものを蓄える。その際、長期と短期のものがある。
人間の精神活動 感情
説明 本能のことをいう情動と人間特有の感情といえる畏敬があり、時間的な見方をすると、情動は瞬間的な思いであり、畏敬は継続的な思いになる。また、感情には喜怒哀楽のようにどちらにも入るものがある。
人間の精神活動 思考
説明 課題や問題が与えられたときに生じる一連の精神活動の流れで、周囲の状況に応じた現実的な判断とか結論へ至るものである。
人間の精神活動 意欲
説明 人が何かの行動を起こすとき、欲求や衝動、願望などが行動の動機づけとなり、意味や目的を持って行動しようとする意志の働きである。
人間の精神活動 判断
説明 物事の真偽、善悪、美醜などを考え決めること。
人間の精神活動 知能(適応能力)
説明 人間が環境に適応していく能力を表し、理解、思考、判断などの総合的な能力のことをいう。

 この小論では、特に、意欲と適応能力に焦点を当てて、ゴーディマの執筆脳について考察していく。ゴーディマが「ブルジョワ時代の終わりに」を書いた1960年代前半の南アフリカは、厳しい弾圧の時代であり、いくら適用能力があっても、政治や法律によりそれを発揮できなかった。従って、心の働きでは意欲が強くなり、それに伴う意志の働きも含めた前頭前野皮質の活動が論点になる。
前頭連合野は、側頭葉、頭頂葉、後頭葉などの連合野から記憶の情報を統合して適した行動を生み出すため、考察の対象にする。そこには、IQ(知能指数)やEQ(心の知能指数)そしてPQ(前頭葉の知能指数)のような指数を測る概念もある。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より

「ブルジョワ世界の終わりに」から見たゴーディマの意欲についてー脳の前頭葉の活動を中心に2

2 人間の精神活動

 人間の精神的な活動とは、心の表出と言われる言語、記憶、感情、思考、意欲、判断、知能(適応能力)などのことである。これらの活動は、一般的に脳によって生み出されている。
 脳を部位ごとに見てみると、前頭葉の前頭前野皮質は、人の脳の活動でも特に、意志、計画、意欲、感情を管理し、前頭葉の上部では運動を、側頭葉の近くでは言語の発音を処理している。頭頂葉は判断や理解を管理し、前頭葉との境界に体性感覚が走っていて、触覚、痛覚などの皮膚の感覚、内臓の痛覚などを調節する。また、側頭葉との境界に味覚の機能がある。後頭葉は、視覚の情報を処理している。(片野2017:3)

大脳皮質の役割分担
区分 役割
区分 前頭葉・前頭連合野
役割 思考、意志、計画、意欲、感情、判断、自己抑制
区分 前頭葉・運動連合野
役割 運動の開始や手順を計画
区分 前頭葉・運動野
役割 運動連合野の指示に基づき、運動の指令を発信
区分 頭頂・体性感覚野
役割 触覚、痛覚、深部感覚などの受け取り
区分 頭頂連合野
役割 判断、理解、感覚情報の統合 
区分 側頭葉・聴覚野 聴覚情報の受け取り
役割 側頭連合野 知識、記憶、言語の理解
区分 視覚連合野 視覚情報の判断、認識
役割 視覚野 視覚情報の受け取り
区分 ブローカー野
役割 言語の表出:書く、話す
区分 ウェルニケ野
役割 言語の理解:読む、聴く

 当初から言語や記憶には関心があり、魯迅の「阿Q正伝」(1922)を題材にして側頭葉にある海馬について考察したことがある。(花村2015) 
 魯迅の文体は、従容不迫(落ち着き払って慌てないという意味)で、持ち場は短編である。「阿Q正伝」(1922)に対する解析を「記憶と馬虎」にし、これを「記憶とカオス」という生成イメージに近づけるため、場面を作業単位にしてL字の解析と生成を繰り返す。すると馬虎という無秩序状態にある人々の予測不可能な振舞い(非線形性)及び刑場に向かう阿Qと荷車運搬人の近似入力が全く異質の出力になる様子(初期値敏感性)が見えてくる。  
 記憶を司る部位として海馬は、側頭葉を覆う大脳皮質のすぐ裏側にあり、ニューロンの集まりでその断面にはS字に似た筋があり、そこに細胞が沢山詰まっている。(片野2017)によると、ニューロンのシステムでは、脳の全ての部位で一つ前のシナプスから受容体が神経伝達物質を受け取り、電気信号に形を変えて、先端のシナプスから次のニューロンへ信号が伝わる。もちろん、側頭葉には聴覚の機能もあるという。

花村嘉英(2018)「『ブルジョワ世界の終わりに』から見たゴーディマの意欲について」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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