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2017年09月10日

あがた森魚「天然色」

私の失恋談など知りたくもないかと思いますが、よろしければ少しお付き合いください。

フラれたことがありますか?
私は何度かあります。
いや、何度もかな?

中でも一番キツかった経験。
高校2年になる春でした。

中学に入学するとき、私はド田舎へ引っ越しました。
高校はそんな環境から離れたいと、少し離れた街へ進学し、親元を離れました。

地元からも親からも解放され、とても楽しい高校生活が始まりました。
地元にいる、一学年下の女の子と文通をしていました。

 文通ですよ!(笑)

携帯電話が登場する10年前です。
まして携帯電話を個人が持つようになったのは、さらに何年も後です。

相手の女の子はまだ中学3年生。
家に電話をしても、親が出たら怪しまれるのは必至でした。

ド田舎だと、保育園、幼稚園から高校までエスカレーター式です。
保育園と幼稚園はいくつかの選択肢があるものの、小学校、中学校はみな同じ所へ通います。
高校はせいぜい地元の普通科と隣町に商業科があったくらい。
だいたい皆さん、地元の普通科へ進学するのがお決まりのパターンでした。
それだから、周りは幼馴染同志ばかり。

私は地元に中学校だけ合流したので、そんなエスカレーター式の進学というのが不思議に映りました。
同時に、自分は、よそ者といった意識もどこかにありました。

文通の女の子も、普通科へ進学するのかと思っていたんです。
でも女の子は手紙の中で、将来美容師になりたいと言います。
そして、美容師になる以上、高校へ進学するつもりもないと。

地元には理容美容専門学校などあるはずもなく、親元を離れるしかない。
しかも私と同じ街の専門学校に行きたいと。

秋になり、冬になり、同じ街の専門学校に来ることが決まりました。
春休みになって、地元に帰ったとき、女の子とデートしました。

女の子は、白いサブリナパンツをはいていました。
靴は可愛らしいズック靴(死語?)でした。
デートも終わり、
「次は〇〇(街)で会おうね!」
と別れ、待ち遠しい春を指折り数えて待つことにしました。

春休みも終わり、学校から帰るとポストを楽しみに開ける。
「今日は返事が来ているかな?」

来ていました。
「この手紙には、どんな良いことが書いてあるのだろう?」

私は、100%ポジティブな気持ちで、手紙を開封しました。
高校は寮生活でした。
2年生までは4人部屋だったので、近くに同室の友人もいます。
私は隠れるどころか、友人に見せびらかせたいような勢いで手紙を読み始めました。

間もなく、私の意識が凍り付きます。
手紙の最後には
「さようなら」

春休みが終わり、地元から寮に帰る直前、夜に私は女の子の家に電話をしたのでした。
「待っているよ」
と。

それが親に聞かれていたというのです。
当時、今のような親機・子機の電話は一般家庭用にはありませんでした。
それでも家に2台の電話があることは、たびたびあったのです。

簡単に言えば、壁から出ている電話線を、二股につなぐのです。壁の中で二股にすれば、別々の部屋で電話を使えます。
そうすると、どちらの電話からもかけられるし、受けることもできる。
困ったことに、一方で電話をしているときに、もう片方の受話器を上げると、まるっと会話を聞くことができます。

それを父親が聞いていたと書いてありました。
まだ中学校を卒業したばかりの娘さんが、専門学校に進学するため街に出るのに、変な男が待っているのでは親として当然、許すことができません。

もっともなことです!
女の子は親に諭され、さよならの手紙を書いた。

 でも、こっちは天国から地獄。

恥ずかしいというのか、情けないというのか、
もちろん、悲しいので。

私は寮の、同級生たちと近くにいたくなくなりました。
ただただ、一人になりたかった。

--------------------------------------

“あがた森魚”さんをご存知でしょうか?

私には2学年上の姉がいます。
音楽について姉の影響をかなり、受けています。
姉が聞いている歌を、横でこちらも聞かされることが多々ありました。

“あがた森魚”さんはフォークシンガー、シンガーソングライターです。

まだ中学生の頃、姉はその“あがた森魚”さんの歌、「天然色」を何度も何度も繰り返し聞いていた時期があります。
なにせ特徴的な歌なので、はじめ、私は拒否に近い感覚になりました。
しかし、何度も何度も聞かされていると、免疫ができるというか、さほど苦にならなくなるんですね。

その歌の歌詞というのが、サビの部分、
「帰りたくない」
何度も何度も繰り返します。

この私の失恋は歌を聞いた(聞かされた)2年後で、忘れかけていたものでした。
しかし、
あのときの心境。
「皆と一緒にいたくない、一人でいたい。」

そんな気持ちで私は夜、寮を抜け出して街を一人、歩き続けました。
帰る頃には、外は明るくなっていました。
そんな日を数日間、繰り返しました。

歩きながら、自分の心、つぶれてしまいそうな心を支えてくれたのは、この「天然色」でした。
「帰りたくない」
そのメロディーが頭を巡るまま。

始めは受け付けられなかった歌、
しかし、あのとき自分を支えてくれたこの歌が、今では決して忘れることのできない大切な歌になっています。

(YouTube:razio722)




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