2018年04月10日
【QOL】休職夜話 39歳の夏休み 第八夜
前回までの「39歳の夏休み」は
第一夜
第二夜
第三夜
第四夜
第五夜
第六夜
第七夜
一向に終結に向かわないプロジェクトの進捗を見て、生田がもちぞうを会議室に呼ぶ。
会議室に入るや否や、スケジュールを説明しろと言ってくる。
もじぞうはワイトボードに向かうが、言葉が、文字が、出てこない。
あれだけ何度も考えてきたことが一言も頭からでてこなくなっていたのだ。
不機嫌そうに生田が口を開く。
「おいおい、自分で決めたことだろ。
それとも言いたくないのか?
今週までにめどが立たなければ、プロジェクトは強制的に中止する。
その場合の対策方法を考えておけよ」と。
そう告げたあと、生田はそそくさと会議室を出ていった。
もちぞうは、デスクにつくと呆然と画面を眺めていた。
両手をキーボードに乗せはしているが、指先は一向に動かない。
白紙の表計算ソフトの画面を眺めて、焦点の合わない眼光が画面に映し出されていた。
しばらくした後、画面から目を離すと、部長の春日部と、
開発リーダの竹本がまだ残っていた。
もちぞうは、春日部と竹本に、話があるので時間をもらえないかと話しかけた。
二人とも、すっとんきょうな瞳でもちぞうをデスクから見上げた。
先ほど生田に追い詰められた会議室に、春日部と竹本と3人で入る。
もちぞうは震える声で、今の思いのたけを二人に告げた。
ここ2カ月、仕事のことで頭がいっぱいになり、ほとんど夜眠れていないこと。
何も考えられずに、部下の管理がおろそかになっていること。
それにもまして、生田からの威圧に萎縮してしまっていること。
もちぞうが携わっているプロジェクトは
会社として、かならずやり遂げなければならないものであった。
また、もちぞうだけでなく、部署の評価にもつながるものであることは
春日部、竹本とも知っている。
もちぞうは最後にこう続けていった
「管理職をやっていく自信がありません。ノイローゼかもしれません」と。
春日部と竹本はしばらく口ごもったが、
今抱えている仕事のことは改めて調整しようといってきた。
春日部はそこで席をたち、残った竹本がもちぞうに話しかける。
「俺も自信なんてないよ。
毎日、生田君には管理能力がないとか、阿保だの馬鹿だの言われているよ。
生田君はできるひとだからね。
でも、出来るところまで、とにかくやろうよ。
それでも駄目なら、またそのとき考えていこう。
考えてもしょうがないこともあるから、
まずやってみて、それから少しでも前に進まないとどうしようもないよね。」
常套句のような言葉をかけられる。
この竹本の言葉はまったく響いてこない。
同情してほしいわけではなかったが、
自分が置かれている状況、思いを理解してもらうことができなかったと思った。
もうだめかもしれない・・・
そんな気持ちがもちぞうの頭の中を支配していった。
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