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2018年11月02日

森守りさま「どうにもならん。可哀相だが諦めておくれ」【山・森・田舎・集落】【怖い話】





2ヶ月ほど前の出来事なのだが、

数年後が心配になる話。



俺の田舎は四国。


詳しくは言えないが、高知県の山深い小さな集落だ。



田舎と言っても祖母の故郷であって、

親父の代からはずっと関西暮らし。


親類縁者もほとんどが村を出ていた為、

長らく疎遠。



俺が小さい頃に一度行ったっきりで、

足の悪い祖母は20年は帰ってもいないし、

取り立てて連絡を取り合うわけでもなし。



全くと言っていいほど関わりがなかった。



成長した俺は車の免許を取り、

ボロいデミオで大阪の街を乗り回していたのだが、

ある日どこぞの営業バンが横っ腹に突っ込んで来て、

あえなく廃車となってしまった。



貧乏な俺は泣く泣く車生活を断念しようとしていたところに、

田舎から連絡が入った。



本当に偶然で、

近況報告のような形で電話をしてきたらしい。



電話に出たのは親父だが、

俺が事故で車を失った話をしたところ、


「車を一台 処分するところだった。

なんならタダでやるけど 要らないか?」

と言ってきたんだそうだ。



勝手に話を進めて、俺が帰宅した時に

「新しい車が来るぞ!」

と親父が言うもんだからビックリした。



元々の所有者の大叔父が歳食って、

狭い山道の運転は危なっかしいとの理由で、

後日に陸送で車が届けられた。



デミオより遥かにこちらの方がボロい。

やって来たのは古い71マークUだった。


それでも車好きな俺は逆に大喜びし、

ホイールを入れたり、程良く車高を落としたりして、

自分の赴くままに遊んだ。



俺はこのマークUをとても気に入り、

通勤も遊びも全てこれで行った。


その状態で2年が過ぎた。



本題はここからである。


元々の所有者だった大叔父が死んだ。



連絡は来たのだが、


「一応連絡は寄越しました」


という雰囲気で、死因を話そうともしないし、

お通夜やお葬式のことを聞いても終始茶を濁す感じで、

そのまま電話は切れたそう。



久々に帰ろうかと話も出たのだが、

前述の通り祖母は足も悪いし、

両親も専門職でなかなか都合もつかない。



もとより深い関わりもなかったし電話も変だったので、

その場はお流れになったのだが、

ちょうど俺が色々あって退職するかしないかの時期で

暇があったので、これも何かのタイミングかと、

俺が一人で高知に帰る運びとなった。



早速、愛車のマークUに乗り込み、高速を飛ばす。



夜明けぐらいには着けそうだったが、

村に続く山道で深い霧に囲まれ、

にっちもさっちもいかなくなってしまった。


多少の霧どころではない。


かなりの濃霧で、前も横も全く見えない。



ライトがキラキラ反射して、とても眩しい。


仕方なく車を停め、タバコに火をつけ窓を少し開ける。



鬱蒼と茂る森の中、離合も出来ない狭い道で、

暗闇と霧に巻かれているのがふっと怖くなった。


カーステレオの音量を絞る。

何の音も聞こえない。


いつも人と車で溢れる大阪とは違い、ここは本当に静かだ。


マークUのエンジン音のみが響く。



「ア・・・・・」


何か聞こえる。


なんだ?



「ア・・・・・アム・・・・・」


なんだ、何の音だ?


急に不可解な、

子供のような高い声がどこからともなく聞こえてきた。



カーステレオの音量をさらに絞り、

少しだけ開いた窓に耳をそばだてる。



「ア・・・モ・・・ア・・・」


声が近付いて来ている。

尚も霧は深い。


急激に怖くなり、窓を閉めようとした。



「みつけた」


一瞬、身体が強張った。


なんだ、今の声?!


左の耳元で聞こえた。


外ではない。車内に何かいる。



「ア・・ア・・・ア・・・・」


子供の声色だ。

はっきりと聞こえる。

左だ。車の中だ。



「アモ・・アム・・アモ・・」


なんだ、何を言っているんだ。


前を向いたまま、前方の霧から目を逸らせない。



曲面のワイドミラーを覗けば、

間違いなく声の主は見える。


見えてしまう。


ヤバイ。見たくない。


「・・・アモ」


左耳のすぐそばで聞こえ、俺は気を失った。



「おーい、大丈夫かー」


車外から、

知らないおっさんに呼び掛けられて目を覚ました。


時計を見ると朝8時半。



とうに夜は明け、霧も嘘のように晴れていた。


どうやら、俺の車が邪魔で後続車が通れないようだった。



「大丈夫です、すぐ行きますので・・・ すみません」


そう言って、アクセルを踏み込む。


明るい車内には、もちろん何もいない。


夢でも見たのかな。


何を言っていたのかさっぱり意味が分からなかったし・・・。



ただ、根元まで燃え尽きた吸殻が

フロアに転がっているのを見ると、

夢とは思えなかった。



到着した俺を、大叔母たちは快く出迎えてくれた。


電話で聞いていた雰囲気とはうってかわってよく喋る。


大叔父の葬式が済んだばかりとは思えない元気っぷりだった。


とりあえず線香をあげ、

茶をいれていただき会話に華を咲かせる。



「道、狭かったでしょう。

 朝には着くって聞いてて全然来ないもんだから

 崖から落ちちゃったかと 思ったわ」


「いやぁ、それがですねぇ、変な体験しちゃいまして」


今朝の出来事を話してみたが、

途中から不安になってきた。


ニコニコしていた大叔母たちの表情が、

目に見えるように曇っていったからだ。



「モリモリさまだ・・・」


「まさか・・・ じいさんが死んで終わったはずじゃ・・・」


モリモリ?なんじゃそりゃ、ギャグか?



「・・・あんた、もう帰り。

 帰ったらすぐ車は 処分しなさい」


何だって?


このあいだ車高調整を入れたばっかりなのに

何を言っているんだ!


それに来たばっかりで帰れだなんて・・・。


どういうことか理由を問いただすと、

大叔母たちは青白い顔で色々と説明してくれた。



どうやら、俺はモリモリさまに目をつけられたらしい。


モリモリとは、森守りと書く。


モリモリさまはその名の通り、

その集落一帯の森の守り神で、

モリモリさまのおかげで山の恵みには事欠かず、

山肌にへばり付くこの集落にも大きな災害は

起こらずに済んでいる。



但し、その分よく祟るそうで、

目をつけられたら最後、魂を抜かれるそうだ。



魂は未来永劫モリモリさまに囚われ、

森の肥やしとして消費される。



そういったサイクルで、

不定期だが大体20〜30年に一人は、

地元の者が被害に遭うらしい。


・・・と言っても、


無差別に生贄のようなことになるわけではない。



モリモリさまは森を荒らす不浄なものを嫌うらしく、

それに対して呪いをかける。



その対象は獣であったり人であったりと様々だが、

余計なことをした者に姿を見せ、

子供のような声で呪詛の言葉をかける。



そして、姿を見た者は3年と経たずに

取り殺されてしまう。


(おそらく、アムアモと唸っていたのが呪詛の言葉だろう)


流れとしては、

山に対し不利益なものをもたらす人間に目をつけ、

呪いという名の魂の受け取り予約をする。



じわじわと魂を吸い出していき、

完全に魂を手に入れた後は、

それを燃料として森の育成に力を注ぐ。


そういう存在なのだそうだ。



今回の場合、

大叔父が2年前に目をつけられたらしい。


それも、あのマークUに乗っている時に。



モリモリさまを迷信としか思っていなかった大叔父は、

山に不法投棄している最中に姿を見たそうだ。


慌てて車を走らせ逃げたそうだが、

ここ最近は毎晩のようにモリモリさまが

夢枕に立つと言っており、

ある日に大叔母が朝起こしに行くと

心臓発作で死んでいた。



だが、大叔父だけでなく、おそらく車も対象になっていて、

それに乗って山を通った俺も祟られてしまった。



・・・というのが

大叔母たちの説明と見解である。



そんな荒唐無稽な話を信じられるはずもなかったが、

今朝の出来事を考えると、

自然と身体が震え出すのが分かった。



何より、大叔母たちの顔が真剣そのものだったのだ。



大叔母がどこかに電話をかけ、白い服を着た老婆が現れた。



聞くところ、その老婆は村一番の年長者で事情通らしいが、

その老婆も大叔母たちと同じような見解だった。



「どうにもならん。 可哀相だが諦めておくれ」


そう言い残し、さっさと帰って行った。



俺が来た時の明るい雰囲気はどこへやら、

すっかり重苦しい空気が漂っていた。



「すまない。お父さんが 連れていかれたから

 しばらくは 大丈夫やと 思ってたんやが・・・」


すまない、すまないと、

みんながしきりに謝っていた。


勝手に来たのは俺だし、

怖いからそんなに頭を下げるのはやめて欲しかった。



大叔父が車を手放したのは歳がうんぬんではなく、

単純に怖かったのであろう。



そんな車を寄越した大叔父にムカっとしたが、

もう死んでいるのでどうしようもない。



急にこんな話を捲くし立てられても

頭が混乱してほとほと困ったが、

呪詛の言葉をかけられた以上は

どうしようもないそうなので、

俺は日の明るいうちに帰ることになった。



何せ、よそ者が出会ってしまった話は

聞いたことがないそうで、

姿を見ていない今のうちに関西へ帰り、

車を捨ててしまえばモリモリさまも手が出せないのでは、

という淡い期待もあった。



どうやら、姿を見ていないというのは幸いしているらしい。


大叔母の車に先導されて市内まで出ると、

そこで別れて俺は一目散に関西へ帰った。



「二度と来ちゃいかん。

 そしてこの事は早う忘れなさい」


大叔母は真顔でそう言った。



帰った後、すぐに71マークUは処分し、

最近になって新しく100系マークUを購入した。


俺はマークUが好きなんだな、きっと。


この出来事、信じているかと言われたら、

7割ぐらいは信じていない。


家族にも話してみたし、

親父は直接あちらと電話もしたそうだが、

それでも信じていないというのか、

イマイチ理解できない様子だ。



肝心の祖母はボケてきて、どうにもこうにも・・・。


ただ気がかりなのは、村を出る道すがら、

山道で前を走る大叔母の車の上に乗っかり、

ずっと俺を見ていた子供の存在だ。



あれが多分、モリモリさまなんだろう。







滅多に鳴らない電話機【怖い話】





うちの会社には、滅多に鳴らない電話機がある。


今よりも部署が多かった頃の名残で、
回線は生きているものの発信する事もなければ、
着信もごくたまに間違い電話がある程度だった。


あるとき、俺は仕事が立て込んで、深夜まで一人で仕事をしていた。


週末で、何も無ければ
飲みに出かけようかと思っていた矢先
に急な仕事が入ってしまい、
やむなく遅くまで残業する羽目になったのだ。


その仕事も終わり、
そろそろ帰ろうかと支度を始めようとした時、
不意にその電話が鳴った。


またか、と思った。


深夜まで残業する事はたまにあり、
夜の12時に差し掛かるあたりになると、
よくその電話が鳴る事があったからだ。


こんな時間に仕事の電話はかかってこないし、
間違い電話だろう。


いつもその電話が鳴ったときには、
そう決め込んで無視をしていた。


しばらく鳴るが、
いつもは呼び出し音が10回も鳴れば切れていた。


ところがその日は、
呼び出し音がずっと鳴り続けて止まらない。


仕事を終えて、
緩んだ気持ちの俺は呼び出し音に段々いらだってきた。


鳴り続けている電話機の受話器を取り上げ、
そのまま切ってしまおう。


間違いFAXの場合もあるので、
一応受話器を耳にあててみた。すると


「もしもーし、ああ、やっとつながった!」


と、快活な声が聞こえてきた。


あまりに明るい調子の声に、
俺はそのまま切るのが少し申し訳ない気持ちになった。


間違い電話であることを相手に伝えてから切ろう。

そう思い返事をした。


「すみません、こちらは株式会社○○ですが・・・
 電話をお間違いではないでしょうか?」


そう言うと、相手は予想外の事を言い出した。


「○○ですよね!わかってますよ!Tさん!」


Tさんと聞いて、俺は少し慌てた。


別部署にT主任という社員が確かに居たからだ。

ただ、当然もう帰っている。


「すみません、私はMと申します。
 Tは本日既に退社しておりますが」


こんな夜中に居るわけないだろ、
と思いながらも丁寧に答えた。


「いや、Tさんですよね!Tさん!お会いしたいんですよ!」


口調は相変わらず明るいが、
相手は俺がT主任だと思い込んでいた。


更に、こんな時間に会いたいと言ってくるのもあり得ない。



気味が悪くなった俺は、
話を切り上げて電話を切ろうとした。


Tはもう退社してます、人違いですと繰り返した。


それでも相手は構わず話し続ける。明るく快活な口調で。


「Tさん!Tさん!会いたいです!
 今から行きます!行きます!」


Tさん、という声と行きます、
という声がどんどん連呼される。


俺は恐ろしくなって、
何も返事できずただ聞くしかなかった。


やがてテープの早回しのように声が甲高くなり、
キリキリと不気味な「音」にしか聞こえなくなった。


キリキリという音が止んだ瞬間、
これまでと一変した野太い声で


「まってろ」


という声が聞こえた。


その瞬間、俺は恐怖に耐えられず電話を切った。


そして一刻も早く、会社から出ようと思った。

カバンを持って玄関へ向かおうとしたその時、
インターホンが鳴った。


とても出られる心境ではなく、
息を殺してドアモニターを見た。


細く背の高い男が、玄関の前に立っていた。


背が高すぎて、
顔はカメラに映らず首までしか見えなかった。

手には何かを持っている。



二度、三度とインターホンが鳴らされた。

出られるわけがない。


俺はただただ震えながら立っていた。

早くいなくなってくれと思いながら。


男がひょい、と頭を下げ、
ドアモニターのカメラを覗き込んできた。


男は満面の笑みを浮かべていた。

歯を剥き出しにして笑っていた。


目は白目が無く、真っ黒で空洞のようだった。


「Tさん!Tさん!いませんかー!会いに来ましたよー!」


電話と同じく明るい男の声がインターホンを通して、
静かな社内に響き渡る。


俺はモニターから目をそらせない。


男はカメラに更に近づく。


空洞の目がモニターいっぱいに広がる。


男はなおも明るく呼び掛けてくる。


「Tさん!いないですかー!?Tさん!ちょっとー!」


男の顔が前後に揺れている。



「Tさアーーーンんーーー」


男の声が、先程の電話と同じように、野太く変わった。

そして、男の姿がフッとモニターから消えた。


俺はしばらくモニターの前から動けずにいた。


また男がいつ現れるか。

そう考えるととても外には出られなかった。

そうしてモニターを見続けているうちに、
段々と夜が明けてきた。


ぼんやりと明るくなってきた外の景色を見ていると、
外へ出る勇気が沸いてきた。


恐る恐る玄関へ近づいてみたが、
人の気配は無く静まり返っていた。


ロックを解除し、自動ドアが開いた。


すると、ヒラヒラと何かが足元に落ちてきた。


茶封筒だった。


拾い上げて中身を見てみると、
人型に切られた紙切れが入っていた。


これ以上気味の悪い出来事はご免だ、
と思った俺は、その紙切れを封筒に戻した。

そして、ビリビリに破いてその辺りに投げ捨てた。


もうすっかり明るくなった中を家まで帰り、
ほぼ徹夜だった事もあって俺は早々に眠り込んだ。


週末は不気味な出来事を忘れようと、
極力普通に過ごした。



そして週明け、会社に出てきた俺は、
T主任の訃報を聞かされた。


土曜日の夜、電車に撥ねられたという事だった。


遺体は原型を留めないほどバラバラになっていて、
持っていた免許証からT主任だと判明したという事らしかった。


それを聞いた瞬間、
俺は週末の一連の出来事を思い出し、
寒気がした。


不気味な電話、T主任を尋ねてきた男、茶封筒の人型の紙。


紙を破った事が、何かT主任の死に影響を与えたのか。


沈んだ気持ちでT主任の葬儀に出席し、
花の置かれたT主任のデスクを背に仕事をした。


断言はできないが、
責任の一端があるのかもしれないという
もやもやとした罪悪感が、

T主任の死後、しばらくは常に頭の中を覆っていた。



それから半年程経って、
徐々にその罪悪感も薄まってきた頃、
急な仕事で深夜まで残業する機会があった。


同じ部署のA係長も残業しており、
会社には俺とA係長の二人だけが残っていた。


不意にまた、あの電話が鳴った。


俺は心臓が止まりそうになった。


あの半年前の出来事も忘れかけていたのに、
電話が鳴った事で克明に思い出してしまった。


青ざめる俺をよそに、A係長は

「うるさいなあ」

と言いながら電話に近づいていった。


出ないでくれ、と言う前に、
A係長は受話器を取ってしまった。



「はい、株式会社○○ Aでございます」


A係長が怪訝な声色で言う。


俺はA係長の会話の内容に、恐る恐る聞き耳を立てた。


「私はAと申しまして、Mでは無いのですが・・・」


「Mに何か御用でしたでしょうか?」


「ああ、左様でございますか。ではお伝え致します」


「・・・はぁ?」


「・・・失礼致します」


電話を切ったA係長が、不機嫌な顔で戻ってきた。

そして俺にこう言った。


「なんか、やけに明るい声でとんでもない事言いやがった。
 頭に来たから切ってやった」


「Mさんですよね!っていきなり言われた。
 俺Aだって言ってんのに。人の話聞けっての」


「で、Mさんに伝言してくれって。何言うかと思ったら、

 『Tさんは残念でしたね』だと」

 「『Mさんが来てくれても良かったんですよ』

 とか。わけわかんない」


俺はなんとか平静を装いながら、A係長の話を聞いていた。


その後少しして、俺は会社を辞めた。



あの電話の主は何者だったのか。

T主任は俺のせいで死んだのか。


今でも分かっていない。





posted by kowaihanashi6515 at 01:59 | TrackBack(0) | 洒落怖

カン、カン「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」 【怖い話】





幼い頃に体験した、

とても恐ろしい出来事について話します。


その当時私は小学生で、妹、姉、母親と一緒に、

どこにでもあるような小さいアパートに住んでいました。


夜になったら、いつも畳の部屋で、

家族揃って枕を並べて寝ていました。


ある夜、母親が体調を崩し、

母に頼まれて私が消灯をすることになったのです。


洗面所と居間の電気を消し、テレビ等も消して、

それから畳の部屋に行き、

母に家中の電気を全て消した事を伝えてから、

自分も布団に潜りました。

横では既に妹が寝ています。

普段よりずっと早い就寝だったので、

その時私はなかなか眠れず、

しばらくの間ぼーっと天井を眺めていました。


すると突然。

静まり返った部屋で、

「カン、カン」

という変な音が響いだのです。

私は布団からガバッと起き、暗い部屋を見回しました。

しかし、そこには何もない。

カン、カン

少しして、

さっきと同じ音がまた聞こえました。

どうやら居間の方から鳴ったようです。

隣にいた姉が、


「今の聞こえた?」

と訊いてきました。

空耳などではなかったようです。

もう一度部屋の中を見渡してみましたが、

妹と母が寝ているだけで部屋には何もありません。


おかしい・・・


確かに金属のような音で、

それもかなり近くで聞こえた。


姉もさっきの音が気になったらしく、

「居間を見てみる」

と言いました。

私も姉と一緒に寝室から出て、

真っ暗な居間の中に入りました。


そしてキッチンの近くから、

そっと居間を見ました。


そこで私達は見てしまったのです。

居間の中央にあるテーブル。

いつも私達が食事を取ったり団欒したりするところ。



そのテーブルの上に、人が座っているのです。

こちらに背を向けているので顔までは判りません。

でも、腰の辺りまで伸びている長い髪の毛、

ほっそりとした体格、

身につけている白い浴衣のような着物から、

女であるということは判りました。

私はぞっとして姉の方を見ました。

姉は私の視線には少しも気付かず、

その女に見入っていました。

その女は真っ暗な居間の中で、

背筋をまっすぐに伸ばしたまま

テーブルの上で正座をしているようで、

ぴくりとも動きません。


私は恐ろしさのあまり

足をガクガク震わせていました。

声を出してはいけない、

もし出せば恐ろしい事になる。

その女はこちらには全く振り向く気配もなく、

ただ正座をしながら私達にその白い背中を

向けているだけだった。


私はとうとう耐え切れず、

「わぁーーーーーっ!!」

と大声で何か叫びながら寝室に飛び込んだ。


母を叩き起こし、

「居間に人がいる!」

と泣き喚いた。

「どうしたの、こんな夜中に」

そう言う母を引っ張って居間に連れていった。


居間の明りを付けると、

姉がテーブルの側に立っていた。

さっきの女はどこにも居ません。

テーブルの上もきちんと片付けられていて

何もありません。

しかし、そこにいた姉の目は虚ろでした。

今でもはっきりと、

その時の姉の表情を覚えています。


私と違って彼女は何かに怯えている様子は微塵もなく、

テーブルの上だけをじっと見ていたのです。


母が姉に何があったのか尋ねてみたところ、

「あそこに女の人がいた」

とだけ言いました。


母は不思議そうな顔をしてテーブルを見ていましたが、

「早く寝なさい」


と言って、3人で寝室に戻りました。


私は布団の中で考えました。

アレを見て叫び、寝室に行って母を起こして、

居間に連れてきたちょっとの間、

姉は居間でずっとアレを見ていたんだろうか?

姉の様子は普通じゃなかった。

何か恐ろしいものを見たのでは?

そう思っていました。

そして次の日、姉に尋ねてみたのです。

「お姉ちゃん、昨日のことなんだけど・・・」

そう訊いても姉は何も答えません。


下を向いて沈黙するばかり。

私はしつこく質問しました。

すると姉は、小さな声でぼそっとつぶやきました。

「あんたが大きな声を出したから・・・」

それ以来、

姉は私に対して冷たくなりました。

話し掛ければいつも明るく反応してくれていたのに、

無視される事が多くなりました。


そして、

あの時の事を再び口にすることは

ありませんでした。


あの時、

私の発した大声で、あの女はたぶん、

姉の方を振り向いたのです。

姉は女と目が合ってしまったんだ。

きっと、想像出来ない程

恐ろしいものを見てしまったのだ。


そう確信していましたが、時が経つにつれて、

次第にそのことも忘れていきました。


中学校に上がって受験生になった私は、

毎日決まって自分の部屋で勉強するようになりました。


姉は県外の高校に進学し、寮で生活して、

家に帰ってくることは滅多にありませんでした。


ある夜、

遅くまで机に向かっていると、

扉の方からノックとは違う何かの音が聞こえました。


カン、カン

かなり微かな音です。

金属っぽい音。


それが何なのか思い出した私は、

全身にどっと冷や汗が吹き出ました。



これはアレだ。

小さい頃に母が風邪をひいて、

私が代わって消灯をした時の・・・

カン、カン

また鳴りました。

扉の向こうから、さっきと全く同じ金属音。

私はいよいよ怖くなり、妹の部屋の壁を叩いて

「ちょっと、起きて!」

と叫びました。

しかし、妹はもう寝てしまっているのか、

何の反応もありません。

母は最近ずっと早寝している。

とすれば、家の中でこの音に

気付いているのは私だけ・・・。


独りだけ取り残されたような気分になりました。

そしてもう1度あの音が。

カン、カン


私はついに、その音がどこで鳴っているのか

分かってしまいました。


そっと部屋の扉を開けました。

真っ暗な短い廊下の向こう側にある居間。

そこはカーテンから漏れる青白い外の光でぼんやりと

照らし出されていた。

キッチンの側から居間を覗くと、

テーブルの上にあの女がいた。


幼い頃、

姉と共に見た記憶が急速に蘇ってきました。

あの時と同じ姿で、女は白い着物を着て、

すらっとした背筋をピンと立て、

テーブルの上できちんと正座し、

その後姿だけを私に見せていました。


カン、カン

今度ははっきりとその女から聞こえました。

その時、私は声を出してしまいました。

何と言ったかは覚えていませんが、

またも声を出してしまったのです。

すると女は私を振り返りました。

女の顔と向き合った瞬間、

私はもう気がおかしくなりそうでした。


その女の両目には、

ちょうど目の中にぴったり収まる大きさの

鉄釘が刺さっていた。

よく見ると、

両手には鈍器のようなものが握られている。

そして口だけで笑いながらこう言った。

「あなたも・・・あなた達家族もお終いね。ふふふ」


次の日、

気がつくと私は自分の部屋のベッドで寝ていました。

私は少しして昨日何があったのか思い出し、

母に、居間で寝ていた私を部屋まで運んでくれたのか、

と聞いてみましたが、何のことだと言うのです。

妹に聞いても同じで、

「どーせ寝ぼけてたんでしょーが」

とけらけら笑われた。


しかも、私が部屋の壁を叩いた時には、

妹は既に熟睡してたとのことでした。

そんなはずない。

私は確かに居間でアレを見て、

そこで意識を失ったはずです。

誰かが居間で倒れてる私を見つけて、

ベッドに運んだとしか考えられない。

でも改めて思い出そうとしても、

頭がモヤモヤしていました。

ただ、最後のあのおぞましい表情と、

ニヤリと笑った口から出た言葉ははっきり覚えていた。


私と、家族がお終いだと。

異変はその日のうちに起こりました。

私が夕方頃、学校から帰ってきて

玄関のドアを開けた時です。

いつもなら居間には母がいて、

キッチンで夕食を作っているはずであるのに、

居間の方は真っ暗でした。

電気が消えています。

「お母さん、どこにいるのー?」

私は玄関からそう言いましたが、

家の中はしんと静まりかえって、

まるで人の気配がしません。

カギは開いているのに・・・

掛け忘れて買い物にでも行ったのだろうか。

のんきな母なので、たまにこういう事もあるのです。

やれやれと思いながら、

靴を脱いで家に上がろうとしたその瞬間、

カン、カン

居間の方で何かの音がしました。

私は全身の血という血が、

一気に凍りついたような気がしました。


数年前と、そして昨日と全く同じあの音。

ダメだ。

これ以上ここに居てはいけない。


恐怖への本能が理性をかき消しました。

ドアを乱暴に開け、

無我夢中でアパートの階段を駆け下りました。

一体何があったのだろうか?

お母さんは何処にいるの?妹は?

家族の事を考えて、

さっきの音を何とかして忘れようとしました。

これ以上アレの事を考えていると、

気が狂ってしまいそうだったのです。

すっかり暗くなった路地を走りに走った挙句、

私は近くのスーパーに来ていました。


「お母さん、きっと買い物してるよね」

と一人で呟き、

切れた息を取り戻しながら中に入りました。

時間帯が時間帯なので、

店の中に人はあまりいなかった。


私と同じくらいの中学生らしき人もいれば、
夕食の材料を調達しに来たと見える

主婦っぽい人もいた。

その至って通常の光景を見て、

少しだけ気分が落ち着いてきたので、

私は先ほど家で起こった事を考えました。

真っ暗な居間、開いていたカギ、そしてあの金属音。

家の中には誰もいなかったはず。

アレ以外は。

私が玄関先で母を呼んだ時の、あの家の異様な静けさ。

あの状態で人なんかいるはずがない・・・

でも、もし居たら?

私は玄関までしか入っていないので

ちゃんと中を見ていない。


ただ電気が消えていただけ。

もしかすると母は、どこかの部屋で寝ていて、

私の声に気付かなかっただけかもしれない。

何とかして確かめたい。


そう思い、私は家に電話を掛けて

みることにしたのです。

スーパーの脇にある公衆電話。

お金を入れて、

震える指で慎重に番号を押していきました。

受話器を持つ手の震えが止まりません。

1回、2回、3回・・・・

コール音が頭の奥まで響いてきます。


『ガチャ』

誰かが電話を取りました。

私は息を呑んだ。

耐え難い瞬間。

『もしもし、どなたですか』

その声は母だった。



その穏やかな声を聞いて、私は少しほっとしました・・・

「もしもし、お母さん?」

『あら、どうしたの。

 今日は随分と遅いじゃない。

 何かあったの?』

私の手は再び震え始めました。

手だけじゃない。

足もガクガク震え出して、

立っているのがやっとだった。


あまりにもおかしいです。

いくら冷静さを失っていた私でも、

この異常には気付きました。

「なんで・・・お母さ・・・」

『え?なんでって何が・・・

 ちょっと、大丈夫?本当にどうしたの?』

お母さんが今、

こうやって電話に出れるはずはない。


私の家には居間にしか電話がないのです。

さっき居間にいたのはお母さんではなく、

あのバケモノだったのに。

なのにどうして、

この人は平然と電話に出ているのだろう。

それに、今日は随分と遅いじゃないと、

まるで最初から今までずっと家にいたかのような言い方。

私は電話の向こうで何気なく私と話をしている人物が、

得体の知れないもののようにしか思えなかった。

そして、乾ききった口から

何とかしぼって出した声がこれだった。

「あなたは、誰なの?」

『え?誰って・・・』

少しの間を置いて返事が聞こえた。


『あなたのお母さんよ。ふふふ』






posted by kowaihanashi6515 at 00:44 | TrackBack(0) | 洒落怖
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