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2019年06月04日

何故、沖縄に米海兵隊が要るのか 軍事的に考察するA



  




 何故、沖縄に米海兵隊が要るのか 軍事的に考察するA


 ミリタリーリポート@アメリカ2018.10.04より引用します

       

 全4回連載 A海兵隊が考える「沖縄駐留の必要性とは」


 沖縄の米海兵隊基地問題を軍事的に考察する際、如何なる軍事戦略的理由で「沖縄に駐留する必要がある」と米海兵隊自身が考えて居るのかを把握する事は、米海兵隊の沖縄駐留や普天間基地移転に賛成か反対かを問わず、必要不可欠なことだと言え様。

 普天間航空基地の辺野古への移転は、日米間(+沖縄)の高度に政治的な問題であるが故に、米海兵隊関係者取り分け現役の指導者達は、少なくとも公式には、辺野古移設と云う特定の問題に付いて「軍隊は連邦議会の決定やホワイトハウスの命令に従うだけ」と云うシビリアンコントロールの大原則を口にするのが常だ。只「米海兵隊の沖縄駐留の必要性」の軍事的説明を、公的な場で語るに吝(やぶさか)かでは無い。

 以下に、筆者が公的或はプライベートな場で、現役・退役の米海兵隊関係者らから耳にした「米海兵隊の沖縄駐留の必要性」に付いての軍事的説明を順不同で列挙する。
 賛成・反対夫々の立場からの論評は加えず、単に意見の紹介と補助的説明を記すに留める。それ等は米海兵隊が公式に声明したものでは無いが、もし読者の皆さんが米海兵隊の指導者達に「沖縄に駐留する軍事的理由」を尋ねると、下記の説明の幾つかを耳にすると思う。


 




 理由@ 太平洋の西に前進拠点を確保する

 前回触れた様に米海兵隊は、アメリカの国益が脅かされる様な緊急事態に対処する為、連邦議会の承認以前に大統領命令で出動するアメリカの“911フォース”、即ち緊急展開軍と位置づけられて居る。米海兵隊は、緊急出動命令と共に海外に素早く部隊を展開させ無ければ為ら無い。
 その為、アメリカ大陸の東海岸と西海岸に主要司令部を配置して置く必要が生じる。アメリカ本土からヨーロッパや中東・アフリカ方面に出動するには、大西洋並びに地中海を渡る必要があるからだ。又、アメリカ本土から東アジアや南アジア方面に出動するには、太平洋並びにインド洋を渡る必要がある。

 そこで米海兵隊は、第1海兵遠征軍司令部を西海岸カリフォルニア州のキャンプ・ペンドルトンに、第2海兵遠征軍司令部を東海岸ノースカロライナ州のキャンプ・レジューンに配置。
 但し大西洋(+地中海)に比べ太平洋(+インド洋)は遙かに広大だ。その為、西海岸の第1海兵遠征軍司令部に加え、太平洋を渡った西側に前進司令部を構えて置けば、東アジアは勿論南アジア方面にも迅速に展開させる事が可能と為る。
    
 この様に「太平洋・インド洋沿岸地域での緊急展開に、出来るだけ有利な前進拠点を確保して置きたい」と云う理由で、太平洋の西側に位置しかつ極めて政治的・経済的に安定した同盟国・日本の沖縄に第3海兵遠征軍司令部が設置されたのだ。


 




 理由A 日本防衛と極東平和維持に関する確固たる姿勢を明示する

 日本に駐留する米軍が、日本防衛だけで無く東アジアを初め太平洋・インド洋沿岸地域全体の平和維持の為にも投入されることは、日米安保条約に明記されて居る。米海兵隊の日本での本拠地は、日本防衛は勿論東北アジアや東南アジア方面での様々な作戦行動にも出来るだけ迅速に対応出来る場所に設置する必要がある。

 沖縄(沖縄本島)は、日本列島・朝鮮半島・台湾・南シナ海沿岸域に対して、まさに「扇の要」の位置にある。例えば、沖縄(普天間基地)から東京迄は約1500km稚内迄約2500km朝鮮半島の南北国境地帯迄約1300km前後台湾東岸地域迄650km〜850km。過つて米海軍が拠点にしたフィリピンのスービック基地迄約1500kmベトナムのダナンまで約2350kmそして米海軍基地と米空軍基地があるグアム島まで約2250kmだ。

 その為、沖縄から出動する海兵隊部隊は、航空機なら数時間以内、揚陸艦を用いた場合でも72時間以内に、東アジアのアラユル場所に先鋒部隊を到着させる事が出来る。西太平洋の「扇の要」とも言える戦略的要衝の沖縄に、アメリカの“911フォース”たる米海兵隊部隊が展開する事は、アメリカが日本の防衛並びに太平洋・インド洋沿岸地域の平和維持に本腰を入れて取り組む姿勢を明示する事に為る。


 


     

 理由B 対日軍事攻撃への抑止力と為る

 米海兵隊は緊急展開能力に優れて居るとは言え、基本的に陸上戦闘部隊だ。第3海兵遠征軍の主力や第31海兵遠征隊が沖縄に駐留しても、沖縄や南西諸島を含め日本領域に接近して来る敵侵攻部隊を海洋で撃破することは出来ない。
 米海兵隊は、中国が日本に向けて発射した弾道ミサイルや巡航ミサイルを迎撃する手段を持たず、反撃する為の弾道ミサイルや巡航ミサイルを保持して居る訳でも無い。

 しかし、沖縄に米海兵隊が駐屯して居るのに、もし中国が沖縄に向けて弾道ミサイルや巡航ミサイルを発射したら、その瞬間に中国はアメリカに軍事攻撃をした事に為る。この論理は沖縄だけで無く、日本全体にも拡大され得る。
 即ちアメリカの先鋒部隊の海兵隊が、沖縄と云う日本領土に陣取って日本防衛に従事して居る以上、沖縄本島に限らず日本領域に軍事攻撃を加える事は、海兵隊に敵対行動を取ったものと見做(みな)されるのだ。この様な事情を中国・北朝鮮・ロシアも十分承知して居るので、沖縄に海兵隊が駐留して居る事は、日本への軍事攻撃の意図を挫(くじ)く抑止(よくし)効果を発揮して居ると考えられる。


 



     
 非戦闘員退避作戦(NEO)

 緊急展開能力と水陸両用能力に優れる米海兵隊は、非戦闘員退避作戦のエキスパートだ。非戦闘員退避作戦(NEO)とは、外国で軍事紛争・クーデターや打ち壊し等の政情不安・大地震や津波、噴火と云った大規模自然災害、更に原発事故等の緊急事態が生起した場合、軍隊を派遣して危険地域から自国民を救出し、安全な地域に引き揚げさせる「戦争以外の軍事作戦」である。
 米海兵隊は、西太平洋の『扇の要』の沖縄に駐留する事で、日本・韓国・台湾・中国・フィリピン・ベトナムを初め、東シナ海・南シナ海と云った西太平洋そしてインド洋沿岸域で様々な緊急事態が勃発した場合、アメリカ国民を救出する非戦闘員退避作戦に緊急出動する事が可能に為る。


 




 CONPLAN 5029(概念計画5029号)

 北朝鮮で反乱・クーデター・民衆の大量脱走・大規模災害・核施設事故等様々な原因で独裁支配体制が崩壊の危機に見舞われた場合、アメリカ軍と韓国軍がどう対処するかと云う軍事作戦構想が、CONPLAN 5029(概念計画5029号)だ。
 この軍事計画では、北朝鮮で戦争には至ら無い危機的緊急事態が勃発した際、南北国境に近接する沖縄の海兵隊部隊が緊急展開し、上陸作戦を伴う航空施設や港湾施設の占領・核兵器や核施設の確保・水陸両用能力を活用して兵員や物資の補給・戦術航空支援・地域の安定化作戦・海上阻止作戦等に従事し、極めて重要な役割を果たす事に為って居る。


 




 OPLAN 5027(作戦計画5027号)

 北朝鮮軍が南北国境線を越えて韓国に侵攻した場合、詰まり第2次朝鮮戦争が勃発した場合を想定し、韓国防衛の為にアメリカ軍と韓国軍が策定した軍事作戦計画がOPLAN 5027(作戦計画5027号)である。

 この軍事作戦計画では、沖縄から緊急出動する海兵隊部隊(このレベルに為ると第3海兵遠征軍を編成)は、国境線を越えて南下する北朝鮮軍の側面と背後を攻撃したり、侵攻部隊後方の兵站能力を破壊したりする水陸両用上陸能力を備えて居て、北朝鮮軍は正面攻撃に全力を割け無く為る。
 こうした水陸空に跨がる機動性を持つ陸上戦闘軍の海兵隊部隊が沖縄から緊急展開出来る事は、北朝鮮侵攻軍撃退に決定的要素と為って居る。


 




 HADRによる国際貢献

 水陸両用能力と緊急展開能力に優れる米海兵隊は、大規模自然災害での救助活動や人道支援活動にも対応。沖縄を本拠地とする海兵隊部隊は、日本だけで無く東南アジアや南アジアでの人道支援・災害救援活動(HADR)に緊急展開し国際貢献を果たして居る。
 フィリピンやインドネシアの台風や大津波、バングラデシュの大洪水等災害救援活動や人道支援活動には、毎年の様に沖縄から第31海兵遠征隊が投入される。

 東日本大震災の際の米軍による災害救援活動「トモダチ作戦」には、普天間基地の航空戦闘部隊や兵站戦闘部隊等の他、東南アジアで人道支援活動に従事中だった第31海兵遠征隊が日本に急行し、自衛隊が保持していなかった水陸両用作戦能力を活用して救援・支援活動を展開した(拙著『写真で見るトモダチ作戦』並木書房参照)

 米海兵隊が沖縄に駐留を続け様と考える上記の様な理由に付いて、米海兵隊を含む米軍関係者やシンクタンク等の軍事専門家の中に、純軍事的理由から疑義を呈する人々が存在し無い訳では無い。そこで次回は、米軍関係者等から聞こえて来る、その様な「疑義」を見ることにしたい。


              以上 そのBにつづく


 






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