2019年03月27日
スタンフォードで未来を考える No.3
スタンフォードで未来を考える No.3
イノベーションを巻き起こす「失敗の奨励」と 云う考え方
皆さんこんにちは。今回のテーマは「イノベーション」です。イノベーションはあらゆる企業・組織が実現したいと考える経営課題。少し古い処だとApple・Google・Facebook・amazon 比較的最近だとUber・Airbnb・Netflixと云う様な企業がイノベーションを成功させ、世界にその名をとどろかせました。
この種のラディカル・イノベーションと呼ばれる、これまでに無い様な全く新しい価値を生み出すイノベーションの担い手は、資金・人材・ネットワークに溢れる大企業ではなく、自宅のガレージに象徴される用な何も無いところから生まれたスタートアップ企業が中心です。
そして、私が今、ビジネスを学んでいるスタンフォード大学とシリコンバレーは、将(まさ)にこのスタートアップ企業を輩出し続ける中心地なのです。(一方で大企業などに多い、既存のものに積み重ねて改善して行く革新をインクリメンタル・イノベーションと呼びます)
何故、ここシリコンバレーからこれ程多くのスタートアップ企業が生み出されているのか。必要な土壌、イノベーション成功の秘訣とは・・・?
スタンフォードビジネススクールのアントレプレナーシップ(起業に関連する授業やプログラム)を通じて学んだことや気付いたことをレポートします。
起業は回数を重ねることで成功確率が上がる
ここで学ぶと、イノベーションは、全て起こるべくして起こっているのだと気付かされます。イノベーションが起こるには、起こる上での条件を満たしている必要があるのです。
それは優秀で野心溢れる若い起業家達、彼等を導き支援する教授を初めとするメンター達、起業家に賭けてみようと資金を出す多種多様な投資家・・・特にベンチャーキャピタリスト達、プロダクトを形にするエンジニアやプログラマー達、そしてスタートアップ起業を支援するパートナー企業や顧客企業が存在していること。これ等の人や組織が揃って初めてスタートアップ企業は大きく開花します。
シリコンバレーがイノベーションの中心地である理由は、スタートアップ企業を生み出し育む為の要素が揃っていて、生態系を備えて居る為なのです。付け加える為らば、企業がイノベーションを単独で成し遂げることは難しく、生態系の中における様々なプレーヤーとの協力や連携が不可欠だと考えられます。
シリコンバレー生態系の中核とも言うべきスタンフォードビジネススクールでは、スタートアップ企業を創るための方法論が研究され、起業家を輩出し続けるべく教育を行っています。
例えば私が受講している「Entrepreneurship: Formation of new venture」という授業では、
・起業家に求められる資質とは何か
・起業アイデアの生み出し方
・共同創業者・起業メンバーの選び方
・どのタイミングでどのような資金調達を行うべきか
・投資家が注視するポイントは何か
・どのように組織をスケールさせていくべきか
・エグジットをどう考えるか
と云った起業家が直面する意思決定について実際のビジネスケーススタディーを用いて学んで行きます。
授業には、ケースに登場する起業家達自身が登壇し、何を思ってどの用な意思決定をし、その結果がどうであったか実話を聞かせて呉れます。
つい先日は、自動車の中古車販売仲介サービスを起業した先輩が自分の失敗談を共有して呉ました。それはアイデアの発想時に行った顧客テストが良好だった為起業したものの、顧客サンプルがスタンフォード学生に偏っていた為、いざスケールする段階に為って想定していなかったオペレーションやコストアップの問題にぶつかってしまい、アイデアそのものを後からピボットせざるを得無かったと云う話でした。
この様に過去の先輩起業家達の経験から学び、彼等とネットワークを築き、その師事や支援を仰ぐことなども、シリコンバレーと云う生態系の中で日常的に行われています。数年前に授業を受講した学生達が卒業して起業家と為り、現役学生達に教える為に講師として登壇する。その様な光景が繰り返されています。
授業の中で登場したデータによると、起業は回数を重ねることで成功確率が上がる傾向にある様です。google 程のインパクトを持つイノベーションは流石に稀にしか生まれ無い訳ですが、それは決して偶然では無く、生態系の中における膨大な数の挑戦と失敗、そして失敗からの学習の果てに必然的に生まれている結果なのだと感じます。
アントレプレナーシップの授業では、3〜4人のチームを作り自分達のスタートアップアイデアを、教授やベンチャーキャピタリストのアドバイスを受けつつ練って行きます。最終日にはGoogleのトップだったエリック・シュミット氏と全クラスメートの前でプレゼンを行います。授業のアイデアのまま在学中に起業をする学生も多々います。
若者をイノベーションへと駆り立てる“魔法の言葉”
全く新しいことを起こすには失敗のリスクが伴います。好くスタートアップ企業の9割は失敗すると言われますが、授業で紹介されたデータによると、シリーズAと呼ばれるベンチャーキャピタルによる最初の資金調達が上手く行ったスタートアップですら、その内の60〜70%は投資家に対して十分なリターンを生むことができず、資金難から潰れて行くと言われています。
しかし上述した様な生態系の働きもあり、スタンフォードから起業する若者は後を絶ちません。統計的にかなり分が悪い挑戦だと分かっていながら、その恐怖を乗り越えて行動を起こすことが出来るのは何故なのか?
強い成功欲求は間違い無くあるでしょう。成功出来た暁には巨額の富と名声が手に入ります。しかしそれだけではありません。
スタンフォードで学んでいて念仏の用に聞かされる、イノベーションが生まれる上で不可欠と思われる文化的要素があります。それは「フェイル・ファースト」と「ミッション・ドリブン」です。この考え方には、私達をリスクのある挑戦へと駆り立てる魔法があるのだと感じます。
まず「フェイル・ファースト」とは、直訳すれば「早く失敗しなさい」と云う事です。「失敗を恐れるな」では無く「失敗を許容しよう」ですらありません。これは「失敗の奨励」なのです。
日本の感覚では、失敗は避けるべきものだと考えますよね。しかしシリコンバレーでは「挑戦した結果の失敗は善である」と捉えて居る様です。何故なら「失敗=学びの宝庫」だからです。「フェイル・ファースト」とは、恐れずに挑戦し失敗するまで遣ってみる、失敗してもそこから学べば次の成功に近づくと云う考え方に為ります。
又、シリコンバレーには強いフィードバック文化があり「ネガティブフィードバックは宝である」と好く言われます。皆、自分のパフォーマンスや行為に対して「私のパフォーマンスはどうでしたか? 是非フィードバックを下さい」と他者の意見を求めます。失敗からの学びと同様に、批判的な意見に対しても、皆そこから学んで成長して行くのです。
職場で上司から「絶対に失敗するなよ?」と言われるのでは無く「早く失敗出来る様に挑戦し続けなさい!」と言われることを想像してみてください。恐怖を乗り越えてトライしようかな・・・と言う気に為って来ませんか?
2点目の「ミッション・ドリブン」とは、直訳すると「ミッション=社会的使命に突き動かされる」と云う事を指します。
シリコンバレーの起業家達は、世の中にある大きな問題を解決し、より良い社会を創りたいと云う使命感を持っています。スタートアップ企業のアイデアを構想する上で「ミッション・ドリブン」であることを重視することは、己を含め社員や協力者の共感を生み出し「大いなる使命の為に成功しよう!」という強いモチベーションを生み出すことに繋がります。
例えば、世界に名だたるイノベーション企業は以下の様なミッションを掲げています。
テスラの宣伝
・Google:Organize the world’s information and make it universally accessible and useful.
(世界中の情報を整理し、誰にでも使えるようにする)
・テスラ:Accelerate the world’s transition to sustainable energy.
(持続可能なエネルギーへ、世界の移行を加速する)
・Facebook:Bring the world closer together.
(世界中の人々をつないで行く)
*引用元は各社ウェブサイト。
全て「World=世界」が対象に為っていることにお気付きでしょうか。「そんな大げさな…」と感じますか? イエイエ、皆大真面目です。途轍も無く大きい夢や高い理想をブチ上げる。それを社長が日々連呼し、オフィスの壁に張り、企画書のテンプレートに入れ込み、仲間達と日々語り合い、心から信じる。
「ミッション・ドリブン」であることで生まれるポジティブなパワーが、これ等の企業によるイノベーションを後押しして居る様に思います。
例えば電通であれば「クリエーティビティー溢れるコミュニケーションのチカラで、社会のあらゆる問題に向き合い、より豊かで幸せな世界を創る」と言ってみる。そのミッションの実現のために、既存のやり方に縛られず、全く新しい方法やアイデアを試し「フェイル・ファースト」の精神で早く失敗出来る様挑戦し続ける。どんなことでも実現出来る様な気がして来て、ワクワクして来ませんか・・・?
次回は、成功に安住せず更なるイノベーションを生み出そうとするGoogleやその他の大企業に見られるイノベーションの試みについて触れてみたいと思います。
以上
NO4につづく
名門スタンフォード カリフォルニア
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