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2019年03月27日

スタンフォードで未来を考える  No.2


 

 スタンフォードで未来を考える  No.2


 




 スタンフォードで見たメディアの潮流


  
 皆さんこんにちは。今回のテーマは「アメリカのメディア業界」についてです。

 スタンフォードでは年に1回「Future of Media Conference」と云うメディアと業界をテーマとしたカンファレンスが行われます。主催しているのは、スタンフォードビジネススクールの学生クラブである「Arts, Media and Entertainment Club」業界の経営者やジャーナリストを招いて、キーノートスピーチやパネルディスカッションが終日行われます。今回はここで聞いた話を中心にお伝えして行きます。


 




 最早、何をもってメディアと呼ぶのか?

 スタンフォード及びシリコンバレーでメディアが語られる際に必ず触れられるのがこの問題です。2000年代から「メディア=4マス(メディア)+インターネット」と云うくくりがされて来ましたが、現在は更に多種多様なプレーヤーが参入しています。

 「携帯電話キャリアであるベライゾンのAOLおよびヤフー買収」
 「電話会社であるAT&Tのタイム・ワーナー買収の動き」
 「Netflixの急成長」
 「Google傘下でのYouTube・REDの動画サービス展開」
 
 同じく
 「Facebook Watchによる動画サービス展開」
 「Amazonのワシントン・ポスト買収に、Amazonプライムによるコンテンツ配信」
 「Appleの動画サービス展開」
 「Vice Media/Vox/BuzzFeedなど中堅デジタルメディアの成長」


 など、これまでメディアと関係が無かった他業種の参入により複合的な業界へと変わっています。

 大きな構図としては、規格外のスケールで君臨するFacebook・Google・Amazon・Apple・Netflix等のテクノロジープラットフォーム勢に対して、伝統メディアや通信会社が買収・統合によって対抗すると云う見方が出来そうです。

 特に伝統メディア関係者に大きな衝撃を与えているのが、実質的なメディアコンテンツ最大の配給元と化しているFacebookGoogleです。 Facebookはユーザー数20億人超。(InstagramやWhatsAppなどの傘下サービスを加えるともっと多い)
 Google傘下のYouTubeはユーザー数15億人超と「地球上で最大のリーチを誇るメディア」と言えます。実際、自社及び他社の作成したコンテンツの流通を担うことで場に人を集め、広告配信で収益を上げるビジネスモデルが展開されています。
 その他のメディアからすると彼等は、自社コンテンツを流通して呉れるパートナーであり、同時に自分達の視聴者を奪うライバルでもある訳です。

 「貴方達はメディアなのではないですか?」

 カンファレンスで彼等が壇上に上がると必ず参加者から聞かれる質問です。この点について2社は「メディアでは無く、テクノロジープラットフォームである」と云うスタンスを崩しません。
 カンファレンスにはジャーナリストを中心に、メディア関係者と学生等200人程が参加。メディア側の参加者がこちら:The Information Quartz IRIS.TV Facebook Matter mashable Verizon 


 




 
 本当に価値のある情報を作る「クオリティー・ジャーナリズム」


 業界が大きく変わりつつある中、カンファレンスでは主にジャーナリズムの視点からニュースメディアが語られました。
 危機意識を持ったジャーナリストやビジネス人材が、伝統メディアから飛び出して新興デジタルメディアを立ち上げています。その背景にあるのは、長くメディア業界を支配して来たアテンション(=多くの人に見て貰う事が目的)中心の考え方を改め、受け手に取って本当に価値のある情報を作ると云う「クオリティー・ジャーナリズム」の考え方です。


    3-27-4.jpg The Informationのロゴ 


 例えば、カンファレンスで登場したThe Informationと云う新興メディアは、シリコンバレーのテクノロジー企業や業界情報に特化した非常に深いコンテンツを提供することで、基本プラン=年間400ドルと云う高額な購読料=サブスクリプションモデルを実現しています。
 創業者のジェシカ・レッシン氏は、名門ウォールストリート・ジャーナル出身のIT分野に強いジャーナリストで
 「読者の強いニーズがある特定分野に絞り、他では得られ無い価値の高い情報を提供することで、コンテンツに対する購読料を課金する」 
 と云う、顧客ニーズを中心とする商売の基本に立ち返ることの重要性を説いていました。


 




     3-27-5.png Medium Google Play のアプリ


 また、Mediumと云う新興メディアは、ジャーナリストやライターなどのクリエーティブ人材を集めたプラットフォームを作り、そこでアルゴリズムによる消費者とのマッチングを提供しています。
 The Informationとは逆に、幅広く多様な消費者のニーズに応える為に、書き手をクラウドソースすると云う方法を用いています。創業者であるエヴァン・ウィリアムス氏はブログブームの火付け役と為ったBloggerの創業者であり、又Twitterの共同創業者・CEO・会長を務めた人物です。彼の目指す処は、Mediumを
 「あなたが、他の何処でも手に入ら無いユニークなアイデアや視点を手に入れられる場所。あなたが、世界中の優れた書き手と繋がる場所」 
 とすること。ビジネスモデルは広告課金を一切行わず、月額5ドルからの購読料によります。


    3-27-6.png Googleの「News Lab」


 FacebookとGoogleも、クオリティー・ジャーナリズムの重要性を尊重し、メディアとの友好的かつ生産的な関係作りを強化して居る様です。「Facebook・ジャーナリズム・プロジェクト」や「Google・ニュース・ラボ」と云った新組織で、伝統メディアのジャーナリストやビジネス人材を積極的に登用し、メディアとの対話を強化し自分達がどの様な支援が出来るかを真剣に検討しています。
 フェイクニュース問題が社会的に大きなインパクトを与えて居る事を背景に「プラットフォーム上で流通するコンテンツの信頼性を担保する」為の機能を構築して行く事が考えられます。


 




 日本のメディアに対する示唆


 アテンションからクオリティーへ。価値あるコンテンツの対価として購読料を貰うサブスクリプションモデルを収益の中心へ。ヨクヨク考えれば至極当たり前と思える様なことばかりです。アメリカの伝統メディアがもっと早くデジタル化に対応し、読み手にとっての価値の追求や新しいコンテンツの提供の仕方に舵を切ることは矢張り難しかったのでしょうか。
 またFacebookやGoogleと、先手を取って関係を構築し、新しいメディアの生態系作りを先導することが出来なかったのは何故か。

 根本には新しいモノや変化への恐れがある様に思います。但しこれはメディア業界に限ったことでは無く、金融でも広告でも、自動車などの製造業や小売業であっても同様だと考えられます。
 現在スケールした状態にある組織は、古い時代に収めた成功のお蔭で利益を享受しているケースが多い。すると新しいモノに対応する・自らを変えると云う事は、往々にして過去の成功を自ら捨て去ることに繋がります。その様な選択から目を背けたり、逆に守りを固めてしまったり、失敗のリスクを恐れて判断が鈍ってしまうのは人間の性(さが)なのかも知れません。

 次回は、組織がいかにして新しいモノに対応し、己を変えて行くことが出来るか。「イノベーション」をテーマにお伝えしたいと思います。

 以上


 NO3につづく


    3-27-7.jpg 観光地としてのスタンフォード


 スポンサーの皆さまです・・・


 



 



 




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