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2019年01月09日

山形の民話 2 (全68話)





   12-16-7.jpg 山形の民話




 その3『見るなの蔵』(みるなのくら)



 むかし、あったけど。村の爺(じ)さま、山ん中で働いてたけど。暗くなって来て爺さま道に踏み迷って困っていると、向こうの方に灯(ひ)がテカン、テカン、と見えるんだと。その灯、頼(たよ)りにたどり着いてみると、山ん中の一軒屋に、とでも綺麗な姉こ一人いたなだど。その姉っこが爺様に声を掛けた。

 「お前え、どごさ行ぐ?オレ、ちょっと行って来るさげ、お前え留守番(るすばん)していてくれ」

 って、爺さま、そごの家の留守番、頼まったど。

 「オレの留守の間、馬、養(やしな)って 呉れればいさげ。こごの家に蔵(くら)が三つある。三つある蔵の中(うち)、二つまでは見ても良いのだが、三つ目の蔵は何しても見ないでいてくれ」

 って。ほして、その綺麗な姉こ出かけて行ったど。その後、爺さまひとつ目の蔵開けて見たども、何も無いのだと。爺さま、二つ目の蔵開けて見たども、ここにも、何も無いのだと。爺さま姉こと約束さった通り、三つ目の蔵は開けねで留守番していたけど。やがて、姉こ、無事に旅から戻って来て、大変喜んで、爺さまに宝物えっぺ呉(く)れたって。



        1-9-1.jpg


  




 爺さま、喜んで村の家さ帰って来たけど。ほすっと、隣(となり)の良ぐなし爺、その宝物見で、また、山さ行ったけど。日の呉れるまで山ん中さいで、ズーッと行ぐと、向こうの方に灯がテカン、テカン、と見えるんだと。
 そこで、その灯頼りにたどり着いてみると、一軒屋ん中に、とでも綺麗な姉こ一人いたなだど。良ぐなし爺が、


 「道間違ったから一晩泊めでくれ」

 って、泊めてもらうことにしたど。ほすっと、この姉こ、

 「オレ、一寸行ぐさげ、お前え、留守番していて呉れ」

 って、その家の留守番、頼まったど。

 「留守の間、馬、養っていて呉れれば、それで良いさげ。ここの家に蔵が三つある。三つある蔵の中、二つまで見ても良いのだが、三つ目の蔵は、なにしてもみないでくほ」

 って。良ぐなし爺、 

 「アあ、良いとも」

 って、約束したど。姉こ、安心して出掛けたど。良ぐなし爺、蔵のひとつ開げて見、二つ開げて見したども、何も無いのだど。ほして、三つ目の蔵も開けて見たど。そしたところ、その蔵の中には、鶯(うぐいす)が一羽いで、ホー、ホケキョ、と鳴いで飛んで行ってしまったど。



        1-9-2.jpg



 しばらくすると、旅の姉こが帰って来て、

 「オレ、仏様に言いつけらって、法華経(ほけきょう)を唱えでいたなだども、もう少しで唱(とな)え終るところで見られてしまった!」

 と、言って、大変悲しがって、飛び立ってしまったど。鶯の飛び立った後は、山と谷だけで何も無かったど。


 どんぺからっこ、ねっけど。



   






 管理人のひとこと


 どうも、色々な筋が考えられるお話しでした。山の中に住む綺麗な娘は、実は、仏さまに云いつけられて法華経を唱えていた鶯(うぐいす)なのでした。彼女が何故、留守にしてお爺さん達に留守番を頼んだかと云うのが不明なのですが、3っある蔵の管理ではないでしょうか? 
 3番目の蔵の中で彼女は一生懸命法華経を唱えていたのです。恐らく「人に見られずに唱えること」が仏さまと約束されていたのでしょう。

 「3番目の蔵の中は決して見てはいけない」と言われたら敢(あ)えて見たくなるのが人情です。浦島太郎の玉手箱の様に「開けてはいけない」と言われたらどうしても開けてしまうのが人間の悲しいサガ。まるで、性に目覚めた若いカップルが、何の知識も無いのに何とか努力して結ばれる様に、未知のことに興味を持ち危険を問わず冒険する様に人間は出来ています。
 娘は鶯(うぐいす)の化身ですね。もう少しで唱え終わるところを人に見られた為、慌てて山の中に隠れてしまったのでしょう。人里離れた山奥に住む綺麗な娘と約束の大切なこと・・・色々な要素が含まれたお話です。聞く人によって幾通りにも解釈できる優れたお話だと感じます。




   





 
  その4『一休さんと殿さま』(いっきゅうさんととのさま)



        1-10-1.jpg


 一休和尚さんは、小僧さんの頃からとても頓智(とんち)にたけたお人だった。未だホンの小僧さんなのに、大人(おとな)の喧嘩(けんか)を頓智でまるく収めたり、身分(みぶん)をかさに着て威張っていたりしていると頓智でギャフンと言わせたりするものだから、一休さんの人気はうなぎのぼりに高まったと。そんな評判が殿様の耳にも聞こえた。

 「最近、好い気になっているから困らせて呉(く)れよう!」

 と云う訳で、一休さんは殿様に呼ばれた。お城にあがってみると、通された広間にはお侍たちがたくさんいて、その一番奥の一段高くなったところに殿様が坐(すわ)っていらした

 「オオ、来たか。ウム、そちがうわさに聞く一休か?アア、かしこまらなくても好いぞ。そんなに遠くじゃ話が見えぬ。かまわんからそばに寄れ。よしよし、それで好い」 

 殿様、おつきの者がさし出した箱から何やら取り出して、両掌(りょうて)に包み込んだ。

 「これ一休、そちはナカナカ頓智に秀(すぐ)れていると聞くが、これは当てられるかな?」

 殿様は両掌を前に出し、一休さんに見えるように少しだけ両掌をひろげた。

 「この掌(て)の中にあるのは雀(すずめ)だが、この雀、生きているか、死んでいるか、サア、当ててみよ?」

 一休さんがまわりを見まわしたら、広間の両脇にズラーっと並んで坐っているお侍たちは、みなみなニャニャ笑って、答を知っている風だ。

 『オラが負けると思っている顔ばかりだな。と云う事は……フーン、そういうことか』

 殿様の魂胆(こんたん)がピーンとひらめいた一休さん、ニコニコっとした。

 「ハイっ。当てられ無いことも無いけれど・・・」

 と言いながら、タタミのヘリを股いで立ちあがり、

 「その前にオラのを当ててみて下さい。このタタミのヘリから、オラは右へ行くか左へ行くか判りますか?殿様が当てたら、雀が生きているか死んでいるか、 オラも当ててみますから」

 と言った。余りに予想外の答えで、家来たちはハッとして殿様の顔を見た。殿様、顔をまっ赤にして一休をにらんでいる。

 「ウーン、まいった。予(よ)の負けじゃ!」

 と言われた。殿様は、一休さんが、雀が生きていると答れば雀の首をひねって殺し、死んでいるといえば生きたまま出して見せる積りだったと。魂胆をさか手にとられて負けた殿様、くやしくてならない。くる日も、くる日も好い智恵はないかと思案していたら、襖(ふすま)の絵が目についた。殿様、難問を思い着かれた。

 「ウーン。これなら一休をギャフンと言わせてやれる!」

 というて喜んだ。又、一休さんが呼ばれた。

 「これ一休。そこの襖の虎を縛(しば)ってみよ!」
 
 殿様が閉(と)じた扇子(せんす)でさす方を見ると、襖には、ガンク・ガンカイと言って、昔は虎を描(か)かせたら世界一と言われたガンクの描いた虎が竹林(ちくりん)から目をランランと光らせて一休さんをにらんでいる。牙をむいて、今にも襲いかかって来そうだ。
 緊張感がピーンと張りつめて、そのすさまじさは絵と判っていても身のすくむ思いがする。絵に見とれている一休さんに、殿様、


 「どうだ、なんぼ一休でも絵に画いた虎は縛れまい。こうさんするか?」




      1-10-2.jpg 一休さんと殿さま挿絵:かわさき えり



 と、得意顔で言われた。そしたら一休さん、ニコニコして、

 「いえ、描いた虎でも何でも縛る。ですが、オラの縛り方は投げ縄でとらえてから縛るやり方で、虎を追い出すセコが要ります。このままでは、竹薮(たけやぶ)が邪魔(じゃま)になって何とも仕様がないから、殿様、虎を追い出して下さい。オラ、こっちで待っていますから」

 と言うた。殿様、これには何ともしようが無くて、又負けてしまったと。

 どんびんからりん、すっからりん。





 管理人のひとこと


 どうも、元々は京に住む一休さんのお話が山形にも伝わった様です。「一休さん」には、色んな頓智(とんち)話があるようですが、今回は一休さんを困らせようとしたお殿様が逆に「ギャフン」とやり返されたお話です。お殿様は、最近人気の高まった彼にお灸(きゅう)を据えようとしたのです。
 人間、人気が出たからと有頂天に為ってはいけません。常に己(おのれ)を謙遜し身を低く過ごすのが得策で、その上で人には親切に思いやりを込めた接し方をするのが徳のある人間の行いなのです。と、小言を云うつもりはありませんが、頓智(とんち)に長(たけ)けた一休さんですから、色々なお話が尽きないことでしょう。




   





 
 その5『因幡の白兎』(いなばのしろうさぎ)


    

 昔々、因幡(いなば)の国に白い兎がいたそうな。毎日浜辺にやって来ては、

 「何とかして、海渡って向こう岸さ行ってみてえナア。んだげんども俺(お)ら泳がんねえし、海には何がいるか分(わ)がんねえから、途中で殺されっかわかんね。何とか無事に向こうさ行ぐ工夫ないべか?」

 と思って、ため息ついていたそうな。そしたら、ある時、ええこと考え浮んだ。ワニザメを並べて、その背中の上を行くといいって。「んだら」っていう訳で、ワニザメに相談したと。

 「ワニザメ君、ワニザメ君、海のお前の数が多いか、陸(おか)の兎(うさぎ)の数が多いか、比べっこすんべ!」
 「どうやってだ?」
 「お前だち海さ並んでみろ。オレ、一匹一匹勘定して行くから。勘定し終ったら向こうで兎ば皆集めるから。ほしたらお前が勘定すればええ。数が多い方が勝ちだ!」
 「わがった。ええがんべ」




   1-10-3.jpg 因幡の白兎挿絵:かわさき えり



 っていう訳で、ワニザメは仲間皆に声掛けて、こっちの岸から向こうの岸まで、ズラアッと並んだと。 

 「サア、数えれや!」
 「ようし、行くぞぉ!」


 白い兎は得意になって、ワニザメの背中をピョンコ、ピョンコ跳ねて向こう岸まで行ったと。今一歩で陸さ上がるっていう時、嬉しくなって、
 
 「オレにだまされているとも知らず、こうして並んでくれてありがとうよ。オレ、数なの白兎なの集める気なの何も無いなだ。お前だちの背中渡って、向こう岸さ行きたくってこう云う事言ったんだ!」

 って、つい言ってしまったと。それを聞いた最後のワニザメは、怒って、白い兎をガブリッてくわえて、皮をはいでしまったんだと。白い兎は、痛くて痛くて何とも仕様が無いのだと。泣いていると、そこへ神様が大勢通りかかって、


     1-10-4.jpg 因幡の白兎挿絵:かわさき えり



 「これ兎、どうした?」
 「こう云う訳で…」
 「アアそうか、それは可哀そうに、それではお前は、海の水に入れ。そうしたら、たちまち毛がはえる」
 
 って言ったと。白い兎が海の水に入ったら「痛テテテテ…」って、塩水がしみて、ビリビリ、ビリビリ、ってもっともっと痛くなったと。こらえ切れずにギャンギャン泣いていたら、袋を担いた神様が通りかかったと。その神様は親切で

 「お前、ほだらことしてもダメだ。きれいな真水(まみず)で洗って、して、蒲(がま)の穂(ほ)さ転がれ、んだどええから」 

 って、教えてくれたと。白い兎がその通りにしたら、やっと元の白い兎になったと。

 どんぴんからりん、すっからりん。





 管理人のひとこと


 「因幡の白兎(いなばのしろうさぎ)」は、とても懐かしいお話です。私どもの世代の人なら殆どの人が昔聞いたお話でしょう。何か、童謡にも在った様な気がしますが・・・皮を剥かれて海水に漬かったらサゾや痛い事でしょう、全く残酷な話です。
 「真水で洗ってガマの穂で身を包みなさい」とは、とても説得力のある話で、柔らかなガマの穂の感触が素直に想像できます。処で、最近「ガマの穂」を見たことがありません。恐らく、河原の岸にでも生えているのでしょうが・・・因幡、出雲・山陰のお話が山形まで伝わったのでしょうか・・・神話のお話でもあるのでしょう。




 



   




 身体も心も凍える季節 温かな温泉が最高です!!
 
 













 






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