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2019年01月08日

山形県の昔話1 (全68話) 




 





 宮城の民話の次には、お隣の山形の民話へと代わります。引き続きお楽しみください・・・
 

   

  



    12-15-20.jpg 山形の民話




 

 

 

 その1『蜜柑のはじまり』(みかんのはじまり)



       1-8-1.jpg


 昔々、あるところにお寺(てら)があって、和尚様(おしょうさま)がひとり住(す)まわれておらしたと。ところがその和尚様、段々年をとられて今にもお迎(むか)えが来るばかりになったと。村の人達が集(あつ)まって、

 「もうし、和尚様、和尚様。何か食(く)いたいものは無(な)いか?」

 と枕元(まくらもと)で聞いたと。そしたら和尚様、

 「ほだ ナア、これと云って無いけんど、なろうことなら暖(あった)かい国にあると云うミカンという物を一口(ひとくち)でも食ってみたいもんだ」

 と言うたと。村の人達は、

 「ミカンだな?ようし 判った!必(かなら)ず手に入れて来るから、それまで養生(ようじょう)していておくんなさい!」

 と胸打(むねう)って請(う)けおうたと。

 お寺から出て来た村人達、

 「ところで、ミカンって何だ?」
 「オラ知(し)んね」
 「オラも知んねえ」


 言うて、誰も見た者はおらん。

 「ホンでも、和尚様は暖かい国にあるって言い為さったぞ」
 「そんなら、暖かい国へ行って誰だかに聞けばわかるじゃろ」


 と言うことに為って、足達者(あしたっしゃ)な若者(わかもの)二・三人してミカンを探(さが)しに出かけたと。行くが行くが行くと、駿河(するが)今の静岡県(しずおかけん)の辺りに差(さ)しかかった。

 「この辺は暖かい国じゃノウ。もしかしたらこの辺りにミカンというものがあるかも知れん」
 「そうじゃの、どこぞで聞いてみっぺ」


 と言うて、ある家で尋ねてみたら、ミカンの木はあるにはあるが季節(きせつ)外れで、みな捥(も)いだ後だったそうな。

 「も少し行ってみっぺ。あるかもしんね」

 と、探(さが)し探しに行ったら、ある家の庭(にわ)にミカンの木が一本あって、そのてっぺんに、足った一粒(つぶ)だけミカンがなってあった。



        1-8-2.jpg

 
 若者達は、早速その家に行って、

 「コレコレの訳(わけ)で遠(とお)い最上(もがみ)の国から来た者です。どうか、あのミカンをゆずってけろ」

 と、頼(たの)んだそうな。すると、その家の人は、

 「アレは、来年(らいねん)もミカンが一杯なる様に天(てん)の神様(かみさま)に差し上げ申(もう)した奴です。だけど、坊様(ぼうさま)の為なら神様も文句(もんく)は言わんでしょう。お金(かね)なんぞ要(い)らんから、サアさ、早うその坊様のところへ持って行きなさい」

  と言うて心好く捥(も)いで呉れたと。三人の若者は喜(よろこ)び勇(いさ)んで戻ったそうな。和尚様は、一口二口吸(す)ってみて、晴々(はればれ)とした目を開けて、

 「アア、ありがたいこんだ、ありがたいこんだ。後はもう何も思い残(のこ)すことはない。ナムナムナム・・・」

 と言うて、穏(おだ)やかにあの世(よ)へ旅立(たびだ)ったと。その後(のち)駿河の国では、欲張(よくば)って一粒も残さず捥いでしまった家のミカンの木は皆枯(か)れてしまったと。 
 足った一本、和尚様の為に分けて呉れた家のミカンの木だけは後々(のちのち)、あで栄(さか)って、ミカンの木を増(ふ)やしたと。今方々(ほうぼう)にあるミカンの木は、この家のが親木(おやぎ)なんだと。

 こんなことがあるから、ナリモノは「来年もたんと成(な)る様に」って天の神様に頼んで、木のてっぺんにある一粒を「木ィ守(まも)り」として、必ず残して置くもんだと。

 どんぴん。




 素敵な「自転車と家庭水族館」管理人のひとこと


 年老いたお寺の和尚さんを大切にする心温まる好いお話でしたね。陸奥(むつ)の山形からワザワザ駿河(するが)まで出かけて蜜柑(みかん)を一つ貰って来て大切な和尚さんに食べて貰う・・・和尚さんの末期(まつご)の願いを聞き届けて挙げたのです。和尚さんは、自分を思う皆の心掛けに感謝して満足して往生(おうじょう)したのでしょうね。
 そして当時の陸奥では、蜜柑がとても珍しく高価なものだったことが判ります。恐らく蜜柑は、お金持ちがお正月に食べられる様な、普通の人にはとても貴重なものだったのでしょう。庶民は、南国の産物である蜜柑も知らなかったのですね。
 そして、木になる果物の蜜柑に柿やリンゴなどは、収穫期に全て執り切るのでは無く最後の一つを天の神様に差し上げるものだと残して置いたのですね。恐らく、それを鳥が食べて遠くに持って行き種子をまき散らして子孫を増やして行ったのでしょう・・・




     




    







 その2 『猿むこ』さるむこ



        1-8-4.jpg


   





 昔あったとさ。爺(じ)さまが山の畑耡(うな)いに行ったと。余りに疲れたので、

 「アアこわい(疲れた)。こんなこわい思いして畑耡(うな)うのは辛いナァ。娘(むすめ)三人持ったが、この畑耡(うな)って呉(け)る者あれば、どれでもエエ娘(むすめ)呉(く)れっけどもナア・・・」

 と、独り言(ひとりごと)言うたづうなだ。そうすっと猿出て来て、

 「爺さ爺さ、何語った、今?」

 と言うた。

 「何も語らね」
 「何も語らねなてない。俺ぁ藪(やぶ)にいて聞いていた。何か語ったぞ!」
 「 嫌、俺は本当は、アンマリこわいからこの山の畑耡(うな)って呉る人あれば、娘三人持てたが、どれでもええなな(のを)呉れるて、本当は言うた」
 「そんでは俺耡って呉っから、俺に呉ろ!」

 と言われて

 「ええごで」

 と返事して、猿に山の畑耡ってもらったども、家さ帰って来て、

 「こんなこと言うたって、ハイという子供も無いし」

 と、余りに心配して、頭痛(や)めると言うて寝たづだ。



   



 
 そうすっど、一番大きい娘が

 「父ちゃん、起きて御飯(ごはん)食え」
 
 と言うたども、

 「嫌々、何も食いたく無い。ほだども、俺の言う事聞いて呉れれば、起きて食うども」
 「何の事だか、ほだら語ってみろ」

 
 と言うので、

 「これこれこう云う事で、猿出はって来て、山の畑耡って貰(もら)ったから、お前(め)嫁に行って呉んねえか?」

 と言うたれば、 

 「何老(お)いぼれみたいなことこいでけつかる。猿のオカタ(奥方・嫁)に行かれっか!」

 と、枕(まくら)蹴(け)とばして逃げて行ったと。二番目の娘も、

 「父ちゃん、起きて御飯食え」

 と言うたども、爺さま頼んだっきゃ、

 「猿のオカタに行かれっか!」

 と枕蹴飛ばして逃げて行ったと。次に末の娘来て、

 「何でも聞くから父ちゃん。具合の悪いのさえ治って呉れるごんだら、それでもええ。猿のオカタになって行くから、御飯食って治って呉ろ」


       1-8-3.jpg


 と言わっで、爺さま起きて御飯食って、何日にやると山の畑さ行って猿に会うて決めたど。そうして、末の娘は猿のどこさ嫁に行ったど。


  デリケートゾーンがむれて不衛生かも…。でもどうやってケアしたらいいかわからないし、人にも聞けない、どうしたらいい?【アウトクリア】autclear



 三月のお節句(せっく)に餅(もち)搗(つ)いて、嫁の里帰(さとがえり)だど。猿が、

 「この餅、何さ入れて持って行ったらええが?笹(ささ)さ包んで持って行くか?」
 と言うたら、嫁は、 

 「嫌々、おら家(え)の父ちゃんは笹さ取れば笹くさいから食わねと言う」
 と言うた。

 「重箱(じゅうばこ)さ入れっか?」
 「 いいや、重箱さ入れれば重箱 臭いって食わね」
 「ホンだら、何さ入れて持って行く?」
 「本当は臼(うす)さ入れてそのまま背負って行けば、父ちゃん大喜びして食うから、そうして持って行って呉れ」


  となって、猿は搗(つ)いた餅入れた臼、そのまま背負って山を下りだど。途中まで来っど、川の上さ桜なびいて、何ぼか綺麗に咲いていた。嫁が、

 「父ちゃんは桜好きなな(なの)だから、桜の枝取って持って行けば喜ぶから取って呉ろ」

 と言うたら、猿は背負った臼、おろそうとしたど。嫁、

 「嫌々、土さ下ろすど土臭いて言うて、決して食わねがら、そのまま背負って登って呉ろ」

 と言うたれば、猿、臼背負ったまま木さ登った。 

 「これでいいか?」
 「ンだな、それよか、も少し向こうの枝だとええな」
 「ンでは、これかぁ?」
 「嫌々、今少し枝のええどこ取って貰いたいナァ」


 こう言いあいながら猿を段々と上さやると、猿は重いもんだから、バギッと桜の木折れて、川の深いどごさ落ちてしまたけど。猿、臼背負ったまま流されながら、

 ♪ 川に流るる猿の生命(いのち)は  惜しくはなけれど 後に残りし姫(ひめ)恋しや

  と詠(うた)ったど。末娘は家さ帰って、爺さまの跡とりして、一生安楽に暮らしたけど。

 どんぺからっこねっけど。




 素敵な「自転車と家庭水族館」管理人のひとこと


 どうも、昔話に出て来る姉妹の長女や次女は何時も意地悪で思いやりの少ない娘が多いようです。この話も末娘が損な役割を買って出て、最後には幸せに為るお話でした。お爺さんの独り言を聞いた猿は、半ば強引にお爺さんに約束を迫り心優しい末娘を娶りました。さぞや好い思いをしたのでしょう。が、幸せは長くは続きません。
 決して猿が意地悪をした訳では無く、優しい気持ちで末娘とお爺さんへの心遣いで餅をつき里帰りさせたのです。しかし、現実は厳しいものでした。娘の計略にマンマとはまり、川に流されてしまったのです。こうなると何故か猿が可愛そう・・・♪ 川に流るる猿の生命(いのち)は  惜しくはなけれど 後に残りし姫(ひめ)恋しやと、泣いた心情が心に刺さります。猿が人間の娘を嫁にすると、矢張りこの様な悲劇が待っているのです・・・ナンマイダ



  















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