2018年12月16日
宮城の民話 その5
しばらの間、私が住まいする宮城県の郷土の昔話をお伝えしようと思います。お子様やお孫様が寝る前の一時、語ってお伝え願えれば幸いです・・・その5
宮城県の昔話(全14話)
再話 佐々木 徳夫
整理・加筆 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
第十三話 『行かずの雪隠』(いかずのせっちん)
挿絵:かわさき えり
昔ね、あるお寺の雪隠(せっちん)に狸(たぬき)が棲(す)みついて、雪隠に入る度にいたずらすんで、和尚(おしょう)さんは「行かずの雪隠」と名づけて、締(し)め切ってたど。
ある日のこと、和尚さんが、
「小僧(こぞう)や、御法事(ごほうじ)さ行って来るがら、行かずの雪隠さ近寄(ちかよ)んでねえぞ」
て言って出かけたど。近寄るな、という所には行きたいもんで、小僧は戸をこじあけて入ったど。別に変わったこともネエ。ナアンだ、普通の雪隠でねえが、と思って用を足してたら、下から白い手がヌーッと出て来て、尻をペタペタ叩(たた)いたり、撫(な)でたりされたんで「キャーッ」って飛び上がったら、入り口に男と女の生首(なまくび)がブランと下がって、ニッタニッタ笑ってんで、腰(こし)抜かしてしまったど。
小僧はやっと這(は)い出して、蒲団(ふとん)をかぶってブルブル震(ふる)えながら寝(ね)てたど。間もなく表でカタッ、カタッと下駄(げた)の音がして、スーッと戸が開いたんで、アッ、和尚さんが帰って(けぇって)来た、と思ってホッとしたど。
「小僧、今帰った(けぇった)ぞ。お前(おめえ)、行かずの雪隠さ行ったべ」
「はい」
「下から白い手がヌーッと出て来て、尻をペタペタ叩いたり、撫でたりしたべ」
「はい」
「入り口に男と女の生首がブランと下がって、ニッタニッタ笑ったべ」
「はい」
「こんな顔でながったかあ」
て言いながら、蒲団をめくったと思ったら、またヌーッと生首が近寄って来て、ニッタニッタ笑ったど。小僧は「キャーッ」 て、蒲団をかぶってブルブル震えてたど。 ほうしたら、また表でカタッ、カタッと下駄の音がして、スーッと戸が開いたど。小僧は、また化け物が近寄って来るな、と思って、ぎっつり蒲団をつかんでいたら、
「小僧や、今帰ったぞ。何だどこにいるんだ」
和尚さんは、小僧が蒲団をかぶって寝てんだと思って、さっと蒲団を剥(は)いだら、「キャーッ」って、小僧が気絶してしまったど。
挿絵:かわさき えり
和尚さんは、
「小僧、あれほど言ったのに行かずの雪隠さ行ったな。俺だ、俺だ。これからは二度と近寄るな」
て言ったどさ。
こんで、えんつこもんつこ、さけた。
管理人の一言
「やっちゃいけない!」と言われると逆にやりたくなねのが人間のサガ。どうしてなんだろうね?しかし、この好奇心が無いと人間には進歩は無いね。何故?どうして?と思うから新たな発見や知恵が生まれるのだね。「ダメだ!」と云う先人も、昔はやってしまった経験者だから強くは叱らない。こうやって色々な失敗や経験を積んで賢くなるのだからな。小言を言われても、人に余り迷惑を掛けなければ《どんどん》失敗するべしだね・・・失敗の分だけ成功も生まれるのだから。
第十四話 『尼裁判』(あまさいばん)
挿絵:かわさき えり
むかし、あるところに親孝行の息子が年老いた父親と暮らしておったそうな。働き者の息子だったから、村の人が好い嫁を世話してくれたと。息子と嫁は、
「お父っつぁんはもう年だから、家でのんびりしてりゃええ」
いうて、二人して、朝は朝星の出ているうちに家を出て山の畑へ行き、夜は月星をながめながら帰るほど働いたと。父親は、
「わしゃあ、いい息子と嫁を持った」
いうて、スッカリ安心したと。気がゆるんだら急にふけこんで死んでしもうたと。息子は悲しんで悲しんで仕事が手につかんようになった。そしたら、嫁を世話してくれた人が来て、
「今度、村の衆(しゅう)とお伊勢参りに行くことになった。お前も家ん中でクヨクヨしているよりは、一緒に行って気晴らしをしたらよかべ」
という。嫁も、
「あんたぁ、行っといでよ。お父っつぁんの功徳になるよ」
いうので「そだな」 って、村の衆と一緒にお伊勢参りに出かけたと。
お伊勢さまにお参りして町を見物していたら鏡屋(かがみや)があった。息子は鏡を知らんのだと。珍しい物があると思うてのぞいたら、映った自分の姿が死んだ父親にソックリだった。
「ありゃあ、うちのお父っつぁんは、こんげなところにおられたか」
いうて、驚くやら喜ぶやら。
「番頭さん、この親父(おやじ)なんぼだ」
「へぇ?!何のことでしょう」
「これ、この親父だ」
「へえ、ですがアノウ、これは親父ではなくて、鏡ですが」
「何言うとる。息子の俺が言うのだから間違げぇネエ。これは親父だ。家に連れて帰るから、ぜひ売ってくれ」
番頭さん、目を点にしておったと。旅から帰った息子は、鏡を長びつに入れて、朝晩のぞいては、
「お父っつぁんは今日もご機嫌だ。ニコニコしとる」
いうて喜んでいるんだと。嫁はどうも不思議でならない。ある日、息子が畑へ出掛けてから、長びつを開けて中をのぞいたと。そしたら何と、中には綺麗な女ごがおって、「見つかった」云う様な顔をしておった。サア、嫁は腹が立って腹が立ってならん。昼飯時に畑から戻った息子をつかまえて、怒ること、怒ること。
「あんた! お父っつぁんの功徳に行ったと思っていたら、何さアレは。お伊勢さまから好い女ごを連れて来て。ああくやしい!」
「お前、何言うてるや。俺はお父っつぁんを買うて来ただぞ。女ごなんぞ隠しておらん。もいちどよおっく見てみろ」
「ほんとうに? …そだな、毎日長びつに入ったままの女ごもなかべな」
言うて、もう一度長びつの中を見たら、今度は夜叉のようなオッカナイ顔をした女がいた。嫁はあわてて、ふたをパタンと閉じたと。
「いたあ、アンタあ、やっぱり女だよう」
「そんな筈はねえんだがなあ」
いうて、息子がのぞいてみたら、親父がとまどった顔をしておった。
「お前、何見とる。やっぱりお父っつぁんだ」
「違う」「そうだ」
と言い争いをしているところへ、お寺の尼さんが家の前を通りかかった。
「仲の好い二人が喧嘩とは、一体どうしましたか?」
「聞いて下されアンジュさま、実は…」
と嫁が話すと、
「それじゃあ、私が見てみましょう」 いうて、尼さんがのぞいたと。そしたら鏡には尼さんが映っとった。
「もう喧嘩は辞めなさい。この中の年増女は髪を落として尼になったから」
こういうたと。
えんつこ もんつこ さげぇた。
管理人の一言
好く出来たお話だナ。落語の様にちゃんと《落ち》まで入れてる。トンチとシャレの聞いた上出来なお話だナ。鏡を見る人のそのままがその人に伝わるから、鑑とは恐ろしいものではあるな。亡くなった親父に為ったり、綺麗な女に為ったり夜叉に為ったり・・・そして最後には尼さんに為ってしまった。
何かで怒った時、一度鏡を見るのを習慣にしたら好いのではないだろうか?怒りで震える我が顔を見ると、その醜(みにく)さに呆れるだろうな。少し時間をおいて怒りを鎮めることが大切だろう。
では、次には前回取り上げた「雪女」のお話を、別の資料から紹介しよう・・・
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