2018年12月16日
宮城の民話 その4
しばらの間、私が住まいする宮城県の郷土の昔話をお伝えしようと思います。お子様やお孫様が寝る前の一時、語ってお伝え願えれば幸いです・・・その4
宮城県の昔話(全14話)
再話 佐々木 徳夫
整理・加筆 六渡 邦昭
提供 フジパン株式会社
第十話 『熊になった兄弟』(くまになったきょうだい)
挿絵:かわさき えり
むがすむがす、あるどこに太郎と次郎がいであったど。ふたりとも怠け者(なまけもの)で、サッパリ稼(かせ)がね。親が残して呉れたものを、アレを売りコレを売りしては食いつなぐうちに、焚き物(たきもの)にも困るようになったど。あるどき、太郎が、
「次郎、山さ行って、焚き物取って来ぉ」
ど、言い付けた。そしたら次郎は、
「くたびれるから、オラ、嫌んだ」
ど言って、ゴロンと横になったど。
「かばねやみみてなごど言ってねえで、行って来ぉ」
「兄(あん)つぁんは怒(おこ)りっぽいんだがら……しょうがねえナア」
挿絵:かわさき えり
次郎が山さ行ったら、景色のいい楢(なら)の木があっだ。
「伐(き)るのがもったいないよな、好い木だナア。んでも、他の木を探すのもくだびれるし、これにすべえ」
と言って鋸(のこ)を当てたら、楢の木が、
「焚き物が欲しがったら、家(え)さ帰(け)えるまでドッサリ届げでおぐがら、どうが伐らねで呉(け)らえん」
ど言ったど。
次郎が伐るのを止めて山を下っていだら、空を焚き物がヒュンヒュン飛んで行っだ。家さ帰って来たら、ドッサリ焚き物が届いでだど。太郎はウンと喜んで、
「次郎、次郎。今度ぁ食い物届げで貰え」
ど言ったど。次の日、次郎はまた山さ行って、楢の木さ鋸を当てで、
「食い物届げろ、届げねば伐るぞ」
ど言ったら、楢の木は、
「家さ帰えるまでドッサリ届げでおぐがら、どうが伐らねで呉らえん」
ど言ったど。次郎が伐るのを止めて山を下っていだら、空をフキだのワラビだの木の実だのがヒュンヒュン飛んで行っだ。家さ帰って来たら、ドッサリ食い物が届いでだど。太郎はウンと喜んで、
「次郎、次郎。今度ぁ銭(ぜん)コ届げで貰え」
ど言ったど。
次の日、次郎はまた山さ行って、楢の木さ鋸を当てで、
「銭コ届げろ、届げねば伐るぞ」
ど言ったら、楢の木は、
「家さ帰えるまでどっさり届げでおぐがら、どうが伐らねで呉らえん」
ど言ったど。次郎が伐るのを止めて山を下っていだら、空を砂金(さきん)がキラメかして虹(にじ)みていにヒュンヒュン飛んで行っだ。家さ帰って来たら、ドッサリ砂金が届いでだど。太郎はウンと喜んだ。んだげんども、持ったことのねぇ大金を盗まれるのが心配になって、
「次郎、次郎。泥棒(どろぼう)に入(へえ)られねように、山の楢の木さ行って、家さ人が寄り付かねように頼んで来ぉ」
ど言ったど。
次郎は、下りてきた足で、また山さ行ったど。そしたら楢の木が、
「どっさり銭コ届げだのに、まだ何が足んねのすか?」
ど言っだ。
「あんまり銭コ届げて貰ったんで、泥棒に入られんのが心配なんだ。何とが家さ人が寄り付かねようにして呉ろ」
「アア、わがった。誰も寄り付かねようにしてやっから」
挿絵:かわさき えり
次郎が、やれえがったぁ、と山を下って家さ帰ったら、何と太郎が大っきな熊(くま)になって家の中に積んだ砂金の山のまわりをグルグル廻(まわ)っていたど。次郎が魂消(たまげ)て、
「何とすたべや、兄つぁん。そんな姿にされで」
ど言っているうちに、次郎も熊に為ってしまったど。二頭の熊が家の中をグルグル廻ってるもんだから、それがらは、誰一人としで寄り付く者がながっだど。
こんでえんつこもんつこ、さげだ。
管理人の一言
好く出来たお話だナ。人は余り楽(らく)をして暮らすと碌(ろく)なことはないと云う事だべナ。何かの運で、滅多に無い好いことがあっても何度もそれを望んではダメだ・・・と云う事だべ。棚(たな)から牡丹餅(ぼたもち)の様に、幸運の偶然が重なることは何度もは起きない。楽ばかりして好い気に為ると、 終(しま)いには思いも拠らない天罰が下ることもあるのだと云う事だべ・・・
第十一話 『鬼打木の由来』(おにうちぎのゆらい)
挿絵:かわさき えり
むかし、あるところに爺さんと娘とが暮らしていた。ある時娘が畑仕事をしていると、そこへ鬼がやってきて、娘をさらって行ってしまった。爺さんは、くる日もくる日も娘を捜(さが)し、訪(たず)ね歩いたと。何年も経ったと。
奥山(おくやま)のそのまた奥山の、鬼の棲(す)むと云う岩山(いわやま)を登(のぼ)っていたら、鬼が山の上から現われて、爺さんも捕まったと。鬼の館(やかた)に連れられて行くと、なつかしい娘がいて、鬼の奥方になっていた。息子(むすこ)も一人出来ていたと。その息子は首から上が鬼だったと。
鬼は爺さんを釜(かま)の中に入れて、息子に、
「釜焚き(かまたき)するから、火を持って来い」
と云うた。その息子はまだ年端(としは)もいかないのに利口(りこう)な子で、火を持って来いと言われて薪(たきぎ)を焚(た)く火では無く、機(はた)を織る時の杼(ひ)を持って来た。
「それで無い!別の火だ」
と怒られて、今度はムシロを打つ杼を持って来た。
「何にも分らない奴だ。もう好い、俺がとって来る。お前はここで見張っていろ」
と云うて、鬼は向こうへ火を採(と)りに行ったと。そのすきに息子は釜の中の爺さんに、
「今のうちに逃げて」
と声をかけた。爺さん、直ぐに釜から出て、娘と息子を連れて山を下った。そうとは知らない鬼が、火を採って戻ってみると息子がいない。
挿絵:かわさき えり
「しょうがない奴だ、また遊びに行きおってからに」
と云うて、釜の下の炉(ろ)に火を着けた。しばらくたって、釜の湯がグラグラグラグラ沸いたので、
「爺め、もう煮えたろう」
と云うて、フタを取ったら、何と、爺が入っていなかった。
「やろう逃げたなぁ!」
というて、館の中を捜したら、娘もいない。慌てて、山を駆(か)け降りた。爺さんと娘と息子は、逃げて逃げて逃げて、山のふもとの大きな川を舟で渡り終えた。ホッとしていたら、鬼がもう向こう岸へ来ておったと。川をこいでやって来る、その速いこと。ザンブザンブ、ザンブって追いつかれそうになったと。爺さん、慌てて、
「みんな尻(しり)を出せ!」
と云うて、尻を鬼の方に突き出して、ピタピタ尻たたきした。鬼は人間の尻たたきが嫌いなんだそうな。
「これはたまらん」と鬼はいうて、諦めて帰って行ったと。
爺さんと娘と息子と三人で家に帰り着くと、その日が丁度正月元旦だった。爺さんは竹を切って来て、急ごしらえの門松(かどまつ)を立てたと。そしたら、息子の頭に角(つの)が生(は)えていたので、息子は門松が恐くて門を潜れなかった。
爺さんが門松のおさえにしている木で、息子の角をこすったら、角がポロリともげた。お正月の門松のささえに立てる木や、門に太い薪を二本寄せかけて置くのを、「鬼木(おにぎ)」とか「鬼打木(おにうちぎ)」というのは、昔にこんなことがあったからなんだと。疫病(えきびょう)や鬼を打ち払う為なんだそうな。
えんつこもんつこさげえた。
管理人の一言
鬼が娘を浚(さら)って山の奥に逃げ込み、仕舞には娘を嫁にしたんだナ、そして子供までもうけたって。果たしてこの「鬼」とは一体何だろうか?山賊や超人的な天狗の様なものなのかな?人間では無い恐ろしい怪獣なのか?昔の人達が「鬼」と恐れたのは果たして何なのか。
一般に人間が忌み嫌う恐怖の対象を「鬼」と称したのだとしよう。そうすると、鬼でも人間の娘を愛し子供も愛したのだとすると、恐ろしいだけの野獣では無いのは承知している筈だ。怖くて忌み嫌う鬼にも、夫婦愛や親子の情もあるんだな。一体どういう存在なんだべか?
鬼の中には、怖いだけでなく優しい者や親切な鬼、泣き虫や気の弱い鬼も居たのだろう。「鬼の目に涙・・・」などという言葉もあるくらいだし・・・
第十二話 『雪女産女型』(ゆきおんな うぶめがた)
挿絵:かわさき えり
むがすむがす、白河様(しらかわさま)という殿様(とのさま)の頃の話だど。ある雪の降る夜、お城の夜の見廻(みまわ)り番の侍だちが四方山話(よもやまばなし)に花を咲かせてたど。
「今晩のように雪の降る夜は、お城に雪女が出るという噂だが、聞いたごどあるが?」
「まさか、雪女なんぞ出るはず無(ね)べ」
ひとりの侍がこう言って、小便をしに出たど。用事をすませて、ヒョイっと頭をあげたら、降りしきる雪の中に、赤ん坊を抱いた女の姿が、ボーッと見えたど。
「今時分(いまじぶん)、誰だべ」
と思ってだら、スーッと寄っできで、
「もし、お侍さん、雪の中に大事な物を落どして捜(さが)していたげんども、この児(こ)が重いんで、一時抱いてて呉(け)らえん」
て言うた。侍は、女が気の毒に思えて、赤ん坊を受け取ると、赤ん坊は氷のように冷たかったど。女は何かを捜している風だったげんども、雪の中さスーッと消えてしまったど。ほうしたら、抱いていた赤ん坊がだんだん重くなって来て、抱えきれなくなった。下さおろすべとしたら、ピッタリ腕さひっついて離(はな)れねぇんだど。
侍は気味悪くなって、助けを呼ぼうとしたげんども、声が出ねぇんだど。赤ん坊はますます重くなってくる。侍はこらえてこらえて、息もつけなくなって、とうとう気を失ってしまったど。
見廻り番の詰所(つめしょ)では、小便に出かけた仲間がナカナカ戻らねぇんで、皆して捜したら、侍はぶっといツララを抱えて気絶していたど。
それから幾日(いくにち)か経った雪の降る夜、夜廻(よまわ)りのお爺(じ)んつぁんが、拍子木(ひょうしぎ)をカチカチ叩(たた)きながら、
「火の用心、火の用心」
って歩ってたら、、松の木の根元で、女が長い髪の毛を解かしていたど。こんな夜更(よふ)けに、しかも雪の降る晩におかしな女もあるもんだ、と思うて、
「誰だぁ」
って、とがめたど。
「ハイ、わだしですかぁ」
って、振り向いた女の顔を見だら、何と三尺(さんじゃく)もある、目も鼻も口も無えノッペラボウだったど。お爺んつぁんは「アワワワー」って、腰を抜かしてしまったど。
それからというもの、雪女の噂がいよいよ本当だということになって、大騒ぎになったど。そこで、腕に覚えのあるお城の家老(かろう)が、自ら見廻りを買って出たど。
珍しく雪の降らない、月夜のことだった。
「こんなに晴れあがった明るい晩に、よもや雪女なんぞ出ねべ」
といいながら家老が見回っていだら、直ぐ目の前を一尺ばかりの小坊主(こぼうず)が、テクテク小走りで行くんだと。<これは あやしいぞ>と思って、家老が右さ寄れば小坊主は左さ寄り、左さ寄れば右へ寄る。<いよいよ あやしい>と思って、踏(ふ)んづけっぺとしたら、小坊主はコロコロと前さ転げて逃げんだど。<こいつは 化け物だ>
と思って、やっと捕まえて、両肩(りょうかた)をぐっと押さえつけ、
「ウン、ウン」 って力を入れたら、力をいれる程に小坊主は大きくなって、家老と同じ背丈(せたけ)になったど。これより大きくなられでは何されるか判らんから、パッと手を離すや刀を抜いて斬りつけた。そいつは、
「ギャーッ」
って叫び声あげて、屋根の高さほども背が伸びてから、どうっと砕(くだ)けて、粉雪になって四方に散ってしまったど。そのとたんに、雪が降りはじめ、風も出て激しい吹雪(ふぶき)になったど。雪女は、そのあとは姿を現さなくなったど。
こんで よっこもっこ さげた。
管理人の一言
好くある「雪女」と異なり、少しユーモアーなお化けの様だナ。赤ん坊が重いツララになったり、剽軽(ひょうきん)な小坊主が出て来たり、ノッペラボウが出て来たり。処で、雪女の有名なお話は果たしてどんなだったべや?その正体は、氷の塊や雪の塊で吹雪(ふぶき)になって空中に飛び散り無くなってしまうのだろうか?
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