2018年09月25日
一緒に学ぼう世界史のポイント 99 《アヘン戦争（後編）》
世界史講義録
一緒に学ぼう世界史のポイント 99 《アヘン戦争（後編）》
清の時代アヘン戦争（後編）
【楽しいアクアリウムの世界】
厳禁論と弛禁論
清朝政府はアヘンに対する禁令を繰り返し出していましたが余り効果は無かった。密貿易が行われている広州では、清朝側の官僚や軍人はイギリス商人に買収されていて、実際には禁令は形式だけに為って居たのです。清朝政府も本気でアヘンを取り締まる姿勢は無かった。首都北京から見ると広州は実に遠い辺境地域です。だからこそ、広州でのみ外国との貿易をして居た訳だ。辺境地域で少々麻薬密貿易があっても中央政府がしゃかりきに為る様な問題では無いと考えていた。
処が1830年代に為って、アヘン貿易による銀の流出や財政の悪化に中毒患者の増大と様々な問題がハッキリして来る。軍隊内部や皇室関係者にもアヘン中毒患者が出て来る。こう為ると、流石に清朝政府内部でアヘン問題に対しての議論が盛んに為って来ました。
アヘン問題に対する意見は大きく二つに分かれました。ひとつは弛禁論（しきんろん）禁令を緩めよと云う意味です。アヘン貿易を厳しく取り締まるのを辞めて逆に公認しようと云う立場です。アヘン貿易を公認すれば輸入アヘンに税金を掛けることが出来政府の収入が増える。銀の流出を止める為には銀での取引を禁止して物々交換で輸入すれば好い。
又、国内でけしの栽培を奨励して自国でアヘンを生産すれば輸入を減らす事が出来る。アヘン中毒患者対策としては、官僚や軍人のアヘン吸飲は流石に禁止を主張しますが、一般民間人に対しては取り締まら無い。放任することを主張しました。弛禁論者はこんな理屈を言います。
アヘンを吸う様な者は、皆意志の弱いダラシナイ者ばかりだから、そんな連中のことを気に掛ける必要は無い。中毒患者はやがて廃人に為り死に絶える。そんな連中が幾ら死んでも、中国は人口が多いのだからどうと云う事は無い。逆に、だらしの無い連中が死に絶えて健全な中国人だけが生き残るから反って宜しいと。
これに対するのは厳禁論。その名の通り厳しく取り締まれと云う。こちらも主眼は銀の流出をいかに止めるかと云う処にあるのですが、その為にアヘン吸飲者を死刑にしろと言います。厳罰で挑めばアヘン吸飲者は減る⇒消費が減れば輸入も減る⇒輸入が減れば銀の流出も減ると云う理屈です。
輸入そのものを取り締まるのでは無く、吸飲者を減らす処に出発点があるのが現在の感覚で云うと少し変わっていますね。
清 佚名 《清宣宗道光皇帝朝服像》兎に角、有名無実の禁令が出ているだけで密貿易はドンドン盛んになって居るので、何らかの対策が必要でした。時の皇帝は道光帝（どうこうてい） 1838年、道光帝は全国の地方長官にアヘン対策についての意見書を提出させた。
回答した29名中アヘン厳禁に賛成したものは僅か８名 残り21名は厳禁に反対でした。清朝の官僚達の雰囲気が判りますね。ここまで広がったアヘンを今さら取り締まるなんてもう無理もうええやん、そんな感じですかね。
その中で、厳禁論を主張した官僚は、このままアヘンを放置していては国が滅びると云う真っ当な正義感を持った人々でした。道光帝はこの厳禁論に惹かれた。中でも、湖広総督（湖北省・湖南省の長官）林則徐（りんそくじょ）の意見書に道光帝は注目した。
林則徐厳禁論を主張する林則徐は、只の理論として厳禁論を言うのでは無くて、具体的に取締の実施方法まで細かく提案していた。
どんな風にしたかと云うと、先ず布告を出して１年後にアヘンを吸飲した者、アヘンやアヘンを吸飲する為の道具を持っている者を死刑にすると住民に告げる。アヘン中毒に為って居る者は１年以内に断ち切れ。アヘンや吸飲道具を持っている者は自主的に役所まで差し出した者については１年以内ならば罪に問わ無いと。
更に、林則徐がユニークなのは密告を奨励したことです。１年経過後アヘンを吸飲している者が居れば密告しろと云う。密告と云うのは住民同士が監視し合い疑心暗鬼に為る。社会が暗く為る。密告を奨励する政治に碌なものは無い。林則徐はそんなことも十分承知しているので、こんな風に言います。
密告と云う手段は好く無い。無実の者をデッチアゲの罪で密告し密告された者が処刑されたら飛んでも無い事である。但し、アヘンの場合は無実の者が罰せられることは決して無い。アヘン吸飲で密告された者を逮捕して一日椅子に座らせて置けば無実かどうか直ぐ判る。アヘン吸飲者であれば、禁断症状が出るから一目瞭然。吸飲者で無ければ平然として居るだろう。
そう為らば直ぐに釈放してやり、密告した者を逆に逮捕して罰することが出来る。だから、アヘン取締に関しては、密告と云う手を使っても大丈夫だと。
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林則徐の意見書は、論理的で理路整然としていたし何よりも清朝を憂う気持ちに溢れて居た。林則徐に興味を抱いた道光帝は彼を北京に呼び寄せ直接面談をすることにした。
林則徐は、北京に着くと早速紫禁城におもむき皇帝とアヘン問題について話し合った。道光帝は、林則徐の考えや人柄を大いに気に入り、一回の話では満足せず明日も来い又明日も来いと呼び出し続け、二人の話し合いは連日８回に及んだ。
しかも、呼び出す度に道光帝による林則徐の待遇が好く為る。紫禁城は凄く広い。広いけれど役人達は歩いて宮殿内を移動する。マア、当然です。林則徐も初めは徒歩で入城し皇帝の執務室まで行く訳ですが、林則徐を気に入った道光帝は、この広い紫禁城をここまで歩いて来るのは大変だろう、明日は乗馬で入城するのを許す、と言うのです。
物凄い特別待遇で「紫禁城賜騎（しきんじょうしき）」と言われ有名なエピソードです。林則徐はこれに応えて翌日は馬に乗って出勤、乗馬したまま紫禁城内も移動した。処が、林則徐は余り乗馬が上手では無かった。道光帝はこれを見ていたらしく、明日は椅子駕籠で来いと言う。これは八人で担ぐ御輿の上に椅子を設置したものです。馬よりも更にランクアップです。異例中の異例。在り得無い様な好待遇な訳です。当然、物凄い話題となる。林則徐がどれ程皇帝陛下に信頼されているか誰も知らない者は無くなる訳です。
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林則徐との話し合いを重ねて、遂に道光帝はアヘン厳禁に踏み切りました。道光帝は林則徐を欽差大臣に任命し、広州に派遣しアヘン貿易の取締を命じた。欽差大臣と云うのは、皇帝と同等の権限を持つ大臣で欽差大臣の命令は皇帝の命令に等しい。それ位重い役職です。
道光帝は馬鹿では無いから、官僚達の多くが弛禁論者である中で単純に厳禁論者の林則徐にアヘン取締をさせても、反対派の抵抗にあって手腕を発揮出来無い事を恐れたんでしょう。だから乗馬や駕籠を許して、如何に皇帝が林則徐を信頼しているかを官僚集団全体に見せ着けた。ここまで遣られれば、弛禁論者も何が何でも林則徐の足を引っ張って遣ろうとは思わ無い。先ずは、静かに様子を見て置こうと云うことに為りますね。
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林則徐のアヘン取締戦争
道光帝の期待を一身に担(にな)って為って、林則徐は北京から広州へ出発した。この旅の途中でも有名なエピソードがあります。林則徐は、広州までの街道沿いにある府や県の長官に事前に手紙を出す。欽差大臣林則徐は、何月何日にその地域を通過するが決して接待をするなと云う手紙です。
宿泊したり食事をする予定の地域の行政長官には、同行人数は何名である食事はこれだけのものを用意すれば十分である、それ以上の料理を決して出すなと書き送る。しかも、これは遠慮して言っているのでは無く命令だから絶対守れと書き添えた。
当時の中国では、中央の大官が地方に出向く時は接待を受けるのが当たり前で賄賂を受け取るのが当たり前でした。地方の長官とすれば皇帝お気に入りの大物官僚に気に入られたい、少なくとも悪印象を持たれて皇帝に告げ口をされては堪ら無い。だから全力で接待をしました。それが普通。只、これは地方長官に取っては大きな負担。しかも、その負担は最終的に地方住民への税金に転嫁される。
地方長官を長く務めた林則徐はそう云う風習を苦々しく思っていた。そこで、自分が逆の立場に為った今予め接待を禁じる命令を出したのです。欽差大臣としては異例の簡素な旅行でした。林則徐が賄賂を受け取ら無い清廉潔白な人物であると云う事は直ぐに広州にも伝わった。
広州でアヘン貿易を遣って居るイギリス商人達は、アヘン取締の命を受けた林則徐と云う大臣が遣って来ると云う話を知りました。でも、初めは全然気にしていない。中国の役人は誰でも賄賂を握らせれば形だけの取締をして、後はアヘン貿易を黙認する。だから林則徐と云う役人も、賄賂で何とかなるだろうと考えていたのです。
処が、林則徐が接待を禁止しながら広州に向かっていると云う情報が入ると、これは今までの役人とは違うかも知れないと考え始めたようです。イギリス商人よりも、もっとビビッたのが広州の役人達です。彼等の殆どがイギリス人から賄賂を受け取っていた。林則徐が着任したら、自分たちはどういう目に遭うのかもうパニックです。
1839年、広州に着任した林則徐は、中国人アヘン商人とその便宜を図っていた役人や軍人で程度の酷い者たちを逮捕しましたが、その他大勢の役人や軍人については「今後は心を入れ替えよ」と云う事で過去の振る舞いは不問にした。厳しいばかりでは無いこう云う態度が部下の気持ちを掴んで反って綱紀粛正が進んだようです。
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さて、林則徐は早速イギリス商人に対して、アヘンを全て差し出すことと、今後アヘン貿易を行わないという誓約書を出すように迫りました。広州には300人近いイギリス商人が住みんでおり、政府から派遣されている貿易監督官チャールズ＝エリオットが彼等を指導していた。
エリオットは、取り敢えず林則徐のメンツを立てて遣る為に少しだけアヘンを供出して、後は有耶無耶にして遣ろうと考えた。1037箱のアヘンを差し出してこれで全部ですと言う。処が、林則徐は事前にアヘンの消費量や取引量などを計算していて２万箱近いアヘンが沖合の貯蔵船にあると踏んでいた。こんな誤魔化しは効かない。
イギリス商人たちは広州城外の一角に作られた外国人居住区に住んで居たのですが、林則徐は軍隊でこの居住区を封鎖した。食糧や水を断つ所謂兵粮攻めに出た。48時間の封鎖で、エリオットを初めとするイギリス商人達は音を上げて、結局沖合に隠してあったアヘンを全部差し出しました。その量は約2万箱1425トン。林則徐の計算と殆ど同じだった。当時の金額で1500万ドル相当という。
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1400トンのアヘンは保管する倉庫も無い位の物凄い量です。北京からは現地で処分しろと云う命令が来た。しかも、周辺住民や外国人に処分する処を見せ着けて遣れと云う命令です。林則徐は処分方法を徹底的に研究した。林則徐が凄いと思うのは、キチンと情報を集めて検討して確実に仕事を熟して行くその確実さです。
素人考えだと、処分するなら燃やすなり埋めるなりすれば好いと簡単に考えてしまうけど、ものがアヘンという麻薬だけに、処理する時に有害物質が出ず処分した後の廃棄物を回収出来ず、回収しても麻薬成分が残ってい無い様にしなければならない。
焼却処分してみると、燃やした後の土から麻薬成分が回収出来ることが判った。しかも、燃やせばアヘンの煙がモクモクと出る訳で1400トン燃やしたらどう云う事に為るか。だから焼却処分はダメ。埋めても後から掘り出される可能性がある。
研究の結果、林則徐は海岸に50メートル四方のプールを二つ作った。このプールにアヘンを溶かし込んだ上に塩と石灰を入れます。石灰は水と反応して熱が出る。この絵はその様子を描いたものですが、濛々と湯気が立っているのが判る。アヘンの麻薬成分は塩と石灰に弱いのでこう遣って処理をした。只、溶け残っていたりして無害になっていないアヘンが残っているかも知れない。そこで、引き潮の時にプールの水門を開けて、アヘンの溶けた熱水を海に流した。引き潮と一緒に水は沖合へ。ここまで遣れば、もう誰も回収出来ません。大勢の群衆が見物する中、20日間掛けて全てのアヘンを処理しました。
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アヘン戦争
アヘンの没収と処分は終わったけれど、今後もアヘン貿易をしないと云う誓約書が出ていない。林則徐は、イギリス商人に誓約書を要求しましたが、エリオットは断固としてこれを拒否した。それでは貿易を認めないと云う事で林則徐はイギリス商人を広州から追放しました。
この間に、アヘン貿易と関係無いアメリカ商人は誓約書を差し出して広州で盛んに貿易をして儲けています。これを見ていてイギリス商人の中にも、誓約書を出して貿易をしようとする者も現れましたが、エリオットは抜け駆けを許さ無かった。兵粮攻めにされてアヘンを没収されたことも許せ無いし、そのアヘンを全て処分されてしまったことも許せ無い。イギリスのメンツの問題だし、今後、アヘン貿易が出来なければイギリスは儲から無い。だから誓約書は出せない。広州を追い出されたイギリス人達はマカオに一時避難しますが、ここも追放され香港島周辺で状況が変わるのを待った。
一方、イギリスでは林則徐によるアヘン没収処分のニュースが伝わると、報復の為戦争をするべきだと云う議論が高まった。しかし、麻薬の密輸をしてその麻薬を没収されたからと言って仕返しするのは道理が無い。イギリスの政治家にも流石にそう考える人物が居ました。自由党のグラッドストンは議会でこんな演説をしている。
「中国にはアヘン貿易を止めさせる権利がある・・・これ程不正な恥さらしな戦争は過つて聞居たことが無い・・・国旗の名誉は怪我された・・・」
でも、多数決の結果は開戦賛成271反対262。1840年2月イギリス政府は出兵を決定しました。
林則徐はと云うと、アヘンを処分して以来英字新聞などを入手して頻りに海外情勢を研究した。イギリスが報復の為実力行使に出るかも知れ無いと予想した。そこで、広州周辺の沿岸漁民を民兵に組織して軍事訓練をしたり、広州湾近辺の要所要所に砲台を築く等戦争に備えて防備を固めました。
イギリス海軍軍艦に吹き飛ばされる清軍のジャンク船を描いた絵
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1840年6月 軍艦16隻輸送船27隻と陸軍約4000のイギリス軍が中国に到着しました（42年5月には軍艦25隻陸軍１万6千名などの援軍到着、内8割はシパーヒー）イギリス軍は、林則徐によって広州周辺の防備が固められて居る事を知ると、沿岸を北上し杭州湾沖にある船山列島を占領し、渤海湾に入り天津に向かいました。天津は北京に一番近い港湾都市です。
アヘンを巡るイギリスとの揉め事は遠い広州の出来事と思っていたので、イギリスの艦隊が北京に近づくと清朝宮廷は大いに動揺した。林則徐の抜擢を苦々しく思っていた弛禁論の官僚達は巻き返しに出ました。この責任は林則徐の責任である。彼を罷免しろと云う声が政府内で大きくなる。
こう云う中で道光帝その人が揺れてしまった。兎に角、イギリス艦隊を北京から遠ざけたい。道光帝は林則徐を解任、代わって弛禁論の琦善（きぜん）を欽差大臣に任命し、琦善はイギリスに広州で交渉するよう要請しました。
これを受けてイギリス軍は南下し、広州で琦善とイギリス全権使節ジョージ＝エリオットの交渉が始まりました。琦善はイギリス人は林則徐を憎んで居るだろうから、林則徐が遣った事を全部ヒックリ返せばイギリス人が喜び交渉が有利に進むと考えた。
そこで、林則徐が設置した砲台を撤去し沿岸に組織した民兵を解散、要所に配置した部隊の兵員削減をドンドン進めてしまった。
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イギリス側は琦善の態度をみて舐めて掛かります。イギリス軍が広州への入り口を守る虎門砲台に攻撃を加えると、琦善はイギリスの要求をドンドン受け入れた条約案を作成した。一方、北京の宮廷では、イギリス艦隊が広州に去ると強硬論が強まる。実に政治方針が場当たり的で節操が無いです。政府は琦善が結んだ条約案を拒否し琦善は解任され北京へ呼び戻されました。
条約案は決裂し広州とその周辺で清軍とイギリス軍との戦闘が始まりました。しかし、林則徐が作り上げた防衛体制は無くっているので何処でもイギリス軍が圧倒的優勢で各地で暴行略奪遣りたい放題だった。一方の清軍はと云うと、装備も劣るし士気規律が全く無い。近代的な国民軍では無いので清の兵士が同じ中国人に対して暴行略奪をするんですね。しかも、イギリス軍が攻めて来ると戦わずに逃げます。
住民達は、自分達の村を自衛するしかない。負けっパナシの中国側で唯一イギリスを追い詰めたのがこの農民自衛組織でした。広州郊外の三元里の農民２万人が平英団と云う自衛軍を組織し、イギリス軍部隊1000人を包囲すると云う事件がありました。
こういう地元の住民たちを組織して戦えば、武器が劣っていても勝つ可能性はあったかも知れませんが、清の政治家達にはそんな発想は無かった。平英団も、広州知府（広州の行政長官）の圧力で解散させられました。これ何かはイギリス側が広州知府に包囲されたイギリス部隊の救出を要請して、それで解散命令だから清朝の役人は誰の味方だかサッパリ判りません。
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広州一帯を荒らし回った後 1841年8月 イギリス艦隊は再び北上、廈門（アモイ）、寧波（ニンポー）などを制圧し42年5月には長江に入り、7月には大運河の入り口に当たる鎮江を占領し大運河を封鎖した為、8月遂に清朝は降伏し南京条約を結びました。
南京条約の内容は、
・五港（上海、寧波、福州、廈門、広州）の開港
・公行の貿易特権の廃止
・香港島をイギリスに割譲
・賠償金2100万ドルの支払い
・イギリスの領事裁判権の承認
・関税自主権の放棄等です。
これが、中国が結んだ最初の不平等条約と為りました。五港開港は、開港場を増やすことで中国市場をイギリスの工業製品を売り込もうと云う狙いです。この条約は、アヘン取締を切っ掛けに起きた戦争だったのに、アヘン貿易については一言も触れていません。
イギリスに取って、麻薬貿易は不名誉なことなので敢えて条約には書か無かったと考えてください。この戦争の後、清朝はアヘン貿易を公然と黙認（変な言い方ですね）する様に為るので、イギリスに取っては事実上アヘン貿易を認めさせたのと同じ事です。
1844年には、アメリカとフランスが、清朝に迫り同様の条約を締結しました。アメリカとの条約が望厦（ぼうか）条約フランスとの条約が黄埔条約です。
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余談。戦争の切っ掛けと為った林則徐は、1841年にアヘン戦争の責任を問われ中央アジアのイリ地方に左遷されました。林則徐は腐ること無くイリでも行政官として多くの仕事を残し、民衆から慕われ長く語り継がれたそうです。没年は1850年。
林則徐は欽差大臣を解任された時、広州で収集した全ての外国情報を友人の魏源に託しました。魏源はその資料をまとめて『海国図志』を著しました。この本は直ぐに日本に伝えられ、幕末の志士達が世界情勢を学ぶ貴重な情報源と為りました。
参考図書紹介・・・・もう少し詳しく知りたい時は
実録アヘン戦争 (中公文庫) 陳舜臣 著 決定版です。小説は長すぎるという人にはこれ一冊。 阿片戦争 上 滄海編 (講談社文庫 ち 1-1) 陳舜臣 著 これに続いて中、下と三冊あります。詩社と云う名目で政治結社的な読書人のサークルがあって、官僚を含む知識人達が政策論を練っている様子も描かれていて興味深い。勉強になる小説。
アヘン戦争（後編） おわり 次のページへ 《太平天国》
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