2018年09月20日
一緒に学ぼう世界史のポイント 82 《ウィーン体制》
世界史講義録より
一緒に学ぼう世界史のポイント 82 《ウィーン体制 1》
ウィーン体制 1
ウィーン体制の成立
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クレメンス・フォン・メッテルニナポレオンがライプツィヒの戦いに敗れ退位した後、1814年9月からウィーン会議と云う国際会議が開かれました。ナポレオンによって変えられてしまった国境線や各国の政治体制をどうして行くのか、ナポレオン後のヨーロッパの秩序を話し合う為の会議です。
会議を主催したのはオーストリアの外務大臣メッテルニヒ。ヨーロッパ各国の代表がウィーンに集まった。各国とも少しでも自分の国に有利に会議を進めようと必死です。お互いの利害がブツカリ合ってナカナカ会議は進展しない。
進展しないけれど、集まっているのは各国の貴族階級ばかりなので、夜に為ると華やかな舞踏会が開かれて彼等は毎晩踊っていた。だから「会議は踊る、されど進まず」と言われます。
ウィーン会議は結局翌年の6月まで続いた。ナポレオンがエルバ島を脱出した時も、ウィーン会議はやっていた訳だね。会議の中心と為ったのは、主催者であるオーストリアのメッテルニヒやフランスの代表タレーラン、ロシアは皇帝アレクサンドル１世直々の参加でイギリス代表カスルレー。
メッテルニヒはオーストリアの名門貴族で超保守的な考えの持ち主で、フランス革命や革命が目指した自由や平等が大嫌い。フランス革命からナポレオンの時代に掛けてヨーロッパ全体に広がった自由主義的な考えを徹底的に押さえ着け、ヨーロッパ全体を貴族階級が権力を握る昔の体制に戻そうと考えていた。
ロシア皇帝アレクサンドル１世は英雄扱いでした。何しろ、ロシア遠征の失敗でナポレオンは没落して行ったのですから。実際には、冬の寒さに敗れたのであってアレクサンドル１世が大活躍をした訳では無いのですが。
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タレーラン会議の中で一番立場が悪いのがフランスです。ヨーロッパを大混乱させたのはフランスだ責任をとれと言われたら返す言葉が無い。フランスの領土を寄こせ、多額の賠償金を支払えと各国から要求されても文句を言え無い立場です。
フランス代表タレーランですが、この男は非常に賢い政治的能力は抜群で名門貴族出身。フランス革命期には三部会や国民議会の議員だった。ナポレオン時代には外務大臣です。そして、ナポレオン没落後はルイ18世の下でフランス代表としてウィーン会議に出席している。
政治体制が変わっても、それに上手く順応して常に政治の中枢に居続けた人物です。或る意味では節操がない「変節と嘘と汚職の天才」「冷徹で偉大な現実主義政治家」などと呼ばれている。でもこれは、外交官としては褒め言葉と言えるかも知れない。
このタレーラン、フランスを守る為に「正統主義」という理屈を持ち出して来た。フランス革命以前のヨーロッパの姿が「正統」詰まり正しい状態である。だから、全てを革命前の状態に戻そうと云う主張です。だから国境線も革命前の状態に戻す。詰まり、フランスの領土は減らさ無い賠償金も支払わ無いと云う。
フランスは他のヨーロッパ諸国に多くの被害を与えたのに、責任をとらないのは可笑しいじゃないかという主張に対して、タレーランはこう答える。
「フランスも被害者です。悪いのはフランスでは無くて革命なのです。革命によって国王ルイ16世一家は殺されました。私達フランス貴族も特権を奪われ多くの土地や財産を奪われました。皆さん方と同じ被害者なんですよ。悪いのは飽く迄も革命であり、市民階級の連中なのです」
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ナカナカ上手い理論構成ですね。他国の代表者たちもタレーランの「正統主義」を受け入れます。フランス、オーストリア、ロシア等々、国家間の利害の対立はあるのですが、ウィーン会議の出席者たちは「ヨーロッパ全体の貴族階級」と「ヨーロッパ全体の市民階級」の対立の方をより重大な問題として受け止めた訳です。
フランス革命のような革命が再びヨーロッパの何処かで起きたら困る。国家間の利害の対立を超えて市民階級を押さえ着ける為に貴族階級全体で協力し合おうと云う事です。こう云う考え方に立てば、タレーランの言う「フランスも被害者」と云う主張も受け入れられる訳です。ウィーン会議の基本原則は「正統主義」と教科書に書いてあるのはこう云う事です。タレーランは上手い具合にフランスを守ることに成功した。
「正統主義」と並んで、大国による「勢力均衡」がウィーン会議のもうひとつの基本原則に為りました。オーストリア、ロシア、プロイセンなどの大国の利益が優先され小国の領土が分割された。その際に突出した力を持つ国が出現し無い様に大国間の「勢力均衡」が図られた。要するに「正統主義」という原則の一方で結局は強い国が得をし弱い国が損をしたと云う事です。会議の主な決定事項を見ておきます。
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・フランスでは 「正統主義」の立場から、ブルボン王朝の復活が認められルイ16世の弟のルイ18世が即位した。
・ドイツでは ナポレオンによって作られたライン同盟が解体され、新たにドイツ連邦が結成された。35の君主国と４つの自由市から構成される連邦で統一国家ではありません。プロイセン、オーストリアと云う大国もドイツ連邦に含まれています。
・ロシアは ポーランドとフィンランドを事実上支配して、勢力を拡大した。
・オーストリア は北イタリアに領土を拡大した。
・イギリスは セイロン島とケープ植民地の領有を認められた。セイロン島はインドの東に浮かぶ島でケープ植民地はアフリカ大陸の最南端。共にヨーロッパではありません。イギリスはヨーロッパで勢力を拡大することよりも、アジアやアフリカに目を向けて居ることが判る。ヨーロッパ諸国よりも一歩先に進んで居る訳だ。
以上のような新たな国際関係が作られた上に、これを維持する為の同盟が結ばれます。ひとつが神聖同盟。ロシア皇帝アレクサンドル１世の提唱で結成されたもので、正確には国家間の同盟では無くて各国君主同士の盟約です。君主同士協力し合って革命を防ごうと云うものです。
もうひとつが四国同盟 イギリス、オーストリア、プロイセン、ロシアの間で結ばれた軍事同盟です。後にフランスも加わって五国同盟となります。軍事同盟と云うのは必ず仮想敵を設定します。四国同盟の仮想敵は何処か。仮想敵は、全ヨーロッパの市民階級です。そして市民階級の求める自由主義です。これ以後、ヨーロッパの何処かで革命運動や自由主義の運動が起こると四国同盟が軍隊を出動させて弾圧すると云うことに為りました。
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以上、ウィーン会議の結果出来上がった新しいヨーロッパの国際秩序をウィーン体制と言います。ウィーン体制の特徴をまとめます。
ウィーン体制は
１ 特権階級が平民階級を抑圧する体制
２ 大国が小国を抑圧する体制
３ 保守主義が自由主義を抑圧する体制 と云うことに為ります。
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革命の第一波（1820年代の革命）
ナポレオンは没落したものの、ヨーロッパの人々は彼によって一度は自由を味わってしまった。ウィーン体制はそれを力で押さえ着け様と云うのですから、当然ウィーン体制に反発して自由や民族独立を求める運動が起こって来ます。先ず、1820年代を中心に自由主義運動の大きな波があります。
・最も早い時期に起きたのが、1817年のドイツのブルシェンシャフト運動。ドイツ各地の大学生達が組合を作って自由とドイツの統一を求めた運動です。オーストリアのメッテルニヒが中心と為ってこの運動は弾圧された。
・1820年にはスペイン立憲革命が起きる。これは、ナポレオンからの独立戦争を戦っていた自由主義者達が、反動的な政策をとるスペイン王に反対して自由主義的憲法を認めさせた事件です。しかし、国王が神聖同盟に援軍を要請して出動して来たフランス軍によって潰されました。
・同じく1820年 イタリアではカルボナリの反乱が起きる。カルボナリは「炭焼き党」と訳されますが意味は好くわかりません。イタリアの自由主義者の秘密結社と覚えておけば好い。このカルボナリが政治的自由を要求して反乱を起こした。スペイン立憲革命に刺激されて一時期ナポリで自由主義的革命政府を作る事に成功しますが、オーストリア軍の介入によって潰されました。
・1825年 ロシアでデカブリストの乱。これは、ロシア軍の自由主義的将校による反乱です。ロシアの将校は皆貴族階級です。何故これが自由主義者なのか、貴族階級は自由主義に反対するのが普通ですから一寸変なんです。これは、彼等が軍隊を率いる将校だったと云う事に理由がある。
ロシア軍はナポレオンとの戦争で常に敗北していた。ナポレオンのロシア遠征では最後には勝ちましたが、実際にはロシア軍は侵入して来たナポレオン軍から逃げて居ただけで、冬の寒さと飢えがナポレオン軍を負かしたのでしたね。
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デカブリストの乱自分の軍隊が弱く、何時も負けていたと云うのは将校としては非常に悔しい訳で、一部の貴族将校たちはロシア軍を強くする為にはどうしたら好いか真剣に考えた。お手本に為ったのがプロイセンで、ここはプロイセン改革によってプロイセン軍は僅かの時間で見違えるように近代化され強くなった。
農奴に自由を与えて兵士に愛国心を持たせなければ軍隊は強く出来ないと云うのが彼等の結論でした。その為には、ロシアの政治に自由主義を取り入れ立憲政治を行い農奴を解放すべきだと考えた。しかし、ロシアの政治は皇帝による専制政治ですから自分たちの考えを実行するには反乱しか無かったのです。
この反乱は、直ぐに別の部隊によって鎮圧されてしまった。デカブリストの乱を描いた絵がありますが、反乱軍が広場で鎮圧されている。それを、民衆が野次馬に為って遠くから見物している。他人事な訳。反乱を起こした貴族将校たちの考えは全然市民には理解されていなかったのです。失敗して当然ですね。
オスマン軍のギオス島の虐殺こうして、1820年代の自由主義的運動は全て失敗に終わるのですが、一つだけ成功した運動があります。地理的には飛ぶのですがギリシアの独立運動です。ギリシアはオスマン帝国の支配下にあったのですが、ここで民族独立運動が起きる。オスマン帝国に対して利権獲得や領土的野心を持つイギリス、フランス、ロシアが援助してギリシアの独立運動は成功しました。
でも、これは、ウィーン体制の本筋とは一寸外れる事件。ギリシアと言えば、ヨーロッパ文明の源流なので、当時のヨーロッパでこの事件は大層関心を集めたようです。
ウィーン体制 おわり 次のページへ 《ウィーン体制 ２》
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