2018年09月20日
一緒に学ぼう世界史のポイント 83 《ウィーン体制 ２》
世界史講義録より
一緒に学ぼう世界史のポイント 83 《ウィーン体制 ２》
ウィーン体制 ２
革命の第二波(1830年の諸革命)
ウィーン体制の下で、ヨーロッパ中の自由主義は押さえ着けられたのですが、革命の本家本元フランスはどう為って居たのか。
ルイ18世（フランス王）ナポレオンがワーテルローで敗れ、セント＝へレナ島に流された後、ブルボン家のルイ18世が再び王位につきます。しかしブルボン朝が復活したからと言って全てをフランス革命の前の状態に戻すのは不可能です。革命やナポレオン時代を経て、フランスの経済も人々の意識も大きく変化して居ますからね。ルイ18世の下での政治形態は立憲王政。革命の成果である法の前の平等や所有権の不可侵と云う原則はそのまま認められました。
とは言っても、この時期行われた制限選挙では有権者数は人口３千万人のうち９万人。人口の僅か0.3％に過ぎませんでした。広い土地を持つ貴族とホンの一握りの上層市民による政治が行われていたのです。
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シャルル10世 (フランス王)やがてルイ18世が死亡して1824年には王の弟が即位した。シャルル10世と言います。この人は極端に反動的な思想の持ち主で、有権者の数をもっと減らしアンシャン＝レジームを復活させようと考えて居た。「イギリス王と同じ条件で王に為る位なら森の中で木を挽いている方が増しだ」などと言っている男。
シャルル10世の反動的な政治は、自由主義者との対立を激しくさせ更に経済不況や凶作が重なって民衆の暴動が頻発する様に為った。緊張が高まる中で1830年 シャルル10世は議会を解散し言論統制の強化や選挙権制限を企てます。これに対して７月 パリの民衆が武装蜂起をしました。民衆を鎮圧する筈の軍隊の一部が民衆側に寝返ってしまう程王に対する反感は強かった様です。
この中でシャルル10世は退位に追い込まれた。ウィーン体制後初めて市民の革命運動が成功したのです。この革命を七月革命と云う。
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さて、シャルル10世が退位した後、フランスの政治をどうするのか。上層市民階級はフランス革命の時のように下層市民が権力を握り恐怖政治が行われるのを恐れた。上層市民と云うのは、銀行家など莫大な財産を持つ市民達です。彼等は、シャルル10世の政治には反対だが徹底的な革命も望ま無い。自分達だけが権力を握って革命を終わらせようと考えた。
共和政を求める市民達は沢山居ましたが組織されていなかったので、七月革命の流動的な政治状況のなかで次の政権のリーダーシップを執れませんでした。そこで上層市民階級は、自分達の権力を認めて呉れる新しい王を即位させて革命を終わらせてしまった。
レストラシオン・ルイ・フィリッ王に為ったのがオルレアン家のルイ＝フィリップという男。オルレアン家は、ルイ14世の弟から始まるブルボン家の分家です。王族なんですが変わった家風の家で代々自由主義に理解があった。
ルイ＝フィリップの父親などは、フランス革命の時には国民公会の議員としてルイ16世の処刑に賛成しているんですよ。マア、チャンスがあれば自分が王位に就けると考えて居たのでしょうが。ルイ＝フィリップもジャコバン派に所属していた経歴の持ち主で自由主義に理解があった。シャルル10世を批判する自由主義者達の集会に自分の屋敷の庭園を開放したりして王族ではあるが自由主義者に人気があったのです。
上層市民階級はこの人物を王として担ぎ出した訳だ。ルイ＝フィリップの方もオルレアン家が長年望んでいた王位が手に入る訳ですから喜んで王位に就いた。七月革命で成立したフランスの政治体制を「七月王政」と言います。
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まとめ 七月革命は、シャルル10世を退位させることには成功しましたが新しい王を即位させて終わりました。上層市民階級が権力を握ったことがこの革命の成果です。
有権者の数は９万人から17万人に増えた。増えてはいるけれど国民全体から見れば未だ極僅かです。大多数の国民の間に不満が燻って居ることに注意してください。
七月革命の影響
フランスの七月革命の成功は、ウィーン体制の下で抑圧されていたヨーロッパ各国の自由主義運動に影響を与えて各地で革命運動が起こりました。1831年のウィーン会議の結果、オランダに併合されていたベルギーで独立運動が起こり、フランスやイギリスの支持を受けて独立達成。同じく1831年にはポーランドで独立運動が起こります。これはロシア軍の出動で鎮圧されて失敗に終わった。
ポーランド出身の作曲家ショパンはこの時二十歳。音楽活動の為ウィーンに滞在していた。独立運動のニュースを聞き自分も運動に参加したいと考えたのですが「お前は音楽に専念しろ、独立運動は俺たちにまかせろ」と云う父親の手紙で帰国を思い留まります。その後ショパンはパリに向かうのですが、旅の途中のシュツットガルトで、ワルシャワがロシア軍によって陥落したと云うニュースを知る。
自分の友人達が革命運動に参加して、ロシア軍に殺されたかも知れないと考えると居ても立ってもいられない気持ちに為った。怒りと絶望と悲しみと後悔のない交ぜになった感情のままパリに着いて作曲したのが、エチュード「革命」と伝えられています。一寸ピアノを習った人なら弾けるんじゃないかな。聞いてみましょう、ショパンの想いが感じられるかな。
マッツィーニ同年、ドイツとイタリアで立憲政治運動が起こりますがこれもオーストリアの鎮圧で失敗。イタリアでは、もうひとつマッツィーニと云う人物を指導者に「青年イタリア」と云う政治結社が作られました。この組織は、イタリア統一を目指してこの後長く活動を続けることに為ります。
この時期のイタリアは未だ中世さながらに小国に分裂したままです。「青年イタリア」の活動で、イタリアに統一国家・国民国家を作ろうと運動が段々本格化して行きます。この統一運動を妨害し続けるのがオーストリア。イタリアを自国の影響下に置いて置きたいオーストリアは、イタリアが小国分裂状態のままの方が都合が好いのです。この為、統一イタリアの誕生はマダマダ後の事と為ります。
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イギリスの諸改革
イギリスの政治状況はどうだったか。名誉革命後のイギリスは、急激な政治の変化を避け法律の改正によって徐々に変化して行くところに特徴があります。ヨーロッパ諸国とは別格のようなイギリスですが、やはり七月革命の影響を受けています。
先ず、宗教の自由化です。これは七月革命以前から始まっていました。1828年には審査法が廃止されています。これは国教会の信者でなければ官職に就け無いという法律でしたね。
チャールズ２世が、カトリック信者を官僚に採用し絶対主義を行おうとしたのに対抗して1673年に制定された法律です。それから150年経ち時代に合わなくなって居た訳です。但し、審査法の廃止によってカルヴァン派などは官職に就くことが出来ましたがカトリックだけは未だ差別されていました。そこで翌1829年にはカトリック教徒解放法と云う法律が作られ、カトリック信者も他の宗派と同じように官職に就く事が可能になり宗教上の差別が無くなりました。
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カトリック教徒解放法に関連して、オコンネルと云う人物を覚えておいてください。カトリック教徒の差別の問題は、実はアイルランド問題です。ここは、ちょっと ヤヤコシイかもしれませんが頭の隅に入れて置いても損はない。
ピューリタン革命の時にイギリスはアイルランドを植民地にしました。それ以来、アイルランド人はイギリスにより搾取され差別され続けて来た。このアイルランド人の宗教がカトリックなのです。だから、カトリックを差別する法律は事実上はアイルランド人に対する差別なのでした。
政治的には無権利状態に置かれたアイルランド人の中からオコンネルという人物が登場します。この人はアイルランド人のスーパースターです。若い頃にフランスに渡り勉学した後、ロンドンで弁護士資格を獲得しその後はアイルランド人の弁護に大活躍して有名になります。
やがてオコンネルは、ひとつひとつの裁判でアイルランド人を守るよりも、政治家としてアイルランド人の地位向上を目指したいと考えて1828年下院選挙に出馬し当選します。処が、オコンネルはカトリック教徒なので当選しても官職である議員に為る事が出来ないのです。
これまでオコンネルは、飽く迄も合法的にねばり強く運動をして来ました。これを「カトリックだからダメ」ではオコンネルを支持するアイルランド人の反乱が起きるのではないかと恐れたイギリス政府が、遂に宗教の自由化に踏み切ったと云うのがことの流れです。
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七月革命の影響を受けて、イギリスで行われたのが第一次選挙法改正です。イギリスでは古くから選挙が行われていましたが、選挙区の区割りが産業革命以前の古い時代に作られたもので、産業革命後の人口の変化が全然反映されて居なかった。例えば、マンチェスターやバーミンガムのような新興都市は、10万人以上の人口があっても全く議員が選出されなかった。
逆に、殆ど人がいなくなってしまった農村の選挙区から議員が選ばれたりする。極端な話、全く人がいなくなってしまった土地から議員が選ばれたりした。こう云う場合は、その土地の地主が議員に為るわけです。こういう選挙区を腐敗選挙区と云う。
古い選挙区割りで得をするのは貴族やジェントリなどの地主です。逆に、都市で経済力を着けてきた産業資本家や商工業者と言っても好いし市民階級と言っても好いですが、こう云う人達は議員を選べないし為れなかった訳です。
七月革命でフランスの市民階級が政権に参加したのを見て、イギリスでも都市商工業者が腐敗選挙区を無くし意見を国政に反映させようとした。その結果1832年、第一次選挙法改正が行われる。都市の富裕な市民階級にも選挙権が与えられた。但し、女性や工場労働者や農業労働者には選挙権は与えられなくて、有権者は全人口の4.6%に過ぎません。
それでも、産業資本家層が直接議員として国政に参加する様になった。その結果政党が再編され地主の利益を代表する保守党、商工業者の利益を代表する自由党と云う二つの政党によって政策が争われる様に為ります。大きな流れとしては、自由党が主導権を握り産業資本家に有利な法律が制定されて行きます。
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産業資本家は、自分たちの作った商品をドンドン海外に売って儲けたい。貴族やジェントリが持っている特権を無くして、誰でも自由に好きな所で商売を出来る様にしたい。簡単に言うと自由貿易を求めていた。この要求に応えて1833年、東インド会社の中国貿易独占が廃止されます。それまでは、東インド会社しか中国貿易が許されて居なかったのです。
1846年には穀物法が廃止された。穀物法と云うのは、イギリス国内の地主を守る為に外国産穀物の輸入を制限していた法律です。都市に住んでいる産業資本家にとって、国産だろうと外国産だろうと安い小麦が買えれば好い。自由貿易の方が彼らにとっては理想的な訳です。穀物法廃止に活躍した二人の政治家も覚えておこう。コブデンとブライトです。二人とも産業資本家で反穀物法同盟を結成し精力的に活動しました。
1849年には航海法が廃止。これは、1651年クロムウェルの時に作られた法律でしたね。当時ライバルであったオランダ商船を排除する為に、イギリス船で無ければ輸入を認めないと云うものでした。これもトックに時代遅れの法律でした。
このように1830年代以降、イギリスでは産業資本家が政治の主導権を握って自由主義的な改革を次々に行っていきました。
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