2018年09月20日
一緒に学ぼう世界史のポイント 81 《ナポレオン ４》
世界史講義録より
一緒に学ぼう世界史のポイント 81 《ナポレオン ４》
ナポレオン ４
ロシア遠征
1812年5月 ロシア遠征が始まりました。ナポレオンの兵力は60万。全てがフランス兵ではありません。24万はフランスの属国や同盟国から動員した兵で、初めから士気は高く無かった。ナポレオンが率いる大陸軍がニーメン川をわたりロシアの領土に侵入した時の兵力は47万5千。
ナポレオン軍はロシア軍を捕捉する為に猛スピードで走った。一日60キロの距離を30kgの装備を背負って走った。６月とは言え既に猛暑。この行軍速度についていけ無い兵士が次々に脱落して行きましたが、それは見捨てて走り続けた。最初の二日間で５万人の兵士が脱落したと云う。一刻も早くロシア軍に決戦を挑みたかったのでしょう。
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ロシア軍は、一旦は国境近くに兵力を集めますがナポレオン軍が迫ると退却を始めた。ロシアの兵力は約20万。倍以上のナポレオン軍に正面から挑んで勝てる訳が無い。逃げ出した訳です。だからナポレオン軍はドンドン追い掛ける。只、ロシア軍は退却する際に畑などを焼き払って行く。ですからナポレオン軍は食糧を現地調達出来ない。
また、ロシア農民も協力的では無い。解放軍では無く侵略軍だと見抜かれていますから、以前のイタリア民衆のようにフランス軍に好意的では無い。
８月 スモレンスクと云う町に到達した時には、ナポレオン軍の兵力は15万5千に為って居た。一度も戦闘らしい戦闘は無いのですよ。飢えと疲労と逃亡で激減したのです。
９月 退却を続けたロシア軍は、首都モスクワの手前ボロディノで初めて本格的な会戦をしました。首都防衛の為です。処がアッサリ負けて又もや退却。遂には、モスクワを放棄して更に東に逃げてしまった。ロシア皇帝を初めモスクワ市民も皆避難しました。
９月14日 ナポレオン軍はもぬけの殻となったモスクワに入城します。ナポレオンの兵力は11万に為って居ます。この時、モスクワでは大火が起こり町の大半は焼けてしまって、フランスの兵士の食糧や宿舎にも苦労する始末でした。
最強の軍隊でも敵わ無かったロシ軍しかし、敵国ロシアの首都を制圧したことには代わりは無い。ナポレオンに取ってはこれは勝利です。早速ナポレオンは、モスクワから北方に逃げ去ったロシア皇帝に降伏勧告の文書を送る。首都を占領したのだから、悪あがきはせずに早く謝りに来いと云う訳です。
処が、ロシア皇帝からの返事が待てど暮らせど来ない。外交交渉が全く進展し無いまま、モスクワで待機し続けて、一月が経った10月13日。この日、ナポレオンを驚かせる事件が起こる。何か モスクワに初雪が降ったのです。
ナポレオンの予想以上にロシアの冬は早かった。初夏に遠征を開始したフランス軍は冬の装備を持っていません。ただでさえ飢えで苦しんでいるのに、この上寒さに襲われてはモスクワ占領は継続出来ない。即座に、ナポレオンは退却を命令します。何の成果も無いままナポレオン軍は元来た道を引き返し始めました。退却時の兵力は10万。モスクワ占領の一ヶ月だけで１万減っています。
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ナポレオン軍が退却を開始すると、何処かに隠れていたロシア軍が現れて追撃を開始しました。寒さとロシア軍の攻撃に遣られてナポレオン軍は激減。11月3日には５万、11月８日 スモレンスクでは３万７千。ここでは気温はマイナス26度にまで下がっている。
フランス軍の軍服のボタンはスズで出来ている。スズと云う金属は急激な温度低下で粉々に砕けてしまう。だからフランス軍兵士は寒さの中服のボタンも留められ無い。想像を超える状態ですね。死んだ仲間の服を剥ぎ取って身に纏う、死んだ軍馬の肉を皆で食らう、味が無いので火薬を振り掛けて味付けをしたと云います。
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暖をとる為に軍旗を焼く。軍旗と云うのは敵に奪われたら指揮官が自殺しかね無いほどの部隊の名誉を象徴する重要なもので、燃やしたりしたら銃殺ものです。それを焼くのですからもう軍隊としての規律も崩壊し掛けていると云う事です。
11月26日にはベレジナ川に到達する。この川を渡らないといけないのですが、ここに来て急に寒さが緩みそれまで凍結していたベレジナ川が歩いて渉れなくなってしまった。工兵隊が死を決して氷の浮かぶ川に入り、仮設の橋を架けて何とか川を渡った。渡ることが出来たのは３万名。
後ろから迫って来るロシア軍を上手く翻弄して、橋を架ける為の時間稼ぎをしたので「ベレジナ渡河作戦」というカッコいい名前で知られていますが、要は唯々必死に逃げているだけです。
ベレジナ川をわたっている絵ベレジナ川をわたっている絵がありますが、川を渡る兵士の中に女性が混じったりしてる。当時、軍隊が遠征する時には、兵士に日用雑貨品を売る商人や売春婦なども着いて回って居た。戦争の一面が垣間見えて興味深いです。
12月10日、ニーメン川を超えてロシア領から帰還した時の兵数は僅か５千。60万で始まったロシア遠征軍が５千に為って居るのです。軍隊が消滅したと言って好い。ナポレオンの権力を支えていた軍隊が消えてしまったのです。ロシア遠征は大失敗に終わりました。
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ナポレオンの最後
諸国民戦争記念碑ナポレオンの支配に不満を持つヨーロッパ諸国に取ってこれ以上のチャンスはありません。ヨーロッパ諸国は、反ナポレオンの連合軍を結成しナポレオンに止めを刺す。これがライプツィヒの戦い 別名諸国民戦争。
連合軍の主力は、ロシア・オーストリア・プロイセンで兵力は30万 対するフランスは18万。ロシア遠征で軍団が消滅したにも関わらず好く集めたとも言えますが、急遽召集された兵士たちで訓練も充分では無い。
実際の処、フランス国内では厭戦気分が蔓延していて兵士集めに苦労します。政府が召集した数は42万。しかし実際に出頭して来た若者は17万５千しか居ませんでした。多くの若者が徴兵命令を無視して逃げてしまったのですね。「上の息子はロシアに駆り出されて帰って来なかったのに下の息子まで引っ張るのかい！もう沢山だ」と云うのがフランスのお母ちゃんたちの偽らざる気持ちです。
ロシア遠征以前の1810年には、既に徴兵忌避者３万２千脱走兵３万と云う記録がありますから、ナポレオンの栄光とは裏腹に長びく戦争にウンザリしていたフランス国民が沢山いたのでしょう。徴兵逃れの為に、自分で前歯を折ったり親指を切断する者が多く出たと云います。
当時の銃は、火薬袋を前歯で噛み切って銃に火薬を装填した。だから、前歯が無ければ徴兵され無いというのです。前歯だけでは心配と云う者は親指まで落としてしまった。これでは銃が握れません。当然徴兵免除ですね。又、妻帯者は徴兵免除されると云うので急いで結婚する若者も多かった。村の若い娘は引っ張りだこ。若い娘がいないので60歳の女性と結婚した18歳の若者がいたと云う記録もある。
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諸国民戦争とエルバ島配流そんな状態で、描き集められたフランス軍は以前のような優位性がありません。ライプツィヒの戦いでフランス軍は敗北しナポレオンはパリに逃げ帰り、これを追って連合軍もパリに進軍。ナポレオンは最後の抵抗を考えましたが、側近の将軍達に退位を迫られて抵抗を諦めた。遂に1814年３月 パリは連合軍に占領されました。
降伏したナポレオンはどうなったかと云うと島流し。流されたのはエルバ島と云う地中海に浮かぶ小島。但し、曲がり為りにも皇帝の地位にあった人物ですから、連合国はナポレオンの名誉を重んじてエルバ島の「皇帝」の称号と島の統治を許されます。又200フランの年金と1200名の近衛兵も与えられた。マアマア寛大な処置だと思います。
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フランスには、革命で処刑されたルイ16世の弟が亡命先から帰って来てルイ18世として即位。ブルボン王朝を復活させました。処が、このルイ18世はスコブル人気が無い。傲慢で頑固なお爺さんだった。ルイ18世に外務大臣として仕えたタレイランはこんなことを書いています。
「ルイ18世はおよそこの世で知る限り、極めつきの嘘つきである。1814年以来、私が王と初対面の折りに感じた失望は、とても口では言い表せ無い。…私がルイ18世に見たものは、何時もエゴイズム、鈍感、享楽家、恩知らず、と言った処だ」
エルバ島を脱出大臣からこんなことを言われるのだからヨッポドだったんでしょう。余りにも不人気な王で国民の評判も悪い。こんな王ならばナポレオンの方が好かったと云う声がエルバ島で暮らすナポレオンの耳にも入る。チャンスは未だあると考えたナポレオンは、1815年２月24日 側近を引き連れて７隻の舟でエルバ島を脱出しました。向かう先はフランス南海岸。
ナポレオン脱出のニュースは直ぐにパリに伝えられ、ルイ18世は、上陸するナポレオンを逮捕する為に、軍隊を南仏に派遣します。軍隊が待ちかまえている中をナポレオンは遣って来るのですが、ナポレオンに「栄光あるフランスの兵士諸君、余は帰って来た。共に、フランスの栄光を取り戻そう」何て言われて、逮捕する処かナポレオンの指揮下に入ってしまうのね。
この辺はナポレオンのカリスマ力爆発です。ルイ18世は、次々と軍隊を差し向けるのですがナポレオンはそれを全部自分の味方にしてしまってパリに向かって進軍します。到頭、ルイ18世は恐れを為して逃げ出した。３月 ナポレオンはパリに帰還し再び皇帝の座に返り咲きます。
ナポレオン ワーテルローの戦い | 送料無料 マウンテンバイク 26インチ M-670 （MTB 折りたたみ 自転車 シティサイクル サイクルリング 街乗り オフロード サスペンション） おしゃれ 北欧 出産 結婚祝い敬老の日 ギフト 価格:30,800円 |
直ぐさま、イギリスとプロイセン等によって連合軍が結成されナポレオンとの最後の戦いが行われた。これがワーテルローの戦い（1815年６月）です。
ナポレオン率いるフランス軍の兵力は約10万。対する連合国はイギリス軍６万８千とプロイセン軍４万５千。総司令官はイギリスのウェリントン将軍です。この最後の決戦でナポレオンは負けてしまう。有名な戦いなので敗北の原因を色々な人が研究している。この時、ナポレオンは病気で判断力が鈍かったとか、前日の豪雨で地面が泥濘、得意の砲兵部隊を思うように活用出来なかったとかね。
ウエリントン将軍の肖像画ワーテルローでフランス軍とイギリス軍が激突したのが６月18日。実はその二日前の６月16日に、リニーという場所でフランス軍とプロイセン軍が戦いました。この時はフランスが勝ってプロイセン軍は麦畑の中を散り散りに為って敗走した。
ナポレオンは３万３千の別働隊をグルーシー将軍に指揮させてプロイセン軍を殲滅する為追わせた。一昔前のプロイセン軍為らば、一旦散り散りに為ったら兵士は何処かへ逃げてソレッキリです。処が、プロイセン改革を経てプロイセン軍は生まれ代わって居る。逃げた兵士たちは又指揮官の元に集結して整然と退却を始めた。グルーシーはプロイセン軍を捕捉することが出来ないまま追い続けた。
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６月18日、ワーテルローでフランス軍主力とイギリス軍が戦闘を開始した時、グルーシー将軍の別働隊は未だ帰って来ていない。戦いはフランス軍優勢で進むのですが、グルーシーの３万３千が今ここに帰って来れば一気に決着が就くとナポレオンは首を長くして待っている。処が、夕方に為ってワーテルローに現れた軍団は逃げた筈のプロイセン軍でした。形勢は一気に逆転して結局フランス軍は負けてしまった。グルーシーの別働隊は到頭現れ無いままでした。
兵士の士気の高さが最早フランス軍の専売特許では無くなっているのだから、ナポレオンは負けるべくして負けたと言って好いかもしれない。この敗北でナポレオンは再び退位して又もや島流しに為る。今度は簡単に脱出出来ないように、大西洋の絶海の孤島セント＝へレナ島に流された。同行を許されたのは12名の従者のみで、イギリスによる厳重な監視着きです。
1821年に52歳で死亡これ以後、ナポレオンは何もすることが無いので一日中島のなかを歩き回ったり自分の生涯を従者にしゃべって暮らした。島流しの僅か６年後の1821年に52歳で死亡。病死ですがイギリス人に毒を盛られて死んだと云う説が有力です。
死後、従者がナポレオンの回想録を出版する。この回想録が切っ掛けに為ってナポレオン英雄伝説が広く行き渡るように為りました。
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最後にナポレオンの発言を幾つか紹介して置こう
「我が権力は、我が名誉に由来し、名誉は戦勝に由来する」戦争に勝ち続け無ければ権力を維持出来なかったナポレオンの運命を、自分自身好くわかって居たのですね。
「運命の女神など振り向いて呉れなくても、世界を完全に制覇してみせる」傲慢と言えば、これ以上傲慢な発言は無いかもしれない。
「余のごとく戦場で大人に為った男には、百万の人命も気に為らぬ」これも又偉く傲慢。これが戦争指揮官の本音か。
「余の部隊の忠誠と服従に期待している。兵士無くしては余は何も出来ない。彼等が居なければ余は普通の人間と少しも変わるところは無い」これは、打って変わって謙虚。兵士の前での演説か。
「余はフランス産業を創造した」「余の名誉は40度の戦勝よりも、法典にある」「ジョセフィーヌ！」 これは、死を前にしたナポレオン最後の言葉。ヤッパリ、一番愛していたのはジョセフィーヌ？
今度は、ナポレオンについての発言。同時代の人々が彼のことをどう考えていたのか
「ナポレオンが善玉か悪玉かと好く訊かれるが、こうした分類はこの人物には当て嵌まらない」(メッテルニヒ）
「ナポレオンの人間に対する姿勢は軽蔑であり、人間を従える手段は金銭と栄光である。その人間観は物欲と虚栄に裏打ちされている」 （ルドヴィッヒ）
「彼は一度として思いやりの情を持ったことが無い。為に、人付き合いは無愛想であり友達というものは得られ無かったのである。ナポレオンの無感動な性格というものはその波乱に満ちた生涯のあらゆる時期を通じて際立った特徴である」（シャプタル）
「ナポレオンには二つの人間が同居している。一つは素晴らしい才能の持ち主だけれども、もう一つは常に人を疑いそして相手に対する信頼と云うものを絶対に持た無い、認め無い人だ」（マダム・ド・レミューザ）
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最後に、ナポレオンの戦争によるフランスの戦死者数を挙げて ます。
1805年〜09年 198,000名
1810年〜14年 555,000名
1815年 30,000名
1805年からの合計千死者数 783,000名
参考図書紹介・・・・もう少し詳しく知りたい時は
1812年の雪―モスクワからの敗走講談社文庫 両角 良彦 著。題名の通り、ナポレオンのロシア遠征を描く。
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