2018年07月30日
易しく解説 イスラム社会 その2
その2
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アッバース朝
預言者ムハンマドの近親者でアブル＝アッバースと云う男が居た。この人はムハンマドの叔父さんの家系でイスラム教の指導者層の一人な訳だ。だから、自分もカリフに為る資格が在ると思って居て機会を狙って居た。
彼はイラン人シーア派の反ウマイヤ運動を利用して反乱を起こしウマイヤ朝を倒すのに成功した（750）。この新王朝をアッバース朝と云う。首都はバグダードです。
アッバース朝はアラブ人至上主義を批判する勢力の協力で建てられたので民族差別を辞める。全てイスラム教徒は同じ扱いにします。
具体的にはアラブ人の特権を廃止して、それ迄払わ無くても好かった土地税を課税する。政府の要職にイラン人を登用する。イラン人とはペルシア人の事です。彼等はアケメネス朝・ササン朝と云う大帝国を作って来た民族でしょ。行政手腕を含めて非常に高い文化を持って居る訳です。
彼等イラン人の力も加わってアッバース朝は中央集権化・官僚制度の整備を行って行きました。アラブ帝国と呼ばれたウマイヤ朝と対比してアッバース朝の事をイスラム帝国と云う事も在ります。アラブ人の国からイスラム教徒の国に為ったと云うニュアンスです。正統カリフ時代、ウマイヤ朝と発展して来たイスラムの総まとめの国です。
アッバース朝以後現代迄、イスラムの国は無数に在るのですが、イスラム世界がほぼ一つに纏まって居た最後の時代です。アッバース朝以後イスラム世界は政治的に多様化して行くのです。ムハンマドが無くなって百数十年、ムハンマドを直接知る人は居なく為ったけれど、イスラム共同体＝ウンマの理念が実体として感じられた最後の時代だと思います。
最盛期は８世紀後半、第五代カリフ、ハールーン＝アッラシードの時代です。アッバース朝は、10世紀以降は衰退して名目だけの存在に為るのですが、アッバース朝のカリフは宗教的な権威としてイスラム教徒の中で特別な存在であり続けるのです。
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(個別受験用暗記項目です)
首都バグダードを建設したのは第二代カリフ、マンスール。バグダードには「知恵の館」と云う総合学術機関が作られてイスラム世界の学問芸術の中心と為った。対外関係として751年のタラス河畔の戦い。中央アジアでアッバース朝が唐の軍隊を破った。この時の中国人捕虜から製紙法が西アジアに伝わった。
アッバース朝は軍事力として中央アジアのトルコ系遊牧民を導入した。彼等は騎馬戦術に優れて居て兵士として有能だったのですね。８世紀位から中国でもトルコ系軍人は大活躍で、安史の乱の安禄山もトルコ系ですしそれを鎮圧したウイグル人もトルコ系、五代十国時代の皇帝や軍人の中にもトルコ系の人が可なり居る。
アッバース朝は奴隷としてトルコ系遊牧民を買って軍人としました。この奴隷軍人の事をマムルークと云う。身分は奴隷ですが功績が在れば富も軍人としての地位も手に入れる事が出来る。古代ローマの奴隷の様に鞭でビシビシ打たれて居る人達ではありません。これ以降、マムルークはイスラムの歴史の中でドンドン活躍するから確り覚えて置いて下さい。
アッバース朝は領土が広過ぎたので、10世紀以降は地方の総督・軍人や周辺民族等が自立して王朝としての実体は無く為って行きますが宗教的権威だけで生き延びる。このアッバース朝を最終的に滅ぼすのがカリフの宗教的権威に全然無頓着なモンゴルのフラグでした（1258）。
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イスラム世界の拡大と多様化
イスラム帝国の分裂
広大な領土を支配したアッバース朝ですが直ぐに分裂が始まります。イスラム共同体が現実の世界で一つだったのはアッバース朝の極初期迄の事でした。
１ 後ウマイヤ朝
アブル＝アッバースが反乱に成功して、アッバース朝を建てた時にウマイヤ朝の王族を皆殺しにしました。この時只一人ダマスカスから脱出するのに成功した二十歳の王族が居て、彼は追っ手から逃げて逃げて逃げ捲る。
北アフリカに何年か潜伏した後、イベリア半島に渡ってこの地域に新王朝を建国する事に成功します。これが後ウマイヤ朝（756〜1031）です。首都はコルドバ。一つで在ったイスラム世界が分裂する最初です。
２ サーマン朝（874〜999）首都ブハラ
アッバース朝の都はバグダードでしたが、遠い地方には段々統制が及ば無く為る。イスラム化した遠方の民族から自立化が始まります。その最初がサーマン朝。サーマン朝はイラン系のイスラム国家です。アッバース朝の領土内で自立したと考えて下さい。入試的には「初のイラン系イスラム国家は何か」答え「サーマン朝」それだけでオーケイです。
３ ブワイフ朝（932〜1055）
イラン系シーア派の政権。シーア派と云う点は覚えて置く事。このブワイフ朝はイランで独立政権を建てた後、勢力圏を拡大して946年にはバグダードを占領した。バグダードにはアッバース朝のカリフが居るのですが、ブワイフ朝の君主はこれを殺さ無いのです。
そのまま生かして置く。カリフは単なる王や皇帝では無くて、イスラム教のシンボル、ムハンマドの後継者ですから簡単には殺せ無い。逆に生かして置いて、そのカリフから大アミールと云う称号を貰ってイラン・イラク地方を支配する事を正当化します。大アミールと云うのは大将軍と言う様な意味。
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非常に理解し難いのですが、アッバース朝の中にブワイフ朝がある。二つの王朝が重なり合って居るのです。実は、これは私達には馴染み深いんですよ。天皇と幕府の関係にソックリなのです。
カリフはイスラム教徒には天皇と同じ。ブワイフ朝は差し詰め鎌倉幕府か室町幕府と言った処です。天皇もカリフも権力は無い。権力は無いけれど権威は在る。だから実力者に取ってはその権威を利用した方が得なのです。
イクター制と云う制度もブワイフ朝と結び付けて覚えて置く。ブワイフ朝は武力が在ったからアッバース朝を事実上乗っ取る事が出來ましたが高度な統治技術はありません。
中央行政機関と官僚組織を使い支配地から徴税する能力が無い。そこで、中央政府としては税金を集めるのを辞めてしまった。徴税をしないから軍人に俸給も払え無い。だから俸給を払う代わりに配下の軍人達に徴税権を与えた。「お前はこの村から、お前はあの村から税金を取れ」と、夫々の軍人が税金を取る農村の割り当てを決めた。これがイクター制です。
土地そのものを領地として軍人に与えれば封建制ですが、ブワイフ朝が与えたのは飽く迄も「徴税権」だけです。このヤリ方は便利だったらしくこの後も幾つかの王朝で似た様な制度が繰り返し行われて居ます。
トルコ民族の活躍
１ カラ＝ハン朝（940〜1132） 首都ブハラ
アッバース朝ではトルコ系の奴隷を軍人として活用したと言いました。マムルークと呼ばれるこの奴隷軍人の活躍を切っ掛けとして徐々にトルコ民族の間にもイスラム教が浸透して行きます。マムルークとして、初めは個人単位で改宗やイスラム世界への移住が行われますが、やがて部族単位でイスラムに改宗して独自の政権を打ち立てるトルコ民族が現れ始めます。
その最初がカラ＝ハン朝。サーマン朝を滅ぼして居ます。入試的には「中央アジア初のトルコ系王朝」と覚えて置けば好い。
２ セルジューク朝（1038〜1157）
これもトルコ系の王朝。アラル海に注ぐシル河河口辺りで建国。トゥグリル＝ベグと云う君主の時にイラク方面に進撃、ブワイフ朝を倒してバグダードに入城しました。
セルジューク朝もアッバース朝のカリフを残して置いて、彼からスルタンと云う称号を受けます(1058）。これ以後スルタンと云う名称はイスラム世界では皇帝とか大王と言った感じで好く使われる様に為ります。日本風に無理矢理訳せば征夷大将軍ですね。
セルジューク朝はブワイフ朝からイクター制を受け継いで繁栄しました。領土も拡大する。小アジア地方はビザンツ帝国の領土で未だイスラム勢力が入り込んで居なかったのですが、セルジューク朝はイスラムとして初めてこの地域を領土に組み入れたのです。
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吃驚したのがビザンツ帝国。首都コンスタンティノープルの目と鼻の先迄イスラムが進出して来た。ビザンツ帝国と云うのは東ローマ帝国の馴れの果て、領土は小さく為って居ますが同じものです。だから、宗教はキリスト教。西ローマ帝国は既に滅んで居ますが、西方ではローマ教会が西ヨーロッパ人の信仰の中心に為っている。
そこで、ビザンツ皇帝は同じキリスト教の誼でローマ教会に助けを求めたのです。これに応えてやがてヨーロッパの王や諸侯の軍隊が何度もイスラム世界に攻め込んで来る事に為りました。この西ヨーロッパからの遠征軍を十字軍と言います。今は一応「セルジューク朝の小アジア進出が十字軍の原因の一つである」と受験的に覚えて下さい。
セルジューク朝で覚え無ければ行け無い人名がニザーム＝アルムルク（1018〜92）。宰相です。セルジューク朝の最盛期を現出した。各地に「ニザーミア学院」と云う大学を設立した。これも受験知識。
３ ホラズム朝（？〜1221）
セルジューク朝から任命されたマムルークの地方長官が自立して出来た王朝。中央アジアからイランに掛けて広い領土を支配して東西の交通網を押さえて繁栄しました。しかし、この王朝は最盛期に為る処で東から遣って来たモンゴルに滅ぼされました。
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エジプト
エジプトもやがてアッバース朝から自立します。エジプトに出来たイスラム王朝は三つ覚えれば好い。ファーティマ朝・アイユーブ朝・マムルーク朝です。
１ ファーティマ朝（909〜1171）首都カイロ
ファーティマと云うのはムハンマドの娘の名前です。建国者がファーティマと第四代正統カリフのアリーの血筋を引いて居ると自称して居るのでこう呼ばれて居ます。だからシーア派の王朝です。アッバース朝はスンナ派ですから対抗上都合が好い。スンナ派のカリフ等は認めませんから、ファーティマ朝の君主はカリフと云う称号を名乗りました。
イスラムは一つと云う理念が在ったので、それ迄もアッバース朝に対立する政権が出来てもアミール（将軍）位の称号で満足して居た。アッバース朝のカリフが居るのにカリフを名乗るのはタブーだったんですが、それを平気で破ってしまった。日本で言えば天皇家が二つ出来た南北朝の様なものです。
しかし、一度タブーが破られてしまったらその後は余り抵抗が無いもので、ファーティマ朝の君主がカリフを称した直ぐ後に、イベリア半島に在った後ウマイヤ朝のアブド＝アッラフマーン３世がカリフを自称しました。
この時点でイスラム世界に、アッバース朝・ファーティマ朝・後ウマイヤ朝と三人のカリフが出現した事に為ります。
２ アイユーブ朝（1169〜1250）首都カイロ
建国者サラーフ＝アッディーンはファーティマ朝の宰相だった。この人はアラブ人でもエジプト人でも無くクルド人です。クルド人は現在でもトルコ・イラク・イランの国境地帯に住む民族です。イスラム世界と云うのは人の移動が活発なのですね。
サラーフ＝アッディーンはスンナ派です。この人は十字軍と戦った事で有名。イスラム教徒を悪く言うのが普通のヨーロッパの武将達が彼の事だけは武人の鏡として誉めて居ます。
十字軍に参加したヨーロッパ人の兵士達が、イスラム教徒に対して虐殺行為や裏切りを散々遣ったのに対してサラーフ＝アッディーンはキリスト教徒に対しても正義と公正さを失わず、その立派な態度に多くの十字軍兵士が感銘を受けた様です。
その上、戦争も上手で十字軍に奪われて居た聖地イェルサレムをイスラムの手に取り戻しています（1187）。イスラムのスーパースターです。
３ マムルーク朝（1250〜1517）首都カイロ
アイユーブ朝のマムルークの奴隷軍団がクーデタを起こして建てたのがマムルーク朝。名前のままです。この王朝は初めはパッとし無いのですが、丁度モンゴル軍が西アジアに侵入して来る時期と重為った。フラグの率いるモンゴル軍はアッバース朝を滅ぼして、その勢いでエジプトにも侵入を試みるのです。マムルーク朝の軍隊がこれを迎え撃って偶々勝ってしまった。
この勝利でイスラム世界でのマムルーク朝の権威が一気に高まるのです。又、十字軍の残存勢力をシリアから駆逐した。アッバース朝の滅亡に依って、イスラムの中心がバグダードからカイロに移動する。カイロが東西交易の中継点と為ってマムルーク朝は非常に栄えました。この時期のイスラム国家の代表格と言って好いです。イクター制を導入した事も受験的には覚えて置く事。
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北アフリカ西部・イベリア半島
１ 後ウマイヤ朝（756〜1031）首都コルドバ
この王朝に関しては既に話しました。10世紀、カリフを称したアブド＝アッラフマーン３世の時が最盛期です。
２ ムラービト朝（1056〜1147）
北アフリカからイベリア半島に領土を持った王朝。エジプトのファーティマ朝と対立関係に在った。スンナ派です。この国を建てたのはベルベル人。北アフリカの土着の民族をベルベル人と云う。ベルベル人のイスラム国家が出来たと云う事は、北アフリカでも民族の違いを越えてイスラムが浸透して来た事を現して居る訳です。だから、この王朝はベルベル人と結びつけて覚える事。
3 ムワッヒド朝（1130〜1269）
ムラービト朝を滅ぼした、もう一つのベルベル人イスラム王朝。ベルベル人王朝としては領土は最大です。
４ ナスル朝（1230〜1492）首都グラナダ
後ウマイヤ朝以来イベリア半島には幾つかのイスラム王朝が出来るのですが、これは常に北辺のキリスト教の土豪達と領土争いを繰り返して居ました。徐々にキリスト教勢力が強く為り、イスラムの支配地域はジリジリと半島の南に追い詰められて行くのですが、ナスル朝はイベリア半島最後のイスラム王朝として有名。
首都グラナダにはかの有名なアルハンブラ宮殿が在った。今でも観光地として有名。それよりもギターの名曲「アルハンブラ宮殿の思いで」の方が有名かも知れませんね。そんな曲知ら無いと云う人でも聞けば判ります。
もう一つ、この国が1492年に滅んでイベリア半島は完全にキリスト教の地域に為るのですが、滅ぼしたのはスペイン。同じ年にスペインが送り出したコロンブスの船団がアメリカに到達して居ます。この二つの出来事は結び着けて覚えて居て下さい。
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アフガニスタン・インド
１ ガズナ朝（962〜1186）サーマン朝のマムルーク地方軍司令官が自立して出来た王朝です。場所は現在のアフガニスタン。
２ ゴール朝（1148〜1215）アフガニスタン東部に居た地方支配者がガズナ朝から自立して建国した国です。この国は盛んにインド北部に侵入します。インドは豊かだから略奪目的です。ですが、この事でインドにも徐々にイスラムが広がって行きました。
３ 奴隷王朝（1206〜1290）首都デリー これはインドに侵入したゴール朝の将軍アイバクがアフガニスタンに帰らずにインドに居座って建てた王朝です。アイバクはマムルークだったので奴隷王朝と呼ばれて居ます。
この名称はマムルークに対して誤解を与え易い呼び方だと思います。マムルークは確かに奴隷身分では在るけれど専門の訓練を受けたエリートです。奴隷と云う言葉から受けるイメージと実態とギャップが在りますね。インド初のイスラム王朝と云う事で確り覚えて下さい。
奴隷王朝の後もデリーを首都としてイスラム王朝が続きます。奴隷・ハルジー・トゥグルク・サイイド・ロディーと云う王朝ですが、これらを纏めてデリー＝スルタン朝と呼んで居ます。デリーに在るイスラム王朝と云う意味です。
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まとめ
広い地域に渉って、沢山の王朝名が出て来てイライラしますね。でも、これは頑張って全部覚える事に為って居る。
アッバース朝以後イスラム世界は分裂して多くの地方政権が出來ます。この中で、カラ＝ハン朝・セルジューク朝・ホラズム朝・マムルーク朝・ガズナ朝・ゴール朝・奴隷王朝等ロディー朝以外のデリー＝スルタン朝はトルコ系王朝です。
トルコ人が軍人としてイスラム世界に急速に広がって行く傾向が判ると思います。こうしてアラブ人に代わりイスラム世界の主人公に為って行きます。
スンナ派、シーア派と云う事が試験では問題に為ります。今日の中ではブワイフ朝とファーティマ朝だけがシーア派、後は全てスンナ派です。
イスラムの社会 おわり
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