2018年06月28日
一兵士の戦争体験 その18
その18
◆女性哀れ
このペグー山系で米が無く為り糧秣収集も上手く行か無い頃、看護婦であったか誰であったか知ら無いが、婦人三名ばかりが、それも兵隊の汚れた服を着て山道を喘ぐ様に嫌這う様にして居た。泥に汚れ血の気の無い顔をし本当に痛ましい姿である。
「兵隊さんお米が無いの、助けて下さい」と哀願したが、我々自身が自分の身体を運んで行く事さえ出来兼ねて居た時でもあり、やっとお粥で飢えを凌いで居た状況で、可哀相(かわいそう)にと思ったがどうする事も出来ず別れた。
御国の為に御奉公をと誓いながらここ迄来て、この様な哀れな姿に為り気の毒で可哀相で為ら無かった。その後再び彼女達の姿を見る事は無かった。当時の状況場所等から恐らく助かって居ないだろう・・・・心が痛む。泥に塗れ垢に汚れ、痩せ衰えヨロメキナガラ歩いて居た女性達の姿を私は一生忘れる事が出来ない。戦争、負け戦は苦しく悲惨で悲しいものである。
◆迫撃(はくげき)砲弾(ほうだん)炸裂(さくれつ)
次の日の昼の事である。突如、迫撃砲弾が山の中で樹木に覆われ絶対見え無いだろうと遮蔽して居る我が中隊を目掛けて飛んで来た。確に弾が落ちて来た。
こちらからは何処から撃って来ているのか見当も着か無い。迫撃砲弾は放物線(ほうぶつせん)を描いて来るから、見え無い向こうの谷から発射し弾は途中の山を弧を描いて此方の谷に、斜め上の方から落ちて来る事に為るのだ。
敵はどうしてこんなに正確に我々が隠れて居る所が分かるのだろうか。最近飛行機が私達の隠れ場所の上に飛んで着たり、偵察飛行に来た様子は無いのにどうしてこんなに正確に撃って来るのか分ら無い。
真面に砲弾はヒュル〜 ヒュル〜 ヒユル〜と音がして落下しパン パン パンと癇高(かんだか)い音がして炸裂(さくれつ)するのだ。思い掛け無い攻撃を受け私は何処へ避難しようかと慌てたが、少し先に五メートル四角位の大きな岩があり、それが半分に割れて居り、丁度人間が入れる程度の裂目が自然に出来て居たのを予め見て居たので咄嗟に思い出しその割れ目に滑り込んだ。願っても無い程好い場所で、余程の事が無い限りこの裂目に弾が落ちて来る事は無いと思った。
息つく暇も無く、ヒュル〜 ヒュル〜 ヒュル〜 パン パン パンと引っ切り無しの集中攻撃である。ピン ピン ピンと炸裂音が耳の鼓膜(こまく)を襲う。激しい勢いである。
土煙と硝煙(しょうえん)の臭いが岩の割れ目に流れて来る。皆はどうして居るのだろうか。誰の声もしない、じっと耐えて居るのだろうか。その内の一発が直ぐ近くで炸烈した。生きた心地は無く思わずお守りを持って居るかと確かめた。
微かに「やられた」とか「ウウン」と叫ぶ声が聞こえた。約二十分間続いただろうか、迫撃砲の攻撃は終わった。
しかし、私は暫く岩の間から出て行く気に為れ無かった。次第に兵士達の声が多く聞かれる様に為ってから外へ出てみた。その辺りの木の枝は折れ葉は飛び散り幹も裂かれ様子が一変して居た。皆の居る所に行ってみると、隣の十一班の班長である山本嘉兵衛兵長が首を遣られ一筋の血が流れ出て居る。破片が首に入り「痛い、痛い」と首を押さえている。
私は三角布を出しガーゼで血を拭き、リバノールをガーゼに湿(しめ)しその上を押さえた。大体流れる血は止まったがガーゼに血が滲んで出て来る。私は首だから助から無いのでは無いかと思うし、山本班長自身も首から出る血を見て助から無いと思った様である。
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しかし首の中でも致命的な部分から三、四ミリ外れて居たのであろう、命を落とさずに済んだのだが、山本班長はこの傷の為に以後の転進や行軍で非常に苦労をされたのである。その傷を庇う為装具や兵器を背負うにも非常に気を使い、傷が化膿(かのう)し無い様に手当てをし無くては為ら無い。しかも薬は無く天候は悪いし、疲労して体力は弱って居り毎日の行軍で傷は治ら無い。
傷口に蛆(うじ)が湧か無い様にしなければ為らず大変だが、彼は終戦の日まで良くぞ頑張って来られた。戦後収容所生活中、何時も首を傾けて居たがそのまま固まったのであろう。
戦後、俘虜(ふりょ)生活中にも、又復員後もこの破片を取り出す手術をしたものかどうかと考えられた様だが、危険な場所なので不自由ながらそのまま今日まで生活されて来た。
・・・最近の戦友会の会合の時にも「わしはよう助かったのだ。首を遣られ駄目だと思った。転進中蛆虫が湧いて多くの人が苦しんだが俺は幸運だった。皆に助けて貰い感謝する」と言って居られた。
又、この迫撃砲の攻撃で左肺上部を撃ち抜かれた中村上等兵が、ふら〜っ ふら〜っと私達の所へ歩いて来た。顔は蒼白で襦袢(じゅばん)は胸の所に血がベットリと着きギラギラと光って居る。襦袢は次第に大きく血で彩(いろど)られて行き、我々の所に辿り着くと同時にバッタリと俯せに倒れた。背中の側にも血が出て、血塗られた襦袢が体にベットリと着いて居た。伏せたままで「苦しい、苦しい」と言って居る。
我々は、余りにも大きい負傷の為どうして好いか分からず唖然とするばかりであった。そこへ志水衛生下士官が来て「皆の携帯する包帯と三角布で傷の所を縛(しば)ってやれ」と怒鳴った。皆で中村上等兵を抱き起こし襦袢を要約脱がせたが、深い傷が前から背中まで通って居る様でどす黒いドロドロとした血が固まり掛け体中血だらけで呼吸の度に血が滲み出て来る。
私は気持ちが悪く為り顔を背けた。志水衛生軍曹が応急の手当をしたがガーゼは直ぐに真っ赤に染まってしまった。頭を高くし仰向けに寝かせたが彼は興奮の為震え、顔は苦痛の為歪(ゆが)んで居た。 「休んでおれ、治るさ」「元気を出すんだ」と志水衛生下士官は大きな声で言い、もう駄目だろうと思っても、駄目だとは決して言わ無かった。
中村上等兵は私の隣の班で、古年兵であったが、私の郷里と同じ赤磐郡(あかいわぐん)で旧西山村(現在は山陽町・記憶が間違って居るかも知れ無いが)の出身だと聞いて居ただけに格別親しさを感じて居た。血塗られたこの姿に苦しいだろうナアと気の毒で為ら無かった。
今でも山陽町の辺りを通ると、一瞬彼の事が脳裏を掠める。又、三木兵長と山岡上等兵は先日分捕(ぶんど)って来た牛を殺して、肉の料理を始めた処を迫撃砲の直撃を受け即死したのである。
三木兵長は炊事班の班長として中隊全体の賄(まかな)いを長い間手がけて来たが、中々上手に料理を作り、皆から三木さん三木さんと慕われて居た。激戦中は銘々飯盒で炊くのだが、戦況が落ちついて居る時は三木兵長が纏めて炊事をして呉れたのである。
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この日も牛を捌くまでは彼の仕事と考え、山岡上等兵の協力を得て遣って居たのだが、そこを襲われたのである。 長い間マラリヤに罹(かか)る事も無く元気で、炊事の料理長役で中隊を支えて呉れて居たのに、砲弾の破片が帽子を貫き右の頭に入って居りアッと云う間も無く散って行かれたのである。
山岡上等兵も三木兵長と同時に即死したのだが、殺した牛の傍らで今まで元気だった二人がこの様に為ってしまい我々にはどうする事も出来ない。
三木さん、貴方はその日も中隊全員に肉の料理を食わせて遣ろう、衰弱した兵士に少しでも栄養のある牛肉でスタミナを着けて遣ろうと一生懸命に炊事班長としての本分を尽くして居られた。その最中の出来事故、責めても本望であったのでは無いかと敢えて慰めの言葉を探して捧げたい。日焼けした丸顔、前歯の金が好く似合い、大鍋の汁の味見をされて居た姿が今も目に浮かんで来る。
野宿の場所も敵に見つかってしまったし、これ以上糧秣収集する事は出来ず、ここに居れば居る程、攻撃を受けるだけである。
我が中隊は一刻も早くここを引き払い、師団司令部本隊に合流し無ければ為らない。師団司令部はこの頃ペグー山系の中程に宿営し他の地点に集結しその方面からシッタン平野に出る予定にして居た。我らの中隊は糧秣を集める為に今の地点に来て居たのだが、山系中程の司令部の所迄引き返し更に師団司令部が転進した後を追い他の集結地点に行かねば為ら無いのである。そして、その集結地点からシッタン平野に出る事に為るのである。
結局我が中隊は山の中を、行ったり来たりで十日も十五日も余分に歩か無ければ為らないのだが、総て師団からの命令であり仕方の無い事である。
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◆ペグー山系を引き返す転進命令
手島中隊長から出発の命令が出された。引き返しとは、ペグー山系を東から西に逆に登って行くのだ。夕方からの出発予定を更に早め、直ちに出発と為り銘々米を分けて運べる様にしたり兵器や装具を纏めた。
これから元来た道を山系の真ん中辺り迄引き返し、そこから分かれ山の中を迂回して他の地点に集結し以後、別ルートをシッタン平野に向けて出るそうだが、十日間もの行軍が又始まるとの事である。
全く、ウンザリだ。アア、又あの泥濘の道の行軍か、裸足(はだし)の行軍が続くのかと思うと悲壮な気持ちに為った。あの死の行軍が続くのかと思っただけでも堪ら無い。
しかし、今の地点から糧秣収集したシッタン平野に出てここを東に通り抜けるには、敵の警備が厳重で敵弾に遣られる事は明々白々だとの上層部の見解と判断だから仕方の無い事である。
出発準備が出来た。その時、中村上等兵は動けず歩いて着いて行け無い。今誰一人として元気な者は居らず、担架に乗せて運ぶ事など到底考えられぬ。皆自分の体が運べ無くて次々に死んで居る状況である。
手島中隊長は、師団そして聯隊長の命令により中隊を指揮して行かねば為らない。中隊長は「行軍に着いて行け無い者は仕方が無い」「片岡軍曹はその旨を、中村上等兵に伝えよ」と命令した。
片岡邦夫軍曹は中隊長の命令であり、中隊としてもそうし無ければなら無いのだとは分かって居たが、悪い役を仰せ遣ったものである。躊躇(ちゅうちょ)する暇は無い。中村上等兵が横たわって居る所に行って静かに言った。
「中隊は再び、山の中に逆戻りし行軍する事に為った。これから出発するがどうするか?」「着いて行けるか?」
暫く黙って居た中村上等兵は「着いて行けません」と答え、又暫く沈黙が続いた。「自分はもう動け無い、どうすれば好いか教えて下さい」と言った。彼の体は重傷を負い自分の装具や兵器、自決用の手榴弾を置いて居る場所迄取りに行く事さえも出来ないのだ。
「自分は、決して恨みません。殺して下さい」「その小銃で」と苦しい呼吸の間でやっとこれだけ言った。息詰まる沈黙の時間が続いた。
軍曹は、この小銃で撃ってしまおうか、本人の願いでもあり中隊長の命令でもありと思ったが、しかし、共に戦って来た戦友を自分の手で殺す事は出来ない。幾ら助から無い命でもそんな事は出来ない。出来る筈が無い。だが、出発の時間を遅らせる事は出来ない。それに敵が何時また攻撃して来るか分から無い。
早くしないと中隊長に叱られる。考える事は無い。断あるのみで軍曹は小銃に弾を込めた。しかし、彼の生命を断つ事は忍び無かった。幾ら戦いに明け暮れた為に荒(すさ)んだ気持ちに為って居ても、又、多くの死体を見て些か人間の温かい感情が麻痺して居ても、自分の友を手に掛ける事は出来ない。
「これに弾を込めたから、自分の足で引き金を引け」と言って銃を渡した。中村上等兵は、死ぬ覚悟を十分して居たのだろう、もう静かに考える程の余裕も感情も無かったのだろうか。与えられた銃の銃口を顎の下に宛がい、助けを借りて引き金に足の親指を乗せたと思った瞬間引き金は落ちてしまった。
顎からも口からも血が流れ落ちた。軍曹は銃を取り上げ、そして手を合わせ心から成仏(じょうぶつ)を祈った。それから、右手の親指を切り取りポケットに入れて別れた。中村上等兵の悲壮な気持ち、片岡軍曹の立場、その心境は図り知れ無いものがある。
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中隊長と兵隊との間に立つ下士官の苦労と心痛は大変なものであった。人の情けと勇気と正しい理性を備えた片岡邦夫軍曹も、それから二十日余り後、シッタン河を渡河した地点で戦死されたのだと後日聞いたが、哀れと言うか残酷と言うか、戦場はこの様に次々と尊い生命を奪い取って行くのである。何と言う事か。
更に出発に当たり、又あの山を登り歩くのかと前途を悲観して三、四名の者が相次いで自決したと聞いた。
後日聞いた話によると、この迫撃砲で小林軍曹が片手の上腕部を引き裂かれ石川軍医が直ちに止血し手術した。麻酔薬も無く、手術が進むに連れ激痛に耐え兼ね「殺して呉れ」と叫んだ。森脇衛生下士官が手助けをしてどうにか励まし励まし手術は終わった。
しかし片腕を切断する大手術を受けた小林分隊長は負傷の重さに耐え切れず、今後の転進ペグー山系の厳しい行軍に着いて行く事は困難だと前途を悲観し「死にたい」「殺してくれ」と叫んで居られた。本当に悲痛な最期が・・・・その様子は語るに忍び無いと終戦後に森脇衛生下士官から聞いた。
その他、迫撃砲弾で軽傷を受けた人も何人かあった様であり、マラリヤで動け無く為ったり砂擦(ず)れで足を痛めてしまったりした人も多かった。そんな中で着いて行け無いと判断した人の手榴弾の炸裂(さくれつ)する音が谷間に何度木霊した事か。
結局、糧秣収集の一週間だけで一中隊七十人中十三、四人がこの山麓で命を落とした事に為り、さしもの気丈夫な手島中隊長も「優秀な下士官、兵士を次々と失った」と慟哭(どうこく)されて居た。
シッタン平野をそこにしながら、又山の中に引き返し東から西に向かい坂道を登ったが、段々疲労は募るばかりである。敵機に発見され難い山中なので昼間の行軍だった。
二日ばかり歩いた日の小休止の時、私は下痢の為皆の出発に間に合わずホンの五分位遅れた。追い着こうと一生懸命に歩いたがもう追いつけ無い。到頭日が暮れた。落伍してしまったのだ。
中隊が纏まって歩くのは早いが、一人で歩くのはどうしても気ままに為り遅く為り追い着け無い。この山道は細くても一本道だから間違える筈は無いのだが完全に落伍してしまった。
夕方から激しい雨が降って来た。一人で木の枝に携帯テントを括(くく)り着け雨を凌いだが、飛沫(しぶき)や漏れる雨で濡れる。火を作る事も出来なくて飯を炊く事を諦め、死んだ様に眠り一夜を明かした後、朝から又歩き始めた。
一休みして居ると、そこへ玉古班長代理と他の小隊の顔見知りの光畑上等兵と中島上等兵が後から追い着いて来た。「どうして居るのか」と尋ねる。私は「少しの事で落伍して困っている」と答えた。「では、一緒に行こう」と励まして呉れた。この三人は中隊長から「少し遅れて最後尾を守れ」と命令を受け、三時間程出発を遅らせて来たのだ。
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後衞尖兵(こうえいせんぺい)を勤める位だから元気な三人であった。結局私はこの三人に救われたのであった。この事が無かったならば、私は追及(ついきゅう)出来ず必ず死んだであろう。好い人に合流出来勇気を出し歩いて行った。有難い事であり何と言う幸運な出会いだっただろうか。
暫く行くと道端に一人の兵隊が休んで居る。我々中隊の神田上等兵である。「どうしたのか」と尋ねると、「愈々、動け無く為ってしまった」と答えた。小さな焚火(たきび)をして居り、そこに飯盒を掛けて居た。
「元気を出して、一緒に行こうではないか」と勧めたが直ぐに返事は返って来なかった。
「一緒に歩くのも苦しいので、暫く休んでから」と答え、我々と一緒に行動しようとはし無かった。無理に引っ張って行く訳にも行かずそのまま別れた。その後彼はどう為ったか?
山道を喘ぎ喘ぎ登り、時々小川を渡るので下半身は何時も濡れ乍ら転進した。でも、四人だから心強い、この十日余りの行程を落伍して一人では生きて行ける筈が無い。自決か餓死で九十九・九パーセント死んで居たであろう。これこそ私に運があったのだとシミジミ思う。
道端で小休止すると堪え難い臭いが鼻を着く。近くで人が死んで居りその屍の腐乱(ふらん)した臭気である。自分も死んだらあんなに腐るのかと思うと遣り切れ無い。
玉古班長代理が私に向かって「小田よ、あんな姿に為ら無い様に頑張って行こう」と励まして呉れたが、自分に言い聞かせて居る様でもあった。私も一層、何が何でも頑張らねば為らないと心に期した。そう言った彼も又、半月後には帰らぬ人と為る運命だったのだが・・・・
小休止で一度そこへ腰を降ろせば、我々は臭(くさ)い臭いがしようとも動く元気が無くそこで休むのである。少しでも体力を消耗し無い様に余分な動作はし無かった。実際は何をしようにも出来ない程弱ってしまって居るのである。
毎日雨の中の行軍で携帯テントを頭から被って居るが、古びた一枚の薄いテント布だけでは役に立たず濡れ鼠(ねずみ)である。凄い雨が叩き着けて来る。痩せこけた体に容赦無く降り注ぐ。雨が頬を濡らすが時には自分の涙も一緒に流れて居た様だ。
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体温を奪われて寒い。だが熱帯地方だからこれ位で済んだのだ。もし、寒い地方であったならばもっと厳しい苦しさだっただろう。
米は濡らしてはいけない。米は靴下に二重に入れ、塩は小さい缶に入れるか飯盒の中盒に入れて居たので、どうにか雨に濡らさずに助かった。殆どの兵士が裸足で脛(すね)から下は何時も濡れて居り、冷えと下痢の原因と為って居た。
私は相変わらず耳鳴りがして居り血の小便をして居た。多くの兵士がマラリヤに遣られアメイバー赤痢に侵され疲労困憊(ろうこんぱい)の極みに達し落伍し取り残されて行った。
◆ピュー河を渡る
山坂を歩く内にシッタン河の支流でペグー山系の中を流れる幅三十メートル位のピュー河に出た。この十日程前に渡った時は一番深い所で腹の上あたりであったが今日はもっと水嵩(かさ)が増して居る様である。
今度は引き返すのだから、下流に向かって左岸から右岸へ渡るのだ。降り続く雨で水は濁り中程は私の背丈位ありそうだ。
渡れ無いかも知れ無い、流されるかも知れ無いと不安だ。水嵩が少なく為るのを待つ訳には行かない。一時も早く中隊の本隊に追いつかねば為ら無いし、水はこれから増して来るかも知れ無い。今、河を渡る決心をするより他に方法が無い。
米の入った背嚢や脱いだ衣服等を頭の上に乗せ河に入って行った。段々深く為って背の低い私の首まで来る。しかもかなりの強い流れで体が流されそうに為る。流れては大変と足を強く踏張り前へ進む。
足の下は岩だらけでゴツゴツした所があるかと思えば砂の所もあり、足を踏張れば踏張る程、足元の砂が掘れるので、首から顎まで水が来て流されそうに為った。頑張った。
更に進むと口まで来た。体が浮きそうだ、もう駄目だ浮き上がり流されそうだ。一瞬不安な気持ちが過ったが、愈々駄目なら荷物を捨てて泳げば弱っていても五メートルや十メートルは泳げると腹を括(くく)った。
若い時から多少の泳ぎは出来るので最悪の場合の心構えは出来ていた。だが、そこが一番深い所だった。次第に浅く為り対岸に上がった。やれやれ一難を凌(しの)いだ。
しかし、若干の兵器等は元の岸に残したままなのでもう一度取りに帰ら無ければならない。引き返して、要約残りの銃等を運び渡り終わる事が出来た。もしここで、後三センチ水位が高かったなら命は助かっても装具一式は流され、間接的にそれが命取りに為って居たかも知れ無い。
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このピュー河はそれより一時間後には奥地の降雨によって増水したと推測されるが、将に、間一髪で命拾いをしたのである。ここでも生死の境を越え本当に幸運であった。
余談に為るが、私は均整の取れた丈夫な体だが背丈が高く無い。一般的にはその事が健康とか生命に直接関係する事は無い。だが、この渡河こそは身長が命を左右する事に為ろうとした数少ない体験である。
幸い三センチの事でギリギリ助かったのだ。又一時間そこに到着するのが遅かった為らば事態は変わって居ただろう。思うだけでも恐ろしい。
ピュー河を渡った所で大休止する事にした。そこに竹を四本突き立てて木の葉で屋根を作ったお粗末な雨凌ぎの小屋が二つあった。夜中に雨が降っても好いし露天よりは有難い。新しく作る元気も無いし、元気であっても作業は一時間は罹るだろうし大変なので早速四人は喜んでその一つに入った。
しかし、そこにはお客さんの屍が二体あった。何れも死んでから日数が経っていないのか形もハッキリして居た。未だ臭いも微かであった。外に運び出した。幾らお粗末でも小屋は小屋、有難く泊まる事として濡れた衣服を焚火で乾かし少しの米を炊いて食べた。
この様に死人の近くに並んで寝る事も次第に麻痺したのだろうか、余り怖く無く為り当たり前の事に為り出した。それよりも成るべくエネルギーを使わ無い様に心掛けるのが生き延びる手段である。不要な労力を費やさ無い様にし体を労わらねばなら無い。
戦後の慰霊団
河の岸辺に馬が死んで居た。内地から運ばれて来た馬だ、可哀相に。誰の乗馬であったか、何処の部隊の輓馬であったか知ら無いが、もう腐って河岸の砂の上に屍を晒している。異様な臭いがする。馬は大きいだけに臭いも激しく範囲も広く為る。
もうこの頃は兵隊が死んでも馬が死んでも、穴を掘って埋めるにも道具一つ無く兵士にそれをする元気も体力も無く為り、残念だがもう行き当たりバッタリ死体はそのまま放置される有様であった。
この馬もここまで来るには随分苦労をした言だろう。人間が食べる物が無い位だから馬が食べる物は無く、酷暑の中で作業に従事し我が軍の為に尽くし犠牲に為ったのだ。この泥濘の道を人を乗せ荷物を乗せて歩いて来たのだ。
どんなに苦しかったか、どんなに悲しかったか。馬は涙を出さ無いし言葉は言え無いが心はあるのだ。人間と同じ様な心を持って居るのだ。
馬と言えども、平和な内地の自然と愛情に満ちた飼い主の事を懐かしく思い出し、郷里に帰り楽しい生活、馬として平穏な生き方をしたいと思ったのではなかろうか。馬は賢い動物であるだけに、悲しみながら苦しみながら死んで行った事だろう。ビルマに渡った何千何万と言う馬は殆ど全部がこの様な状況で死んで行ったのだ。可哀相に異境の果てで戦争の犠牲に為った馬達を心を込めて弔らってやらなければ済まないと思う。
つづく
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