2018年06月28日
一兵士の戦争体験 その8
その8
◇レミナの町
◆中隊本部通信班へ所属
アラカン山脈
この町はアラカン山脈の南端山麓(さんろく)の東方20キロに位置する平地の中にある長閑な町であった。レミナに到着した頃、中隊本部に指揮班とは別に金井塚中隊長の側近に通信班が編成され、師団司令部と無線で連絡を取る様に為った。通信士、暗号士達が師団司令部等から派遣されて来た。
溝口通信班長、清水通信士兵長、平松通信士上等兵、三枝(さえぐさ)暗号士上等兵、原上等兵、中隊長当番構(かまえ)一等兵、それに無線機器に詳しいと云う事で私、小田一等兵が選ばれ配置された。中隊本部の全員が居る建物とは少し離れた所に大きな屋敷の上等な民家を借り上げ、無線アンテナを張りこの八人で一つ屋根の下で日常生活をする事に為った。
金井塚中隊長は陸軍士官学校出身のエリート大尉で、公式の場で全員に号令を掛ける時の威厳は素晴らしく近寄り難いものがある。我々兵隊からすれば雲の上の人で滅多に言葉を掛けて貰えるものでは無い。しかし、起居を共にし八人で毎回食卓を囲んで一家団らんの形で話して居ると親しみも増し、中隊長からも内輪的な話や冗談も飛び出し和やかな雰囲気を醸し出すのである。
逆に言えば、トップに立つ人の孤独を些かでも慰(なぐさ)める事が出来たのでは無かろうか。その頃、内地から何個かの慰問袋(いもんぶくろ)が届き、中隊長が受け取ったその中に松竹の映画女優水戸光子のプロマイドが入って居た。中隊長は独身でパリパリの最中で大いに喜び我々にも見せて呉れ楽しんだものだった。
2・3日後の夕食の時「今日、この家の持ち主のビルマ人にこのプロマイドを見せ、これが俺のワイフだと言って紹介して遣ったら、ミヤージカウネー(大変よい)美くしく綺麗だ素晴らしい奥さんを持って居られ幸せだと言って呉れた。他愛の無い嘘(うそ)が上手く行った」と話され明るく「ワッハッハッ。ワッハッハッ」と笑われたものだ。
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その頃ビルマのお祭りがあり、奇麗な衣装を纏った婦人が大勢出て舞ったり踊ったりして楽しく平和で長閑だった。又部落の運動会があり我々兵隊も参加する等良い雰囲気であった。
部落民は中隊長がトップである事を知って居るので、この通信班の所へ好くビルマのご馳走を作って持って来て呉れた。中隊長のお陰で我々もご馳走を一緒に頂いたが、食う事が楽しみな兵隊には嬉しい事であった。
この間、幾らかのビルマ人とも言葉を交わし接触する事も出来た。又、軍票で買物が出来、現地たばこのセレーやバナナ、マンゴウ等を買って食べたものだ。
ビルマでの戦争中の2年と戦後抑留中の2年の計4年間を振り返って見て、レミナでのこの様な生活が一番楽しい時であった。中隊長や溝口曹長(そうちょう)等中隊首脳の方と一緒に住み可愛がって頂き戦況も穏やかな良い二ヵ月余であった。
・・・しかしその後の惨憺(さんたん)たる転進作戦で、8人の内5人が戦死され、復員出来たのは溝口指揮班長と構(かまえ)兵長と私の三人だけだった。
その構君は爽やかな人間性を備え、戦争中も立派な働きをし復員後も元気で我々ビルマ会の世話をして呉れて居たが、四年ばかり前に亡く為られ今では語る相手は溝口さんと私だけに為りシミジミと寂しさを感じる。皆様のご冥福をお祈りし感慨無量、時は遠くへ流れ去って行く。
中隊本部は、この様にレミナに位置して居たが、各小隊は当時南部アラカン山脈を横断しクインガレーからインド洋側にあるグワ地点に向かって輸送業務を開始して居た。険しい山道で、車は使用出来ず馬の背中に荷物を乗せて運ぶ駄馬方式で、苦労し、全行程八十キロを六区間に分けて逓送(ていそう)して居た。
アラカンの虎
その頃通信班長の溝口曹長の提案で第一中隊の新聞を発行しようと云う事に為った。皆が一ヵ所に集まれ無いので責めてこれにより情報を伝達しようと云うのである。私に原稿を書く様に命令された。新聞と言ってもB四版で一枚位のものであった。それをガリバンで刷って各小隊各分隊に配布するのである。
ある時、我が中隊が輸送業務を遣って居る前線の山中に虎が出ると云う情報が入った。こちらは武装して居るし鉄砲を持って居るのだから、その内、虎を仕留(しと)めるだろうと興味本位に原稿を書いた。溝口通信班長に見て貰い、愈々ガリバンに掛け印刷し終えた所へ班長が急いで帰って来て「新聞は未だ配っては居ないだろうな」と尋ねられた。「未だです」と答えた。
「そうか、それで好かった」「虎が出て兵隊が遣られたり、闇夜に出て来て大変らしい。興味本位の記事は差し控えた方が好い状況だ。もっと深刻な様子らしいぞ」との事でその時の配布は取り止めに為った。
その後通信班もその輸送ルートの山の中、虎の出没する地点に前進して行った。当時通信班には馬が居ないので現地の小型の牛二頭に引かせる牛車に装具一式を乗せ山坂や谷を渡りやっと辿り着いた。ここは、本当にみすぼらしい竹で出来た家が5、6軒あるだけの山の中であった。我々通信班も野宿は出来ないので竹で小屋を造り虎に備えて周囲を竹の塀で固めた。
実際は気休めで、虎が入ろうと思えば一溜りも無い粗末なものであった。輸送を担当する分隊や班がこの近くにも分散して竹小屋を造り休んで居り馬は近くの林に繋(つな)いで居た。この付近に居る40人程の為に共同炊事場もあり纏めて飯とおかずを調理して呉れて居た。輸送班は我々通信班がここへ来る以前から奥へ奥へと山深い中を輸送して居た。
◇アラカンの虎
◆虎を捕る仕掛け
我々第一中隊は、昭和18年12月から19年2月頃まで南部アラカン山脈を横断し、クインガレーからグワへ向かって弾薬食糧等を輸送する任務を帯びて居た。
グワには兵兵団(つわものへいだん)の岡山歩兵聯隊第三大隊(畑大隊長)が警備に就いて居り、その部隊に補給をして居た。片道歩いて五日位の山又山の中の道、雑木が茂る細い道を馬の背中に荷物を乗せて運んで居た。
その間民家は無く、毎日野宿で山の中にゴロ寝をして居たが幸い乾期であった。その頃現地人から、この辺りに虎が居る事を聞いては居た。しかし、我々は多勢で居るから心強いし虎が居れば射ち殺せば好いと思い安易に考え高を括(くく)って居た。
夜も皆平気で無防備のまま露営しゴロ寝をして居た。その内、虎が出て来る事が分かり虎を獲ろうと云う事に為った。虎が通る道と思える辺りで真夜中に大火を燃やして待って居た。虎は火を嫌うと云う事で火を焚(た)きそれを10人位で囲み、皆外側を向いて虎が来るのを警戒しつつ虎を獲ろうと銃を持ち弾を込めて待って居た。でも暴発しては危険なので安全装置のみはセットして居た。
「虎の肉は美味いだろうか。皮はどうするか?」等と捕らぬ狸為らぬ、虎の毛皮の胸算用をした。「虎は死して皮を残すと云う位、貴重で高価なものと聞くが、どうするか?」等と云う話の最中に、誰かがタバコの火を着けようと火の方に向いてシャガミ込み背中を外側にした。
虎は人間の隙を狙って居たのだろう。瞬間、その兵隊目掛けて闇の中から突進して来た。直ぐ隣に居た兵隊が咄嗟に銃を突き出し構えた。勢い好く駆けて来た虎は急に止まったかと思う間も無く反転して、元来た方向に駆け出して逃げた。突風の様な一瞬の出来事であった。
安全装置を解除し発射したが、もう虎は何処へ逃げたか分から無い。闇夜に鉄砲とはこの事で、当たる筈も無い。この様に、虎が近くに来て居るのに人間は何人居ても全く気付か無いが、虎は夜行性でじっと人間の様子を伺って居るのだ。相対して構えれば来無いらしいが隙を狙って襲い掛かるものだと分かった。
◆虎による被害
ある日の夜中に馬の啼(な)き声が可笑しい。馬は本能的に虎の気配を感知するのだ。馬当番の兵隊は、馬の様子から虎が近くに来たのではないかと感じて当番兵2人の内の一人が薪を燃やそうとしてしゃがんだ。
その途端虎は後から隙の出来た笹山一等兵の首に一撃を食らわした。気絶したか即死したか分から無いが、虎は彼を口に咥えて逃げて行った。明くる日、私達10名ばかりが銃を持ちその後を辿り死体収容に行った。野原の草に血がポタリポタリと滴り、虎は兵隊を咥えたまま2メートルもある崖を跳び上がり跳び降り谷川を渡って居た。
ビルマの虎は、大きく小牛でも咥えて逃げると聞いて居たが、人間の一人やそこら軽々と、猫が鼠(ねずみ)を咥えた位に走って居た。虎は山を登り谷を跳び越え密生した雑木の中を潜り抜けて居た。昼間は人間も目が見えるし10人もの目があるからと思ったが、それでも不気味(ぶきみ)だった。大きい山を二つ越えて行くと途中に彼の着けて居た卷脚半(まききゃはん)や被服の破れが灌木に引っ掛かって居た。
雑草が踏み倒され通った後はハッキリ分かった。竹薮(たけやぶ)を通り抜けその奥の茂みの中に無残に食い千切られた笹山清一等兵の死体が在った。彼は私の隣の班で精勤に働いて居たのを好く見掛けて居たのに。
肉が裂け血が流れ出て余りにも悲惨で見て居られ無かった。我々は泣きながら彼の遺体を携帯テントに包み持ち帰り火葬にした。
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数日後、今度は現地人が虎に殺された。その死体を直径四十センチもある大きな木の根元に置き8メートルばかり上の枝の分かれた所に櫓(やぐら)を組み、明るい内に四人が登り夜に為り虎が食残しの死体を食いに来た処を上から射とうと段取りをして満(まん)を持(じ)して居た。
四人は夫々小銃を持ち弾を込め、暴発を防ぐ為安全装置をし何時でも撃てる様に準備して居た。夜十一時を過ぎ十二時に為っても虎は来無い。月も落ち夜が更けて皆ウトウトし始めた。
その時、虎は一気に大木に飛び着き駆け登り櫓に足を掛け松本節夫一等兵の太腿(ふともも)に爪を立てた。彼は引き落とされ無い様に木の幹にシガミ付いた。久山上等兵が咄嗟に銃を構えたが、慌てて居るので安全装置が解け無い。
虎の大きな頭、ギョロリと光る大きな二つの目玉を直ぐ目の前にして動転しながらも銃口で虎の頭を叩いた。虎は構えられたのでスルリと一瞬大木の幹を飛び降り音も無く走り去った。やっと安全装置を解いて撃ったが空しい技である。
虎は食べ残しの死骸を食べるより生きて居る人間を襲って来たのだ。それにその高さまで跳び上がる事が出来るのには驚くばかりである。結局一人の負傷者を出してしまった。松本一等兵はその傷が深く、黴菌(ばいきん)が入ったのかガーゼが太股を通り抜ける様に為り、後方の病院に送られたがその後彼の事は分から無い。
◆虎の恐怖
そんなある日、竹で造ったあばら屋で屋根は椰子(やし)の葉を並べただけの宿舎へ、夜中に屋根から虎が飛び込んで来た。床は竹を割って並べたものだからフワフワで太い虎の足を挟み、蚊帳(かや)が虎と人間に巻き着くと云う騒ぎが起きたが、幸いにして怪我人も出ず虎もビックリしただろうが逃げて行った。
それからは、虎が出そうだとか出たと為ると皆で「ワッショイ、ワッショイ」と大きな声で叫び毛布をバタバタ振り上げて大きく見せる事にした。尚、それ以後は不寝番も外に出無いであばら屋ながら家の中に居る様にした。
私も時に不寝番をしたが、鹿に似た動物のノロの啼く声を好く聞いた。誰かが虎に追われて啼いて居るのだと言って居たが、虎が近くに来て居るかと思うと気持ちが悪かった。
又、静かな夜中に、小動物が動くのか落葉がカサコソと音を立てると、虎が足音を忍ばせて来て居るのではないかと不気味な感じに為ったものだ。
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ある日の朝「昨夜は馬の様子が可笑しかった」と誰かが言った。草原や普通の土の上では虎の足跡は殆ど残ら無いのに、炊事場近くの土間が洗い水で濡れ軟らかく為って居た所を歩いたのであろう、足跡が窪(くぼ)んで着いて居たが足跡全体がハッキリと好く見える程では無かった。
虎はその後直ぐに炊事場の大鍋の中を歩いたのだろう、奇麗に洗ってある鉄鍋の中に一個だけ土に汚れた足跡が鮮明に残って居た。大きな足跡で直径二十センチもあった。猫の足跡と体の大きさから比較すると、この足跡だと大変大きな体をした虎である事が想像出来た。子牛でも咥えて逃げると言われて居るがその通りだと思った。
飛行機による爆撃銃撃も恐ろしいが、音がするので分かるし逃げる間がある。けれど虎は音も無く闇の中から直接人間目掛けて襲って来るから恐ろしい。虎は一夜に千里(四千キロ)を走ると昔から過大に言われて居るが、疾風の如き早業で全く夜の魔物である。
他にも虎の被害を幾つも直接見たり聞いたりした。当初虎を捕ろうと意気込んで色々仕掛けをしたが、私の中隊では結局虎を獲(と)った武勇伝は聞く事が無く悲しい被害を被っただけであった。大分後に為って他の部隊で、自動車のヘッドライトに幻惑され虎が轢(ひ)かれた事があったと聞いた程度である。それ程虎を獲(と)る事は難しく被害ばかりが出て本当に恐ろしかった。
◇マラリヤの始まり
◆谷田君の場合
虎に悩まされて居る頃、私と一緒に2月15日に召集で入隊し同じ様に金井塚隊に転属して来た谷田一等兵がマラリヤに侵され毎日高熱で次第に弱って居ると聞いた。 我々が今迄一般に聞いて居たマラリヤは、二日熱とか三日熱とかで、高熱が出ても出たり引いたりし三日、四日苦しむが、薬を飲み治療し休んで居るとその内大抵治る種類で死ぬ事は無いと思って居た。
しかし、ビルマには悪性のマラリヤがあり、元気な人も急に悪寒(おかん)に襲われ一気に四十度を越す高熱が出てそれが連続して下がら無い。何も食べられず水ばかりが飲みたい。薬は今更飲んでも効か無いし下痢も始まる。一週間ばかりすると高い熱の為脳症を起こし意識が無く為る。後は三、四日生きて居るだけで終わりと為る。極めて恐ろしい種類のマラリヤが蔓延って居るのだ。
私はその時悪性マラリヤの事は知ら無かったが、谷田君の熱は悪性マラリヤだったのだ。彼は松江の出身で27歳、早大を出てこれ迄大手の商社マンとして東京に井田との事でインテリであった。入隊直後の寒い日の訓練中に彼がポケットに手を入れて居たと云う事で、殴られるは蹴(け)られるはで大変絞られた事があり、余り軍隊が厳しいので驚き気の毒に思った事があった。
隣の班だが、その時から彼を好く覚えて居り親しくして居た。そんな事で、私には「これが結婚して五ヵ月目の新妻の写真だ。これが二人で撮った最近のものだ」と言って懐かしみながら見せて呉れて居た。人生において最も楽しい時でもあり前途に大きな希望を持って居た事が伺われた。「早く内地に帰りたいナア、そして会社でウンと働きたいナア」と好く語って居た。
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彼は知識人であり軍事訓練等も好く出来るのだが、生意気で真面目で無い様に古年兵に睨(にら)まれたのか、班内でも気の毒だナアーと感じる事があった。言わば軍隊向きでは無く寧ろ文化人で常識家であったのだろう。
その彼が今悪い病に苦しめられて居るのだ。早速見舞に行くと彼は弱い声で「小田よ、病気だけには為るなよ。病気したら辛いよ。俺のはマラリヤらしいが、お前も蚊には気をつけなければいかんぞ」と言って注意して呉れた。
「有難う」と答えたが、私にはマラリヤがどんなものか、悪性マラリヤがどれ程厳しいものか未だピンと来なかった。「元気を出すんだぞ、頑張れよ」と手を握った。高い熱の為熱い掌であった。
3・4人の患者が、ここから後送される事に為った。鉄の車輪で出来た輜重車に乗せられ悪い凸凹のガタガタ道を揺られて行くのである。落ち無い様に縁に板囲いをしてあるが鉄の車輪だから直接応える。病人を乗せる様な車では無い。
しかし山の中で乗り物はこれしか無い。輜重車よりは歩いた方が増しかも知れない。毛布に包まって行く谷田一等兵に、無理に大きな声で「後方の野戦病院に着けば薬もあり、看護も好くして呉れるからきっと治るよ。頑張って来いよ」と激励した。しかし本心、そんな行き届いた野戦病院があるだろうかと不安な気持ちで見送った。
谷田君の身の回りの品物は少ししか無く、奉公袋(ほうこうぶくろ)と書いた青い袋が目に着いた。御国の為に奉公するとの意味で名づけられたこの袋、国の為に働きたいと思って居るのに病気に為り残念に思って居るだろう。
この袋の中にあの楽しそうに撮った新妻の写真も入れて居るのだろうか。嫌、もっと体に近い肌の温もりが伝わるポケットに抱いて居るのだろう。ガタリと音を立て車は動き出した。心より全快を祈った。
しかし、願い空しく二週間の後に、小さな骨壷に入れられて彼は中隊に帰って来た。冷たく為った固体が谷田君だ。発病以来二週間、何を考えどんなに苦しんだ事だろうか。戦争に勝って凱旋(がいせん)し打ち振る日章旗に迎えられたい、楽しい家庭を築きたい、もう一度内地の土を踏みたい。それが叶えられ無いの為らば、責めて華々しく戦って散りたいと思った事だろうに。
次第に悪化する病魔に抗する事も出来ず涙も出無い苦しい気持ちで逝った事だろう。丁度一年前の二月に入隊した当時の姿が二重写しと為り哀れを誘った。この遺骨は内地に送還されたが、戦況悪化の折、無事遺族の元に届いたか否か私には分から無い。
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このクインガレーからグワに向けての困難な駄馬に拠る輸送業務、虎との戦いも終わるのだが、その間に数人の犠牲者を出した。
馬も内地とは異なる気候で馬糧も乏しく重労働。鼻カタルに為って鼻から鼻汁を引っきり無しに出し弱って行く病気に為ったり、せ・ん・つ・う・(激しい腹痛)で、立って居る力も無く為り倒れ苦しんだり、色々な熱帯の病気で数頭死んだ。
馬は本当に利口な動物で人間の愛情に好く馴(な)れ、一緒に生活して来たのに可哀相で為ら無い。戦争が無ければ住み慣れた田舎で平和な日々を送って居ただろうに。我々兵隊は、馬の為に随分苦労もさせられた。しかし切っても切れ無い間柄と為って居る。馬が悶(もだ)え死んで行くのを見ると哀れで為ら無い。馬はどんな気持で息を引き取って居るのだろうか、馬は馬為りに死が分かるのだろうか可哀相で痛ましい。
◆第二小隊十二班に帰る
三月上旬、命令が下り移動が始まった。山を下りクインガレーから後方に退き、懐かしいレミナの町を通り抜けヘンサダの町に来た。その間四日間の行軍が続いた。その頃、通信班が解散したので、私は金井塚中隊長や溝口班長と分かれて中隊本部から元の瀬澤小隊の自分の班に帰って来た。その時、寺本班長は他所に転属し古参の戸部兵長が班長に任命されて居た。
行軍は、輜重車に我々中隊の装備を乗せ馬に引かせて行った。ここ暫く山の中で幾らか標高の高い所に居たので余り暑く無かった。しかし、遮蔽物(しゃへいぶつ)の無い平地の道路では日中の暑さは矢張り応えた。
南部アラカンの山から降りて久し振りに見る町の様子は、子供達が元気で遊び若い娘達が奇麗にして居り何と無く和やかなものを感じた。
以前から、ビルマでは日本軍は軍紀を正しくして居り、現地人からひ・ん・し・ゅ・く・を買う様な事は一切して居ない。娘さんを見ても冷やかす様な事もせず、秩序正しい兵隊として行動して居た。けれども、久し振りに見る女性の優しい姿に思わず目がそちらの方に向くのは仕方の無い事であった。
つづく
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