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2021年02月06日
ブルガリアの赤いバラ@ 【旅にインスピレーションを得た短編小説】
敵は、すぐ近くに迫っていた。
「シプカ峠は目の前だ。その先にエタルの同志が待っている。包囲さえ突破できれば…!」
青年が言い終わる前に、激しい銃撃音が辺りの空気を震わせた。モスクの扉から駆け込んできた男が、祭壇の前にいた男女に向かって怒鳴る。
「ヴァシル、ここはもうもたん!裏口から逃げるんだ!」
モスクの前では数名の同志が迫り来るトルコ兵に銃で応戦している。アルシアは、ヴァシルと呼ばれた青年の胸から自らの体を引き剥がして言った。
「私は峠越えの足手まといになるわ。早く逃げて!」
「アルシア、君を置いていけるわけがないだろう!」
「父さんと母さんが捕まっているのよ。見殺しにはできない!」
尚もアルシアの手を離そうとしないヴァシルの手を振り払うようにして、彼女は気丈にも笑顔を作った。
「大丈夫。私のことはセリクが助けると約束してくれた。だから早く行って!」
その言葉に、セリクがブルガリア人の味方だと信じて疑わないヴァシルは、後ろ髪を引かれながらも最後のキスを残して仲間と共にモスクの裏の出口へと消えていった。
数分後、勢いよく扉が蹴破られ、トルコ兵がモスクの隠し部屋に押し入って来た時、聖母マリアの絵が飾られた祭壇の前には、一心に祈りを捧げるアルシアの姿だけがあった。
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タグ:ブルガリア
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ブルガリアの赤いバラC 最終回【旅にインスピレーションを得た短編小説】
4
明け方、アルシアはトルコ兵に脇を固められ、涙で頬を濡らしたまま村の教会へ戻ってきた。無事に戻ったアルシアを両親が涙で迎えたのも束の間、すぐに彼女だけがセリクの屋敷へと移された。兄とヴァシルの消息は、夜が明けても伝わってこなかった。
部屋の片隅で、アルシアは一心に神に祈りを捧げていた。彼女が軟禁されているのは広場とは反対側、三階の最も北側の小さな部屋で、窓の下は川になっている。容易に逃げ出すことのできない位置だ。
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