はい。半分の月がのぼる空二次創作、「真夏の夜の悪夢」、これにて終幕です。お付き合い、ありがとうございました。
つきましては、今作品の掲載を快諾してくださった睦月ねこはちさんには、重ねてお礼申し上げます。
......あの日、司は言った。
(最近さ、この辺りでワモンゴキブリっていう害虫が増えてるんだって)
(何だそれ?新種のゴキブリか?)
(うーん。新種って訳じゃないけど、夏に出てきて、すごく大っきいらしいんだ。あんまり増えられると困るなぁ......)
(何で?)
(料理屋さんやお菓子屋さんの厨房とかに好んで住み着くんだって。厨房は料理人にとって聖域だよ!?そんな事になったら、死活問題だよ!!)
(ゴキブリホイホイとか殺虫剤とか、用意しときゃいいだろ)
(ホイホイならまだしも、食べ物を扱う場所で殺虫剤なんて、使いたくないよ)
(めんどくさいな。色々と)
(アシダカグモっていうクモが天敵で、すごく効果があるらしいけど......)
(役に立つのか?)
(2、3匹いるだけで、その家のゴキブリが全滅するって)
(すげぇな)
(でも、そのクモも大っきいんだよ。そんなの厨房に這わせとくなんて......)
(いやか?)
(当たり前だろ!!)
苦虫を噛み潰した様な司の顔を思い浮かべながら、僕は悟っていた。
......ああ、なるほど。こいつらが、それか......。
暗闇に落ちて行く意識の中、アイツがヤツを齧るシャクシャクという音を聞きながら、僕はそう悟った。
次の日の朝、そろって気絶していた僕と里香は、帰ってきたおばさんに叩き起こされた。家人のいない夜に男女が二人。しかも、僕らは折り重なって気絶していた。当然と言えば当然だけど、あまり体裁のよろしくない誤解を解くのにかなりの苦労を要した。(ついでに言うと、僕は家に帰った後、連絡を受けていた母親に思いっきりぶん殴られた。)
ちなみにその後、里香の家では不穏な気配を感じる事はなくなったらしい。ゴキブリはおろか、件のクモもいなくなったとの事。おそらく司の言っていた通り、里香の家のゴキブリを殲滅して、次の戦場を目指して旅立っていったのだろう。
なかなかに、渋いやり様ではないだろうか。
勇猛なる軍曹に、僕は心の中で敬礼を送った。
かくして、万事は解決......とはいかなかった。そう。たった一つ、残ってしまった問題があった。それは......。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!!里香!!」
「知らない」
月曜日の朝、いつもの通学路で情けない声を出しながら秋庭里香の後を追う戎崎裕一の姿があった。秋庭里香はツンとそっぽを向いたまま、戎崎裕一の方を振り向きもしない。
「何怒ってるんだよ!?」
「だって裕一、ぜんぜん頼りにならないんだもん。」
つんとそっぽを向いたまま、秋庭里香はそんな事を言う。どうやら、かの晩の戎崎裕一の体たらくの事を言ってるらしい。
「う......。そ、それは......」
返す言葉に詰まる戎崎裕一に向かって、秋庭里香はさらに言う。
「あーあ、全く、クモの方が頼りになるんだから」
「そ、そりゃないだろ!?里香ー!!」
「知らない。知らなーい」
戎崎裕一は気付かない。そっぽを向いた秋庭里香がぺろりと舌を出している事に。
戎崎裕一は気付かない。秋庭里香の歩みが、自分との距離をつかず離れず保っている事に。
「里香ー!!」
「知らなーい。」
気持ちよく晴れ渡った空の下、二人の声がじゃれ合う様に響いては溶けていった。
......結局、秋庭里香の中で「クモより下」とのレッテルを貼られてしまった戎崎裕一の立場が回復されるのは、それからしばし後の事だった......。
終わり
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黄泉さまの運営されるサイト、黄泉ネットの掲示板を利用していたやまゴリと申します。
先日、久しぶりに掲示板にアクセスしたところサーバーエラーと出てしまいました。 アニメ学校の怪談が大好きな自分にとって、貴重な場所でしたので非常にショックでした。
自分自身インターネットに詳しくないため、あれがどういった状態なのか分からず、黄泉ネットのリンクにいらっしゃった土斑猫さまなら黄泉さまと連絡がとれるのではないか、また何かご存知なことはないかと、こうしてご連絡差し上げた次第でございます。
お返事頂けましたら幸いです。
失礼致します。