半分の月がのぼる空・二次創作、「真夏の夜の悪夢」第2話です。
現在は、表紙絵代わりにこの作品の漫画が掲載された同人誌の写真を載せていますが、そのうちちゃんとした表紙絵を描いて載せるつもりです。いつになるかは分かりませんがw
にしても、睦月さんは絵が上手いなぁ......。いつかこんな絵を描ける様になりたいものです。
「さて、それじゃあ始めるか。」
夕食を終えた僕は、そう言って立ち上がった。
「やるの?」
後片付けをしていた里香が、訊いてくる。
「ああ。さっさとやっつけちまった方が、後腐れなくていいだろ?」
「うん。頑張って」
里香が、期待と尊敬の眼差しで見つめてくる。
「おう」
僕はそう言って、得意げに胸を張った。
「ゴキブリホイホイとか仕掛けてないのか?」
「一応、置いてあるけど......」
「それにはかかってないのか?」
「怖くて見れないよ。」
それじゃ、意味ないだろうと思いつつ、まず僕は家の各所に置いてある件の品を見て歩くことにした。
台所、廊下、洗面所にトイレ。
くまなく見て歩いたけど、どれにも成果は上がっていなかった。
どうやら敵はなかなかに賢いらしい。仕方ない。索敵に乗り出すしかなさそうだ。僕は丸めた新聞紙を片手に、家中を探索して回った。だけど――
「だぁー、見つかんねー!!」
数時間後、暑さで汗だくになりながら、僕は里香の部屋でゴロリと寝っ転がった。
「もう。しっかりしてよ。頼りないなぁ」
里香がそう言いながら、冷たい麦茶の入ったコップを渡してくる。それを受け取り、一息に飲み干す。
「分かってるって。ちょっと休憩したら、また始めるから......」
些かげんなりしながら、畳の上に座り直す。そんな僕の隣に、里香が「そう?」などと言いながら座った。
「.........」
「.........」
なんという事もなく、会話が途切れた。
しばしの間。
何となく、時計を見る。
(もう、9時か......)
ボンヤリとそんな事を考えていると、
「......久しぶりだね」
不意に、里香がそんな事を言った。
「あん?何がだよ?」
「こんな時間に、二人きりになるの」
その言葉に、心臓がドキンと跳ねた。一瞬で、顔に血が登る。けれど、そんな僕にはかまわず、里香は淡々と続ける。
「あの時以来かな。こういうの」
「あの時......?」
「二人で病院抜け出して、砲台山に行った時」
そう言って、里香は微笑む。
「あの時だったよね。初めて、言ってくれたの」
「里香......?」
「あ、でも裕一は覚えていないんだっけ。熱出して、ひっくり返っちゃってたから」
そして、里香はコロコロと笑う。
そこに至って、僕は気づいた。
里香の頬にも、薄く紅がさしている事に。
「里香......」
僕は思わず、里香の肩に手を伸ばした。僕の手が、細い肩を掴む。里香が、笑うのを止める。その身が、緊張で固くなるのが分かった。僕が、そのまま里香を抱き寄せようとしたその瞬間――
ピタッ
里香が、自分から僕にくっついて来た。
何だ!?随分と大胆じゃないか!?
ギョッとしつつも、僕はその身を抱きしめようとした。
ところが――
ペチンッ
「いってっ!?」
おでこを叩かれた。
「何やってんのよ!?馬鹿裕一!!」
「いや、だって、お前......」
「それどころじゃない!!あれ!!」
そう言って、里香はタンスの方を指差す。
「あそこ、今カサカサって言った!!」
「ええ?」
言われて耳をすましてみると......
カサカサ、カサカサ
......聞こえる。
確かに、聞こえる。
しかも、音から察するに今まさにタンスの裏から出てこようとしている様だ。
こいつか。
こいつのせいか。
折角のムードを台無しにされた怒りが、全てそいつに向かう。
僕はすがりつく里香を離し、丸めた新聞紙を手にしてタンスに向かった。待つ事、しばし――
果たして、タンスの裏からピコピコと動く触角が出てきた。
身構える僕。
息を飲んで見つめる里香。
そして――
出てきた”そいつ”を見て、僕は絶句した。
......デカイ。
何だ、こいつは。
僕の知るゴキブリと比べても、一回りはデカイ。
こげ茶色の巨体に、頭にある黄色の模様がこれでもかというくらい気色悪い。
思いも寄らない敵の出現に、流石の僕も思わず腰が引ける。
っていうか、こいつを新聞紙で叩いたりしたら、それはそれでエライことにならないだろうか?潰すのはいいけど、万が一体液が飛んで手に付きでもしたら、いくらなんでもぞっとしない。
色んなイヤ〜な可能性が頭を巡る。
僕が躊躇していると、後ろから声が飛んできた。
「何やってるの、裕一!?逃げちゃうよ!!ほら!!」
部屋の隅で縮こまっていた里香が、壁の上の方を指差している。
見れば、そいつはいつの間にか壁を這って僕の頭よりも高い場所に移動していた。このままでは、もうすぐ僕の射程距離の外に出てしまう。
ええい。こうなりゃやけだ。
僕は腹を決めた。
壁を駆け上がるそいつに向かって、新聞紙を振り上げる。
――と、そいつの動きがピタリと止まった。
「?」
つられて、僕の動きも止まる。
その時だ。
そいつと、目が合った。
虫と目が合うなんて馬鹿な事があるかと言われそうだけど、実際合ったんだからしょうがない。とにかく目が合った瞬間、僕にはそいつがニヤリと笑った様に見えた。
そして――
バタバタバタ!!
飛んだ。
大きな体が大きな羽音を立てて、宙に舞った。それが、物凄い勢いで迫ってくる。何しろ大きいから、凄い迫力だ。
「う、うわぁ!!」
思わず首をすくめる。
するとそいつは僕の頭の上を通り過ぎ、反対側の壁へと向かった。
その先にいるのは――
ビタン!!
大きな音を立てて、そいつが里香のすぐ上の壁に止まった。
「キャーッ!!」
里香が悲鳴を上げて、僕に飛びついてくる。いつもの里香からは考えられないくらい、パニくっていた。かくいう僕も、パニックだった。二人とも、ヤツの迫力にすっかり飲まれてしまっていた。
壁で、ヤツが身構える。再び、ニヤリと笑った様な気がした。
また飛ぶつもりだ!!
僕達は抱き合ったまま、思わず身を固くする。
ヤツが翅を開く。
そして、次の瞬間――
ガサッ
傍らの本棚の裏。そこから何かが飛び出して、ヤツに飛びかかった。不意の奇襲に、さしものヤツも対処の術がない。
ボタッ
二つの影はもつれ合って床に落ちた。
「「・・・・・・?」」
僕らはそろって、それを見る。
床の上で、もがくヤツを組み敷くソレ。
それは、目を疑う程に巨大なクモだった。
デカイ。
冗談事じゃなく、デカイ。
さっきまで散々デカイと思っていたヤツが、酷く小さく見える。足を入れれば、ゆうに人の掌大はあるだろう。そんな巨大グモが、シャクシャクと音を立てて、まだピクピク動いているゴキブリを齧っている。
......地獄絵図だ。
ガクンッ
不意に、身体が重くなる。見れば、腕の中の里香が目を回していた。どうやら、精神のリミッターを越えてしまったらしい。急にかかる負荷に対応しきれず、僕の身体が傾ぐ。
「うわっ!!たたっ!!」
そのままなす術なく、後ろへ倒れ込む。
ゴツン!!
後頭部が、派手な音を立てて壁にぶつかった。目から火花が散る。遠ざかる意識の中で、僕は走馬灯の様に以前司とした会話を思い出していた。
続く
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