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2020年10月16日

信託実務 個人的メモ その7

信託の基礎

信託の歴史
・2004年に改正された信託業法は信託業の担い手を拡大することと受託可能財産の拡大が改正の主なポイントであった。一方、2006年に改正された信託法は、信託民事に関する基本法である。
・1922年(大正11年)に制定された日本の信託法のモデルは、インド法とカリフォルニア州法である。

民法上の代理と信託
・代理権は代理人の破産手続開始の決定により消滅し、信託の受託者は破産手続開始の決定により任務が終了する。
・信託の設定により受託者は財産を保有するが、代理権の授与においても財産は代理人に移転しない。

信託の種類
・他益信託の一種に、遺言による信託がある。
・信託の原則では受託者が信託事務処理により負担する債務は信託財産と受託者の固有財産の双方の負担により履行する責任を負う。
・受託者は信託債権者と責任財産限定特約や個別に締結することによりはじめて受託者は固有財産での履行責任を免れることができる。
・限定責任信託とは、登記などの法定要件を満たすことにより信託事務処理として行った取引について受託者は債権者との特約がなくても、受託者固有財産での履行責任を負わない。
・当初信託財産が金銭で、信託終了時に信託財産の現状のまま受益者に引き渡すものを金銭信託以外の金銭の信託という。

信託に関する法律
・銀行その他の金融機関は兼営法により内閣総理大臣の許可を受けて信託業務を営む。
・金融商品の販売等に関する法律は信託財産の運用方法が特定されていない金銭の信託の契約締結に適用される。
・信託業法や兼営法は金融指標等の変動により信託の元本に損失が生じるおそれがある信託契約(特定信託契約)について金融商品取引法を準用している。
・信託会社は商号(社名)に必ず「信託」の文字を使用しなければならないことが法律により決められている。

信託の設定
・信託法は信託の設定について以下の3つの方法を認めている
 @委託者と受託者による信託契約
 A信託をする旨の委託者による遺言(遺言信託)
 B自己を受託者とする信託をする旨の公正証書等による意思表示(自己信託)
・受託者と受益者が同一の信託を設定することができる。なお、受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が1年間継続すると信託は終了する。
・契約の当事者に一定の要件を満たす重大な錯誤があった場合には、その効果を取り消すことができる。

目的信託
・受益者の定めのない(受益者を定める方法の定めがないないものも含む)信託で、ある特定の目的を達成することを目的とした信託のことをいう。
・信託契約または遺言信託による方法によって設定することができ、自己信託(信託宣言)による方法ではできない。
・存続期間は20年を超えることができない。
・信託の変更によって受益者の定めを設けることはできない。

遺言代用の信託
・受益者に変わって委託者が受託者に対する監督的機能を行使する。
・受益者として指定されたものは委託者の死亡時に、意思表示の有無なく受益権を有する。
・委託者は受益者を変更する権利を有する。遺言によって受益者を変更することもできる。
・委託者が信託を変更または終了するには、受益者の同意は不要である。

委託者の権利
・遺言信託の委託者が死亡した場合、信託法上の権利がその相続人に継承されない。これは信託行為に別段の定めがなくても認められる。
・受託者に対して任務違反による損失補填を請求する権利、受託者との合意により信託の変更をする権利、信託財産に対する不法な強制執行に対して異議を主張する権利は、委託者が行使する場合、信託行為に別段の定めをすることにより認められる。
・委託者には単独で受託者を解任する権利はない。

受託者の義務
・受託者の忠実義務とは受益者のために忠実に信託事務処理その他の行為をしなければならない。なお、忠実義務の対象は受益者であって委託者ではない。
・受益者が複数いる信託の場合、受託者は複数の受益者にとって公平になるように職務を行わなければならないとされ、これを公平義務という。なお、公平義務は異なる信託の受益者を対象とするものではない。
・信託事務処理の委託先の選任監督義務は信託行為によって指名された委託先については負わない。
・受益者及び委託者は信託事務の処理状況について受託者に報告を求めることができる。
・受益者は受託者に対し帳簿の閲覧または謄写を求めることができるが、委託者は信託行為に定めがないかぎりできない。利害関係人(債権者等)には貸借対照表、損益計算書に限り閲覧謄写を認められる。
・受託者の固有財産と信託財産との間の取引や同一の受託者が受託している信託財産間の取引は忠実義務違反として禁止されているが、信託契約にそれらの取引を認める定めを置くなどの法定の事項を満たせば許容される。一方で裁判所の許可は法定事項にはない。

信託銀行の義務
・信託銀行は信託の引き受けに際して、契約締結前に信託の内容について一定事項を説明する義務を負い(信託業法25条)、契約締結時には同様の事項を記載した書面を交付する義務を負う(信託業法26条)。それに加え、金融商品取引法の準用を受ける特定信託契約については金融商品の契約と同様に契約書締結前書面交付を信託会社/信託銀行に義務付けている。つまり、金利、通貨の価格、金融商品市場における相場その他の指標にかかる変動により信託の元本について損失が生ずるおそれがある信託契約について特定信託契約として説明義務を加重している。不動産の管理処分を目的とする信託契約、委託者の指図により信託財産の管理または処分を行う信託はその対象に含まれない。
・信託契約の締結前に説明するという信託業法に定める義務において、書面の交付は法定の義務ではないが、契約締結時の書面交付は法定の義務である。

信託契約代理店
・信託契約代理店は内閣総理大臣の登録を受けたもの出なければ営むことができない。
・信託会社・信託銀行等の委任を受けて信託契約の締結の代理、媒介を行う。
・信託契約代理店は法人、個人を問わずなることができる。

受益権の放棄
・委託者が受益者である場合、委託者は受益権を放棄できない。

受益者代理人
・信託行為に受益者代理人の定めがない場合、利害関係人の申し立てがあっても裁判所は受益者代理人を選任できない。

信託管理人
・受益者が現に存在しない場合に、信託管理人に関する定めがない時、または信託行為の定めにより信託管理人となるべきものとして指定されたものが就任の承諾をせず、もしくはこれをできない時は、裁判所は利害関係人の申し立てにより信託管理人を選任することができる。
・受益者が存在する場合(一部が未存在の場合も含む)は信託管理人を選任することはできない。

受託可能財産
・受託者が信託財産のために借入れた金銭は信託財産とすることができる。
・受託者が民法上の債務引受をした委託者の金銭再建は消極財産であるため当初信託財産とすることはできない。
・委託者を抵当者とする抵当権を当初信託財産とすることはできる。
・行政資産、農地は信託財産として受けれはできない。

信託財産責任負担債務
・受託者がその権限にもとづき信託財産のために行った金銭の借入にかかる債務は、貸付人との間に特約がなければその信託財産と受託者の固有財産が責任財産となる。
・受益債権にかかる債務は信託財産のみが責任財産となる信託財産責任限定債務である。

信託財産の公示
・動産、金銭、金銭債権について法令上の公示方法はない。

信託財産の独立性
・受託者の信託財産責任負担義務にかかる債権を有するものは、その債権を持って固有財産に属する債権にかかる債務と相殺することができる。
・すでに担保権が設定された財産が信託された場合、担保権者はその担保権を実行して信託財産を処分することができる。

相殺の制限
・受託者個人の債権者がその債権を自働債権、信託財産に属する債権を受働債権として相殺することは例外的な場合を除きできない。
・受託者からの相殺については、信託法は特段の規定を定めず、忠実義務の規律に任せている。利益相反行為にならない限り、受託者は固有財産に属する債権と信託財産責任負担債務にかかる債権を相殺することはできる。

信託の終了
・信託財産について破産手続き開始の決定があった時、信託は終了する。
・受託者が欠けた場合で、新受託者が就任しない状態が1年間継続した時、信託は終了する。
・受託者が受益権の全部を固有財産とする状態(受託者=受益者)が1年間継続した時、信託は終了する。
・信託財産が費用等の償還等に不足している場合の措置に関する信託法の規定に従って、受託者が信託を終了させたとき

信託の税制
・法人課税信託の課税について、信託財産にかかる所得と受託者の固有財産にかかる所得とは区別して法人税が課される。


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