2015年02月10日
<田舎の都会の地方競馬場>
田舎の都会の地方競馬場
作・福元弘二
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「1,2,3、、、4,5,6、、」
夏の終わり、昼下がり、
“田舎の都会の地方競馬場”
太陽の日差し、ダートコースの照り返しはまだ暑かったけど、
風はさわやかになってきていた。
返し馬の馬上で、
三流騎手はいつものように、
スタンドに見える観客の数を数えていた。
「15,16,、17、、、
ま、いつもぐらいか・・・」
ゴール板寄りの、いちばん馬場に近いフェンス沿いに、
ポツンと、車いすの少女がいた。
「また来てるんだ…
暑いから中にいればいいのに…」
三流騎手は、
最近よく見かける、
その車いすの少女の事が少し心配だった。
レースはいつも通り、
ファンファーレが鳴って、
ゲートが開いて、
三流騎手はいつも通り、
後ろから数えた方が早い着順でゴールした。
騎手控室で新聞を読んでいると、
「ある地方競馬場が廃止。」
という記事があった。
横で見ていた先輩騎手が
「次はウチだんべぇ、
お前も早く“次の仕事”考えとけやぁ」
と冗談交じりに、でも少し“本気”を含みながら笑った。
三流騎手は苦笑いを返す事しか出来なかった。
午後3時30分を過ぎてもまだ日差しは暑かった。
返し馬の馬上から、三流騎手はまたスタンドを見ていた。
車いすの少女は同じ場所にいた。
心配だけど、声をかけるわけにはいかないし。
そして、
「廃止」、「次の仕事…」
何かを心に引っかけたまま、
三流騎手はレースに向かった。
レースはいつも通り、
ファンファーレが鳴って、
ゲートが開いて、
いつもと違っていたのは、
三流騎手が先頭でゴールした事。
でも何かスッキリしなかった事。
田舎の都会の地方競馬場、
三流騎手の所属する競馬場の“廃止”が決まった。
最後の日は、
その廃止の瞬間(とき)をせかすように、
強い空っ風が吹いていた。
最後の日も、
レースはいつも通り、
ファンファーレが鳴って、
ゲートが開いて、
三流騎手にとって最後の騎乗も、
いつも通り、
後ろから数えた方が早い着順でゴールした。
そして、
三流騎手は、
自分でもびっくりするぐらい、
“いつも通り”
競馬場を後にした。
三流騎手は騎手であることを辞めた。
あれから何年たったかな、
そろそろ指を使って数えなければ分からなくなった頃、
“元”三流騎手は、
田舎の都会の競馬場“跡地”に行ってみた。
今は他の競馬場の馬券を売っている、
「場外馬券売り場」
になっていた。
「なんだ、競馬やってんじゃん。」
そんな事は知っていたけど、
元三流騎手は思わずつぶやいていた。
そして、今は「駐車場」になってしまった、
“アスファルトで固められたコース”を見た。
「なんだ、これじゃ競馬出来ないじゃん。」
そんな事も聞いてはいたけど、
実際に見ると、元三流騎手は悲しくなっていた。
その“アスファルトで固められたコース”を歩きながら、
しばらく、競馬の事を思い出していた。
自分が“現役三流騎手”だった時の事を思い出していた。
「あ、あの子…車いすの。」
ふと、“車いすの少女”の事を思い出した。
「そうか…」
元三流騎手は、
あの頃気付かなかった事に気がついた。
元三流騎手は何かを思い立って、
馬券売り場のスタンド内に向かった。
そして、
「1,2,3,4,5,6,7,8,9・・・」
あの頃より活気があるスタンドで、
あの頃みたいに観客の数を数え始めた。
(おしまい)
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この物語は
「フィクション」と「ノンフィクション」の
“ハーフ&ハーフ”
で構成されています。
(※この小説は2009年6月9日にアメブロに掲載した物です。
が、読み返したら思った以上に良かったので、
調子に乗って生かし(再掲載し)ました(^o^;)
<追記2016/1/20>
実は現在、このお話に「絵」をつけてもらっています。
絵の作者・プロフィール
名前:とみざわなおこ
・馬とエンターテイメントが大好き
・乗馬は4級保持で現在お休み中
2016年前半の完成を目指して製作中!
お楽しみに!(^o^)/
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