借金生活２０００

男）きのこ食わへん？
本当に西成から来たやつはわけわからないやつばかりである。誰かこいつをなんとかしてくれ。
昨日から仕事で一緒になったこの男迷惑でしょうがないのである。
仕事では訳のわからない事ばかり言って全く会話にもならない。仕事が終わったら呼んでもいないのに勝手に部屋をたずねてきて、変なきのこをすすめてくる。
クッキーの缶？みたいな変な箱に入った赤いきのこやらマリオの1UPきのこみたいなやつやら、とにかく気色悪い。こんな毒が入ってそうな変な物食べるわけがないだろ！しかも、生だし。さらに、へんな錠剤も入ってるし。なんでわざわざ部屋に来てこんな物すすめてくるの？警察呼びますよ？
私）すんません、もういいっすか？
男）食いたくないんやったらしゃーないわ。生活保護とらせてやるわ。毎月働かなくてええわ、めっちゃ楽やん。
私）もう寝ますわ。帰ってもらえます。
男）せっかく一緒に働いた仲やん。最後まで話聞きや。
私）何言ってるかわからんですわ。帰ってください。
やっとの事で追い出して、あまりに腹が立ったので事務所に言いに行った。
私）すんません。今日の人迷惑なんで、明日から現場別にしてもらえません。
番頭）たー坊でも無理かぁ。もう他に行かせられる現場無いんだわ。
私）あの人頭おかしいっすよ。
番頭）見てのとおりや。あんまり関わらんとき。
関わるなと言われてもとにかく、あっちからしつこいくらいにつきまとってくる。
西成にはいろんな人間がいる、こんなわかりやすい変なやつもいれば、親切そうなとんでもないたちの悪いタカリ屋もいる。
スキを見せてはダメなのである。
優しく親切な人間など所詮世の中では通用しない。
心を鬼にして、悪人面しなきゃいけない時もある。

今日もいつもと同じ解体現場である。いったいこの現場いつ終わるのだろう。コンクリートや鉄など重たい物ばっかりで嫌な現場である。
とりあえず袋詰めされたコンクリートを1Fに持っていって、鉄の塊を下のばっかんに持っていって、エアコンの室外機も下に下ろさなければいけない。
今日も力仕事ばっかりである。まずはエアコンの室外機を下に下ろそう。20個以上はあるだろう。気が遠くなりそうである。
ガラガラガッシャーン！
いきなり階段の上から室外機が落ちてきた。

男）すいません。大丈夫ですか！
危ない危ない、あんな物直撃したら大ケガである。
ガッシャーン！
さっきの男またエアコンの室外機を落としている。持ち方もめちゃくちゃだし、ズボンが破れてケガまでしてる。
私）大丈夫ですか？
男）重たあー！どうやって運ぶのこれ
この男も私と同じように、この業界まだ浅いに違いない。しゃべり方、作業の様子などでなんとなくわかる。
私）二人で下まで下ろしましょうか
男）いいですか？
結局エアコンの室外機と鉄を少し下に下ろしただけで午前中が終わってしまった。
職長）おまえらコンクリートガラ下に下ろした？
私）すんません、下ろしてないです。
職長）午前中何しとったん？
私）室外機とスクラップやってたら時間来ちゃいました。
職長）はぁ？しょーもないわ、おまえら。とりあえず、スクラップ置いとけ。飯食ったらコンクリートガラ全部下に下ろしとけよ。
私）わかりました。
全部下ろすのは絶対にムリである、半分がいいとこであろう。
男）すいません。めっちゃ遅くて。
私）いやいや、いいですよ。あの人何しても怒る人だし。
むしろ、私と同じくらいの実力を持った人間の方が、私としてはやりやすかった。言葉づかいも丁寧だし。作業が進もうが進ままいがそんな事はどうでも良かった。
とりあえず、一緒に昼飯を食べることにした。
私）土建始めてまだ日が浅いんですか？
男）今日で２日目です。
私）それまではどんな仕事してたんですか？
男）店やってたんですけど、上手くいかなくて。いろいろあって、嫁とも別れたんですわ。
この人もいろいろあって、こんなところまで来たわけである。やはり、金が無くなって西成までたどり着いたのであろう。でなければ、こんなきつい仕事好き好んでわざわざやる訳がない。
私）とりあえず10日で一回寮出るんですか？
男）正直体がきつくてさ、明日仕事出るかわかんない。
私）そうですよね、私も金があったら明日にでもやめたいですもん。
男）金さえあればなあ・・・・
などと仕事について話してる間にあっという間に13時になった。現場でこんなほっこりとしたランチタイムは初めてである。いつもは、黙々とタバコを吸うだけである。
午後からは二人で袋詰めされたコンクリートを下に下ろした。私もフラフラであるがMさんはもっとフラフラである。不思議なもので自分より劣る人間がいると、なぜか頑張れてしまう。
男）もうこんな仕事ええわ(笑)
４時を回ったくらいで、Mさんはダウンして座りこんでしまった。運良く誰も来なかったので、そのまま５時まで一服することにした。
寮に帰ってジャパンで買い物をして、とりあえず一杯やることにした。建設会社の寮で人と飲むのは初めてである。
男）とりあえず腰がやばいから明日は出ないわ
私）そうなんですか、わかりました。
男）こんな仕事できん人間と仕事しとったら疲れるやろ(笑)
私）自分もフラフラですよ。こんな仕事金あったらやめたいですもん。
男）金かあ。あんなやつらにばかにされて、こんな仕事せなあかんのも、金が無いからやもんな。大金持ちになってやりたいな。
私）そうですね(笑)
結局Mさんは次の日寮を出るのだが、久しぶりに話の合う人と飲めたような気がした。

最近朝起きると腰が痛くてしょうがない。毎日コンクリートや鉄の塊を運んでいるせいであろう。体は鍛えられるどころか、満身創痍である。
金さえあればこんなとこその日のうちにやめてやるのにな。などと、よからぬ考えが心の中に浮かんでくる始末である。
楽して金など稼げはしないことはもう十分すぎるほどわかっているのに、それでもギャンブルでの一撃を夢見てしまう。
くそ重たいコンクリートが入った麻袋を運びながら、今日は勝負しようなどと考えていた。私は辛いことがあるとすぐにギャンブルへと逃げるクセがある。実はこの頃から内心気付き始めてはいた。
仕事が終わり晩飯を食べて、ビールを一缶飲みいざ出発である。
会社の周りはくそ田舎なのでボートピアが無いことはわかっていた。仕方なくパチンコでも打つことにしたが、一番近い店でも歩いて40分くらいはかかる。
いざパチンコ店に着いてはみるが、なんとなくパッとしない。台のチョイスといい、客つきといい、店の雰囲気といいあまり出そうな感じがしない店である。まだ、西成のはんぶんやの方がましである。
しかし、他に行く店がないので仕方なく打つことにしたが、全然回らないので5000円打ってバカらしくなって帰ることにした。
また来た道を40分かけて帰るのかと思うとバカらしくなり、途中にあるローソンで残った5000円で好きなだけ買い物した。
最近パチンコが勝負にならないことは誰の目から見ても明らかである。
そんなムダな金を使うくらいなら、おいしい物でも食べた方がいいに決まっている。

はぁ、土建の仕事ってなぜこんなきつい仕事ばっかりなのだろう。この仕事をするようになり１ヶ月が経とうとしてるが、仕事は全然覚えないし、体力も全くと言っていいほどついてない。
今日は解体現場でコンクリートをぶっ壊す人の手元で、ひたすらぶっ壊れたコンクリートを麻袋に入れ、2Fから1Fへとコンクリートの袋を人力で下ろす。
隣のでかい男は袋をコンクリートでパンパンにするが、あまりにも重たいので、私は少なめに入れては運んでいた。
男）兄ちゃんもう少し詰めろや。袋もったいないやろ。
私）すんません。あまりに重くて腰いわしそうなんで。
男）ほんまかー？楽したらあかんで
私）すんません
もう一人の男は袋にパンパンに詰めては平気な顔で1Fへと運んでいく、私があんな無茶な運びかたしたらすぐにバテてしまうだろう。
ズガガガガガ。
ドリルで次から次へとコンクリートをぶっ壊していき、あっという間に山になる。一袋20キロくらいはあるだろう袋を延々と運ぶ。埃だらけの部屋でマスクをしながらもうふらふらである。
やっとの思いで仕事が終わり寮へと帰る。筋肉痛、擦り傷などで体がバラバラになりそうである。
私も一年くらい土建の仕事をすれば、あの男みたいなパワーがつくのだろうか？などと思いながら、とりあえずビールとチーズで一杯やることにした。
しかし、１日力仕事をして飲む酒はやはり格別である。明日も仕事行きたくないと本気で考えながら、一時の晩酌を楽しむのであった。

最近センターでの仕事が減ってきた。今日も朝５時にセンターへ行ったが仕事は無かった。
話によると、３月末に近づくにつれ仕事は減っていくらしい、４月になると現金の仕事は無くなるとのことである。
男）兄ちゃん甘いわ朝４時には来ないと無いわ
いつも同じ場所でワンカップを飲んでいるおっさんが、得意気にそう言っていた。
さすがに朝４時はムリである。そうなると、どこかの寮に入らなければ仕事は貰えない。
センターをふらふらしていると、割とまともそうな若いイケメンに声を掛けられた。
男）兄ちゃん仕事探してるの？
私）そうですね、最近現金の仕事が無くなってきたんで、どこか入ろうとは思ってます。
男）うちにくれば４月でも５月でも全然仕事あるよ。
私）南京虫って知ってます？もし、南京虫がいたらムリなんでその時はすぐに出ます。
男）あぁ南京虫ね。うちは大丈夫だよ。もし、部屋に変な虫が出たらすぐに言って、部屋変えてあげるから。
私）わかりました。
話してみて大丈夫そうな男だったので、とりあえず４月、５月は寮に入ることにした。
宿から荷物を持ってきて、車に乗り込みその日のうちに入寮することになった。
寮は案外遠く、ついには高速に入ってしまった。
私）えっ？会社ってどこなんですか？
男）言ってなかったか？神戸市の西区だよ。
私も少しは神戸の土地勘はあるが、着いたところは、かなりの山奥で聞いた事もないとこである。ぼっとん便所と汚い部屋、会社の周りには犬とにわとりがうろうろしている。
近くにある店は、ジャパンというスーパーのみで、コンビニやパチンコ店までは歩いて30分はかかるだろう。
着いた瞬間、うわっなんてハズレなとこなんだというのが正直な感想であった。
しかし、寮に入っている人間は割とまともな人が多く居心地はそこまで悪くなかったので、しばらくこの会社に居ることになるのであった。

ジリリリリン。まだ朝４時50分である。
毎朝目覚ましに叩き起こされるが、この時間に起きるのはやはり苦痛である。
５時30分頃までにはセンターに行かなければ仕事にあぶれる可能性があるので仕方がない。
今日もいつものところへ行こうと思ってたがセンターに着く前に声をかけられた。
男）兄ちゃん現金行くか？
私）昨日行ったとこがあるんでそっち行きます。
男）10500円で昼飯付きだけど、行かんか？
私）どんな仕事なんですか？
男）鳶の手元だけど、できるだけ楽なとこにはしたるわ。
私）何の手元ですか？
男）まあ行ったらわかるわ。昼飯代500円先に渡しとくな。
私）そうなんですか。わかりました。
とりあえず条件が良かったので、行くことにした。が、会社に着くと、皆若くダボダボのズボンの人ばかりである。
今日はきつい現場に違いない・・・。なんか直感でそう感じた。
今日の仕事は鳶職人の手元で、疲れる、高くて怖い、怒鳴られると最悪の現場であった。
鳶職人は鉄でできた枠と、アンチと呼ばれる鉄板と横につけるバッテンの棒で一人歩けるくらいの足場と呼ばれる構造物をひたすら高く作り続ける人達である。
しかし、枠もアンチもとにかく重い。こんな重い物をむちゃくちゃな持ち方でひたすら上の職人に渡さなければいけない。
開始30分で腕はパンパンになった。
鳶）どうした？早く上げろや！
私）はい！
鳶）早く上げろや！
私）はい！
もう腕がパンパンで上がらないのである。
鳶）何やってんだよおまえ！じゃまだからどけや！
私）すいません
鳶）すいませんじゃないだろ！出来ないなら帰れや！
私）そうなんですか！わかりました。帰ります！
鳶）さっさと帰れやボケ！
体力的にも技術的にも全く通用せず、12時になる前に帰ってきてしまった。
もういいです。あなた達みたいな恵まれた体ではないんです。
疲れきって、宿に帰りとりあえずビールを昼から５缶飲んだ。なんだか今日は本当に疲れた。そのまま、寝てしまい気付けば翌日の18時になっていた。
29時間、30時間寝てたのだろうか、気を失ってたのであろうか？
あまりに時間が過ぎて一瞬死んだのかと思ったほどである。
とりあえず、下の50円自動販売機でコーヒーを買いエコーで一服した。なんか、少し落ち着きはんぶんやにでも行くことにした。

西成の生活に疲れはじめていた。
毎朝５時半にはセンターに行き、慣れない解体の仕事をして、疲れて帰ってきて風呂に入れば刺青の入った人ばかりだし、玉出に買い物に行けば、入口でべろんべろんになってるおっさんに文句を言われるし。
確かに日払いで現金が貰えるし、宿も安いところばかりである。ただ、西成の雰囲気に慣れるまでは、何かと疲れる事が多いところではある。
夜になれば変なやつが出てくるので最初はあまり出歩かないようにしてたぐらいである。
治安は良くないし、街の雰囲気も良くない、ただ金を持って無い者をなんとか救ってくれる街である。
金を貯めて早く出ようといつも思っていたが、ここを出たらどこに行けばいい？とも思ってしまう不思議な街である。

建設会社の寮に入ってやっと10日 が経った。西成では10日で一回精算ができるので、寮費と前借りを引いた25600円を貰い、寮を出ることにした。
とりあえず、南京虫も酔っ払いのおっさんもいない、ゆっくりとした部屋で寝たかった。
西成の宿はだいたい1500円くらい払えばちゃんとしたとこに泊まれる。新今宮駅降りてすぐのサンプラザに泊まることにした。
値段の割には結構キレイな宿である。
西成は建設会社の寮に入って三食ついて１日3000円引かれて生活している人と、自分で宿を借り毎朝５時頃にセンターへ行き仕事を貰う人の2パターンである。
基本仕事が終わった日に現金でくれるので、生活する金には困らない。
建設会社の寮はかなりのストレスが溜まる為少々朝は早くなるが、私はしばらく毎朝５時にセンターへ通うことにした。
宿の近くにスーパー玉出という激安スーパーがあるので、金が無い時は結構便利である。ただ、弁当を買うことはあまりおすすめしない。特にご飯物なんかは、あまりの固さに初めて買う人はびっくりするに違いない。

建設会社の寮に入ってから一週間が経った。今日は解体現場ではないと聞いていたが、いざ行ってみると下水道の工事であった。長靴と水着のつなぎみたいな物を貸してくれたが、下水道というとやはり気持ち悪い。
入ってみると意外と広かったが、匂いがやはり酷く壁にはゴキブリがびっしりと張り付いている。そのゴキブリも黒ではなく、茶色のマダラ模様みたいな物もいて、急に口の中が気持ち悪くなり、つばを思わず4、5回吐いた。仕事の内容は楽であったが、あまりの気持ち悪さになんだか腹が立ってきた。ゴミ止めみたいな板には溶けかけたトイレットペーパーが大量に付着しており、ものすごい異臭を放っている。あぁ汚いなぁ、本当に本当に不潔である。早く帰って風呂に入って除菌しなければ。
仕事も終わりやっと帰れると思っていたら、ドライバー含め三人は残業することとなった。
着替えも持ってきてないのに、電車で帰ることとなった。
コンビニでVANを買って思い切り使ったが、やはり染み付いた匂いには勝てず、仕方なく電車に乗ったものの、隣の女の目にあまりに腹が立ち、一駅で降りた。そのまま近くにあったローソンにあったゴミ箱をおもいっきり蹴ってやった。ローソンで日本酒を買ってイッキ飲みしてやった。全身痒いし、いったい自分で何をやってるのがもうわけがわからなかった。
右足の親指がめちゃくちゃ痛い。後日、折れてる事を知るのだが、いったい何がしたいのかもう意味不明である。
安く叩かれる者は、さらに安く叩かれて、そのさらに安く叩かれる。
もしかしたら、その事に薄々気付き、心底腹が立っていたのかもしれない。

建設会社の寮に入って３日目の夜だった。何やら猛烈にかゆい。かゆすぎて眠れなくなってしまった。電気をつけて足首を見てみると真っ赤になっている。体中いたるところ真っ赤になっている。なんなんだこれは？
原因はこの布団以外にありえないだろう。あまりのかゆさと全身じんましんみたいな赤い腫れに、一瞬食中毒を疑ったくらいのひどさである。とにかく猛烈に全身がかゆい。
とその時壁にうごめく物を発見した。よくよく見ればダニみたいな姿をしている、ダニってこんなに大きいのか？と疑問を感じつつ、とりあえず潰してみるとやはり血が出てきた。
間違いなく犯人はこいつである。
後から知ることになるのだが、このダニみたいなやつは南京虫というやっかいな虫で、殺虫剤などは効かず、噛まれると猛烈にかゆいという迷惑な最悪な虫だった。
結局その日はほとんど寝れず、次の日までかゆさは消えず、薬局に行って薬を買ってきてもかゆさは消えなかった。
とりあえずバルサンを買ってきて部屋を完全に消毒することにした。ついでに毛布も買ってきた、あんな布団で寝ることは二度とないだろう。３日分の前借りを全部使ってしまったが仕方ない、とりあえずこの部屋をなんとかしないとどうにもならない。
しかし、バルサンを炊いても、布団を替えても南京虫の被害は一向に収まらなかった。
あんまり、かゆくてイライラしてウォーと大声を出したら、隣のおっさんが壁にパンチしてくるし、久しぶりに精神的に参りそうになっていた。