人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。矢張り向う三軒両隣りにちらちらする唯の人である。唯の人が作った人の世が住みにくいからとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。人でなしの国は人の世よりも猶住みにくかろう。
『草枕』夏目漱石 新潮文庫 5頁
自分の置かれた環境を嘆き、さっさと退散しようと考えることがありますが、よくよく考えてみますと、どこに行こうが嘆きはなくなるわけでもなく、どこに行っても、あまり変わらないというのが現実でしょう。それどころが、もっと酷くなる可能性すらあります。
所詮、人の世を作ったのは、唯の人なのですから、唯の人以上の世を夢想したところで、夢想は夢想であり、現実とは違います。
現実は、住みにくいのが人の世ということであり、逃れることはできないことを悟ることでしょうね。
まずは、悟る。ここが肝要でしょう。
その上で、漱石が言うように、詩、画、音楽、彫刻等々の芸術によって、住みよい世にしていけばよいということですね。
あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊とい。
同書 5頁〜6頁
芸術により、心を豊かにし、住みにくい人の世の荒波を泳いでいくことが大切ですね。