「日本人であれば、インド仏教よりも、空海、親鸞、道元など、日本の仏教者のことを中心に知りたいという方も多いであろう。その場合でも、彼らは仏教の教学を前提としてその思想を展開しているのであるから、少なくともその基本的な枠組を知っておくことは不可欠である」(末木文美士『思想としての仏教入門』トランスビュー 203頁)
私の場合、日蓮を知りたいと思っているわけですが、上記の指摘はその通りと感じますね。
日蓮を知るには、その日蓮が比叡山や各寺院で学んだ仏教の教学を知る必要があります。
日蓮が前提としていた仏教の教学をこちらも把握しておくということですね。
ただし、仏教全体の教学というと膨大な量ですから、一生のうちに学ぶことは無理ですね。
よって、末木文美士氏が言うように「基本的な枠組」を学ぶのがよいですね。
その「基本的な枠組」を示しているのが本書『思想としての仏教入門』といえます。
仏教全体を見渡している割には一冊の本にまとまっています。
インド、中国、日本の仏教について解説され、東南アジア、チベットの仏教にも触れられており、バランスがいいですね。
特に、「思想」の面から検討を加えていますので、「仏教思想」そのものを学びたい向きには適切な入門書といえましょう。
また、現代の問題を解決する上での仏教の役割について、随時、検討されており、現代に生きる仏教という面からも学ぶことができます。
仏教といいますと、発祥がインドですから、インドの仏教というイメージがあり、入門書をみると、インドの仏教を中心にして解説がなされています。
それは当然のことだと思うのですが、正直なところ、日本に住んで、鎌倉仏教の影響を十二分に受けている我々にとっては、日本の仏教が身近であり、大切であり、関心のあるところです。
インドの話をされてもという感じですね。
しかし、全く、インドを無視するのも、日本の仏教を理解する上で根本的な欠陥といえますから、インド、中国、日本の仏教についてバランスのとれた概説書が求められます。
この要望に応えてくれているのが『思想としての仏教入門』というわけですね。
私としては、日蓮以外の空海、法然、親鸞、道元といった仏教者の思想も知りたいと思っていましたので、その点からも本書は有益でありました。