2013年12月20日
自作小説4
【6月18日 8:05 東京・三鷹 山石家】
自衛隊の隊員達が、礼と母親二人の遺体を運び出している。
「旦那さん、気を失っちまったそうだ。」
「無理もない。しかもあいつのことだ、オブラートに包まず伝えたんだろ。」
「デリカシー無いからな、あいつは。」
二人の隊員が、外で見張り(まだ化け物が居るかもしれないので)をしながら会話している。
周りの家でも同じような状況だった。
発生地点と思われるこの付近の被害は格段に酷く、生存者は殆どいなかった。
「なぁ、昨日のあれ、一体なんだったんだ?」
「知るか。」
「だろうな。そんなもんがいきなり目の前に現れて殺されたこの人達って、一体どんな気持ちだったんだろう」
「…知らんよ。」
「…だよな。」
「おい、皆来てくれ!」
二人の背後で遺体を安置していた隊員が大声で周りを呼んだ。
「どうした?」
「ここを比べて見てくれ。」
二人の首の断面を指し示す。
「グッ…。あまり直視したくないものだな…。」
「そうだろうけど、おかしいんだ。切り口の滑らかさが全然違う。」
「…?あぁ、確かに。」
母親の方は直接噛み切られたのだろう、歪つだが、礼のほうは滑らかだった。まるで…
「鋭利な刃物で斬られたかのように、骨まで綺麗に斬れている。」
「待てよ。あの化け物に出来るとは思えんぞ!」
「そんな、それじゃあこれは…。」
「ああ、人為的なもの、殺人の可能性が高い。しかも、腹に傷がある。検死も済んでないから絶対とは言えんが、刃物による傷だろう。」
「昨日のあの混乱に乗じて空き巣か強盗殺人でもやらかそうとした馬鹿がいたのか?」
「俺たちでさえ駅からここに到達するまで来るのにどれだけの犠牲が出たと思う?そんな馬鹿げた事をやった輩が居るとは思えん」
「俺たちがごちゃごちゃ言った所でどうにもならん!とにかく上官に報告だ!そして彼の遺体は最優先で検死に回し、他の遺体にも同様の傷が無いか確認するんだ!」
「「了解!」」
【同日 13:09 東京・渋谷 センター街】
避難勧告が発令されたために、賑やかだったこの街も一転、人が全く居ない寂しい場所となっていた。
いや、全くではない。男女二人の人影が目立たぬように歩いていた。顔や雰囲気的に、十代と思われる。
「誰も居ないな。ここも被害にあったのか?報告と違う場所のようだが」
「いや、違うようね。避難してるだけみたいよ」
「そうか。まぁこの世界の人達にとっては理解不能な出来事だもんな」
「当たり前じゃない。あ、ちょっと待って。連絡来たよ。」
少女が耳に手を当てる。何か小さな機械を付けているようだ。
「オーケー、分かった。アレン、1325に地点Cへ向かうよ!」
「Cか、了解!Bだと予想してたが違ったか。こっからそこまではどれくらいかかる?」
「二十分くらいかな、“普通の人は”」
「なら五分ちょっとか、焦る事もないな。」
一体何の話をしているのか分からないその二人は、突然その場から姿を消した。
【同日 13:19 東京・渋谷 代々木第二体育館】
ここにも大勢の避難民が収容されていた。もちろんここも見張りは厳重である。
また奴らが現れても絶対に一般市民に被害は出さない。自衛官全員の思いは共通していた。
「異常無いか!」
「ハッ!ありません!」
「よし!引き続き警戒を続けろ!まだ発生原因が分からない以上、何時どんな状況で奴らがここに現れても不思議ではないからな。」
「了解!」
そのとき、以前三鷹で発生したような揺れがここでも起きた。
「地震…?」
「いや、この揺れは…。」
「武器を持て!総員、戦闘準備!奴らが来る!」
「な!?」
「三鷹でも奴らが発生する前にこんな揺れがあったと報告されている!」
グォォォォォォ!
雄叫びが響き渡る。間違いなく、あの化け物のものだろう。
「絶対施設内に入れるな!五班・六班は施設入り口を固めておけ!」
「ハッ!」
話している間に数体がもう確認出来ている。銃声と雄叫びが響き渡る。
懸命に応戦するが、一体が抜けて施設内に侵入しようとした。
「しまった!」
しかし、そいつは突然地面に伏した。
いや、そいつだけじゃない。他の奴らも皆倒れ、息絶えていた。こちらの犠牲は0である。
「何が、起こった…?」
その場にいた者の中に、この状況を説明出来る者は一人も居なかった。
一応の警戒は続けたが、雄叫びも聞こえず、ヘリで確認しても見つかるのは既に死んでいるものだけ。
「訳が分からん…。」
指揮官含め、誰もがそう呟いた。
【同日 同時刻 代々木第二体育館付近の建物】
先程センター街に居た二人。先程とは服装が変わっている。
ゲームで言う、盗賊のような格好。
「なんで名乗り出ないで隠れちゃったのよ!」
「お前も来てるじゃん。」
「付いてきただけ!絶対あの人達混乱してるじゃない!」
「見られないならその方が良いじゃないか。俺らはこの世界の者じゃないんだぜ。」
「そうだけど…。」
「そんなことより、早くあいつを見つけるぞ。こんなことやっててもあいつ止めなきゃ意味が無い。」
「そうね、早く見つけ出して・・・。」
「怖いなお前。」
二人は、元の普通の服装に戻り、またどこかへ移動し始めた。
続く
Roy
自衛隊の隊員達が、礼と母親二人の遺体を運び出している。
「旦那さん、気を失っちまったそうだ。」
「無理もない。しかもあいつのことだ、オブラートに包まず伝えたんだろ。」
「デリカシー無いからな、あいつは。」
二人の隊員が、外で見張り(まだ化け物が居るかもしれないので)をしながら会話している。
周りの家でも同じような状況だった。
発生地点と思われるこの付近の被害は格段に酷く、生存者は殆どいなかった。
「なぁ、昨日のあれ、一体なんだったんだ?」
「知るか。」
「だろうな。そんなもんがいきなり目の前に現れて殺されたこの人達って、一体どんな気持ちだったんだろう」
「…知らんよ。」
「…だよな。」
「おい、皆来てくれ!」
二人の背後で遺体を安置していた隊員が大声で周りを呼んだ。
「どうした?」
「ここを比べて見てくれ。」
二人の首の断面を指し示す。
「グッ…。あまり直視したくないものだな…。」
「そうだろうけど、おかしいんだ。切り口の滑らかさが全然違う。」
「…?あぁ、確かに。」
母親の方は直接噛み切られたのだろう、歪つだが、礼のほうは滑らかだった。まるで…
「鋭利な刃物で斬られたかのように、骨まで綺麗に斬れている。」
「待てよ。あの化け物に出来るとは思えんぞ!」
「そんな、それじゃあこれは…。」
「ああ、人為的なもの、殺人の可能性が高い。しかも、腹に傷がある。検死も済んでないから絶対とは言えんが、刃物による傷だろう。」
「昨日のあの混乱に乗じて空き巣か強盗殺人でもやらかそうとした馬鹿がいたのか?」
「俺たちでさえ駅からここに到達するまで来るのにどれだけの犠牲が出たと思う?そんな馬鹿げた事をやった輩が居るとは思えん」
「俺たちがごちゃごちゃ言った所でどうにもならん!とにかく上官に報告だ!そして彼の遺体は最優先で検死に回し、他の遺体にも同様の傷が無いか確認するんだ!」
「「了解!」」
【同日 13:09 東京・渋谷 センター街】
避難勧告が発令されたために、賑やかだったこの街も一転、人が全く居ない寂しい場所となっていた。
いや、全くではない。男女二人の人影が目立たぬように歩いていた。顔や雰囲気的に、十代と思われる。
「誰も居ないな。ここも被害にあったのか?報告と違う場所のようだが」
「いや、違うようね。避難してるだけみたいよ」
「そうか。まぁこの世界の人達にとっては理解不能な出来事だもんな」
「当たり前じゃない。あ、ちょっと待って。連絡来たよ。」
少女が耳に手を当てる。何か小さな機械を付けているようだ。
「オーケー、分かった。アレン、1325に地点Cへ向かうよ!」
「Cか、了解!Bだと予想してたが違ったか。こっからそこまではどれくらいかかる?」
「二十分くらいかな、“普通の人は”」
「なら五分ちょっとか、焦る事もないな。」
一体何の話をしているのか分からないその二人は、突然その場から姿を消した。
【同日 13:19 東京・渋谷 代々木第二体育館】
ここにも大勢の避難民が収容されていた。もちろんここも見張りは厳重である。
また奴らが現れても絶対に一般市民に被害は出さない。自衛官全員の思いは共通していた。
「異常無いか!」
「ハッ!ありません!」
「よし!引き続き警戒を続けろ!まだ発生原因が分からない以上、何時どんな状況で奴らがここに現れても不思議ではないからな。」
「了解!」
そのとき、以前三鷹で発生したような揺れがここでも起きた。
「地震…?」
「いや、この揺れは…。」
「武器を持て!総員、戦闘準備!奴らが来る!」
「な!?」
「三鷹でも奴らが発生する前にこんな揺れがあったと報告されている!」
グォォォォォォ!
雄叫びが響き渡る。間違いなく、あの化け物のものだろう。
「絶対施設内に入れるな!五班・六班は施設入り口を固めておけ!」
「ハッ!」
話している間に数体がもう確認出来ている。銃声と雄叫びが響き渡る。
懸命に応戦するが、一体が抜けて施設内に侵入しようとした。
「しまった!」
しかし、そいつは突然地面に伏した。
いや、そいつだけじゃない。他の奴らも皆倒れ、息絶えていた。こちらの犠牲は0である。
「何が、起こった…?」
その場にいた者の中に、この状況を説明出来る者は一人も居なかった。
一応の警戒は続けたが、雄叫びも聞こえず、ヘリで確認しても見つかるのは既に死んでいるものだけ。
「訳が分からん…。」
指揮官含め、誰もがそう呟いた。
【同日 同時刻 代々木第二体育館付近の建物】
先程センター街に居た二人。先程とは服装が変わっている。
ゲームで言う、盗賊のような格好。
「なんで名乗り出ないで隠れちゃったのよ!」
「お前も来てるじゃん。」
「付いてきただけ!絶対あの人達混乱してるじゃない!」
「見られないならその方が良いじゃないか。俺らはこの世界の者じゃないんだぜ。」
「そうだけど…。」
「そんなことより、早くあいつを見つけるぞ。こんなことやっててもあいつ止めなきゃ意味が無い。」
「そうね、早く見つけ出して・・・。」
「怖いなお前。」
二人は、元の普通の服装に戻り、またどこかへ移動し始めた。
続く
Roy
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