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2018年07月15日

7月15日は何に陽(ひ)が当たったか?

 1977年7月15日は、イギリスのプログレッシブ・ロック・グループ、Yes(イエス)の8枚目のスタジオ・アルバム、"Going for the One(邦題:究極)"がリリースされた日です。1974年にリリースされた7作目の"Relayer(邦題:リレイヤー)"以来2年半ぶりのスタジオ・アルバムで、前作はコンピレーション盤"Yesterdays(邦題:イエスタデイズ。1975年)"でした。
 本作のラインアップは、Jon Anderson(ジョン・アンダーソン。lead vocals, harp)、Steve Howe(スティーヴ・ハウ。guitars, vocals)、Chris Squire(クリス・スクワイア。bass, vocals。2015年没)、Rick Wakeman(リック・ウェイクマン。keyboards)、Alan White(アラン・ホワイト。drums)の5人で、"Relayer"との間にキーボーディストのPatrick Moraz(パトリック・モラーツ)が退き、Rick Wakemanが再び戻ってきました。
 3作目"The Yes Album(邦題:サード・アルバム。1971年)"に始まり、4作目"Fragile(邦題:こわれもの。1971年)"、5作目"Close to the Edge(邦題:危機。1972年)"そしてライブ盤の"Yessongs(邦題:イエスソングス。1973年)"を挟んで6作目"Tales from Topographic Oceans(邦題:海洋地形学の物語。1973年)"、そして7作目の"Relayer"までの3年と約9ヶ月という期間に絶頂期を現出したイエスは、"Relayer"の活動後、区切りとして、絶頂期前のデビュー作"Yes(邦題:ファースト・アルバム。1969年)"、および2作目"Time and a Word(邦題:時間と言葉。1970年)"を中心に構成された"Yesterdays"をリリースし、イエスのこれまでのすべてを、絶頂期が冷めないうちに知らしめました。
 一方で、メンバーはこの区切りの期間、自由にソロ・アルバムの制作を行いました。1975年、スティーヴ・ハウは"Beginnings(邦題:ビギニングス)"を、クリス・スクワイアも"Fish Out of Water(邦題:未知への飛翔)"をそれぞれリリースし、1976年にはアラン・ホワイトが"Ramshackled(邦題:ラムシャックルド)"を、またYesを脱退したパトリック・モラーツも"( The Story of ) I"をそれぞれリリースしました。そして同年、大トリとしてジョン・アンダーソンが"Olias of Sunhillow(邦題:サンヒローのオリアス)"をリリースしたのです。
 この区切りの期間でリフレッシュした彼らは、心機一転をはかり、8作目"Going for the One"の制作に取りかかりますが、当初アルバム・タイトルは"The Yes New Album"も候補に挙がっていたと言われており、文字通り3作目でり、絶頂期を現出した最初のアルバム"The Yes Album"にあやかろうとしたことが窺え、新しいイエスを大前提として"Going for the One"は制作されました。レコーディングはパトリック・モラーツの故郷、スイスのモントルーにあるMountain Studios(マウンテン・スタジオ。現、Queen: The Studio Experience)が選ばれました。
 また2作目"Time and a Word"から一貫してエンジニアをつとめ、"The Yes Album"よりイエスとともに共同プロデュースを行い、6人目のYes"と呼ばれたEddie Offord(エディー・オフォード)は本作には参加せず、イエスのセルフ・プロデュースで、マウンテン・スタジオのハウス・エンジニア、John Timperley(ジョン・ティンパーレイ。2006年没)が加わり、そのアシスタント・エンジニア、David Richards(デヴィッド・リチャーズ。2013年没)はQueen(クィーン)やDavid Bowie(デヴィッド・ボウイ)のプロデューサーとして有名です。
 大きな変更と言えば、アルバム・ジャケットのデザインです。"Fragile"以降、イエスのアルバムの幻想的なスリーヴ・デザインはRoger Dean(ロジャー・ディーン)が手がけてきましたが、本作はイエスのロゴのみロジャーの作品を採用し、これを除くすべてのデザインをアート集団のHipgnosis (ヒプノシス)が手がけました。
 リハーサル半ばにしてパトリックの脱退という憂き目にあったものの、リック・ウェイクマンの再加入で陣営が整い、1977年3月、ようやく"Going for the One"は完成、陽の当たった7月15日にリリースされました。
 収録曲は全部で5作品。
A面(アナログ)
1."Going for the One(邦題:究極)"。ジョン作。time5:30。
2."Turn of the Century(邦題:世紀の曲がり角)"。ジョン、スティーヴ、アラン共作。time7:58。
3."Parallels(邦題:パラレルは宝)"。クリス作。time5:52。
B面
1."Wonderous Stories(邦題:不思議なお話を)"。ジョン作。time3:45。
2."Awaken(邦題:悟りの境地)"ジョン、スティーヴ共作。time15:38。
 8分近いA-2や15分を超えるB-2など、大作傾向は依然として続いているものの、これまでの難解でスリリングなインプロヴィゼーションを聴かせるサウンドではなく、ソフトで親しみやすいロック・ナンバーで構成されています。
 特にタイトル曲となったA-1はスティーヴ・ハウのスティール・ギターが美しく、一瞬ハワイに来たような錯覚を受けるノリのいいロック・ナンバーですが、ジョン作の歌詞は相変わらず知的で難解(?)です。ゆったりとしたA-2はのちにトリビュート盤でAnnie Haslam(アニー・ハズラム)のヴォーカルとスティーヴ・ハウのアコースティックギターでカバーされましたが、本作のオリジナルでは、バラードながらもスティーヴのエレキ・ソロが終盤で効果的に盛り上げ、最後はアコースティックギターでしめるという絶品そのものです。そして、曲の切れ目なくA-3が始まります、クリス作の元気なロック・ナンバーで、リック・ウェイクマンはマウンテン・スタジオから離れたスイス西部のVevey(ヴェヴェイ)にある教会、St Martin's Churchのパイプ・オルガンを使用し、スタジオと電話でつないでテンポを確かめながら録音した話は、ファンの間ではよく知られた話です。
 B-1は小品ですが、ジョンの歌声がやさしく耳に届く癒やしのバラードで、シングルとしてリリースされ、UKシングルチャートで初めてチャートインし、1977年9月17日付で7位まで上昇した名曲です(チャート・アクションととしては31位でエントリーし、13位→16位→7位→14位→13位→18位→18位→36位。計9週間チャートイン)。ちなみにA-1がセカンド・シングルで、11月26日付で24位を記録しています。
 そして、最後のB-2はイエスお得意の大作です。聴いてすぐにそれとわかる、でもやっぱりすごいと言わざるを得ないリックの早引き奏法のイントロで始まり、スティーヴの"Close to the Edge"にも迫るスリリングなギター・プレイ、ドラマティックに盛り上げるジョンの澄み切ったな歌声、ギター並みにズシンとくるクリスのベース音、アランの迫力あるドラミング、そして終盤の神秘的なパートは"Close to the Edge"内の"I Get Up, I Get Down"を彷彿とさせて、静かに終わっていきます。"静"と"動"を巧みに使い分けて、15分という長さを忘れてしまうくらいの魔法のようなナンバーです。
 この"Going for the One”は、UKアルバム・チャートでは堂々の1位を獲得、"Tales from Topographic Oceans"以来の1位獲得です。アメリカのBillboard200アルバム・チャートでは8位を記録、英米仏3カ国でゴールド・ディスクに認定されました。イエスの再出発はひとまず成功に導くことができたのでした。

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