2015年02月16日
探偵歌劇ミルキィホームズTD第6話感想〜スターになろうとする者、それで終わらない者〜
探偵歌劇ミルキィホームズTD第6話「すべてがF5になる」は、動画投稿サイトでは今やお馴染の「歌ってみた」動画を題材に扱ったお話である。
まずは「歌ってみた」動画について説明しておこう。
歌ってみた動画とは文字面のとおり、投稿者自らが楽曲を歌って投稿した動画のことを指す。人気歌手が匿名で投稿したり、いわゆるカバー曲という形で投稿が行われることも例外としてあるが、基本的に歌ってみた動画はメジャーデビューをしていない一般人が個人活動の一環として投稿したものを指す。「歌ってみた」に代表されるアマチュアが作成した動画(中にはプロに比肩する技術を持つ者もいるのだが、ここでは割愛する)に興味がない方は意外に思うかもしれないが、動画配信もそう難しくない現代、趣味の一環として歌ってみた動画を投稿している人は案外多かったりする。ニコニコ動画では、動画投稿者が何かしらの行動を行った動画に対して「〜してみた」という風なタグが登録されることが多いが、この「〜してみた」に類する動画タグで最多の登録数を誇るのが「歌ってみた」タグである。2015年2月16日現在、約71万の動画に「歌ってみた」タグが登録されており、このあとに続く「演奏してみた」タグが約18万、「踊ってみた」タグが約11万であることを考えると圧倒的な数を誇っているのが分かる。
ニコニコ動画での「歌ってみた」動画の投稿数は2012年に1度ピークを迎えている。その頃と比較して勢いは落ちてはいるものの、2015年現在でも1週間に2000前後の「歌ってみた」動画が投稿されている。物語の題材になるには十分な題材といえる。
今回のゲストキャラ・天空城ネリマは、天城茉莉音のファンであり「歌ってみた」動画の投稿者である。彼女が茉莉音に扮して投稿した動画は数億再生を誇るほど評価が高く、遂には茉莉音の目の届くところとなった。「もう誰も、私のこと必要としていないのかな」とショックを受ける茉莉音のため、動画の削除を投稿者に進言しようとミルキィホームズが行動を開始した……というのが今回のお話である。
茉莉音の代わりにスターになるというネリマに対して、「偽物はどこまでいっても本物にはなれないわ」とコーデリアは言う。確かに本物、つまりは茉莉音自身にネリマがなることはできないわけだが、かつての茉莉音のようなスターになれないかというとそうではない。のちにネリマの投稿動画の再生回数が彼女自身のF5キー連打(F5は動画の更新、再読み込みを行うためのボタン。F5を連打することで再生回数が増加するが、当然本来の意味での再生回数とはならない)によるものだと判明するわけだが、動画自体に寄せられたコメント、評価数などが彼女によるものだったという説明はなされていない。素直に解釈するのなら、彼女が行っていたのは再生回数の水増しのみであり、彼女の動画自体への評価は決して低くなかったと考えるべきであろう。実際、茉莉音のプロデューサーはネリマの歌と踊りに対して「それなりに上手いけどね」という評価を下している。ネリマに対して起こっていたムーブメントは、ネリマの自演行為だけで形成されたものではなかったわけだ。
なぜ、ネリマの動画が人々に受け入れられたのか。それは恐らく、茉莉音のファンたちが求めていたものがネリマの動画の中にあったためだ。この第6話までに計4体(ハーモニーをばらばらにカウントすると5体)のエレメントが茉莉音の元に戻ったが、それでも奇跡の歌が歌えるようになったわけではなかった。ファンたちは奇跡の歌を聴きたくても聴けず、さぞ物足りない日々を送っていたことだろう。そんな中、かつてのスター・天城茉莉音の要素を持つ(茉莉音のエレメントが取りついていたので当然である)ネリマが登場したことは大変衝撃的だ。動画の中には奇跡の歌もあっただろうし(アニメのシーンとして奇跡の歌を収録している場面も描写されている)、それを友人や家族に勧めるうちに、ネリマは10億再生を誇る人気動画投稿主となったのだろう。ネリマは、茉莉音のファンたちにとって紛れもないスターになっていたのだ。
物語中盤、ミルキィホームズはネリマと対面して動画の削除を求める。対するネリマは、その要求を受け入れる条件として、1週間後にあげる動画とミルキィホームズのあげる動画による再生回数対決を提案した。
対決に負けた際には自身の動画を削除するという条件なわけだが、既に築き上げたネリマの評価は絶大なものである。ネリマの動画再生が10億を超えている一方、ミルキィホームズの再生回数は軒並み2桁どまりに終わっている。エリーの動画が1万再生と健闘している(「アダルト」タグが登録されているのが、また面白い)ものの、とうていネリマの動画に太刀打ちできるものではない。
それを打ち破ったのは、誰でもない茉莉音自身であった。
茉莉音の動画は9億の再生回数を超え、街角の様子から察するにまだまだ再生回数の伸びを伺える。一方、ネリマの動画再生回数は10億から数値が変動していなかった。ネリマは自室に戻ってF5キー連打で再生回数の水増しを試みるわけだが、ここでミルキィホームズの推理によって真相解明。恒例のエレメント対決へと移り、このお話は収束へ向かっていくこととなる。
茉莉音の投稿した動画の出来については、ネリマの「何これ。こんな初歩な動き、誰にでもできるじゃない」という発言から伺うことはできる。茉莉音のファンを公言するネリマである。ネリマが投稿してきた動画に比べれば、茉莉音の動画の出来は稚拙なものであったはずだ。しかし結果は違った。「さすが本物よね」「もう1回あの動画を見ようぜ」と街角で語られ、動画を見た瞬間にはネリマ自身も見とれてしまったように、エリーのいう「茉莉音さんが頑張る動画」が人々に評価されたのである。
茉莉音は言う。
「私、一度はファンの人たちを疑ってしまったけれど……今回の動画を気に入って、広めてくれたのもファンの人たちだった」
ネリマの動画を応援して茉莉音を傷つけたのは茉莉音自身のファンであったが、茉莉音の動画を応援してくれたのもまた茉莉音のファンたちであった。ネリマ自身の力が茉莉音に必ずしも劣っていたわけではない。茉莉音が終盤で認めるほど、ネリマは茉莉音のファンとして彼女を見つめ、それを動画として活かしていたのだから。異なっていたとしたら、それは奇跡の歌のエレメントの数であり、茉莉音がエレメントを失って始めて学んできた経験であり、第1話でも描かれていた「頑張り」という茉莉音の魅力である。
1話を見返してもらえれば分かるが、茉莉音は自分の実力に慢心しているようなアイドルではない。ライブ直前でもバックダンサーの子たちと一緒に踊りの練習をしているような向上心も持っている。彼女は奇跡の歌だけでスターの座を得ていたわけではないのだ。
今回のネリマの動画は、スターとして活躍していた頃の茉莉音の模倣に過ぎなかった。ネリマは「歌えない茉莉音」の「代わり」にはなったものの、茉莉音自身にはなれるわけではない。かつての茉莉音のようなスターにはなれたかもしれないが、それは茉莉音のファンたちが茉莉音に求めた一側面に過ぎず、茉莉音の頑張りを表現できていなかったのがネリマの敗因だったのだろう。ファンの求める存在になるだけではなく、新たにファンを魅了するような要素がネリマには必要だったのだ。
今回の事件を通して、茉莉音は奇跡の歌のエレメントを取り戻すと共に「ファンを信頼してこその、アイドル」ということを学んだ。スターであった頃の天城茉莉音の要素を取り戻す中で、彼女は新しくファンを魅了する要素を得たのであった。喪失したものを取り戻すと同時に、成長を果たす彼女がどんなスターとして返り咲くのか。実に楽しみである。
まずは「歌ってみた」動画について説明しておこう。
歌ってみた動画とは文字面のとおり、投稿者自らが楽曲を歌って投稿した動画のことを指す。人気歌手が匿名で投稿したり、いわゆるカバー曲という形で投稿が行われることも例外としてあるが、基本的に歌ってみた動画はメジャーデビューをしていない一般人が個人活動の一環として投稿したものを指す。「歌ってみた」に代表されるアマチュアが作成した動画(中にはプロに比肩する技術を持つ者もいるのだが、ここでは割愛する)に興味がない方は意外に思うかもしれないが、動画配信もそう難しくない現代、趣味の一環として歌ってみた動画を投稿している人は案外多かったりする。ニコニコ動画では、動画投稿者が何かしらの行動を行った動画に対して「〜してみた」という風なタグが登録されることが多いが、この「〜してみた」に類する動画タグで最多の登録数を誇るのが「歌ってみた」タグである。2015年2月16日現在、約71万の動画に「歌ってみた」タグが登録されており、このあとに続く「演奏してみた」タグが約18万、「踊ってみた」タグが約11万であることを考えると圧倒的な数を誇っているのが分かる。
ニコニコ動画での「歌ってみた」動画の投稿数は2012年に1度ピークを迎えている。その頃と比較して勢いは落ちてはいるものの、2015年現在でも1週間に2000前後の「歌ってみた」動画が投稿されている。物語の題材になるには十分な題材といえる。
今回のゲストキャラ・天空城ネリマは、天城茉莉音のファンであり「歌ってみた」動画の投稿者である。彼女が茉莉音に扮して投稿した動画は数億再生を誇るほど評価が高く、遂には茉莉音の目の届くところとなった。「もう誰も、私のこと必要としていないのかな」とショックを受ける茉莉音のため、動画の削除を投稿者に進言しようとミルキィホームズが行動を開始した……というのが今回のお話である。
茉莉音の代わりにスターになるというネリマに対して、「偽物はどこまでいっても本物にはなれないわ」とコーデリアは言う。確かに本物、つまりは茉莉音自身にネリマがなることはできないわけだが、かつての茉莉音のようなスターになれないかというとそうではない。のちにネリマの投稿動画の再生回数が彼女自身のF5キー連打(F5は動画の更新、再読み込みを行うためのボタン。F5を連打することで再生回数が増加するが、当然本来の意味での再生回数とはならない)によるものだと判明するわけだが、動画自体に寄せられたコメント、評価数などが彼女によるものだったという説明はなされていない。素直に解釈するのなら、彼女が行っていたのは再生回数の水増しのみであり、彼女の動画自体への評価は決して低くなかったと考えるべきであろう。実際、茉莉音のプロデューサーはネリマの歌と踊りに対して「それなりに上手いけどね」という評価を下している。ネリマに対して起こっていたムーブメントは、ネリマの自演行為だけで形成されたものではなかったわけだ。
なぜ、ネリマの動画が人々に受け入れられたのか。それは恐らく、茉莉音のファンたちが求めていたものがネリマの動画の中にあったためだ。この第6話までに計4体(ハーモニーをばらばらにカウントすると5体)のエレメントが茉莉音の元に戻ったが、それでも奇跡の歌が歌えるようになったわけではなかった。ファンたちは奇跡の歌を聴きたくても聴けず、さぞ物足りない日々を送っていたことだろう。そんな中、かつてのスター・天城茉莉音の要素を持つ(茉莉音のエレメントが取りついていたので当然である)ネリマが登場したことは大変衝撃的だ。動画の中には奇跡の歌もあっただろうし(アニメのシーンとして奇跡の歌を収録している場面も描写されている)、それを友人や家族に勧めるうちに、ネリマは10億再生を誇る人気動画投稿主となったのだろう。ネリマは、茉莉音のファンたちにとって紛れもないスターになっていたのだ。
物語中盤、ミルキィホームズはネリマと対面して動画の削除を求める。対するネリマは、その要求を受け入れる条件として、1週間後にあげる動画とミルキィホームズのあげる動画による再生回数対決を提案した。
対決に負けた際には自身の動画を削除するという条件なわけだが、既に築き上げたネリマの評価は絶大なものである。ネリマの動画再生が10億を超えている一方、ミルキィホームズの再生回数は軒並み2桁どまりに終わっている。エリーの動画が1万再生と健闘している(「アダルト」タグが登録されているのが、また面白い)ものの、とうていネリマの動画に太刀打ちできるものではない。
それを打ち破ったのは、誰でもない茉莉音自身であった。
茉莉音の動画は9億の再生回数を超え、街角の様子から察するにまだまだ再生回数の伸びを伺える。一方、ネリマの動画再生回数は10億から数値が変動していなかった。ネリマは自室に戻ってF5キー連打で再生回数の水増しを試みるわけだが、ここでミルキィホームズの推理によって真相解明。恒例のエレメント対決へと移り、このお話は収束へ向かっていくこととなる。
茉莉音の投稿した動画の出来については、ネリマの「何これ。こんな初歩な動き、誰にでもできるじゃない」という発言から伺うことはできる。茉莉音のファンを公言するネリマである。ネリマが投稿してきた動画に比べれば、茉莉音の動画の出来は稚拙なものであったはずだ。しかし結果は違った。「さすが本物よね」「もう1回あの動画を見ようぜ」と街角で語られ、動画を見た瞬間にはネリマ自身も見とれてしまったように、エリーのいう「茉莉音さんが頑張る動画」が人々に評価されたのである。
茉莉音は言う。
「私、一度はファンの人たちを疑ってしまったけれど……今回の動画を気に入って、広めてくれたのもファンの人たちだった」
ネリマの動画を応援して茉莉音を傷つけたのは茉莉音自身のファンであったが、茉莉音の動画を応援してくれたのもまた茉莉音のファンたちであった。ネリマ自身の力が茉莉音に必ずしも劣っていたわけではない。茉莉音が終盤で認めるほど、ネリマは茉莉音のファンとして彼女を見つめ、それを動画として活かしていたのだから。異なっていたとしたら、それは奇跡の歌のエレメントの数であり、茉莉音がエレメントを失って始めて学んできた経験であり、第1話でも描かれていた「頑張り」という茉莉音の魅力である。
1話を見返してもらえれば分かるが、茉莉音は自分の実力に慢心しているようなアイドルではない。ライブ直前でもバックダンサーの子たちと一緒に踊りの練習をしているような向上心も持っている。彼女は奇跡の歌だけでスターの座を得ていたわけではないのだ。
今回のネリマの動画は、スターとして活躍していた頃の茉莉音の模倣に過ぎなかった。ネリマは「歌えない茉莉音」の「代わり」にはなったものの、茉莉音自身にはなれるわけではない。かつての茉莉音のようなスターにはなれたかもしれないが、それは茉莉音のファンたちが茉莉音に求めた一側面に過ぎず、茉莉音の頑張りを表現できていなかったのがネリマの敗因だったのだろう。ファンの求める存在になるだけではなく、新たにファンを魅了するような要素がネリマには必要だったのだ。
今回の事件を通して、茉莉音は奇跡の歌のエレメントを取り戻すと共に「ファンを信頼してこその、アイドル」ということを学んだ。スターであった頃の天城茉莉音の要素を取り戻す中で、彼女は新しくファンを魅了する要素を得たのであった。喪失したものを取り戻すと同時に、成長を果たす彼女がどんなスターとして返り咲くのか。実に楽しみである。
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