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2016年03月24日

小説 仮面ライダー鎧武 感想〜空っぽの幽霊と『騎士』とを違えたもの〜

 「仮面ライダー鎧武」は2013年10月〜2014年9月に放映された特撮テレビドラマである。
 「鍵」や「鎧武者」や「果物」など、平成ライダーの中でも奇抜な組み合わせとなるコンセプト。
 ハードなストーリーに定評のあるアニメ・ゲームのシナリオライター「虚淵玄」をメインに据えた脚本。
 OPには湘南乃風(鎧武乃風)、仮面ライダーシリーズ歴代主演俳優で最も高いと称される佐野岳の身体能力、インタビューなどで次第に明らかにされる出演俳優のアイドル性、出来のいいフィギュア商品、ect……放映前から注目度の高かった今作は、
 本編終了後もすぐに動きが止まることはなかった。
 限定商品としてフィギュアや関連アイテムがプレミアムバンダイの商品欄に定期的に並び(2016年3月現在、つい先月までサウンドロックシードシリーズの限定商品が予約受付していた)、
 限定玩具付のOVAが一般販売で2作品販売、放映終了から2年経過後の変身ベルト再販など、平成ライダーの中でも比較的長期に渡って商品展開が成されたのがこの仮面ライダー鎧武という作品である。

 そして、おそらく最後の商業展開となる「小説 仮面ライダー鎧武」が講談社キャラクター文庫から2016年3月23日に発売された。
 シリーズの時系列としては一番後ろの方になり、順番的には2作目のOVAのあとのお話となる。
 以下からの文章はテレビシリーズ、鎧武が絡む劇場作品、OVA2作品、小説のネタバレを含むので、了解の上で読み進めて下さい。





 
 物語はテレビシリーズ46話、葛葉紘汰と駆紋戒斗の最終決戦から始まる。
 テレビシリーズの初めから争い続けてきた男二人の死闘。熾烈な戦いの末、勝利を掴んだのが葛葉紘汰であることはテレビシリーズを見た者にとって自明である。
 だが、ひそかにこの戦いを観察していた者がいた。「狗道供界」なる男である。

 OVAが初出となる狗道供界は、テレビシリーズ開始前に起こったロックシード暴走事件により、文字通り「消滅」してしまった男である。
 だが肉体は消滅したもののその存在自体は世界に残留してエネルギー体となり、テレビシリーズに出てきた「オーバーロード」と近しい存在になった……と作中である人物によって説明されている。
 人としての枠組みを超えた狗道供界は、二人の男の戦いの行く末を見届けると「これは救いではない」と言い切り、自分の『救済』を開始することとなる。

 
 一度は戦極凌馬の手によってその存在の媒介となるドライバーを破壊される(OVA 仮面ライダーデューク)狗道供界であったが、彼の存在自体は消えていなかった。
 狗道供界は自らが作成したロックシード(ザクロロックシード)で一部の人間を傀儡とし、「黒の菩提樹」を組織し、己が媒介となるドライバーを再び作り出したのである。
 劇場作品とテレビシリーズ最終話で立ち塞がったコウガネを彷彿させる渋とさだが、狗道供界のその境遇を「人類にとってのコウガネ」と例える場面が作中にあることは面白い。


 話が佳境に差し掛かるところで、狗道供界の企みが「黄金の果実を創り出し、自らが世界の王となる」ことが明らかになる。
 狗道供界は神の力を得つつも地球を去った葛葉紘汰を「見捨てた」と論じ、悪とした。
 葛葉紘汰が成しえなかったヘルヘイムによる人類の救済を成す――つまり、狗道供界自身と同じように全人類を「オーバーロード化」し、エネルギー体となった人々を総べてまとめあげようとしたのだ。
 葛葉紘汰とはもちろん、人間の世界を滅ぼして新世界の王となろうとしたコウガネともまた異なる方法により、狗道供界は彼の『救済』を果たそうとしていたのである。


 そんな狗道供界の前に、呉島光実たちが立ち塞がる。
 家族や仲間、そして地球の生命を破滅させないがため、自らが「始まりの男」となり、遠く離れた異星に新しい世界を創り出した葛葉紘汰。
 葛葉紘汰が守った世界を受け継いだアーマードライダーたちは、迷うことなく狗道供界の言う『救済』を否定する。
 戦極凌馬が「三流」と評した狗道供界の底の浅さを、彼らも感じ取っていたのかもしれない。
 曰く――

「戦極凌馬はお前の本性なんかとっくに見抜いていた。
 何も生み出さないお前はただの亡霊だ。お前は全人類を、自分が堕ちた場所まで引きずり落としたいだけなんだ」
 葛葉紘汰と肩を並べ、共にコウガネを打倒した呉島光実はそう語る。


 狗道供界は哀れな男である。
 自らが認めた戦極凌馬という才能に否定され、その存在は既に人間の領域のものではなくなってしまった。
 世界に存在するためには媒介となるドライバーが必要となるが、ドライバーを破壊されたとしてもそれは狗道供界の死を意味はしない。
 再びエネルギー体となり、世界にただひとりたゆたうだけなのである。
 そんな彼に仲間などいるはずはなかった。彼の指示に従順な「黒の菩提樹」こそあれど、それは彼が世界に介入するために用意したの傀儡にしか過ぎず、道具にしかすぎない。


「なぁ。あんたが本当に救いたかったのは何なんだ?」

 物語の終盤。呉島光実たちの危機に駆けつけ、ほとんど自我を失った狗道供界と対峙した『騎士』葛葉紘汰は問いかける。
 葛葉紘汰には姉がいた。自分の悩みの相談に乗り、食事を共に摂り、生活を支えてくれた家族が。
 葛葉紘汰には彼を慕うチーム鎧武のメンバーたちがいた。共にダンスを踊り、遊び、楽しんだ友達らが。
 葛葉紘汰には彼と同じ境遇に陥った戦士らがいた。沢芽市の危機に共に向かい、時に仲を違えて争い、最後には世界を託した戦友たちが。
 葛葉紘汰には、彼が救いたいと思う仲間たちがいた。

 一方、狗道供界は最初から仲間を欲してはいなかった。
 狗道供界はある時から、全人類を自らと同じ段階へと押し上げ、虚ろな理想郷を築き上げることで世界を『救済』するという理想を盲信してしまった。
 世界に一人融けて消えてしまったという事実をうまく認識できないまま、彼は崇高な目的を果たすという行為を代替にしてしまったのだ。
 おそらく、彼は単純に寂しかったのだ。そして、自分一人がその境遇に置かれることが悔しかったのだろう。
 人間の頃から才能があると自負していた狗道供界のプライドは高い。自分が寂しがっているという孤独感を認め、なおかつ他の人々を自分と全くの同位に置いておくのは納得できなかったはずだ。
 だから、他の人々を道ずれにするだけではなく、その上に君臨する神になろうとしたのだろう。
 神になってしまえば、すべからく人々が崇めてもらえる。唯一無比であり、他に自分より上の立場に立つ者はいない。それが狗道供界の求めたものだった。
 作中では明言こそされていないものの、そう推測することは難しくはない。


 仲間たちの危機に『騎士』として葛葉紘汰は駆けつけた。
 だが、それが葛葉紘汰の戦いの終わりではない。狗道供界を倒したあとも、彼の戦いは終わることはないのだ。
 戦い続けることが地獄。それも事実であろう。狗道供界とはまた違う苦しみを、葛葉紘汰は背負い続ける運命を選んでしまった。
 しかし、彼は今日も仲間たちのこと胸に想い、その力を振るう。
 狗道供界が認められなかったものを。狗道供界とを違えてしまったものが存在するこの世界を、守るために。



 余談であるが、狗道供界が仲間に唯一欲したのが、作中で最悪の人間であるとされる戦極凌馬だというのはかわいそうとしか言いようがいない。

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