b.例によって、何回登っても楽になんない六丁峠を越えると、ウソみたいに明るくなって山奥の渓谷が見晴らせます、
a.登りはじめてもう1時間たったような気分や、まだ10分そこらで、
b.保津峡(ほづきょう)にかかるあの線路は、
a.トロッコ電車やろ、JR嵯峨野線はもっと奥のはず、
b.しかし、六丁峠って、もともとは六腸峠っていうのはホンマすか、
a.誰がそんなこと言ったんや、
b.自分がたったいま思いついたんすけど、このえぐいカーブの連続を見て、
a.なるほど、腸のような急カーブを6回も繰り返して六腸峠か、うまいこと言う、
b.峠を下り終えてまたじわじわ登り始めると、橋の上にホームがあるユニークなJR保津峡駅が見えてきた、
a.ちょうどここらへんのガケの岩が落っこちて、保津峡下りの船を直撃したんやなあ、その後の安全対策はどうなってるんやろ、
b.気の毒に、20代の女性が大ケガされたんすね、
a.京都に30年居てたけど、保津峡じゃ一番大きな事故やった、
b.転覆事故も一回あったような、
a.それも大きな事故やったなあ、新米の船頭さんが船をあやつる棒きれを岩の割れ目に突っ込んで、取ろうともがくうちに転覆、そういえば自分も一回だけ、乗せてもらったことがあるなあ、バイト先の喫茶店の社員旅行みたいなんで、
b.どうでした?
a.素晴らしかった、ちょうど紅葉真っ盛りで、水流も穏やかで、静かな気分で紅葉見物できてしみじみ良かったなあ、
b.ところで、そうとうヒンヤリしてるし、JR保津峡駅の自販機でホットコーヒー飲みませんか、
a.そういえばあったなあ自販機、こんな山奥やとオアシスに感じるなあ、
「自販機は オアシスやろか 山奥の」、
b.振り返ると、そんな保津峡駅へ渡る赤い橋が朝日に浮かんで見えてます、
a.渓谷やから当然やけど、谷が深いなあ、それにけっこう紅葉してんなあ、
b.この分かれ道どうします?
a.どっちでもええけど、今回は何となく左がいいなあ、坂も楽やし川も見れるし、
b.Oh!、コレはいきなり鮮やかに色づいてますね、
a.このあたりは植林の杉だらけで、あまり期待してなかったけど、ひとりでがんばってんなあ、
b.なんていう名の樹木ですか?
a.さあ、
b.オッ、赤もありやすぜ、親方、
a.「植林の 杉に負けるな 紅葉樹」、
b.さっきの六丁峠を思わすような急坂を上って下ると、またまた川ぞいに出てきました、あの線路はトロッコ電車の走る、
a.しかし、すごいとこ走ってんなあ、対岸から見ると恐怖やなあ、
b.ここの安全対策もどうなんか気になりますねえ、
a.元々はここが山陰本線やったんか、ようこんな崖(がけ)っぷちに線路ひいてトンネルまで掘ったもんやなあ、昔のヒトの方が体力あったんかもなあ、
b.まさに日本近代化遺産っすね、
a.そしてこちらが、現役の山陰本線、通称「嵯峨野線」、
b.さっきと比べると、なんかスッキリしてるし、苦労の跡があまり感じられないような、
a.機械化が進んで、トンネル技術も戦後アホみたいに向上してるしなあ、
b.ああなるほど、トロッコの線路が鉄橋をくぐってるわけか、近代と現代の違いがよう分かりますねえ、
a.振り返ると、ちょうどトロッコ電車がやってきて、シャッターチャンスや、
b.こうなると、ヤラセでも良いから上の線路に特急列車なんか置いて欲しいとこですなあ、先生、
a.そんなアホがでけん(=できる)のは、黒沢明監督か横山やすし師匠だけや、