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2019年08月19日

120歳時代ー健康寿命を延ばす道B

120歳時代ー健康寿命を延ばす道B

老化を止めるスイッチB

1970年代、イースター島の土壌から柴犬2匹.jpg

真菌の成長を止める物質が見つかり、
同島の現地名「ラパ・ヌイ」から
「ラパマイシン」と命名された。

成長や増殖などの細胞活動に
必要なある酵素を
ラパマイシンが阻害することが
後にわかった。

これらの細胞活動は最終的に
細胞の機能を劣化させるため、
細胞活動に必要な酵素を阻害すると
細胞が元気でいられる期間が長くなる。

この酵素は「ラパマイシンの標的機構
(mechanistic target of rapamycin)」
を略してmTORと呼ばれ、
老化スイッチのオン・オフを
切り替えることで
動物の寿命を延ばすと見られている。

この経路こそ
「ラパマイシンの標的機構(mTOR エムトア)」
で、細胞という小さな工場の電流遮断機となっている。

ラパマイシンに欠点がないわけではない。

副作用があり、
一部の患者では口内炎が生じるほか、
感染症にかかる例が増える。

これは免疫応答を抑えるため。

マウスの実験では、
オスの睾丸の萎縮が見られた。

これらの副作用は
がん患者や移植患者など
すでに重篤な状態にある人には
許容できても、

健康な人に
抗老化薬として使う場合には
認められないだろう。

悪影響が効果を上回りかねない。

治療量ではなく、低容量にしたらどうだろう?

老年生物学の第一人者である
ワシントン大学(シアトル)の
ケバーライン(Matt Kaeberlein)
と同僚の
プロミスロウ(Daniel Promislow)は

低容量のラパマイシンを
中齢の飼い犬に与えるという試験を始めている。

イヌは私たちと同じ環境に暮らし、
年をとるとヒトと同じ病気にかかる。

ラパマイシンをほんの数週間与えた
イヌは心臓超音波検査の結果、
心臓の働きが若々しかった。

「ラパマイシンを与えなかった
イヌに比べ、心臓がよく収縮するのがはっきり見える」
と言う。

「老齢の動物では、おそらく
血流の低下が体の他の組織を衰えさせる
要因になっている」。

抗老化薬としての可能性
を期待させる材料として、

ラパマイシンは低容量では
免疫抑制剤ではなく、
免疫調節剤として作用すると
ケバーラインは言う。

それどころか、低容量では
いくつかの免疫機構を
強める
ようだ。


【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日

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2019年08月18日

120歳時代ー健康寿命を延ばす道A

120歳時代ー健康寿命を延ばす道A

老化を止めるスイッチA

1970年代、イースター島の土壌から
真菌の成長を止める物質が見つかり、
同島の現地名「ラパ・ヌイ」から
「ラパマイシン」と命名された。

成長や増殖などの細胞活動に
必要なある酵素を
ラパマイシンが阻害することが
後にわかった。

これらの細胞活動は最終的に
細胞の機能を劣化させるため、
細胞活動に必要な酵素を阻害すると
細胞が元気でいられる期間が長くなる。

この酵素は「ラパマイシンの標的機構
(mechanistic target of rapamycin)」
を略してmTORと呼ばれ、
老化スイッチのオン・オフを
切り替えることで
動物の寿命を延ばすと見られている。

この経路こそ
「ラパマイシンの標的機構(mTOR エムトア)」
で、細胞という小さな工場の電流遮断機となっている。

2009年、ラパマイシンで実験用マウスを長生きさせたとNaure誌に発表があった。

これは衝撃的な発見だった。
対象実験で哺乳類の寿命をここまで延ばした薬はそれまでになかった。

しかも単一系統のマウスだけでなく、ウミガメ亀は万年.jpg

遺伝的に異なる3系統のマウスで効果が見られた。

どの系統のマウスも長生きし、
平均寿命だけでなく、最長寿命も延びた。

これはラパマイシンが老化の過程そのものを
遅らせる明白な証拠だと考えられた。

ラパマイシンを与えたマウスは概して、
与えなかったマウスに比べて長期に渡って
健康で若々しかった。

腱の柔軟性と弾力性が高く保たれ、
心臓や血管もそうだった。

肝臓も対象群のマウスよりも状態がよかった。
また年をとっても活発なままだった。

その上、投与開始が20ヶ月齢を超えてからだったのに、
平均寿命と最長寿命が延びた。

ヒトに例えれば、70歳の女性に薬を与えて
95歳まで長生きさせたことになる。

この実験は他の研究室で再現され、
さらに発展した。

成体になってから
ずっとラパマイシンを投与された
マウスは25%長生きした。

カロリー制限をした場合と
ほぼ同等だ。

もちろんマウスはヒトと違うが、
ラパマイシンは”何か”で老化を遅くして
加齢関連疾患の発症を遅らす
ことができる可能性を示した。

「ラパマイシンは初めて確かなあたりで、
これは本物かもしれないと
誰もが思った初の薬だった」

とカリフォルニア州ノバートにある
バック加齢研究所代表
ケネディ(Brian Kennedy)は言う。


【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日

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2019年08月17日

120歳時代ー健康寿命を延ばす道

120歳時代ー健康寿命を延ばす道

先進国の男性の平均寿命は、
80歳にわずかに届かない。

100歳まで生きられるのは
1万人中たったの2人で、
その大半は女性だ。

これまでで最も長生きした人は
フランス人女性の
カルマン(Jeanne Calment)
で、1997年に122歳で亡くなった。

下等生物を使った実験で、
細胞で栄養が不足すると
複数の有益なシグナル伝達経路
が作動することがわかった。

これらの経路は、
食料なしの期間を生き延びるために
進化したものだ。

老化を止めるスイッチ

1970年代、イースター島の土壌から
真菌の成長を止める物質が見つかり、
同島の現地名「ラパ・ヌイ」から
「ラパマイシン」と命名された。

成長や増殖などの細胞活動に
必要なある酵素を
ラパマイシンが阻害することが
後にわかった。

これらの細胞活動は最終的に
細胞の機能を劣化させるため、
細胞活動に必要な酵素を阻害すると
細胞が元気でいられる期間が長くなる。

この酵素は「ラパマイシンの標的機構春の花.jpg
(mechanistic target of rapamycin)」
を略してmTORと呼ばれ、
老化スイッチのオン・オフを
切り替えることで
動物の寿命を延ばすと見られている。

2001年、南カリフォルニア大学の
生物学者ロンゴ
(Valter Longo)は、
実験で使っている酵母に
餌をやるのを忘れたまま週末に旅行に出た。

驚いたことに、しばらく完全な飢餓状態に置かれた
この酵母は通常よりも長生きした。

ロンゴは、その原因が
一連の生化学反応にあることを見出した。

この経路こそ
「ラパマイシンの標的機構(mTOR エムトア)」
で、細胞という小さな工場の電流遮断機となっている。

哺乳動物にも同じ経路が見つかっており、
mammalian target of rapamycinの略として
やはりmTOR エムトアと呼ばれる。

mTOR経路が活性化しているとき、
細胞という”工場”は着々と新しいタンパク質を
生産して成長し、やがて分裂する。

mTORがラパマイシン
あるいは一時的な飢餓などで
阻害されると、細胞の成長と分裂が遅くなり、
あるいは停止する。

ラパマイシンが移植臓器を守る免疫抑制剤として、
また最近ではがん治療薬として
効果があるのは、

それらの状態で問題になっている
細胞分裂の暴走を抑えるからだ。

ロンゴの研究から、
mTORが老化に果たしている
重要な役割が明らかになった。

栄養が少ないときは、
mTORが抑制され、
工場が効率のよいモードに切り替わる。

古いタンパク質をリサイクルして
新しいタンパク質を作り、

老廃物除去と修復を行う
細胞機構を強く働かせて
飢餓が終わるのをじっと待つ。

細胞分裂は遅くなる。

こうして動物は次の食事にありつくまで
うまく生き延びられる。

mTORは環境を感知し、
食料が豊富だと活性化する。

単純な生物の場合、
実に急速に成長し、分裂するようになる。

食料が豊富なときは、子孫を残す
のにもってこいなのだから、

mTOR経路が進化的に大成功を収め、
単細胞の酵母から
ヒトやクジラに至る多種多様な生物で
繰り返し使われてきたのも当然だ。

【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日

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2019年08月16日

うつ病治療に運動を取り入れるB

うつ病治療に運動を取り入れるB


運動は何通りかの形でうつ病と闘うらしい。

ストレスに対する生化学的な回復力を強め、
新たな脳細胞の成長を促し、
自己肯定を高め、
精神疾患の背景にある遺伝的リスクを相殺する
可能性さえある。

軽度から中等度のうつ病患者のほとんどにとって、
運動はもっとも有効で、
安全で、役に立ち、実行しやすく、
楽しくもある治療だといえる。

心理学者や臨床医は
30年以上前から、
運動をうつ病の代替療法として研究してきた。

運動が効く理由 その2

神経生物学は運動がうつ病を防ぐ理由に加え、
「運動しないとうつ病になりやすい」
という逆も真なりと説明する。

身体的不活発は、
うつ病の結果である例もあるが、
うつ病を招く大きなリスク因子
でもある可能性が
疫学調査から示されている。

2014年、6000人以上の英国人高齢者を対象に
テレビを見て過ごす時間が長い人ほど、
うつ病の症状と理学的所見が見られた
(ただし読書などは、この相関はない)。

何らかの活発な身体活動を
週に少なくとも1回行う人は、
うつに陥る例が少なかった。

2015年、5000人近い中国人大学生を対象にした研究では、
テレビやパソコン画面の前で過ごす時間が長い学生ほど、
うつ病の症状および理学所見を示す率が高かった。

対照的に、身体的に活発な学生ほど、
年齢や性別、居住環境によらず、
うつ病のリスクは低かった。

合計20万人以上になる24件の研究をメタ解析した結果も、
座りがちな行動様式はうつ病のリスク増大と相関していた。

米疾病予防健康増進局によれば、
活発な人は不活発な人と比べ、
うつ病になる可能性が平均で45%低い。

心理学的な効果

こうした生理学的理由の他に
多くの社会的・心理的因子から、
運動がうつ病の症状および理学的所見が軽減できる
理由が説明できる。

うつ病に苦しんだ人びとに対する面接調査では、夏の景色”爽快感”.jpg

患者は運動が活力を与え、
目的意識と達成感をもたらし、

自己肯定と気分を高め、
食欲と睡眠周期を調節し、
マイナス思考を紛らわせた
と、語っている。

グループで運動すると、
格好の社交の機会ともなる。

だが、うつ病患者が運動するには
まず、意欲の深刻な欠如を
乗り越えねばならない。

やる気の減退という最初の壁を
乗り越えられるかどうかは、

特に運動トレーニングに
どれだけの満足と主体感を
感じるかによるらしい。

「楽しさがその運動をどれだけ続けられるかに直結する。

患者には何であれ、
面白くて楽しいことをしてほしいと思う」

とオットー(ボストン大学心理学者)は言う。

治療法としての運動は、
患者が自分で種類や強度を選んだ
場合に成功することが
研究から示唆されている。

たいていの人は中度の運動、
つまり呼吸が辛くなる程度
あたりか、すぐ下の強度を選ぶ。

2011年、うつ病の女性38人に
ランニングマシンでの運動を
グループで週3回、
指示された強度
または自分で選んだ強度
のいずれかでするように求めた。

1ヶ月後、運動レベルを自分で選んだ女性は
そうでない女性と比べて、
うつの程度が下がり、
自己肯定が高まった。

ほとんどの人は、
運動が体の見かけや減量のためだけではなく、
いかに自分の気分も変えうるかを
理解していない。

「引きこもって何もしたくない
感じていても、
運動はそこから外へ押し出してくれる。

うつ病では、やろうとすること全てが、
無益で無意味に思える。

運動が、打破するのはまさにこの状況だ。
起き上がって外に出る必要がある」。

とオットーは言う。(了)

【参考文献】
別冊日経サイエンス 最新科学が解き明かす脳と心
日経サイエンス編集部編 日経サイエンス社
2017年12月16日

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2019年08月15日

うつ病治療に運動を取り入れるA

うつ病治療に運動を取り入れるA

運動は何通かの形でうつ病と闘うらしい。

ストレスに対する生化学的な回復力を強め、
新たな脳細胞の成長を促し、
自己肯定を高め、
精神疾患の背景にある遺伝的リスクを相殺する
可能性さえある。

軽度から中等度のうつ病患者のほとんどにとって、
運動はもっとも有効で、
安全で、役に立ち、実行しやすく、
楽しくもある治療だといえる。

心理学者や臨床医は
30年以上前から、
運動をうつ病の代替療法として研究してきた。

運動が効く理由

運動は心拍数を高め、
血液や酸素、ホルモン、神経作用物質
を全身にどっと送り出す。

その時、体は運動を一種のストレスとして
受け止めて反応している。
このストレスこそが最終的には有益になる。

いくつかの研究によると、
中程度の運動を習慣的に行うと、
脳と免疫系の配線が組み替えられ、

肉体的・精神的な緊張に
うまく対処できるようになる
と見られる。

様々なストレス因子に
うまく対処できるほど、
うつ状態に陥るリスクは下がる。

うつ病の中には
脳細胞の成長と
脳細胞間の接続の成長が
阻害され、
扁桃体や海馬、前頭前皮質が
fMRI(機能的磁気共鳴装置ー画像検査の一種)
で血流低下や萎縮が起きていると
報告されている。

脳由来神経栄養因子(BDNF)

脳由来神経栄養因子(BDNF;
英: Brain-derived neurotrophic factor)は、

神経細胞の生存維持、
神経突起の伸長促進、
神経伝達物質の合成促進など

の神経細胞の成長を調節する
液性蛋白質である。

BDNFは、脳の中では、
海馬、大脳皮質、大脳基底核で特に多く、

これらの部位は、学習、記憶、高度な思考
に必須の領域である。

BDNFは、アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)、
うつ病などの精神神経疾患との関連が報告されている。

アルツハイマー病患者の脳では、
特に大脳皮質や海馬において、
BDNF濃度が健常者よりも低い。

健常者では前頭前野において
BDNF高親和受容体の mRNAレベルが
加齢に伴い減少する。

ラットでは加齢に伴う空間記憶の低下と、
海馬のBDNF mRNA発現量の減少
が相関することが示されている。

これらの事実から、
加齢及びアルツハイマー病における記憶低下に、
BDNF作用の減少の関与が示唆されている。

BDNFとうつ病との関連を示すデータも報告されている。

うつ病患者の脳では、
海馬を含むいくつかの領域で
BDNF蛋白量の減少が認められる。

うつ病のモデル動物では
海馬のセロトニン作動性神経線維
の脱落が認められるが、
BDNFはセロトニン作動性ニューロン
の生存維持に作用する。

運動がBDNFの生産を高める長距離自転車.jpg

運動がBDNFの生産を高める
ことが動物とヒトの両方について示されている。

2001年、抗うつ薬と走る場を与えられたラットは、
走るだけ、あるいは薬剤投与だけのラットと比べて
BDNFの濃度が高くなった。

2016年、中度から重度の
うつ病患者を対象に、
抗うつ薬を内服中の57人を
2群にわけ、
週4回の有酸素運動を
28日間参加、
他方は運動をしなかった。

症状は2群とも軽くなったが、
運動群では抗うつ薬を減らしても
改善が見られた。

睡眠習慣の改善や運動を増やすなど
健康な生活様式に変えるよう
促しただけで、

抗うつ薬の効力が劇的に高まり、
薬だけだと10%の寛解率が、
60%の寛解率になることが示されている。

2015年、マラソンや長距離自転車の
高齢競技者55人と、競技者ではない58人について
精神衛生とゲノムを比較した。

非競技者では、うつ状態の回数と
BDNF生産を阻害する遺伝子変異との間に
統計的に有意な相関が見られたが、
競技者では、この相関が見られなかった。

長期の活発な有酸素運動が
BDNFの生産を刺激することを通じて、
うつ病の遺伝的因子の効果を打ち消した
のだろうと推測された。


【参考文献】
別冊日経サイエンス 最新科学が解き明かす脳と心
日経サイエンス編集部編 日経サイエンス社
2017年12月16日

老化ゲノム300 コア研究「老化ゲノムの解明」
http://www.tmig.or.jp/J_TMIG/genome300/BDNF.html

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2019年08月14日

うつ病治療に運動を取り入れる

うつ病治療に運動を取り入れる

運動は何通かの形でうつ病と闘うらしい。

ストレスに対する生化学的な回復力を強め、
新たな脳細胞の成長を促し、
自己肯定を高め、
精神疾患の背景にある遺伝的リスクを相殺する
可能性さえある。

軽度から中等度のうつ病患者のほとんどにとって、
運動はもっとも有効で、
安全で、役に立ち、実行しやすく、
楽しくもある治療だといえる。

心理学者や臨床医は
30年以上前から、
運動をうつ病の代替療法として研究してきた。

アメリカのデューク大学医学部の
臨床心理学者ジェームズ・ブルーメンソールは
先駆者の一人だ。

1980年代、彼らは心血管疾患の患者さんに
運動がどう役立つのかを調べていて、
意外な副次的効果があることに気づいた。

トレーニングは人の気分を向上させ、
うつ病患者の示す様々な訴えや診察所見
が軽くなった。ランニング.jpg

1999年に発表された初期の
研究では、
うつ病と診断された156人の
高齢男女の健康状態を追跡し、

1)定期的に運動している
患者と、
2)抗うつ薬を服用している
患者、
3)その両方を行っている
患者で比較した。

16週後、3集団は皆等しく
改善していたが、
ぶり返しの率は運動をした
1)3)患者群で低かった。

10年後に発表された研究では、
200人以上のうつ病の成人を4集団に分け、
それぞれ異なる介入処置を行った。

1)コーチによる指導つきの運動
2)自宅での運動
3)投薬治療
4)偽薬
の4群だ。

結果は、1)コーチつきの運動をした患者は
2)自宅トレーニング群よりも経過が良く、
寛解率は45%と、
3)抗うつ薬投与群の47%とほぼ同等だった。
2)自宅トレーニング群の寛解率は40%、
4)偽薬群は31%だった。

さらに近年では、スウェーデンの科学者チームが
2015年の同様の研究で、
軽度から中等度のうつ病患者946人を3群に分け、
3種類の以下の治療のいずれか1つを
12週間受けてもらった。

1)ヨガ、有酸素運動、筋トレのいずれかを週に3回
2)インターネットを使った認知行動療法、
3)カウンセリングと投薬による標準的な治療

どのグループの患者も改善されたが、
1)運動をしたグループの患者が
もっとも大きな改善が得られた。
2)ネット利用治療群は僅差で2位、
3)標準治療群は他の2つに大差をつけられた。

エビデンスに基づく医療の推進を
主導している非営利団体、
コクラン共同計画による2013年の評価は、
運動がうつ病の治療法として、
投薬とカウンセリングと同程度の効果がある
と結論づけている。

2016年に発表されたより新しいメタ解析も
同様の結論となった。

国際研究チームが25件の厳密な実験研究を調べ、
運動、特に専門家の指導の下で行う、
中程度から激しい有酸素運動は、
うつ病の治療法として確かに有効であると判定した。

また別の評価では、
うつ病治療に運動を用いると
成功率が67〜74%も上がると計算されている。

どれだけ運動すればよいか


どんな運動や強度が
うつ病対策として効果的か
を明らかにしようとした研究者もいる。

いろいろと研究結果が出ているが、
心臓に負担をかける運動と
筋肉に負荷をかける運動は、
単独でも組み合わせでも、
うつ病治療に効果があるが、
どちらの運動が好ましいか
を明確に判断できるデータはまだない。

運動が情緒と認知の両面にもたらす
利益を研究してきた
ボストン大学の心理学者
オットー(Michael Otto)は

「どちらの運動が気分向上の効果が大きく、
どの程度の強度が最善なのか。
単独で十分なのか、
他の治療法と組み合わせた方がいいのか。
確かなことはまだわかっていない」
という。

「大まかな推奨はできるが、
細目まで自信を持って
勧められるようになるには、
もっとデータが必要だ」。

【参考文献】
別冊日経サイエンス 最新科学が解き明かす脳と心
日経サイエンス編集部編 日経サイエンス社
2017年12月16日

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2019年08月13日

オキシトシンは愛情ホルモン、癒しホルモン

『タクティールケア』、『タッチケア』ご存知ですか?

未熟児ICUの看護婦さんによって考案されました

タクティールケアとは

タクティールケアは福祉大国である
スウェーデン発祥のタッチケアです。

1960年代に未熟児のケア
を担当していた
看護師によって考案されました。

その語源はラテン語の
タクティリス(Taktilis)
に由来し、『触れる』
という意味を持ちます。

未熟児に毎日タッチケアを行うことで、
乳児の体温が安定し体重の増加
が見られたという経験に基づいています。

これは背中や手足に
優しく触れ体温を感じさせることで、
乳児に安心感を与え、
母親からの愛情と同様
の効用をもたらす為です。

タクティールの考え方の根底にはタッチセラピーがあり、
優しく触れられたいという人間が本来持つ願望があるのです。

それらが満たされることにより、
<乳児はもちろん、大人や高齢者にも下記の効用があります。

・精神的不安の解消
・痛覚を抑制することによる痛みの軽減


信頼を育てる癒やしホルモン「オキシトシン」

オキシトシンは愛情ホルモン、癒しホルモンとも呼ばれ、
脳の視床下部で産出され、下垂体後葉から分泌されます。

古くから出産時に陣痛を促す、
また母乳分泌も促すとされていましたが、

最近ではストレスや不安を軽減する
ことが研究によって明らかにされています。

具体的には肌に触れられることで、
触覚が刺激を受け、オキシトシンが血液中にも分泌されます。
それが体内に広がることでストレスや不安を和らげるのです
タッチケア オキシトシン.png

また、脊髄にある痛みを脳に
伝えるゲートを閉じる働き
もあり、痛みを感じにくく
させることも分かっています。

(子供の頃、お腹が痛くて
泣いていたのに、お母さんに
お腹や背中をさすって
もらっているとお腹の中の
痛みが和らいだ経験
ありませんか?

湿布剤が、直接浸透していく
薬理作用よりもスーッとした
感覚を皮膚にもたらすことで、
強い痛みに対する感覚を
抑制してくれるなどが
ゲートコントロール
の一部です)。

さらに、タクティールケアを施す側にも
オキシトシンは分泌され、
相手との相互の信頼感が生まれるという事例もあります。

導入している介護現場では
「受け手の不安な気持ちや表情が
少しずつ和らいでいくのがわかると同時に、
自分の気持ちもとても穏やかになる」
といった声が出ています。

中核症状(認知機能低下、短期記名力低下)、
周辺症状ー陽性症状(暴言、暴力、徘徊など)と
陰性症状(無気力、無感動、無反応)を和らげる


実際に、
患者さんが楽な姿勢で手や足、背中などに、
5分〜20分程度のタクティールケア
を行った結果データには一定の効果が見られます。

タクティールケアを受けた人は、
身体がポカポカし、深い呼吸に変わり、
気分が落ち着き、かつ心地よい入眠に入ります。

タクティールケアにより体温があがることで、
脳の活性化に働きかけることができ中核症状にも一定の効果を表します。

また、認知症の周辺症状に関しても、
「オキシトシン」による不安感の減少により、
気持ちが安定し非言語的コミュニケーションをもたらすのです。

まずは小さくタクティールケアを取り入れてみる

タクティールケアをどう取り入れたらいいのか
と悩む方もおられるでしょう。

そこで、まずは何か会話をするときに
相手の背中に優しく手を触れる、
話を聞きながら背中をさする
という所から始めましょう。

大切なのは触れるという行為のみではなく、
相手の気持ちに寄り添うことです。

そこで、相手の辛さやもどかしさを
感じ取ろうとする気持ちをもって
行うことが何より大切です。

相手との距離感を図りながら、
足や手に血流を上げてくという一環で、
入浴介護の中に取り入れていくといいでしょう。

※参考:株式会社日本スウェーデン福祉研究所、日本における「タクティールケア」に関する文献

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2019年08月12日

愛情ホルモン「オキシトシン」

愛情ホルモン「オキシトシン」

オキシトシンは、
脳の視床下部という場所で
産生されるホルモンです。

分娩の際の子宮収縮や
母乳の分泌を促す働きがあり、
昔から、
「お母さんホルモン」
や「愛のホルモン」
として知られてきました。

その後の研究によって、
オキシトシンはほかにも、
驚くほど多くの効能
を体にもたらすことが判明しています。

オキシトシンが、
ストレス反応を引き起こすホルモンの分泌を抑え、
ストレスを和らげることがわかりました。

さらに、脳内麻薬といわれる
エンドルフィンの分泌を促し
体の痛みを改善する作用や、

自律神経の働きを整えて
不眠や胃腸障害を改善する作用、
脳内の神経伝達物質である
セロトニンやドーパミンの分泌を促す
作用などがわかってきたのです。

セロトニンは精神安定に欠かせない物質、
ドーパミンはやる気を起こさせる物質です。

湯ぶねに浸かるだけで「愛のホルモン」が分泌

では、オキシトシンはどのようにすれば、
その分泌を増やすことができるでしょうか。

それには多くの方法がありますが、
最も手軽で着実な方法が「入浴」なのです。

オキシトシンは、
心地よい感覚刺激、
あるいは心地よい心理的刺激
によって分泌が促されます。

私たちが入浴して湯に浸かると、
ほっとリラックスします。

温かいお湯が肌に触れることで、
脳に快適な感覚刺激が伝えられます。

かつ、入浴でほっとすることも、
心理的な刺激として視床下部に伝えられます。

この両面の刺激によって、
オキシトシンの分泌が促進されることになるのです。

万能ツボを押しながら入浴すると効果倍増

入浴するだけでもオキシトシンの分泌が促され、
多くの健康効果が期待できますが、
加えて、ぜひ試みてほしいのが
「ツボ押し入浴」です。

あるツボに鍼を刺して刺激すると、
その刺激は脊髄に入り、
脊髄視床路という経路を伝って脳へと伝わります。

脳へ伝わった刺激の一つが視床下部に届くと、
そこでオキシトシンが産生され、
さまざまの健康効果をもたらすことが確認されています。

ツボ押し入浴で、お勧めは、
『合谷(ごうこく)』と『足三里』
という2つの万能ツボです。

❶ゆったりと湯ぶねに浸かる
❷入浴しながら、合谷や足三里のツボを押す

【 合谷の探し方 】オキシトシンのツボ合谷.png

親指と人さし指の骨がまじわったところから、
やや人さし指よりのへこみが合谷です。

【 押し方 】

親指を「合谷」にあて、
気持ちいいと感じる強さで
やや強めに押しもみます。

両手を
「1、2、3」と数えながら、
3秒キープする
※これを4〜5回繰り返す

【 足三里の探し方 】オキシトシンのツボ足三里.png

ひざのお皿のすぐ下、
外側のくぼみに人さし指をおき、
指幅4本そろえて
小指があたっている
ところが足三里です。

【 押し方 】

親指を「足三里」にあてて
残りの指をふくらはぎに添え、
やや強めに
「1、2、3」と数えながら、
3秒キープする
※これを4〜5回繰り返す

合谷は、上半身
のさまざまな症状に効く万能ツボです。

肩こり、五十肩、頭痛、めまい、
目や鼻の不快症状などに効果的です。

足三里は、下半身
のさまざまな症状に効果を発揮する万能ツボです。

特に胃腸全般や腰痛、
ひざ痛に有効とされています。

また、ご夫婦で入浴し、
互いにツボ刺激を行うのもお勧めです。

リラックスし、コミュニケーションを深める
ことも、オキシトシンの分泌を高める
ことがわかっています。

お試しください。

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2019年08月11日

幸せホルモン『オキシトシン』

幸せホルモン『オキシトシン』

オキシトシンは、
視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、
下垂体後葉から分泌されるホルモンで、
9個のアミノ酸からなるペプチドホルモンです
(Cys-Tyr-Ile-Gln-Asn-Cys-Pro-Leu-Gly)。

1906年にヘンリー・ハレット・デールによって発見され、
1952年に分子構造が決定されました。


オキシトシンには末梢組織で働くホルモンとしての作用、
中枢神経での神経伝達物質としての作用があります。

末梢組織では主に平滑筋の収縮に関与し、
分娩時に子宮収縮させます。

また乳腺の筋線維を収縮させて
乳汁分泌を促すなどの働きを持つ。

このため臨床では
子宮収縮薬や陣痛促進剤をはじめとして、
さまざまな医学的場面で使用
されてきており、その歴史は長い。

最初は女性に特有な機能に
必須なホルモンとして発見されましたが、

その後、男性にも普遍的に存在することが判明しました。

オキシトシンには、感情や行動を落ち着かせたり、
互いの信頼関係を強化し、
夫婦や親子の絆を作りやすくする
効果もあるとされ、

その特徴から幸福な”花束”.jpg

「愛情ホルモン」とも呼ばれています。

岡山大学の富澤一仁助教授(当時)の研究チームは、
次のような実験を行いました。

妊娠したことのないマウス
の脳に
オキシトシンを注射し、
エサを隠した迷路に入れます。

この迷路には8つの順路
があり、
そのうち4つの順路にエサを隠しました。

この結果、オキシトシンをより多く
注入されたマウスのほうが、
エサのある順路を記憶する
能力が高いことがわかったのです。

また、妊娠を経験したマウスの脳に
オキシトシンを抑制する注射をし、
同じ迷路に入れました。

すると、このマウスでは
記憶力が低下していることがわかりました。

つまり、この実験結果から、
オキシトシンが記憶と学習の能力を
向上させることがわかったのです。

オキシトシンは、
女性のほうが分泌されやすいホルモンですが、
男性でも分泌されます。

オスのマーモセットを単独でケージに入れた場合と、
オスのマーモセットを子どもと一緒にケージに入れた場合では、
子どもと一緒だったマーモセットの方が
オキシトシンの分泌量が多かった、
という実験結果があります。

オキシトシンは愛情をもって誰かを育てれば、
たとえそれが自分の子どもでなくても、
分泌されるのです。

そしてこのオキシトシンが
記憶や学習の能力を向上させます。

人の場合なら、
子どもに限らず、
部下や後輩などを
愛情をもって育てた
場合にも分泌されます。

よく、子どもをもった母親が
「子どもを育てることで
自分が成長できた」
と言います。

これは実際にその通りで、
誰かを育てることは
自分を育てることに
つながるのです。

そして、それは実の子どもかどうかは
関係なく、他人の子どもであれ、
部下や後輩であれ、
誰でも目いっぱいの愛情をもって
育てれば、自分もともに成長できるのです。

さらに、オキシトシンは、
精神的な安らぎを与えるといわれる
セロトニン作動性ニューロン
の働きを促進する
ことでストレス反応を抑え、
人と交わったりする社会的行動
への不安を減少させると考えられます。

これまでの研究でも、オキシトシンを人に投与すると、
他人に対する信頼感を増加させる
という報告がありますし、

社会行動に障害がある
自閉症スペクトラムの患者さんに
オキシトシンを投与したところ、
前頭前野の活動が増加して
症状の改善が見られた
という報告も話題を呼びました。

さらに、オキシトシンは、
前頭前野、海馬、扁桃体などに
働きかけるホルモンとして、

例えば、うつ病に関わりの深い
海馬の神経細胞の新生
を促進させることによって、
うつ病を改善する可能性
があることも明らかになりつつあります。

【引用文献】
科学がつきとめた「運のいい人」
脳科学者 中野 信子 サンマーク出版

抗ストレス作用や社会行動に関与する「オキシトシン」
公益財団法人 テルモ生命科学振興財団
中高生と”いのちの不思議”を考えるー生命科学DOKIDOKI研究室
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/class/s2_11/interview02.html

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2019年08月10日

不安と上手につきあう

不安と上手につきあう

受験はうまくいくだろうか、
仕事はうまくいくだろうか、
パートナーは自分を裏切らないだろうか、
お金は足りるだろうか、
ずっと健康でいられるだろうか、
など、
人は様々な不安を抱えて生きています。

人の心をいっぱいにしがちなのが「不安」です。

不安を抱え込みすぎていると、
自分の不安に気づいてくれない周囲の人間や、
不安を何とかしてくれない
パートナーなどに不満をぶちまけるなどしてしまいます。

そこで、まずはこの不安を何とかしましょう。

不安を感じたら、心に余裕がなくなっていると思って、
次の対処法をためしてみてください。

セロトニンの分泌量を増やす

セロトニンの分泌を増やすには、
早寝早起き、
適度な運動、
リラックスしたお風呂タイム
をお勧めします。

不安は「生理現象」

女性の場合、生理前にはセロトニンの分泌量が減ります。
「不安も生理現象のひとつ」と、割り切るのも手です。

「どうして不安になるのだろう?」
「心配でしかたない」
などあれこれと考え、
不安を真正面からじかに受け止めるのではなく、

これはおなかがすいたり、
生理前にお腹がいたくなるのと同じ生理現象なのだ、
セロトニンの分泌量が減っているにすぎないのだ、
と考えるのです。

そう考えれば、不安がさらに不安を呼び、
ますます不安になっていってしまう、
という悪循環を避け、

自分の状態をコントロールしながら、
しんどい時期を
うまく乗り切ることができるでしょう。

不安のとらえ方を変えてみる

たいていの人は
「できれば不安はなくしたい」
と考えるかもしれませんが、
不安は人が生きていくうえで必要な機能
ともいえます。

不安があるからこそ、
人は備え、工夫し、努力できる
一面があります。

病気になったらどうしよう、
そうならないために生活習慣を見直す、

会社のリストラ候補になったらどうしよう、
そうならないために精一杯努力する。

退職後に備えて、
副収入の手立てを探す、
などというように。

セロトニンの分泌量が抑えられているのは、
人をあまり能天気にさせないための
脳の働きかもしれません。

不安を箱にしまってしまう

不安を感じたら、
「ああ、私はいま、不安を感じているな」
と自覚してみるのです。

不安をひとつのモノとして、閉じた箱.jpg

自分から切り離して
考えてみます。

私は「不安」というモノを
抱えているな、

いろいろ考えるべきことは
あるかもしれないけれど、
とりあえず今はこの「不安」というモノを箱の中に
しまって、
今日は寝てしまおう、
不安になるのは後回しに
しよう、などと考える。

しっかり眠って翌朝その箱を開けると、
不安がなくなっている
場合も少なくありません。


【引用文献】
科学がつきとめた
「運のいい人」
脳科学者 中野 信子 サンマーク出版

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タナカマツヘイ
総合診療科 医学博士 元外科学会専門医指導医、元消化器外科学会専門医指導医、元消化器外科化学療法認定医、元消化器内視鏡学会専門医、日本医師会産業医、病理学会剖検医
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