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2019年06月19日
目に見える「行動」から、目に見えない「心」を探る
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
ニュートン別冊ゼロからわかる心理学 知れば知るほど面白い!心と行動の科学 から
監修 横田正夫 2019年3月5日発行 ニュートンプレス
プロローグ
なぜ、こんなに悩んでしまうのだろう
どうしていつも、こんな振る舞いをしてしまうのだろう
私たちの何気ない行動や判断には、心が大きく関わっています。
目には見えない心の働きを研究する学問が『心理学』です。
目に見える「行動」から、目に見えない「心」を探る
心は見ることも触ることもできないため、仕組みを理解することが難しいものです。
古代より、哲学や医学の分野で、
心の探求は行われてきました。
古代ギリシアやローマでは、人の体は4種類の体液で構成されており、
その体液の割合によって人の生まれつきの気質も4パターンになる
と考えられていました。
ただし、これらの理論は、哲学者や医者個人の経験や思考によって生み出されたものです。
(血液型の4パターンの分類もこれに由来するとする人もいます)
一方、心理学は、科学的な方法を使って心の仕組みを捉えようとします。
心そのものは測定することができないため、
目に見える形で現れる「行動」を観察・測定し、
その行動を生み出した背景にある心の仕組みを推測するのです。
心とは何であるかを
一言で説明することはできません。
そこで、心理学では、心を幾つかの要素に分けて考えます。
心を構成する要素には、
知覚、記憶、学習、思考、感情などがあります。
心の仕組みを解明するためには、
それぞれの要素が現れる行動を観察・測定し、
要素ごとに性質を明らかにしていきます。
例えば、数字の配列を覚えさせ、
覚えている数字を回答させるような実験を行うことで、
人は数字の配列を7つ程度までしか覚えられないという
記憶の性質がわかっています(前頭前野、ワーキングメモリー)。
行動の観察・測定は実験室のような場に限りません。
臨床の場においても、
心理カウンセラーが、
クライアント(患者)の話を聞いたり、
カウンセラーへの態度を観察したりすることで、
クライアントの性格や考え方の偏りを
推測しながら、治療を進めていきます。
このように、観察や測定で得られたデータを元に
仮説と検証を行い、
統計の技術を使って
人々に共通する性質や傾向を明らかにしたり、
個人個人の性格を理解したりすることが、心理学だと言えます。
世の中に「心理学」と名のつくものは数多く見られますが、
主要な研究分野としては、
次のようなものがあります。
「実験心理学」は、実験を通じて心を構成する要素の性質を明らかにしていきます。
「性格心理学」は、個人の性格(パーソナリティ)の成り立ちやパターンの理解を深めます。
「社会心理学」は、集団の中での人の振る舞いや考え方の癖などを明らかにしていきます。
「発達心理学」では、年齢ごとの心や性格の発達・変化についての理解を深めます。
「臨床心理学」では、心の病や社会への不適応の悩みを解決するために、
研究で得られた知見を用いながら、治療技法を生み出していきます。
他にも、「犯罪心理学」や「産業心理学」など、
特定の状況における人の心を探求する分野や、
「神経心理学」や「生理心理学」など、
体や脳の機能と心の仕組みの関係を調べる分野があります。
こうした分野でえらえた知見は、
一般の人が自分の性格を理解しようとするときや、
心の病を持つ人の治療に役立つだけでなく、
学校でのカウンセリングや
被災者のストレスケアなど、
社会の多くの場面で役立っています。
ニュートン別冊ゼロからわかる心理学 知れば知るほど面白い!心と行動の科学 から
監修 横田正夫 2019年3月5日発行 ニュートンプレス
プロローグ
なぜ、こんなに悩んでしまうのだろう
どうしていつも、こんな振る舞いをしてしまうのだろう
私たちの何気ない行動や判断には、心が大きく関わっています。
目には見えない心の働きを研究する学問が『心理学』です。
目に見える「行動」から、目に見えない「心」を探る
心は見ることも触ることもできないため、仕組みを理解することが難しいものです。
古代より、哲学や医学の分野で、
心の探求は行われてきました。
古代ギリシアやローマでは、人の体は4種類の体液で構成されており、
その体液の割合によって人の生まれつきの気質も4パターンになる
と考えられていました。
ただし、これらの理論は、哲学者や医者個人の経験や思考によって生み出されたものです。
(血液型の4パターンの分類もこれに由来するとする人もいます)
一方、心理学は、科学的な方法を使って心の仕組みを捉えようとします。
心そのものは測定することができないため、
目に見える形で現れる「行動」を観察・測定し、
その行動を生み出した背景にある心の仕組みを推測するのです。
心とは何であるかを
一言で説明することはできません。
そこで、心理学では、心を幾つかの要素に分けて考えます。
心を構成する要素には、
知覚、記憶、学習、思考、感情などがあります。
心の仕組みを解明するためには、
それぞれの要素が現れる行動を観察・測定し、
要素ごとに性質を明らかにしていきます。
例えば、数字の配列を覚えさせ、
覚えている数字を回答させるような実験を行うことで、
人は数字の配列を7つ程度までしか覚えられないという
記憶の性質がわかっています(前頭前野、ワーキングメモリー)。
行動の観察・測定は実験室のような場に限りません。
臨床の場においても、
心理カウンセラーが、
クライアント(患者)の話を聞いたり、
カウンセラーへの態度を観察したりすることで、
クライアントの性格や考え方の偏りを
推測しながら、治療を進めていきます。
このように、観察や測定で得られたデータを元に
仮説と検証を行い、
統計の技術を使って
人々に共通する性質や傾向を明らかにしたり、
個人個人の性格を理解したりすることが、心理学だと言えます。
世の中に「心理学」と名のつくものは数多く見られますが、
主要な研究分野としては、
次のようなものがあります。
「実験心理学」は、実験を通じて心を構成する要素の性質を明らかにしていきます。
「性格心理学」は、個人の性格(パーソナリティ)の成り立ちやパターンの理解を深めます。
「社会心理学」は、集団の中での人の振る舞いや考え方の癖などを明らかにしていきます。
「発達心理学」では、年齢ごとの心や性格の発達・変化についての理解を深めます。
「臨床心理学」では、心の病や社会への不適応の悩みを解決するために、
研究で得られた知見を用いながら、治療技法を生み出していきます。
他にも、「犯罪心理学」や「産業心理学」など、
特定の状況における人の心を探求する分野や、
「神経心理学」や「生理心理学」など、
体や脳の機能と心の仕組みの関係を調べる分野があります。
こうした分野でえらえた知見は、
一般の人が自分の性格を理解しようとするときや、
心の病を持つ人の治療に役立つだけでなく、
学校でのカウンセリングや
被災者のストレスケアなど、
社会の多くの場面で役立っています。
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2019年06月18日
30秒で読む「意思決定の脳科学」
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
30秒で読む「意思決定の脳科学」
脳外科手術で「感情的部位」を失った人は、
一分の隙もない論理的な人間になるわけではなく、
「決断を下せない人」になる。
意思決定プロセスを脳科学で説明する。
TEXT BY CHRISTIAN JARRETT
TRANSLATION BY GALILEO
WIRED NEWS (US)
「意思決定の神経科学」について、30秒間で説明することは可能だろうか。
わたしは米国で3月10日に出版された『30-Second Brain』の共同執筆者として、その新刊から引用しよう。
古代ギリシャの哲学者プラトンは、人間の感情と理性の関係を「馬と御者」に喩えた。
近代の心理学者フロイトは、
「本能的な欲求(イド)が自我(エゴ)によって抑制される」という概念を打ち立てた。
つまり、ずっと以前から、理性と感情は対立するものと考えられてきた。
こうした見方を神経科学的に解釈すると、
的確な判断とは、合理的な前頭葉が、
生物進化の早い段階に出現した、感情をつかさどる脳の部位
(脳の奥深くにある大脳辺縁系など)における
「動物的本能」をコントロールするものだと思われるかもしれない。
しかし、実際はかなり違う。
感情的な情報インプットが生み出す「動機づけ」や「目的」がなければ、
効果的な意思決定は不可能なのだ。
脳神経科学者アントニオ・ダマシオの患者「エリオット」を例に取ろう。
有能なビジネスマンだったエリオットは、
脳腫瘍を切除するための外科手術を受け、脳の「眼窩前頭皮質」
を切除された。
これは、前頭葉と感情を結びつける部位だった。
その結果エリオットは、映画『スタートレック』に登場するミスター・スポックのような、
感情が欠落した人間になってしまった。
しかし、感情を持たないからといって、
一分の隙もない論理的な人間になったわけではなく、
むしろ決断を下せなくなってしまったのだ。
こうした症例からダマシオ氏は、
「直感的な感情」が人間の決断を支援するプロセスを説明する
「ソマティック・マーカー仮説」を唱えるようになった。
被験者にカードゲームをさせるギャンブル課題という実験では、
プレーヤーが、自分にとって不利なカードを手に取る前に、手に汗をかくことがわかっている。
つまり、誤った決断を下したと頭が意識する前に身体が反応しているのだ。
別の箇所からも引用しよう。
われわれは、決断の際に感情が必要だ。
感情的なインプットが必要ということは、
人間が、従来の経済学が仮定するような
「冷たい合理的な行為者」ではないということを意味する。
たとえば、ダニエル・カーネマンはエイモス・トベルスキーとともに、
損失が感情に与える負の影響は、利益による正の効果の2倍の強さがあることを証明した。
このことは、予見可能なかたちでわれわれの決断に影響している。
たとえば、われわれは「失敗した投資」を回収不能と見なすことにかたくなに抵抗しやすいが、
そうした行動もこれによって説明することができる。
30秒で読む「意思決定の脳科学」
脳外科手術で「感情的部位」を失った人は、
一分の隙もない論理的な人間になるわけではなく、
「決断を下せない人」になる。
意思決定プロセスを脳科学で説明する。
TEXT BY CHRISTIAN JARRETT
TRANSLATION BY GALILEO
WIRED NEWS (US)
「意思決定の神経科学」について、30秒間で説明することは可能だろうか。
わたしは米国で3月10日に出版された『30-Second Brain』の共同執筆者として、その新刊から引用しよう。
古代ギリシャの哲学者プラトンは、人間の感情と理性の関係を「馬と御者」に喩えた。
近代の心理学者フロイトは、
「本能的な欲求(イド)が自我(エゴ)によって抑制される」という概念を打ち立てた。
つまり、ずっと以前から、理性と感情は対立するものと考えられてきた。
こうした見方を神経科学的に解釈すると、
的確な判断とは、合理的な前頭葉が、
生物進化の早い段階に出現した、感情をつかさどる脳の部位
(脳の奥深くにある大脳辺縁系など)における
「動物的本能」をコントロールするものだと思われるかもしれない。
しかし、実際はかなり違う。
感情的な情報インプットが生み出す「動機づけ」や「目的」がなければ、
効果的な意思決定は不可能なのだ。
脳神経科学者アントニオ・ダマシオの患者「エリオット」を例に取ろう。
有能なビジネスマンだったエリオットは、
脳腫瘍を切除するための外科手術を受け、脳の「眼窩前頭皮質」
を切除された。
これは、前頭葉と感情を結びつける部位だった。
その結果エリオットは、映画『スタートレック』に登場するミスター・スポックのような、
感情が欠落した人間になってしまった。
しかし、感情を持たないからといって、
一分の隙もない論理的な人間になったわけではなく、
むしろ決断を下せなくなってしまったのだ。
こうした症例からダマシオ氏は、
「直感的な感情」が人間の決断を支援するプロセスを説明する
「ソマティック・マーカー仮説」を唱えるようになった。
被験者にカードゲームをさせるギャンブル課題という実験では、
プレーヤーが、自分にとって不利なカードを手に取る前に、手に汗をかくことがわかっている。
つまり、誤った決断を下したと頭が意識する前に身体が反応しているのだ。
別の箇所からも引用しよう。
われわれは、決断の際に感情が必要だ。
感情的なインプットが必要ということは、
人間が、従来の経済学が仮定するような
「冷たい合理的な行為者」ではないということを意味する。
たとえば、ダニエル・カーネマンはエイモス・トベルスキーとともに、
損失が感情に与える負の影響は、利益による正の効果の2倍の強さがあることを証明した。
このことは、予見可能なかたちでわれわれの決断に影響している。
たとえば、われわれは「失敗した投資」を回収不能と見なすことにかたくなに抵抗しやすいが、
そうした行動もこれによって説明することができる。
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2019年06月17日
すこやかな人生G 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生G
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: そういう方はどのぐらい割合でいらっしゃったんですか。
池見: それが最近では千人に一人ぐらいおることがわかったんですね。
しかもこれには科学的な根拠があるということもわかってきたんです。
それをちょっと実例をお目にかけたいんですが、
この方は六十五歳になる、ある医科大学の名誉教授で病理学の有名な方なんです。
この方がこの写真で見ますと、左側の肺の方は真っ白くなっていますね。
これが癌で、これに気がつかれた時は、こんなに大きくなっていたんですね。
井筒屋: 正面左手の方が右の肺で、白くなっているところが癌なんですか。
池見: そうなんです。上の方に詰まったようになっているでしょう。
それでこの方が病理学者ですから、自分で自分の癌がわかるんですね。
顕微鏡検査をしてみられると悪性の肺癌ですね。
だから自分の同僚なんかに、この方は、「俺はあと半年の命だ」と自分で言っておられた。
実は長いこと信仰しておられたんですよ。
ところがその最後の蜀山人の「俺が死ぬとはこれは堪らん」というところだけはどうしても越えられない。
特に自分がそうなってみて、はじめて気がつかれた。
「あと半年の命」と言われると、
みんなヤケになったり、憂鬱になったりして、すぐ死ぬんですね。
ところが、「あ、あと半年も私はいのちを頂いておる」と思って、
それからそれこそ毎日毎日が拝んで暮らすような生活になられた。
ふと気がついてみると、「自分はこれまで六十五年間も生きてきた人生というのは、
周囲の無数の人のお蔭で生きてきた人生であった」
ということがはっきりわかるわけです。
そうなった時に。これ悟りでもなんでもない。
もっとも科学的なことなんですね。
一番人間が気づかなければならない一番当たり前のことに、
人間は気がつかないわけですね。
それに気付かれまして、この方は、癌でいのちがあと半年となってから、
ますます病院の仕事に熱心になられる。
この方は、病理学者ですから病院の顕微鏡でいろんな検査をされていた。
それから実に十七年間生きられました。
井筒屋: 「あと半年」と言われたのに?
池見: そうです。十七年間生きられた。
そして亡くなられた時に解剖された―ご本人が言うものですから。
腸閉塞で亡くなったんです。
腸閉塞という癌とは関係のない病気ですよ。
肺のほうに癌は残っていたそうです、小さくなって。
ですから、末期の癌患者で、そのことが告知された後、
癌が自然に退縮ないし消失して、予想を大きく上回って生存する。
これを「癌の自然退縮(たいしゅく)」と言います。
人生を生きながら、生きる意味や生きがいについて考え、
その考え方、生きざまの変化が心身の健康に重大な変化を及ぼす
動物と異なる人間の本質がありますね。
井筒屋: それはレントゲンで比較してもハッキリわかるわけですね。
池見: 左の写真が、一年十ヶ月経った時のものです。
向かって左の方綺麗になっています。治ったんではないんですけれども、自然退縮した。
井筒屋: 右の写真が、最初の末期癌と宣告された時のものですね。
池見: そうです。
井筒屋: それから何年も経って、左の写真のように綺麗になった?
池見: はい。中川俊二先生も、私も、この頃十四、五年前でしょう。
日本でこういうことを言ったら、「心身医学をやっている奴は、少し頭がおかしいぞ!
宗教かぶれしているんだ!」と言われるのがこわいものですから、
ドイツの雑誌にこっそり投稿したんです。
井筒屋: こっそりですか?
池見: ほんとにそうなんです。
そうしたら、外国の有名な学者たちはどんどん増えてきたんです。
その一人が、ハーバード大学のロックという精神科の助教授です。
この人が「精神神経免疫学」と言いまして、
生命力・自然治癒力の核になるのに免疫がある、
ということがわかってきたんです。
これが私どもの血液の中にリンパ球というのがありますね。
あの中にわれわれの体に入ってきたエイズなんかのウイルスを見つけて喰い殺す。
その癌細胞を見つけて喰い殺す。
そういう免疫というのがあることがわかってきたんです。
これが中川先生が私どもが見た、この胃ガンの患者さんで、
やっぱりそういう自然退縮が起こってきた人の癌細胞、真ん中が丸いのがありますね。
その周囲にたくさん小さな兵隊が押し寄せてきていますね。
あれがリンパ球ですね。あんなに癌を包んでやっつける。
そういう免疫の力が人間が自分のいのちの本来の姿、
人間としてのあるべき姿に目覚めた時に、
生命力が一番活性するというのは、これは一番素晴らしい事実だと思うんですね。
それでそのロック助教授がアメリカへ数年前に『内なる治癒力』という本を出しまして、
これが大変いい本になったんですね。
その本の一番初めのところに私の研究を紹介してあります。
それが私の監修で、『内なる治癒力』という本が大阪の創元社から出ています。
今、日本でも随分広くみなさんに関心もって読んで頂いております。
結局、われわれの自然治癒力の柱は、
自律神経、ホルモン、免疫と。
この免疫ができました時に、免疫の働きというのは、
実は脳の働きと非常に深い関係がある。
これはさっき触れましたけれども、「精神神経免疫学」という。
今まで一番心と関係がないと思っていた癌が案外深い関係がある。
エイズなんかも。
そうしますと、こういう人間が、
「自己の本来に目覚める時に、人間が一番健やかになる」という原理を、
私は日本中の中高年の方にわかって頂くこと。
それを若い世代に少しでも伝えて頂くことが、
私は非常に大事な生きがいになるんじゃないかと思います。
井筒屋: 先生は、「生きがい療法」という言葉もありますけれども、
こう治っていこうという気持が、先生の免疫のシステムにも活性化していくと、
池見: 治っていくというよりは、
残された大事な仕事があるから頑張らなければいけないという、
ファイティング・スピリット(fighting spirit:闘志)も非常に大事ですね。
ところがさっき申しましたように、
「天地自然から頂いたいのちを、今日も生かして頂いておる」と。
よく「一期一会」と言いますね。
すなわち、限りあるいのちを生きる身として、
今・ここでたてる一椀の茶にベストをつくし、
この茶室での客人との出会いを最後と心得て愛情をこめてもてなすといった深い知恵が教えられます。
これなどは日本のわび・さびの文化を象徴するものとされています。
東洋はそういう生きるための心情も日常生活にちゃんと入れていたんです。
日本では昔から、東洋の「道」を通して、人づくりにいたる方法が、
哲学的、宗教的なレベルをこえて、日常生活の中に深くしみこみ、
茶の湯、生花、舞踊、武術などが、「道」にまで高められていたのが特徴です。
日常的営みのすべてを、「道」にまで高めようとする東洋の深い知恵にもとづくものです。
「今日も一日、生かしていただき、ありがとうございます。みなさん、ありがとうございます」と。
それが東洋ではちゃんと昔から「道」になっておって、
この「道」を、われわれが科学を通して、いま世界に広めることが、
私はこれからの今の二十世紀の危機から脱する一つの決め手ではないかと思っています。
井筒屋: なるほど。そういう道に添ったうえで、
もう一度お年寄りの方に生きがいについて、一言お願いします。
池見: 私どもの生きがいは、さっき申しましたように、パスカルにありましたように、
一人ひとりが他の人によって置き換えることのできない独特な役割を持っておる。
父親は父親、母親は母親、子どもは子どもですね。
その役割をみんなとの調和の中で生かされているいのちに感謝しながらやる。
そういうふうになった時にすべてがうまくいく。
人間としての一番深い気づきは個々の内なるいのちと外なる自然のいのちとの交流、
生きとし生けるものの限界としての死への目ざめではないでしょうか。
井筒屋: どうもありがとうございました。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生G
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: そういう方はどのぐらい割合でいらっしゃったんですか。
池見: それが最近では千人に一人ぐらいおることがわかったんですね。
しかもこれには科学的な根拠があるということもわかってきたんです。
それをちょっと実例をお目にかけたいんですが、
この方は六十五歳になる、ある医科大学の名誉教授で病理学の有名な方なんです。
この方がこの写真で見ますと、左側の肺の方は真っ白くなっていますね。
これが癌で、これに気がつかれた時は、こんなに大きくなっていたんですね。
井筒屋: 正面左手の方が右の肺で、白くなっているところが癌なんですか。
池見: そうなんです。上の方に詰まったようになっているでしょう。
それでこの方が病理学者ですから、自分で自分の癌がわかるんですね。
顕微鏡検査をしてみられると悪性の肺癌ですね。
だから自分の同僚なんかに、この方は、「俺はあと半年の命だ」と自分で言っておられた。
実は長いこと信仰しておられたんですよ。
ところがその最後の蜀山人の「俺が死ぬとはこれは堪らん」というところだけはどうしても越えられない。
特に自分がそうなってみて、はじめて気がつかれた。
「あと半年の命」と言われると、
みんなヤケになったり、憂鬱になったりして、すぐ死ぬんですね。
ところが、「あ、あと半年も私はいのちを頂いておる」と思って、
それからそれこそ毎日毎日が拝んで暮らすような生活になられた。
ふと気がついてみると、「自分はこれまで六十五年間も生きてきた人生というのは、
周囲の無数の人のお蔭で生きてきた人生であった」
ということがはっきりわかるわけです。
そうなった時に。これ悟りでもなんでもない。
もっとも科学的なことなんですね。
一番人間が気づかなければならない一番当たり前のことに、
人間は気がつかないわけですね。
それに気付かれまして、この方は、癌でいのちがあと半年となってから、
ますます病院の仕事に熱心になられる。
この方は、病理学者ですから病院の顕微鏡でいろんな検査をされていた。
それから実に十七年間生きられました。
井筒屋: 「あと半年」と言われたのに?
池見: そうです。十七年間生きられた。
そして亡くなられた時に解剖された―ご本人が言うものですから。
腸閉塞で亡くなったんです。
腸閉塞という癌とは関係のない病気ですよ。
肺のほうに癌は残っていたそうです、小さくなって。
ですから、末期の癌患者で、そのことが告知された後、
癌が自然に退縮ないし消失して、予想を大きく上回って生存する。
これを「癌の自然退縮(たいしゅく)」と言います。
人生を生きながら、生きる意味や生きがいについて考え、
その考え方、生きざまの変化が心身の健康に重大な変化を及ぼす
動物と異なる人間の本質がありますね。
井筒屋: それはレントゲンで比較してもハッキリわかるわけですね。
池見: 左の写真が、一年十ヶ月経った時のものです。
向かって左の方綺麗になっています。治ったんではないんですけれども、自然退縮した。
井筒屋: 右の写真が、最初の末期癌と宣告された時のものですね。
池見: そうです。
井筒屋: それから何年も経って、左の写真のように綺麗になった?
池見: はい。中川俊二先生も、私も、この頃十四、五年前でしょう。
日本でこういうことを言ったら、「心身医学をやっている奴は、少し頭がおかしいぞ!
宗教かぶれしているんだ!」と言われるのがこわいものですから、
ドイツの雑誌にこっそり投稿したんです。
井筒屋: こっそりですか?
池見: ほんとにそうなんです。
そうしたら、外国の有名な学者たちはどんどん増えてきたんです。
その一人が、ハーバード大学のロックという精神科の助教授です。
この人が「精神神経免疫学」と言いまして、
生命力・自然治癒力の核になるのに免疫がある、
ということがわかってきたんです。
これが私どもの血液の中にリンパ球というのがありますね。
あの中にわれわれの体に入ってきたエイズなんかのウイルスを見つけて喰い殺す。
その癌細胞を見つけて喰い殺す。
そういう免疫というのがあることがわかってきたんです。
これが中川先生が私どもが見た、この胃ガンの患者さんで、
やっぱりそういう自然退縮が起こってきた人の癌細胞、真ん中が丸いのがありますね。
その周囲にたくさん小さな兵隊が押し寄せてきていますね。
あれがリンパ球ですね。あんなに癌を包んでやっつける。
そういう免疫の力が人間が自分のいのちの本来の姿、
人間としてのあるべき姿に目覚めた時に、
生命力が一番活性するというのは、これは一番素晴らしい事実だと思うんですね。
それでそのロック助教授がアメリカへ数年前に『内なる治癒力』という本を出しまして、
これが大変いい本になったんですね。
その本の一番初めのところに私の研究を紹介してあります。
それが私の監修で、『内なる治癒力』という本が大阪の創元社から出ています。
今、日本でも随分広くみなさんに関心もって読んで頂いております。
結局、われわれの自然治癒力の柱は、
自律神経、ホルモン、免疫と。
この免疫ができました時に、免疫の働きというのは、
実は脳の働きと非常に深い関係がある。
これはさっき触れましたけれども、「精神神経免疫学」という。
今まで一番心と関係がないと思っていた癌が案外深い関係がある。
エイズなんかも。
そうしますと、こういう人間が、
「自己の本来に目覚める時に、人間が一番健やかになる」という原理を、
私は日本中の中高年の方にわかって頂くこと。
それを若い世代に少しでも伝えて頂くことが、
私は非常に大事な生きがいになるんじゃないかと思います。
井筒屋: 先生は、「生きがい療法」という言葉もありますけれども、
こう治っていこうという気持が、先生の免疫のシステムにも活性化していくと、
池見: 治っていくというよりは、
残された大事な仕事があるから頑張らなければいけないという、
ファイティング・スピリット(fighting spirit:闘志)も非常に大事ですね。
ところがさっき申しましたように、
「天地自然から頂いたいのちを、今日も生かして頂いておる」と。
よく「一期一会」と言いますね。
すなわち、限りあるいのちを生きる身として、
今・ここでたてる一椀の茶にベストをつくし、
この茶室での客人との出会いを最後と心得て愛情をこめてもてなすといった深い知恵が教えられます。
これなどは日本のわび・さびの文化を象徴するものとされています。
東洋はそういう生きるための心情も日常生活にちゃんと入れていたんです。
日本では昔から、東洋の「道」を通して、人づくりにいたる方法が、
哲学的、宗教的なレベルをこえて、日常生活の中に深くしみこみ、
茶の湯、生花、舞踊、武術などが、「道」にまで高められていたのが特徴です。
日常的営みのすべてを、「道」にまで高めようとする東洋の深い知恵にもとづくものです。
「今日も一日、生かしていただき、ありがとうございます。みなさん、ありがとうございます」と。
それが東洋ではちゃんと昔から「道」になっておって、
この「道」を、われわれが科学を通して、いま世界に広めることが、
私はこれからの今の二十世紀の危機から脱する一つの決め手ではないかと思っています。
井筒屋: なるほど。そういう道に添ったうえで、
もう一度お年寄りの方に生きがいについて、一言お願いします。
池見: 私どもの生きがいは、さっき申しましたように、パスカルにありましたように、
一人ひとりが他の人によって置き換えることのできない独特な役割を持っておる。
父親は父親、母親は母親、子どもは子どもですね。
その役割をみんなとの調和の中で生かされているいのちに感謝しながらやる。
そういうふうになった時にすべてがうまくいく。
人間としての一番深い気づきは個々の内なるいのちと外なる自然のいのちとの交流、
生きとし生けるものの限界としての死への目ざめではないでしょうか。
井筒屋: どうもありがとうございました。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
追加プレゼント申請
2019年06月16日
すこやかな人生F 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生F
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: その点を分かり易くしますために、
私がこさえましたのが、このパネルです。
このパネルの人物の右側が人間の病気を治すための身体医学的な療法
―薬とか、注射とか、物理療法とか手術ですね、
これだけで治る病気は二十パーセントもないわけですね。
そこで左側の心理学的な療法
―ストレスに対するいろんな悩みの相談に応ずる、
現代人の不健康な生活
―食べ過ぎ、運動不足、タバコ、アルコール
―そういうのを改めて健康な生活をしよう。
それから近頃家庭が崩壊しまして、生活の基礎が出来ていませんので、
精神分析をやって、性格の基礎からの立て直しをする。
その二つを合わせたのが心身なんです。
この二つを併用するだけでは、
全人的な医療とはいえず、
患者自身が持つ心身両面での自然治癒力(気)を活性化する
「健康の医学」を忘れてはならない。
真ん中のところ、一番大事なものはわれわれ自身の中に
「自然治癒力・生命力」があるんですね。
心身両面でこれを東洋医学では「気」と呼んでいるんです。
井筒屋: そこの文字に書いてある療法は西洋的なもので、
池見: そうです。
井筒屋: これが気が抜けていると、
池見: まさに気が抜けている。
東洋医学では、患者の中にある自然治癒力(気)を
活性化する鍼灸などに加え気功、
ヨーガなどの健康教育が古くから重視されてまいりました。
この真ん中の気―生命力を踏まえた医学がこれからの本当の医学である。
その点を脳の働きから、ちょっとばかりお話しますと、
井筒屋: 先生がおっしゃったように、脳には三つの階層構造があると。
池見: そうです。
生命的な営み(本能や内臓諸器官の働きなど)を司る生命脳(植物脳)、
動物的感情(情動)を司る情動脳(動物脳)、
人間としての知恵の営みを司る知性脳(人間脳)です。
現代人は知恵の脳ばかりが過熱状態になって、
だんだん本当は人間の動物的な本能とか動物的な感情を
知恵の脳がうまくコントロールして、
建設的な人間のエネルギー、豊かな情操に通ずる教育がなければならない。
そこがだんだん切り離されちゃった。
だから日本人のことをエコノミック・アニマルという、
金儲けの上手な動物になる。知恵のある動物が横行する。
一番違うのは生命力の知恵、あそこに食欲の中枢なんかがありまして、
今の体のコンディション
―どういう種類の食べ物を、どのくらい食べたらいいか。
信号がちゃんと知恵の脳にきている。
それが聞こえなくなる。
さっきの話のように筋肉の緊張、肩が凝ったとか、
そういう感覚も全部鈍ってきますね。
井筒屋: 人間社会と自然との関わりであるわけですね。
池見: 生命に対する感覚が発達してきますと、
現代人は、左側の「おれが、おれが」という、
知恵だけで、人間、機械社会の中にどっぷりはまっている。
井筒屋: 人間社会との関わりだけが強くなっている。
池見: そればっかりの人間―ロボット人間。
右側の自然の感情とか、体の声も聞こえない。
体の声が聞こえなくなると、自然の声も聞こえない。
人間の全体性を説いたのが、
釈尊のおっしゃいました「よくととのえしおのれ」というお言葉ですね。
釈尊が三十五歳で悟りを開かれた時に、
「われは目覚めたるものなり」。
それはこの自分の全体がわかるようになった時に
はじめて人間らしくなる。
何も悟って神や仏になるわけではない。
人間らしくなる。
脳の付け根のところに、
脳幹網様体賦活(ふかつ)系とややこしいのを書いてありますね。
この部分が、脳内各部の働きに活を入れて、
脳の営みの自己調整に重要な働きをしています。
すなわち、筋肉の緊張、呼吸、光など身体的各部への刺激が、
この部分に伝達されますと、
ここで、それらの刺激の調整が行われ、脳内各部に目ざめ信号が送られる。
井筒屋: 一番赤く塗っているところですね。
池見: あそこに、坐禅の調身・調息・調心をしますと、
ちょうどうまく脳の知恵のカッカしたところを押さえまして、
うちの生命観なんかをうまく呼び覚ます。
気が活性化するんですね。
そういう頭で考えた時に、釈尊がおっしゃったように、
「われはめざめたるものなり」。
宗教という悟りというのは、
要するに「自分の全体がわかってくる」。
世界中がこうなったら仲良くなるわけなんです。
それでいま西洋の哲学とか、
へたな理屈じゃなくて、体から人間に帰ろう、
という東洋の身体文化、
いまアメリカでもヨーロッパではどんどんはやってきましたでしょう。
すごくいいことなんですね。
井筒屋: なるほど。その気というのは、考え方としては、
この生命力みたいなものとして捉えますと、
この生命力が活性化することで、
癌を治したり、癌の進行を食い止めたりすることもある
というふうに先生おっしゃっておられますね。
池見: 私どもはこういうことを十七、八年前から始めました。
その頃は無我夢中で始めたんですが、
癌の患者さんで、
医者から「もうあなたは末期で、あなたの命はあと二、三ヶ月しかない」、
或いは「半年しかない」と言われたような人が、
思いのほか五年も十年も、どうかすると、二十年以上も生きている人がある
ことが医学的にだんだんわかってきたんです。
外国で今から二十年位前に、こういう人を百六十名位集めて研究がありまして、
この頃までは、十万人か二十万人に一人と言われていたんですね。
私どもが中川俊二先生という非常に優秀な研究者の方と一緒にそういう研究を始めてまして、
福岡市近郊で数人集めてみました。
驚いたことに、その人たちが人間として一番気付かなければならない一番大事なこと、
人間は必ず死があるんだと。
周囲のお蔭で生かされておるんだ。
それ長いこと、宗教の信仰なんかしていても、
自分が死ぬなんてことは、みんな考えたくないわけです。
江戸時代の狂歌師・蜀山人(しょくさんじん)の辞世の句に、
昨日まで人のことだと思いし
おれが死ぬとはこれは堪らん
みんな自分が死ぬことは考えていない。
ところが、「あなたのいのちはあと二、三ヶ月、或いは半年」
と言われた時、
「あっと気がつく」。
最後のステップ、一番人間として大事なステップに気がつく。
そういう人たちの中にしばしばそういうことが起こってくるんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生F
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: その点を分かり易くしますために、
私がこさえましたのが、このパネルです。
このパネルの人物の右側が人間の病気を治すための身体医学的な療法
―薬とか、注射とか、物理療法とか手術ですね、
これだけで治る病気は二十パーセントもないわけですね。
そこで左側の心理学的な療法
―ストレスに対するいろんな悩みの相談に応ずる、
現代人の不健康な生活
―食べ過ぎ、運動不足、タバコ、アルコール
―そういうのを改めて健康な生活をしよう。
それから近頃家庭が崩壊しまして、生活の基礎が出来ていませんので、
精神分析をやって、性格の基礎からの立て直しをする。
その二つを合わせたのが心身なんです。
この二つを併用するだけでは、
全人的な医療とはいえず、
患者自身が持つ心身両面での自然治癒力(気)を活性化する
「健康の医学」を忘れてはならない。
真ん中のところ、一番大事なものはわれわれ自身の中に
「自然治癒力・生命力」があるんですね。
心身両面でこれを東洋医学では「気」と呼んでいるんです。
井筒屋: そこの文字に書いてある療法は西洋的なもので、
池見: そうです。
井筒屋: これが気が抜けていると、
池見: まさに気が抜けている。
東洋医学では、患者の中にある自然治癒力(気)を
活性化する鍼灸などに加え気功、
ヨーガなどの健康教育が古くから重視されてまいりました。
この真ん中の気―生命力を踏まえた医学がこれからの本当の医学である。
その点を脳の働きから、ちょっとばかりお話しますと、
井筒屋: 先生がおっしゃったように、脳には三つの階層構造があると。
池見: そうです。
生命的な営み(本能や内臓諸器官の働きなど)を司る生命脳(植物脳)、
動物的感情(情動)を司る情動脳(動物脳)、
人間としての知恵の営みを司る知性脳(人間脳)です。
現代人は知恵の脳ばかりが過熱状態になって、
だんだん本当は人間の動物的な本能とか動物的な感情を
知恵の脳がうまくコントロールして、
建設的な人間のエネルギー、豊かな情操に通ずる教育がなければならない。
そこがだんだん切り離されちゃった。
だから日本人のことをエコノミック・アニマルという、
金儲けの上手な動物になる。知恵のある動物が横行する。
一番違うのは生命力の知恵、あそこに食欲の中枢なんかがありまして、
今の体のコンディション
―どういう種類の食べ物を、どのくらい食べたらいいか。
信号がちゃんと知恵の脳にきている。
それが聞こえなくなる。
さっきの話のように筋肉の緊張、肩が凝ったとか、
そういう感覚も全部鈍ってきますね。
井筒屋: 人間社会と自然との関わりであるわけですね。
池見: 生命に対する感覚が発達してきますと、
現代人は、左側の「おれが、おれが」という、
知恵だけで、人間、機械社会の中にどっぷりはまっている。
井筒屋: 人間社会との関わりだけが強くなっている。
池見: そればっかりの人間―ロボット人間。
右側の自然の感情とか、体の声も聞こえない。
体の声が聞こえなくなると、自然の声も聞こえない。
人間の全体性を説いたのが、
釈尊のおっしゃいました「よくととのえしおのれ」というお言葉ですね。
釈尊が三十五歳で悟りを開かれた時に、
「われは目覚めたるものなり」。
それはこの自分の全体がわかるようになった時に
はじめて人間らしくなる。
何も悟って神や仏になるわけではない。
人間らしくなる。
脳の付け根のところに、
脳幹網様体賦活(ふかつ)系とややこしいのを書いてありますね。
この部分が、脳内各部の働きに活を入れて、
脳の営みの自己調整に重要な働きをしています。
すなわち、筋肉の緊張、呼吸、光など身体的各部への刺激が、
この部分に伝達されますと、
ここで、それらの刺激の調整が行われ、脳内各部に目ざめ信号が送られる。
井筒屋: 一番赤く塗っているところですね。
池見: あそこに、坐禅の調身・調息・調心をしますと、
ちょうどうまく脳の知恵のカッカしたところを押さえまして、
うちの生命観なんかをうまく呼び覚ます。
気が活性化するんですね。
そういう頭で考えた時に、釈尊がおっしゃったように、
「われはめざめたるものなり」。
宗教という悟りというのは、
要するに「自分の全体がわかってくる」。
世界中がこうなったら仲良くなるわけなんです。
それでいま西洋の哲学とか、
へたな理屈じゃなくて、体から人間に帰ろう、
という東洋の身体文化、
いまアメリカでもヨーロッパではどんどんはやってきましたでしょう。
すごくいいことなんですね。
井筒屋: なるほど。その気というのは、考え方としては、
この生命力みたいなものとして捉えますと、
この生命力が活性化することで、
癌を治したり、癌の進行を食い止めたりすることもある
というふうに先生おっしゃっておられますね。
池見: 私どもはこういうことを十七、八年前から始めました。
その頃は無我夢中で始めたんですが、
癌の患者さんで、
医者から「もうあなたは末期で、あなたの命はあと二、三ヶ月しかない」、
或いは「半年しかない」と言われたような人が、
思いのほか五年も十年も、どうかすると、二十年以上も生きている人がある
ことが医学的にだんだんわかってきたんです。
外国で今から二十年位前に、こういう人を百六十名位集めて研究がありまして、
この頃までは、十万人か二十万人に一人と言われていたんですね。
私どもが中川俊二先生という非常に優秀な研究者の方と一緒にそういう研究を始めてまして、
福岡市近郊で数人集めてみました。
驚いたことに、その人たちが人間として一番気付かなければならない一番大事なこと、
人間は必ず死があるんだと。
周囲のお蔭で生かされておるんだ。
それ長いこと、宗教の信仰なんかしていても、
自分が死ぬなんてことは、みんな考えたくないわけです。
江戸時代の狂歌師・蜀山人(しょくさんじん)の辞世の句に、
昨日まで人のことだと思いし
おれが死ぬとはこれは堪らん
みんな自分が死ぬことは考えていない。
ところが、「あなたのいのちはあと二、三ヶ月、或いは半年」
と言われた時、
「あっと気がつく」。
最後のステップ、一番人間として大事なステップに気がつく。
そういう人たちの中にしばしばそういうことが起こってくるんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
2019年06月15日
すこやかな人生E 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生E
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: それがさっき申しましたように、
人間の脳が人間の心身両面、
それからわれわれの哲学、宗教観も全部これですね。
いま、だんだん医学的にわかってきましたことは、
「脳は全身にある」と。
このさっき申しましたように、
調身・調息・調心で、
われわれの全身を通して、
それから中国の気功法になったら、
全身の経絡を通して脳を調える。
これが東洋の身体感覚、体から脳を調える。
その調った脳でこの人生を見ていった時に本当に人生が見える。
井筒屋: そのあたり自然の中の人間の意義といいますか、
これはどんなふうにみていらっしゃりますか。
池見: これが今日の現代の危機の一番要になるところですね。
ご承知のパスカルは「人間は考える葦である」と。
存在しながら、その存在の意味を本当に考えるのは、人間の特徴である。
私が、四十年来、人間が心身ともに健康になることをひたすら追って、
最後のゴールは、「人間が生きていることの意味が本当にわかることが、
心身の健康の核だ」と思うんですね。
一人ひとりが独自な存在、独自な個性。
他の人によってかけがえのない存在だ、ということなんですね。
これは他の動物とか、草花なんかと違うところなんです。
それは医学的に言いますと、男性の精子と女性の卵子には、
それぞれ八百五十万組の染色体
―これはDNAという遺伝子を運ぶ染色体が精子の中にも卵子の中にもあるわけです。
その精子と卵子が出会って一つの生命が生まれるわけですね。
そうしますと、それによって生まれた子どもの中には、
ちょうどもの凄い膨大な組み合わせの中の一つですから、
鳶(トンビ)が鷹(タカ)を生んだり、
ウリの蔓(つる)に茄子(なすび)がなったりしても、
ちっとも不思議はないわけですね。
それだけわれわれは、独自な可能性、芸術的な独自性を持っておるわけですね。
それがまず基本です。一人ひとり人間は独自なんだ。
その次は独自でありながら、みんな他の周囲の人、
周囲のすべての存在と持ちつ持たれつの関係にある。
そして宇宙の大きないのちに生かされている。
独自の存在でありながら、みんな独自の存在であることが、周囲の喜びになり、
それによって、周囲との関係ができ、
そして全体として大きないのちに支えられて、
そういうことを考えることが、思い付くことが、
人間が生きておることの本当の意味に辿り着くことになるわけですね。
井筒屋: そうやって、「自然の中で生かされている」ということについては、
例えば、禅の方もいろいろと発言していらっしゃいますね。
池見: そこで自然の考え方に、
今日のように機械文明がどんどん進んできて、自然を壊してしまう。
近頃天候がおかしくなって台風がどんどんやってきたりして、
たしかにに怪しくなってきましたですね。
だから、これは人類にとっては危ないから、
天地自然のことを考えなければいけない、
という考え方もあるんですが、
大体東洋の道教―タオイズム(自然のいのちに生かされて生きる道)なんかの考え、
もともと人間は、天地自然の大いなるいのちの中の、
草花なんかの一つの存在であると、
そういうような謙虚な立場からもう一遍考え直さなければいけない。
禅の山田無文老師が、現代文明のあり方ということで、
「造花の妙を生かす人為の巧み」ということを言っておられますが、
天然自然の摂理を生かしながら、
現代文明を、どうそれと調和して発達させていくか。
私どもの心身医学というのは、
初めはノイローゼの医学とか心身症の医学だったんですけれども、
それを科学的にあとづけたらいいか、
というところにまで、
いまだんだん辿り着いてきているところでございます。
そこで私が、現代の中高年者に申し上げたいと思いますことは、
年老いることによって、人間は―私も七十歳を越してから、
どうやらその辺が少しわかってきたんですけれども
―年老いることによって、だんだん気が付いてきた、
人間存在の本質に対する知恵というものですね。
「われわれはまったく独自の存在、周囲から生かされて生きている」。
それを現代の若い人たちに伝えてあげる。
それがこれからの中高年者の生きがいの核であってほしいと思います。
現にそういう運動が我が国のあちこちに起こってきている。
例えば、東京には「地球産業文化研究所」というのがあります。
これは日本の三十五の代表的な企業と通産省が一緒になって、
「自然にやさしい環境の創造」。
それをするためには、一人ひとりの人間がいのちに目覚めなければいけない。
そういう組織がありますし、
私の地元の福岡には最近、
「都夢創(とむそう)」という、
若手の実業家の方が集まられて、
都市化が進む中で人間性を失わせないような都市のあり方を確立しなければいけない。
そういう組織がこの十月一日には発足するようになって、
日本全国でそういうことが言い出されていますね。
井筒屋: そうした「自然との触れ合い」というのは、
まさに「人間の心身の健康にも非常に重要なことだ」と思うんです。
その辺りを心身医学からみますと、どういうことになりましょう。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生E
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: それがさっき申しましたように、
人間の脳が人間の心身両面、
それからわれわれの哲学、宗教観も全部これですね。
いま、だんだん医学的にわかってきましたことは、
「脳は全身にある」と。
このさっき申しましたように、
調身・調息・調心で、
われわれの全身を通して、
それから中国の気功法になったら、
全身の経絡を通して脳を調える。
これが東洋の身体感覚、体から脳を調える。
その調った脳でこの人生を見ていった時に本当に人生が見える。
井筒屋: そのあたり自然の中の人間の意義といいますか、
これはどんなふうにみていらっしゃりますか。
池見: これが今日の現代の危機の一番要になるところですね。
ご承知のパスカルは「人間は考える葦である」と。
存在しながら、その存在の意味を本当に考えるのは、人間の特徴である。
私が、四十年来、人間が心身ともに健康になることをひたすら追って、
最後のゴールは、「人間が生きていることの意味が本当にわかることが、
心身の健康の核だ」と思うんですね。
一人ひとりが独自な存在、独自な個性。
他の人によってかけがえのない存在だ、ということなんですね。
これは他の動物とか、草花なんかと違うところなんです。
それは医学的に言いますと、男性の精子と女性の卵子には、
それぞれ八百五十万組の染色体
―これはDNAという遺伝子を運ぶ染色体が精子の中にも卵子の中にもあるわけです。
その精子と卵子が出会って一つの生命が生まれるわけですね。
そうしますと、それによって生まれた子どもの中には、
ちょうどもの凄い膨大な組み合わせの中の一つですから、
鳶(トンビ)が鷹(タカ)を生んだり、
ウリの蔓(つる)に茄子(なすび)がなったりしても、
ちっとも不思議はないわけですね。
それだけわれわれは、独自な可能性、芸術的な独自性を持っておるわけですね。
それがまず基本です。一人ひとり人間は独自なんだ。
その次は独自でありながら、みんな他の周囲の人、
周囲のすべての存在と持ちつ持たれつの関係にある。
そして宇宙の大きないのちに生かされている。
独自の存在でありながら、みんな独自の存在であることが、周囲の喜びになり、
それによって、周囲との関係ができ、
そして全体として大きないのちに支えられて、
そういうことを考えることが、思い付くことが、
人間が生きておることの本当の意味に辿り着くことになるわけですね。
井筒屋: そうやって、「自然の中で生かされている」ということについては、
例えば、禅の方もいろいろと発言していらっしゃいますね。
池見: そこで自然の考え方に、
今日のように機械文明がどんどん進んできて、自然を壊してしまう。
近頃天候がおかしくなって台風がどんどんやってきたりして、
たしかにに怪しくなってきましたですね。
だから、これは人類にとっては危ないから、
天地自然のことを考えなければいけない、
という考え方もあるんですが、
大体東洋の道教―タオイズム(自然のいのちに生かされて生きる道)なんかの考え、
もともと人間は、天地自然の大いなるいのちの中の、
草花なんかの一つの存在であると、
そういうような謙虚な立場からもう一遍考え直さなければいけない。
禅の山田無文老師が、現代文明のあり方ということで、
「造花の妙を生かす人為の巧み」ということを言っておられますが、
天然自然の摂理を生かしながら、
現代文明を、どうそれと調和して発達させていくか。
私どもの心身医学というのは、
初めはノイローゼの医学とか心身症の医学だったんですけれども、
それを科学的にあとづけたらいいか、
というところにまで、
いまだんだん辿り着いてきているところでございます。
そこで私が、現代の中高年者に申し上げたいと思いますことは、
年老いることによって、人間は―私も七十歳を越してから、
どうやらその辺が少しわかってきたんですけれども
―年老いることによって、だんだん気が付いてきた、
人間存在の本質に対する知恵というものですね。
「われわれはまったく独自の存在、周囲から生かされて生きている」。
それを現代の若い人たちに伝えてあげる。
それがこれからの中高年者の生きがいの核であってほしいと思います。
現にそういう運動が我が国のあちこちに起こってきている。
例えば、東京には「地球産業文化研究所」というのがあります。
これは日本の三十五の代表的な企業と通産省が一緒になって、
「自然にやさしい環境の創造」。
それをするためには、一人ひとりの人間がいのちに目覚めなければいけない。
そういう組織がありますし、
私の地元の福岡には最近、
「都夢創(とむそう)」という、
若手の実業家の方が集まられて、
都市化が進む中で人間性を失わせないような都市のあり方を確立しなければいけない。
そういう組織がこの十月一日には発足するようになって、
日本全国でそういうことが言い出されていますね。
井筒屋: そうした「自然との触れ合い」というのは、
まさに「人間の心身の健康にも非常に重要なことだ」と思うんです。
その辺りを心身医学からみますと、どういうことになりましょう。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
2019年06月14日
すこやかな人生D 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生D
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: そうすると、気功を取り入れたセルフ・コントロールというものが
実際にコンピュータ技術者たちにも役だっているんだそうですね。
池見: そうなんです。
と言いますのは、気功をしますと、
結局、心身両面でのセルフ・コントロールが非常に高まってきます。
それを今からちょっと実例をお目にかけますが、
井筒屋: これはコンピュータ作業をやっていらっしゃる方の脳波を取ったものですね。
池見: そうなんです。
コンピュータを使うと、
上の方は振幅がグーッと上がっていますでしょう。
これは調整法をやってからコンピュータの作業をやらせますと、
下の方は脳の働きがグッと下がっているんです。
井筒屋: 普通の人は(a)の状態なんですけれども、
自己調整法をすると(b)のようになるという。
池見: そうなんです。結局、余計なエネルギーのロスがなくなっている。
自分のエネルギーの八十パーセント位で作業ができるようになる。
井筒屋: 作業の中味は大丈夫なんですか?
池見: その作業の中味をお目にかけますが、
「反応時間と作業のミス」の右側をご覧になりますと、
作業の「ミス」というのを書いてありますね。
自己調整法をする前は、右の図の左のようにミスの程度が多いのが、
自己調整法をしますとグッとミスが下がってくるんですね。
われわれは八十パーセントぐらいのエネルギーを使っている時が一番効率がよい働きが出来る。
これが東洋のセルフ・コントロールですね。
これから産業界なんかで使われるとすると、
こういったことが非常に役に立つと思います。
井筒屋: 単なるリラックスではないということですね。
池見: ドイツの実践法ではただリラックスだけなんですね。
こういうリラックスして、しかも作業の効率をあげるという点がないんですね。
それから私どもは、これにさっきの白隠禅師の言葉もありましたように、
動的なもの―気功法を加えまして、
さらにこれに芸術的なものを、
例えば日本舞踊とか、ダンス、東洋の剣道とか、弓道とか―芸道ですね。
そういった芸術的なものまで加えまして、
これを私どもは、「ヘルス・アート(健康芸術)」と呼んでおります。
井筒屋: それが動的なもの、動きですね。
先生はそれを、動きを取り入れる時に、
なんか奥様が日本舞踊をやられて、それを非常に参考にされたそうですね。
池見: 実は私がセルフ・コントロールのところに入れましたのは、
家内の体験のおかげでして、
私がもうほんとに心身医学一本に、
それこそすべてを忘れちゃったものですから家庭をかえりみません。
家内の方はほんとに堪らないんですね。
そういうことで心身ともに疲労困憊しまして、
しょっちゅう心不全の状態になりました。
その状態で自分を調えるために、
日本式の気功法の自彊(じきょう)術
(頭の先から足の先まで、全身に及ぶ整体内臓諸器官の自己調整を促す)
というのを始めまして、
それからさらに泉流の日本舞踊を始めました。
みんな家族は寝静まってから
夜十一時半から十二時頃から独りで自彊術をやって、
それから日本舞踊をする。
これをご覧頂きますと、禅の調身・調息・調心がはっきり入っておりますね。
六十八歳ですけれども、
六十八歳と思われないような若々しいエネルギーが噴き出してきておると思います。
家内がこれをやっております時に、
自分が本当に自己を忘れて、
大いなる自然のいのち―「舞は祈りである」という言葉がありますが、
舞踊の舞というのは祈りなんですね―そういう世界に入る。
そして心身ともに洗うことによって安らかな眠りができる。
これが私の重大なきっかけです。
その次ぎにたまたま、坂本徳俊さんという方が、
本来の創造的な自己への目覚めを促し、
まろやかな人間性と情操を培い、
万人が楽しく実践できるように芸術的な要素をとりいれた
芸術的な自己調整法としてサン・プレップ・ダンスを創案されたんです。
洋舞のダンスの中に東洋の心を見事に取り入れられている。
「(社)中高年雇用福祉協会」の主任講師になられて、
中高年向きの非常にユニークなダンス、
自然のいのちとの交流をふまえたダンスというのを考案された方です。
社交ダンスからスポーツ・ダンスに発展していく。
ダンスをもっと健康なものにする。
今年二月に東京のNHK文化センターが中心になって、
「スポーツダンス大会」があり、全国各地から代表が集まったんですが、
坂本さんも九州代表で出られました。
それがきっかけになりまして、
福岡地区のアマチュア・スポーツ・ダンス指導者の組織を作られました。
その組織の方がただ単に社交ダンスをスポーツにするだけでなくて、
私どもが言います、「ヘルス・アート(ダンス・日舞などの芸術的な健康法)」
―心を高める。体の動きを通して心を高める。
これを私どもは、「東洋の身体文化」と言います。
脳を調える。
そういう講座を今日本で初めてのことですが、
福岡のNHK文化センターで既に始めておる。
この十一月八日には、九州全体の「アマチュア・スポーツ・ダンス連盟」ができまして、
そしてこの「ヘルス・アート」をふまえた人間形成のための
ダンスグループが九州で誕生するようになっております。
それでこの坂本さんのダンスもさっきの私の家内のダンスも
自然の生命との繋がりということを非常に大事にしている。
例えばこういう礼舞法、
例えば、母なる大地から育んでもらった生命の花の根を張って、
この花の芽が天に向かって大きく花開いて、
それで開いた花がまた母なる大地に帰ってきていますね。
こういういわゆる西洋的なダンスの中に東洋の生命に対する芸術、
そういうようなものを見事に取り入れられておりまして、
東西の出会いをふまえたそういうダンスグループがこれから日本で展開しますし、
日本舞踊の一部の舞踊家―東京の方とか、
福岡地区の方のリーダーの方から、
「自分たちのダンス、日本舞踊はただ単に家庭の主婦の遊びとか趣味だけでは物足りない。
これを現代の人たちに役立てるようなものに一つ、
私どものヘルス・アート運動に協賛さしてください」というふうな申し出がありました。
井筒屋: 結局、ただの動きだけではなくて、
その根底に人間の存在というのはどうあるべきかという、
そういうことが大事だということなんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生D
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: そうすると、気功を取り入れたセルフ・コントロールというものが
実際にコンピュータ技術者たちにも役だっているんだそうですね。
池見: そうなんです。
と言いますのは、気功をしますと、
結局、心身両面でのセルフ・コントロールが非常に高まってきます。
それを今からちょっと実例をお目にかけますが、
井筒屋: これはコンピュータ作業をやっていらっしゃる方の脳波を取ったものですね。
池見: そうなんです。
コンピュータを使うと、
上の方は振幅がグーッと上がっていますでしょう。
これは調整法をやってからコンピュータの作業をやらせますと、
下の方は脳の働きがグッと下がっているんです。
井筒屋: 普通の人は(a)の状態なんですけれども、
自己調整法をすると(b)のようになるという。
池見: そうなんです。結局、余計なエネルギーのロスがなくなっている。
自分のエネルギーの八十パーセント位で作業ができるようになる。
井筒屋: 作業の中味は大丈夫なんですか?
池見: その作業の中味をお目にかけますが、
「反応時間と作業のミス」の右側をご覧になりますと、
作業の「ミス」というのを書いてありますね。
自己調整法をする前は、右の図の左のようにミスの程度が多いのが、
自己調整法をしますとグッとミスが下がってくるんですね。
われわれは八十パーセントぐらいのエネルギーを使っている時が一番効率がよい働きが出来る。
これが東洋のセルフ・コントロールですね。
これから産業界なんかで使われるとすると、
こういったことが非常に役に立つと思います。
井筒屋: 単なるリラックスではないということですね。
池見: ドイツの実践法ではただリラックスだけなんですね。
こういうリラックスして、しかも作業の効率をあげるという点がないんですね。
それから私どもは、これにさっきの白隠禅師の言葉もありましたように、
動的なもの―気功法を加えまして、
さらにこれに芸術的なものを、
例えば日本舞踊とか、ダンス、東洋の剣道とか、弓道とか―芸道ですね。
そういった芸術的なものまで加えまして、
これを私どもは、「ヘルス・アート(健康芸術)」と呼んでおります。
井筒屋: それが動的なもの、動きですね。
先生はそれを、動きを取り入れる時に、
なんか奥様が日本舞踊をやられて、それを非常に参考にされたそうですね。
池見: 実は私がセルフ・コントロールのところに入れましたのは、
家内の体験のおかげでして、
私がもうほんとに心身医学一本に、
それこそすべてを忘れちゃったものですから家庭をかえりみません。
家内の方はほんとに堪らないんですね。
そういうことで心身ともに疲労困憊しまして、
しょっちゅう心不全の状態になりました。
その状態で自分を調えるために、
日本式の気功法の自彊(じきょう)術
(頭の先から足の先まで、全身に及ぶ整体内臓諸器官の自己調整を促す)
というのを始めまして、
それからさらに泉流の日本舞踊を始めました。
みんな家族は寝静まってから
夜十一時半から十二時頃から独りで自彊術をやって、
それから日本舞踊をする。
これをご覧頂きますと、禅の調身・調息・調心がはっきり入っておりますね。
六十八歳ですけれども、
六十八歳と思われないような若々しいエネルギーが噴き出してきておると思います。
家内がこれをやっております時に、
自分が本当に自己を忘れて、
大いなる自然のいのち―「舞は祈りである」という言葉がありますが、
舞踊の舞というのは祈りなんですね―そういう世界に入る。
そして心身ともに洗うことによって安らかな眠りができる。
これが私の重大なきっかけです。
その次ぎにたまたま、坂本徳俊さんという方が、
本来の創造的な自己への目覚めを促し、
まろやかな人間性と情操を培い、
万人が楽しく実践できるように芸術的な要素をとりいれた
芸術的な自己調整法としてサン・プレップ・ダンスを創案されたんです。
洋舞のダンスの中に東洋の心を見事に取り入れられている。
「(社)中高年雇用福祉協会」の主任講師になられて、
中高年向きの非常にユニークなダンス、
自然のいのちとの交流をふまえたダンスというのを考案された方です。
社交ダンスからスポーツ・ダンスに発展していく。
ダンスをもっと健康なものにする。
今年二月に東京のNHK文化センターが中心になって、
「スポーツダンス大会」があり、全国各地から代表が集まったんですが、
坂本さんも九州代表で出られました。
それがきっかけになりまして、
福岡地区のアマチュア・スポーツ・ダンス指導者の組織を作られました。
その組織の方がただ単に社交ダンスをスポーツにするだけでなくて、
私どもが言います、「ヘルス・アート(ダンス・日舞などの芸術的な健康法)」
―心を高める。体の動きを通して心を高める。
これを私どもは、「東洋の身体文化」と言います。
脳を調える。
そういう講座を今日本で初めてのことですが、
福岡のNHK文化センターで既に始めておる。
この十一月八日には、九州全体の「アマチュア・スポーツ・ダンス連盟」ができまして、
そしてこの「ヘルス・アート」をふまえた人間形成のための
ダンスグループが九州で誕生するようになっております。
それでこの坂本さんのダンスもさっきの私の家内のダンスも
自然の生命との繋がりということを非常に大事にしている。
例えばこういう礼舞法、
例えば、母なる大地から育んでもらった生命の花の根を張って、
この花の芽が天に向かって大きく花開いて、
それで開いた花がまた母なる大地に帰ってきていますね。
こういういわゆる西洋的なダンスの中に東洋の生命に対する芸術、
そういうようなものを見事に取り入れられておりまして、
東西の出会いをふまえたそういうダンスグループがこれから日本で展開しますし、
日本舞踊の一部の舞踊家―東京の方とか、
福岡地区の方のリーダーの方から、
「自分たちのダンス、日本舞踊はただ単に家庭の主婦の遊びとか趣味だけでは物足りない。
これを現代の人たちに役立てるようなものに一つ、
私どものヘルス・アート運動に協賛さしてください」というふうな申し出がありました。
井筒屋: 結局、ただの動きだけではなくて、
その根底に人間の存在というのはどうあるべきかという、
そういうことが大事だということなんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
2019年06月13日
すこやかな人生C 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生C
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: 実は四年前に中国の北京とか上海にあります
気功のセンターから招かれまして視察致しました。
これは素晴らしい健康法で、
ただ単なる健康法でなくて、
人間の本当の生き方を教えるものだ。
そういうことで、その翌年には、筑波大学の岩佐教授が委員長で、
私どもも組織委員になりまして、中国の気功法の方を東京に招きまして、
「日中国際シンポジウム」をやりました。
そこでわかりましたことは、気功法の基本は、
禅の「調身・調息・調心」が基本なんです。
心身を調えるだけでなくて、
この気功法には東洋医学の素晴らしい英知が入っているんですね。
われわれの全身には三百六十五といわれますが、
二百から三百の経絡に添ったツボがあるんですね。
例えば、この中で、
右下の肩のところからずーっと経絡があって、
ツボがあるのがわかりますね。
井筒屋: 右腕のところですね。
池見: ええ。
こういう体表にあるツボを鍼とか灸とかマッサージで―他力でなくて
―自分でそこのところを外から刺激を与えることによって、
自律神経の支配下にある内臓の働きを調整することができる。
これを「皮膚内臓反射」といいます。
同時に脳を非常によく調える。
調身・調息・調心だけでなくて、
この体のふしぶしから自分の内界を調えていく。
それは単純な東洋の知恵なんですね。
で、宗教界では大変有名な
東大名誉教授の玉城康四郎(たまきこうしろう)先生から直接伺いましたんですが、
先生は五十年前から坐禅を実行しておられまして、
ほんとに先生は理論だけでなく行の方なんですね。
ところが今から数年前から動的な気功をお始めになっているんです。
そして気功をやり出してから感じたことには、
先生のおっしゃる全人格体―頭と心と魂と体
―全部が一体になる上で
―これはさっきのツボでお目にかけました、
肩のところにある慢性の胃腸疾患などに関係がある。
そういうツボを越野さんという
東京の気功の大家がそこを刺激するような運動をしておられた
―玉城先生もこういう方法を加えてやられましたら、
坐禅で静的にするのと動的にするのと相乗効果がある。
お互いに助け合って非常に深い。
で、禅で有名な白隠禅師が
「動中の工夫は静中の工夫にまさること百千億倍す」ということで、
「ひとり按摩」というのを考案したわけです。
ひとり按摩の動きというのが、気功に大変よく似ているんですね。
だから玉城先生もそういうことを自分で実践して発見しておられるんですね。
井筒屋: そういう動きも先生のセルフ・コントロールでは取り入れていらっしゃる?
池見: はい。そういうことです。
私どもがこの種の東洋的な心身―体から心を調える。
全心身を調える方法の基本にしておりますのは、
「自己調整法」という、自分で自分を調整する方法を使っておりますが、
そのやり方というのは、椅子に腰掛けて、顎を引いて、
背筋を立てて、足を肩幅ぐらいに開いて、
そして横隔膜呼吸をしながら、
禅の調身・調息・調心をやりながら、
両手の掌を太ももに置きます。
そうすると太ももに両手の掌に太ももの温感が伝わってきます。
それに心を静かに集めますと、
その温かみがだんだん掌のほうから、
両肘辺りに広がっていく。
足のほうも床についている床との接触感に注意しておりますと、
だんだん接触感がだんだん温かく感じられまして、
それがグッと膝辺りに上がってくる。
そうすると当然頭が涼やかになるんですね。
いわゆる「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」の状態になるんですね。
昔から東洋では「頭寒足熱」が健康法の基本だと言われております。
近頃、曹洞宗の梅田信隆(しんりゅう)管長さんにお会いしましたら、
「曹洞宗と一緒だね」と言われました。
「椅子坐禅」という坐禅法があるんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生C
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: 実は四年前に中国の北京とか上海にあります
気功のセンターから招かれまして視察致しました。
これは素晴らしい健康法で、
ただ単なる健康法でなくて、
人間の本当の生き方を教えるものだ。
そういうことで、その翌年には、筑波大学の岩佐教授が委員長で、
私どもも組織委員になりまして、中国の気功法の方を東京に招きまして、
「日中国際シンポジウム」をやりました。
そこでわかりましたことは、気功法の基本は、
禅の「調身・調息・調心」が基本なんです。
心身を調えるだけでなくて、
この気功法には東洋医学の素晴らしい英知が入っているんですね。
われわれの全身には三百六十五といわれますが、
二百から三百の経絡に添ったツボがあるんですね。
例えば、この中で、
右下の肩のところからずーっと経絡があって、
ツボがあるのがわかりますね。
井筒屋: 右腕のところですね。
池見: ええ。
こういう体表にあるツボを鍼とか灸とかマッサージで―他力でなくて
―自分でそこのところを外から刺激を与えることによって、
自律神経の支配下にある内臓の働きを調整することができる。
これを「皮膚内臓反射」といいます。
同時に脳を非常によく調える。
調身・調息・調心だけでなくて、
この体のふしぶしから自分の内界を調えていく。
それは単純な東洋の知恵なんですね。
で、宗教界では大変有名な
東大名誉教授の玉城康四郎(たまきこうしろう)先生から直接伺いましたんですが、
先生は五十年前から坐禅を実行しておられまして、
ほんとに先生は理論だけでなく行の方なんですね。
ところが今から数年前から動的な気功をお始めになっているんです。
そして気功をやり出してから感じたことには、
先生のおっしゃる全人格体―頭と心と魂と体
―全部が一体になる上で
―これはさっきのツボでお目にかけました、
肩のところにある慢性の胃腸疾患などに関係がある。
そういうツボを越野さんという
東京の気功の大家がそこを刺激するような運動をしておられた
―玉城先生もこういう方法を加えてやられましたら、
坐禅で静的にするのと動的にするのと相乗効果がある。
お互いに助け合って非常に深い。
で、禅で有名な白隠禅師が
「動中の工夫は静中の工夫にまさること百千億倍す」ということで、
「ひとり按摩」というのを考案したわけです。
ひとり按摩の動きというのが、気功に大変よく似ているんですね。
だから玉城先生もそういうことを自分で実践して発見しておられるんですね。
井筒屋: そういう動きも先生のセルフ・コントロールでは取り入れていらっしゃる?
池見: はい。そういうことです。
私どもがこの種の東洋的な心身―体から心を調える。
全心身を調える方法の基本にしておりますのは、
「自己調整法」という、自分で自分を調整する方法を使っておりますが、
そのやり方というのは、椅子に腰掛けて、顎を引いて、
背筋を立てて、足を肩幅ぐらいに開いて、
そして横隔膜呼吸をしながら、
禅の調身・調息・調心をやりながら、
両手の掌を太ももに置きます。
そうすると太ももに両手の掌に太ももの温感が伝わってきます。
それに心を静かに集めますと、
その温かみがだんだん掌のほうから、
両肘辺りに広がっていく。
足のほうも床についている床との接触感に注意しておりますと、
だんだん接触感がだんだん温かく感じられまして、
それがグッと膝辺りに上がってくる。
そうすると当然頭が涼やかになるんですね。
いわゆる「頭寒足熱(ずかんそくねつ)」の状態になるんですね。
昔から東洋では「頭寒足熱」が健康法の基本だと言われております。
近頃、曹洞宗の梅田信隆(しんりゅう)管長さんにお会いしましたら、
「曹洞宗と一緒だね」と言われました。
「椅子坐禅」という坐禅法があるんですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
2019年06月12日
すこやかな人生B 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生B
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: 先ほどお聞きしていまして驚いたのは、それだけ長生きされた皆さんが、
みな幼少の頃は病弱であった。これも非常に興味深い点ですね。
池見: これも心理に適っていまして、
俗に「一病息災」(持病の一つぐらいある人の方が、かえって体を大切にして健康でいられる)
というんですね。
子どもの時から、体が弱かったり、生きるか死ぬかの大病をした人とでは、
自分の体の声―いま体の調子が悪い、腰の調子が悪い、肩の調子が悪い。
そういうわれわれの体がしょっちゅう信号を出しているんですよ。
自分の体に対して注意をする癖がついているわけですね。
かつて病気をした、その声がよく聞こえるということが非常に大事なことです。
十数年前から英国で、「生体フィードバック」という大変重要な研究が始まりました。
それは、われわれの血圧の変化、心電図、脳波の変化、筋肉の緊張、
そういった自分では普通では意識しないような内臓諸器官の変化を
ずーっとグラフで本人に見せながら、
本人にハッキリわかるようになりますと、
自分である程度、血圧を上げたり、筋肉の緊張を弛めたりすることができる。
その一例をお話しますと、
現代病で、一番多いのは、筋緊張性頭痛と言いまして、
後ろ頭から首、肩が強張る。
或いは仕事をカリカリやっているサラリーマンとか、
受験勉強モリモリやっている学生なんかはこれが一番多いでしょう。
肩が凝ったりして、
筋肉の無理な使い方をしていますと、
自分でほぐすのが本来なんですよ。
ところが、そういう中にどっぷりはまり込んでしまっていますと、
自分でその声が聞こえなくなる。
頭の筋肉の中で一番鋭敏なのは額の筋肉なんです。
「人の顔色を見る」といった場合、
相手の額の筋肉の微妙な働きに注意が向けられるのも、このためです。
ですから、ここの筋肉から筋電図(筋緊張によって生じる電流をはかるもの)といって、
筋肉の緊張を器械で取りまして、
そのウンと緊張し出したら、
エアホーンでちゃんと警告が出るようになっている。
そういう器械を使って、
われわれが現代人が失いつつある体から
健康にするための声がよく聞こえるような訓練をするんですね。
これからは「自分の体の声がよく聞こえる人間にする」ということが大事なんです。
ですから禅宗の坊さんがする坐禅でも、
あれは「ただ悟りだけでなくて、体の声もよく聞こえてくる」んです。
昔の高僧は、「俺は一週間すれば死ぬんだ」と言ったような話がありますが、
一週間もすれば死ぬような重大なことが起こっておるんだから、
ポケッとわからないほうがおかしいです。
井筒屋: 修行を積めば。
池見: ええ。だからほんとに行を積まれた方は、
健康である、体の声が聞こえる。
これは当然のことですね。
井筒屋: そうしますと、結局、仏教の行法というのは、
そのまま健康法であるといってもいいわけですか。
池見: そうなんです。
私は、ニーチェ(1844-1900)の言葉を見つけてビックリしたんですけれども、
ニーチェは、「釈尊は偉大なる生理学者であり、彼の教えは衛生学である」と言っているんです。
彼は、「神が死んだ」と言った人なんですね。
「仏教の真理はこれは科学だ」というんです。
高僧たちには、体の声が聞こえてきますと、
体と自然とは繋がっていますから、
自然の声が聞こえてくる。
大いなる自然に生かされいる。
野口体操の創始者である野口三千三(みちぞう)さんという学芸大学の教授をされた方が、
「体に聞け、自然に聞け」と言ったんです。
自分が、体の声が聞こえるようになってくると、
大いなるいのちの声が聞こえてくる。
大いなるいのちに生かされているわれになった時に、
人間は一番健康だ。
ですから高僧の方が大いなるいのちと一体になった生活をしておられる。
だから非常に大らかな優しい温かい感じがあるわけですね。
井筒屋: これは経典などにもそういったことが書いてあるわけですか。
池見: 私は、仏教の原始経典の『法句経(ほっくぎょう)』の中に、
おのれこそ
おのれのよるべ
おのれを措(お)きて
誰によるべぞ
よくととのえし
おのれにこそ
まことえがたき
よるべをぞ獲(え)ん
(『法句経』一六○偈)
という言葉に出遇いまして、
わが意を得たりと思いまして、
「よくととのえしおのれ」というのは、
「自分で自分のセルフ・コントロール」ですね。
だから、私は、釈尊の「よくととのえしおのれ」
という言葉を英語にしまして、「セルフ・コントロール」と付けたんです。
NHKブックスの中で、『セルフ・コントロールの医学』というのを出しました。
その本がロングセラーになったんです。
それから「セルフ・コントロール」という言葉が日本でよく用いられるようになったんですね。
実は、私自身が昭和四十七年に胃潰瘍で、
ほんとに一年かかるような大吐血したんですよ。
このような大吐血を再び起こすことがあれば、
一命にかかわると考えましたので、
それ以来、私の生活様式が一変しまして、
さっき紹介しました高僧とほとんどそっくりの生活をしました。
それが私の現在の健康のもとになっております。
ただ悟りの心境においては足下にも及びません(笑い)。
井筒屋: 先生はそうした仏教の行法も研究されるかたわら、
一方で中国の気功法もご自身に取り入れていらっしゃるそうですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生B
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: 先ほどお聞きしていまして驚いたのは、それだけ長生きされた皆さんが、
みな幼少の頃は病弱であった。これも非常に興味深い点ですね。
池見: これも心理に適っていまして、
俗に「一病息災」(持病の一つぐらいある人の方が、かえって体を大切にして健康でいられる)
というんですね。
子どもの時から、体が弱かったり、生きるか死ぬかの大病をした人とでは、
自分の体の声―いま体の調子が悪い、腰の調子が悪い、肩の調子が悪い。
そういうわれわれの体がしょっちゅう信号を出しているんですよ。
自分の体に対して注意をする癖がついているわけですね。
かつて病気をした、その声がよく聞こえるということが非常に大事なことです。
十数年前から英国で、「生体フィードバック」という大変重要な研究が始まりました。
それは、われわれの血圧の変化、心電図、脳波の変化、筋肉の緊張、
そういった自分では普通では意識しないような内臓諸器官の変化を
ずーっとグラフで本人に見せながら、
本人にハッキリわかるようになりますと、
自分である程度、血圧を上げたり、筋肉の緊張を弛めたりすることができる。
その一例をお話しますと、
現代病で、一番多いのは、筋緊張性頭痛と言いまして、
後ろ頭から首、肩が強張る。
或いは仕事をカリカリやっているサラリーマンとか、
受験勉強モリモリやっている学生なんかはこれが一番多いでしょう。
肩が凝ったりして、
筋肉の無理な使い方をしていますと、
自分でほぐすのが本来なんですよ。
ところが、そういう中にどっぷりはまり込んでしまっていますと、
自分でその声が聞こえなくなる。
頭の筋肉の中で一番鋭敏なのは額の筋肉なんです。
「人の顔色を見る」といった場合、
相手の額の筋肉の微妙な働きに注意が向けられるのも、このためです。
ですから、ここの筋肉から筋電図(筋緊張によって生じる電流をはかるもの)といって、
筋肉の緊張を器械で取りまして、
そのウンと緊張し出したら、
エアホーンでちゃんと警告が出るようになっている。
そういう器械を使って、
われわれが現代人が失いつつある体から
健康にするための声がよく聞こえるような訓練をするんですね。
これからは「自分の体の声がよく聞こえる人間にする」ということが大事なんです。
ですから禅宗の坊さんがする坐禅でも、
あれは「ただ悟りだけでなくて、体の声もよく聞こえてくる」んです。
昔の高僧は、「俺は一週間すれば死ぬんだ」と言ったような話がありますが、
一週間もすれば死ぬような重大なことが起こっておるんだから、
ポケッとわからないほうがおかしいです。
井筒屋: 修行を積めば。
池見: ええ。だからほんとに行を積まれた方は、
健康である、体の声が聞こえる。
これは当然のことですね。
井筒屋: そうしますと、結局、仏教の行法というのは、
そのまま健康法であるといってもいいわけですか。
池見: そうなんです。
私は、ニーチェ(1844-1900)の言葉を見つけてビックリしたんですけれども、
ニーチェは、「釈尊は偉大なる生理学者であり、彼の教えは衛生学である」と言っているんです。
彼は、「神が死んだ」と言った人なんですね。
「仏教の真理はこれは科学だ」というんです。
高僧たちには、体の声が聞こえてきますと、
体と自然とは繋がっていますから、
自然の声が聞こえてくる。
大いなる自然に生かされいる。
野口体操の創始者である野口三千三(みちぞう)さんという学芸大学の教授をされた方が、
「体に聞け、自然に聞け」と言ったんです。
自分が、体の声が聞こえるようになってくると、
大いなるいのちの声が聞こえてくる。
大いなるいのちに生かされているわれになった時に、
人間は一番健康だ。
ですから高僧の方が大いなるいのちと一体になった生活をしておられる。
だから非常に大らかな優しい温かい感じがあるわけですね。
井筒屋: これは経典などにもそういったことが書いてあるわけですか。
池見: 私は、仏教の原始経典の『法句経(ほっくぎょう)』の中に、
おのれこそ
おのれのよるべ
おのれを措(お)きて
誰によるべぞ
よくととのえし
おのれにこそ
まことえがたき
よるべをぞ獲(え)ん
(『法句経』一六○偈)
という言葉に出遇いまして、
わが意を得たりと思いまして、
「よくととのえしおのれ」というのは、
「自分で自分のセルフ・コントロール」ですね。
だから、私は、釈尊の「よくととのえしおのれ」
という言葉を英語にしまして、「セルフ・コントロール」と付けたんです。
NHKブックスの中で、『セルフ・コントロールの医学』というのを出しました。
その本がロングセラーになったんです。
それから「セルフ・コントロール」という言葉が日本でよく用いられるようになったんですね。
実は、私自身が昭和四十七年に胃潰瘍で、
ほんとに一年かかるような大吐血したんですよ。
このような大吐血を再び起こすことがあれば、
一命にかかわると考えましたので、
それ以来、私の生活様式が一変しまして、
さっき紹介しました高僧とほとんどそっくりの生活をしました。
それが私の現在の健康のもとになっております。
ただ悟りの心境においては足下にも及びません(笑い)。
井筒屋: 先生はそうした仏教の行法も研究されるかたわら、
一方で中国の気功法もご自身に取り入れていらっしゃるそうですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
2019年06月11日
すこやかな人生A 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生A
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: ですから、姿勢のいい人は呆けがきにくいことがわかっております。
その次ぎは呼吸です。
呼吸は肋骨を広げてする胸式呼吸と、
それから息を吸ったら横隔膜をスーッと下げて、
吐きだしたら横隔膜を上げる横隔膜呼吸ですね、
俗に腹式呼吸と言います。
この二つがあって、
横隔膜呼吸(腹式)のほうが肋骨を広げる胸式呼吸よりも、
ズーッと効率がいいんです。
禅の調息の呼吸法は横隔膜呼吸ですね。
これで横隔膜をグーッとあげて、吐けるだけ吐く。
吐いて吐いて吐き切るんですね。
吐ききると、今度は一番よけい多くの酸素がズーッと入ってくるんです。
この呼吸法は、「釈尊の呼吸法」と言って、一番大事な呼吸法なんです。
昔から中国では、「息長ければ命長し」という諺があります。
それは、なが〜く息を吐く訓練ですね。
それが一番です。
尺八を吹かれる方や
詩吟、謡曲、義太夫、長唄、民謡などを
若い時からずーっとやっておられる方は一般に長生きされる、
ということもわかっております。
その次には、歩かれるということですね。
われわれの筋肉の中にはだいたい二通りありまして、
一つは、「相性筋(そうせいきん)」です。
これは私どもの手の筋肉みたいに、
私ども頭の発令によって動く筋肉です。
この筋肉と
頭の指令を受けないで反射的に動く筋肉―これを「緊張筋」と言います。
この「緊張筋」と言いますのは、
私どもの背骨を支えている脊髄の脊椎起立筋、
それと腰から下、足にかけてわれわれの姿勢を支えている筋肉ですね。
この緊張筋は、個々の指令を受けないで反射的にパッとやる。
車で危ないと思ったらパッと反射的に避けるんですね。
その代わりにこの筋肉が脳に活を入れている。
人間が六十歳位になりますと、
相性筋
(大脳の新皮質内にある運動中枢からの命令でものを投げたり走ったりするときに働くもの)
の筋力は若い時の七十パーセント位に落ちる。
ところがこの緊張筋
(意識されずに、反射的に筋の緊張と弛緩をくり返すものであり、
同時にその活動は、脳の活性を高めるのに重要な役割を演じている。
すなわち、緊張筋は、大脳からの指令を受けるのではなく、
自分の方から大脳に向かって情報を送りつづけている)の筋力は
実に四十パーセントにガタンと落ちてくる。
従って、「老化(ボケ)は足から」と言われる理由はここにあるのです。
井筒屋: 随分落ちてしまうものですね。
池見: だから、「足から歳を取る」と言うんですね。
井筒屋: なるほど。
池見: 老人はちょっとした病気で一月(ひとつき)も寝ていますと、
もう腰に活が入らないから呆(ぼ)ける。
ですからせっせと歩いて、
脊椎起立筋と下半身の緊張筋を鍛えるということが、
これが長生きの秘訣です。
井筒屋: それは運動すると言いましても、
あまり過激な運動をしますと、
かえって体によくないということもあるわけですね。
老人の方でジョギングをやっていて、心筋梗塞を起こされた、
というような話がよくありますね。
池見: まことにその通りで、
NHKでも放送されたんですが、一番いい運動は速歩です。
早足でサッサと歩く速歩ですね。
実は福岡大学スポーツ科学部運動生理学研究室の進藤宗洋(しんとうむねひろ)教授が、
そういう研究の第一人者ですけれども、
この方が「ニコニコペースの運動」を起こされたんです。
それはわれわれが持っているスタミナです。
これはマラソン選手の耐久力を算出しておりますが、
体重一キロに付き一分間で消費する酸素の量で計るんです。
最大酸素摂取量というんです。
われわれのスタミナですね。
それの五十パーセント位の運動が一番健康である。
そうすると、五十パーセント位の体力ですと、ニコニコ笑いながら歩くことができますね。
そして激しい運動をした時に起こりやすい怪我をするとか、
血圧が上がるとか、心臓を傷めるとか、
それから面白いのは背筋運動がアップしますと、
血液の糖分だけがどっと消費される。
ニコニコでやりますと、糖分と脂肪分とが五十パーセントずつ消費される。
そうすると、肥満の防止になるわけです。
いいことづくめなんですよ。
井筒屋: その面でもニコニコと、
池見: ええ。
だからそういうことで高僧はまさに歩かれて理想的な運動をしておられるわけですね。
四番目に昔から「腹八分目に医者いらず」と言いますね。
私なんか腹六分目しか食べないんですよ。
井筒屋: そうですか。
池見: ええ。
「腹八分目に医者いらず、腹六分目に薬なし」という諺があるんですよ。
ところが、現代はみんな飽食の時代なんですね。
グルメと言って、ただ美味しいものをどんどん腹に相談せずに食べる。
ただ、自分の食欲だけで物を食べちゃっているわけです。
それでろくに噛みもしない。
ですから、どんどん肥えちゃって、
これが成人病のルーツになっている。
よく物を噛むということは、
消化をよくするだけでなくて、脳を活性化する。
学生たちは、なるべく物を噛ましたほうが記憶力がよくなる。
老人なんかでもよく咬む人は呆けがきにくい。そういうことがわかった。
井筒屋: お酒の話も出ていましたが、お酒も適量はいいですか。
池見: ええ。
お酒は昔から「適量のお酒は百薬の長」といいますね。
一合ぐらいの酒はほんとに動脈硬化の予防にもなりますし、
気分が爽快になります。これは大変いいですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生A
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: ですから、姿勢のいい人は呆けがきにくいことがわかっております。
その次ぎは呼吸です。
呼吸は肋骨を広げてする胸式呼吸と、
それから息を吸ったら横隔膜をスーッと下げて、
吐きだしたら横隔膜を上げる横隔膜呼吸ですね、
俗に腹式呼吸と言います。
この二つがあって、
横隔膜呼吸(腹式)のほうが肋骨を広げる胸式呼吸よりも、
ズーッと効率がいいんです。
禅の調息の呼吸法は横隔膜呼吸ですね。
これで横隔膜をグーッとあげて、吐けるだけ吐く。
吐いて吐いて吐き切るんですね。
吐ききると、今度は一番よけい多くの酸素がズーッと入ってくるんです。
この呼吸法は、「釈尊の呼吸法」と言って、一番大事な呼吸法なんです。
昔から中国では、「息長ければ命長し」という諺があります。
それは、なが〜く息を吐く訓練ですね。
それが一番です。
尺八を吹かれる方や
詩吟、謡曲、義太夫、長唄、民謡などを
若い時からずーっとやっておられる方は一般に長生きされる、
ということもわかっております。
その次には、歩かれるということですね。
われわれの筋肉の中にはだいたい二通りありまして、
一つは、「相性筋(そうせいきん)」です。
これは私どもの手の筋肉みたいに、
私ども頭の発令によって動く筋肉です。
この筋肉と
頭の指令を受けないで反射的に動く筋肉―これを「緊張筋」と言います。
この「緊張筋」と言いますのは、
私どもの背骨を支えている脊髄の脊椎起立筋、
それと腰から下、足にかけてわれわれの姿勢を支えている筋肉ですね。
この緊張筋は、個々の指令を受けないで反射的にパッとやる。
車で危ないと思ったらパッと反射的に避けるんですね。
その代わりにこの筋肉が脳に活を入れている。
人間が六十歳位になりますと、
相性筋
(大脳の新皮質内にある運動中枢からの命令でものを投げたり走ったりするときに働くもの)
の筋力は若い時の七十パーセント位に落ちる。
ところがこの緊張筋
(意識されずに、反射的に筋の緊張と弛緩をくり返すものであり、
同時にその活動は、脳の活性を高めるのに重要な役割を演じている。
すなわち、緊張筋は、大脳からの指令を受けるのではなく、
自分の方から大脳に向かって情報を送りつづけている)の筋力は
実に四十パーセントにガタンと落ちてくる。
従って、「老化(ボケ)は足から」と言われる理由はここにあるのです。
井筒屋: 随分落ちてしまうものですね。
池見: だから、「足から歳を取る」と言うんですね。
井筒屋: なるほど。
池見: 老人はちょっとした病気で一月(ひとつき)も寝ていますと、
もう腰に活が入らないから呆(ぼ)ける。
ですからせっせと歩いて、
脊椎起立筋と下半身の緊張筋を鍛えるということが、
これが長生きの秘訣です。
井筒屋: それは運動すると言いましても、
あまり過激な運動をしますと、
かえって体によくないということもあるわけですね。
老人の方でジョギングをやっていて、心筋梗塞を起こされた、
というような話がよくありますね。
池見: まことにその通りで、
NHKでも放送されたんですが、一番いい運動は速歩です。
早足でサッサと歩く速歩ですね。
実は福岡大学スポーツ科学部運動生理学研究室の進藤宗洋(しんとうむねひろ)教授が、
そういう研究の第一人者ですけれども、
この方が「ニコニコペースの運動」を起こされたんです。
それはわれわれが持っているスタミナです。
これはマラソン選手の耐久力を算出しておりますが、
体重一キロに付き一分間で消費する酸素の量で計るんです。
最大酸素摂取量というんです。
われわれのスタミナですね。
それの五十パーセント位の運動が一番健康である。
そうすると、五十パーセント位の体力ですと、ニコニコ笑いながら歩くことができますね。
そして激しい運動をした時に起こりやすい怪我をするとか、
血圧が上がるとか、心臓を傷めるとか、
それから面白いのは背筋運動がアップしますと、
血液の糖分だけがどっと消費される。
ニコニコでやりますと、糖分と脂肪分とが五十パーセントずつ消費される。
そうすると、肥満の防止になるわけです。
いいことづくめなんですよ。
井筒屋: その面でもニコニコと、
池見: ええ。
だからそういうことで高僧はまさに歩かれて理想的な運動をしておられるわけですね。
四番目に昔から「腹八分目に医者いらず」と言いますね。
私なんか腹六分目しか食べないんですよ。
井筒屋: そうですか。
池見: ええ。
「腹八分目に医者いらず、腹六分目に薬なし」という諺があるんですよ。
ところが、現代はみんな飽食の時代なんですね。
グルメと言って、ただ美味しいものをどんどん腹に相談せずに食べる。
ただ、自分の食欲だけで物を食べちゃっているわけです。
それでろくに噛みもしない。
ですから、どんどん肥えちゃって、
これが成人病のルーツになっている。
よく物を噛むということは、
消化をよくするだけでなくて、脳を活性化する。
学生たちは、なるべく物を噛ましたほうが記憶力がよくなる。
老人なんかでもよく咬む人は呆けがきにくい。そういうことがわかった。
井筒屋: お酒の話も出ていましたが、お酒も適量はいいですか。
池見: ええ。
お酒は昔から「適量のお酒は百薬の長」といいますね。
一合ぐらいの酒はほんとに動脈硬化の予防にもなりますし、
気分が爽快になります。これは大変いいですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
2019年06月10日
すこやかな人生@ 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生@
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: 今日は心と体の健康を保って健やかに生きていくのにどうしたらいいのか。
日本心身医学会名誉理事長の池見酉次郎さんにお話を伺ってまいります。
どうぞよろしくお願い致します。
今日は敬老の日に因んで、
特にこの中高年の健康ということについてお伺いしていきたいと思うんですけれども、
高齢化社会に突き進んでいる日本としては、これは非常に大きな課題ですよね。
池見: 日本人の平均寿命が昨年度も世界一位にランクされていますね。
それで男子が七十五・八七。私は、今、七十六歳でちょうど平均なんでございますね。
日本人が長生きすればするほど、老後を如何に健康で生きがいを持って過ごすか、
ということが、成人期の健康の問題よりも、もっと重要な問題になってきましたですね。
昔は隠居三年で済んだんですけれども、
今は隠居しましてから、十年も二十年も生きなければならない。
井筒屋: 定年後?
池見: 定年後ですね。
特に都市型の中高年の方の場合は、今まで職場の仕事の張りがあって、
職場での人間関係に支えられておられた方が、
いきなりそういうのがすっかりなくなりますと、
急速に呆けがくる可能性がありますね。
隠居三年を過ぎて遙かに長く生きなければならない。
そこで日本の厚生省では、これに対する具体的な対策をしなければいけないというので、
中高年者のための心の健康と生きがいを創造する施策を昨年から進めておられまして、
専門課ができました。
どういうことをやるかといいますと、
一番目が、健康生きがい作りの場とか機関に関するデータを紹介する
二番目が、個々人の嗜好や個性に則して、中高年者が健康生きがい作りに取り組めるようにする
三番目が、仲間作りや組織活動に参加できるような場を作ってやる
四番目が、専門的な技術、文化、芸術などの分野について指導を行う
五番目が、健康生きがい作りについての一般的な啓蒙活動をやる
こういうことが厚生省で打ち出されています。
井筒屋: どれもきちんとやらなければいけないことなんでしょうけれども、
心身医学の我が国のパイオニアでいらっしゃる先生からしますと、
心身医学の立場からは健康と生きがい作り、どんなことが言えるんでしょう。
池見: はい。
実は私が四十年あまり前から、七十六歳の今日まで、
心身両面の健康の問題を一筋にやってまいりました。
その間私は、自分が唱えてきた心身医学の学説を自分の身体で実証しながら進んでまいりました。
今日、この歳になりましても、いまだにこの研究を続けており、
歳をとるほどだんだん忙しくなるというような毎日でございますが、
そういうことができるのはそのお陰だと思います。
実は先般、朝日新聞の週刊誌「AERA」の記者の方が、日本の高僧で、九十歳以上長生きされた方を五人訪問されまして、その生活の態度をお訊きになって「だから高僧は長生きする」という特集記事を書いておられるんです。そうすると、その高僧たちの生き様に全部共通したものがあるんですね。
一番目が、姿勢がよいこと―背筋が立っている
二番目が、ゆっくり息を吐く―長呼吸をされる
三番目が、実によく歩かれる
四番目が、少食ないし、粗食である
五番目が、一合以内の晩酌を嗜(たしな)まれる
六番目が、幼児の時は揃って病弱であった。
七番目が、どなたも大らかな温かさ優しさの持ち主である
そういう点が、みんな一致しているんですね。
井筒屋: それだけ多くの共通点があるというのは非常に興味深いですね。
池見: はい。その心身を健やかにセルフ・コントロールしていきますうえで、なんと言っても、土台になりますのは「姿勢を正す」ことですね。顎を引いて、背筋を真っ直ぐ立てて、腰を立てるんですね。と言いますのは、私どもの心身両面でのいろんな営みを全部纏めて統御している脳の働き―脳から出ましたいろんな神経系をわれわれの全身に伝えるための脊髄がわれわれのまさに大黒柱ですから、その大黒柱を真っ直ぐに立てる。そして脳からの働きがスムーズにいくようにする。これくらい健康に必要なことはないわけですね。その一番簡単なことが一般になかなか行われていないんですね。
井筒屋: そうですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生@
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
井筒屋: 今日は心と体の健康を保って健やかに生きていくのにどうしたらいいのか。
日本心身医学会名誉理事長の池見酉次郎さんにお話を伺ってまいります。
どうぞよろしくお願い致します。
今日は敬老の日に因んで、
特にこの中高年の健康ということについてお伺いしていきたいと思うんですけれども、
高齢化社会に突き進んでいる日本としては、これは非常に大きな課題ですよね。
池見: 日本人の平均寿命が昨年度も世界一位にランクされていますね。
それで男子が七十五・八七。私は、今、七十六歳でちょうど平均なんでございますね。
日本人が長生きすればするほど、老後を如何に健康で生きがいを持って過ごすか、
ということが、成人期の健康の問題よりも、もっと重要な問題になってきましたですね。
昔は隠居三年で済んだんですけれども、
今は隠居しましてから、十年も二十年も生きなければならない。
井筒屋: 定年後?
池見: 定年後ですね。
特に都市型の中高年の方の場合は、今まで職場の仕事の張りがあって、
職場での人間関係に支えられておられた方が、
いきなりそういうのがすっかりなくなりますと、
急速に呆けがくる可能性がありますね。
隠居三年を過ぎて遙かに長く生きなければならない。
そこで日本の厚生省では、これに対する具体的な対策をしなければいけないというので、
中高年者のための心の健康と生きがいを創造する施策を昨年から進めておられまして、
専門課ができました。
どういうことをやるかといいますと、
一番目が、健康生きがい作りの場とか機関に関するデータを紹介する
二番目が、個々人の嗜好や個性に則して、中高年者が健康生きがい作りに取り組めるようにする
三番目が、仲間作りや組織活動に参加できるような場を作ってやる
四番目が、専門的な技術、文化、芸術などの分野について指導を行う
五番目が、健康生きがい作りについての一般的な啓蒙活動をやる
こういうことが厚生省で打ち出されています。
井筒屋: どれもきちんとやらなければいけないことなんでしょうけれども、
心身医学の我が国のパイオニアでいらっしゃる先生からしますと、
心身医学の立場からは健康と生きがい作り、どんなことが言えるんでしょう。
池見: はい。
実は私が四十年あまり前から、七十六歳の今日まで、
心身両面の健康の問題を一筋にやってまいりました。
その間私は、自分が唱えてきた心身医学の学説を自分の身体で実証しながら進んでまいりました。
今日、この歳になりましても、いまだにこの研究を続けており、
歳をとるほどだんだん忙しくなるというような毎日でございますが、
そういうことができるのはそのお陰だと思います。
実は先般、朝日新聞の週刊誌「AERA」の記者の方が、日本の高僧で、九十歳以上長生きされた方を五人訪問されまして、その生活の態度をお訊きになって「だから高僧は長生きする」という特集記事を書いておられるんです。そうすると、その高僧たちの生き様に全部共通したものがあるんですね。
一番目が、姿勢がよいこと―背筋が立っている
二番目が、ゆっくり息を吐く―長呼吸をされる
三番目が、実によく歩かれる
四番目が、少食ないし、粗食である
五番目が、一合以内の晩酌を嗜(たしな)まれる
六番目が、幼児の時は揃って病弱であった。
七番目が、どなたも大らかな温かさ優しさの持ち主である
そういう点が、みんな一致しているんですね。
井筒屋: それだけ多くの共通点があるというのは非常に興味深いですね。
池見: はい。その心身を健やかにセルフ・コントロールしていきますうえで、なんと言っても、土台になりますのは「姿勢を正す」ことですね。顎を引いて、背筋を真っ直ぐ立てて、腰を立てるんですね。と言いますのは、私どもの心身両面でのいろんな営みを全部纏めて統御している脳の働き―脳から出ましたいろんな神経系をわれわれの全身に伝えるための脊髄がわれわれのまさに大黒柱ですから、その大黒柱を真っ直ぐに立てる。そして脳からの働きがスムーズにいくようにする。これくらい健康に必要なことはないわけですね。その一番簡単なことが一般になかなか行われていないんですね。
井筒屋: そうですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである