2019年06月11日
すこやかな人生A 日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
最終的には、心の働きの脳内メカニズムについて述べていきます。
すこやかな人生A
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: ですから、姿勢のいい人は呆けがきにくいことがわかっております。
その次ぎは呼吸です。
呼吸は肋骨を広げてする胸式呼吸と、
それから息を吸ったら横隔膜をスーッと下げて、
吐きだしたら横隔膜を上げる横隔膜呼吸ですね、
俗に腹式呼吸と言います。
この二つがあって、
横隔膜呼吸(腹式)のほうが肋骨を広げる胸式呼吸よりも、
ズーッと効率がいいんです。
禅の調息の呼吸法は横隔膜呼吸ですね。
これで横隔膜をグーッとあげて、吐けるだけ吐く。
吐いて吐いて吐き切るんですね。
吐ききると、今度は一番よけい多くの酸素がズーッと入ってくるんです。
この呼吸法は、「釈尊の呼吸法」と言って、一番大事な呼吸法なんです。
昔から中国では、「息長ければ命長し」という諺があります。
それは、なが〜く息を吐く訓練ですね。
それが一番です。
尺八を吹かれる方や
詩吟、謡曲、義太夫、長唄、民謡などを
若い時からずーっとやっておられる方は一般に長生きされる、
ということもわかっております。
その次には、歩かれるということですね。
われわれの筋肉の中にはだいたい二通りありまして、
一つは、「相性筋(そうせいきん)」です。
これは私どもの手の筋肉みたいに、
私ども頭の発令によって動く筋肉です。
この筋肉と
頭の指令を受けないで反射的に動く筋肉―これを「緊張筋」と言います。
この「緊張筋」と言いますのは、
私どもの背骨を支えている脊髄の脊椎起立筋、
それと腰から下、足にかけてわれわれの姿勢を支えている筋肉ですね。
この緊張筋は、個々の指令を受けないで反射的にパッとやる。
車で危ないと思ったらパッと反射的に避けるんですね。
その代わりにこの筋肉が脳に活を入れている。
人間が六十歳位になりますと、
相性筋
(大脳の新皮質内にある運動中枢からの命令でものを投げたり走ったりするときに働くもの)
の筋力は若い時の七十パーセント位に落ちる。
ところがこの緊張筋
(意識されずに、反射的に筋の緊張と弛緩をくり返すものであり、
同時にその活動は、脳の活性を高めるのに重要な役割を演じている。
すなわち、緊張筋は、大脳からの指令を受けるのではなく、
自分の方から大脳に向かって情報を送りつづけている)の筋力は
実に四十パーセントにガタンと落ちてくる。
従って、「老化(ボケ)は足から」と言われる理由はここにあるのです。
井筒屋: 随分落ちてしまうものですね。
池見: だから、「足から歳を取る」と言うんですね。
井筒屋: なるほど。
池見: 老人はちょっとした病気で一月(ひとつき)も寝ていますと、
もう腰に活が入らないから呆(ぼ)ける。
ですからせっせと歩いて、
脊椎起立筋と下半身の緊張筋を鍛えるということが、
これが長生きの秘訣です。
井筒屋: それは運動すると言いましても、
あまり過激な運動をしますと、
かえって体によくないということもあるわけですね。
老人の方でジョギングをやっていて、心筋梗塞を起こされた、
というような話がよくありますね。
池見: まことにその通りで、
NHKでも放送されたんですが、一番いい運動は速歩です。
早足でサッサと歩く速歩ですね。
実は福岡大学スポーツ科学部運動生理学研究室の進藤宗洋(しんとうむねひろ)教授が、
そういう研究の第一人者ですけれども、
この方が「ニコニコペースの運動」を起こされたんです。
それはわれわれが持っているスタミナです。
これはマラソン選手の耐久力を算出しておりますが、
体重一キロに付き一分間で消費する酸素の量で計るんです。
最大酸素摂取量というんです。
われわれのスタミナですね。
それの五十パーセント位の運動が一番健康である。
そうすると、五十パーセント位の体力ですと、ニコニコ笑いながら歩くことができますね。
そして激しい運動をした時に起こりやすい怪我をするとか、
血圧が上がるとか、心臓を傷めるとか、
それから面白いのは背筋運動がアップしますと、
血液の糖分だけがどっと消費される。
ニコニコでやりますと、糖分と脂肪分とが五十パーセントずつ消費される。
そうすると、肥満の防止になるわけです。
いいことづくめなんですよ。
井筒屋: その面でもニコニコと、
池見: ええ。
だからそういうことで高僧はまさに歩かれて理想的な運動をしておられるわけですね。
四番目に昔から「腹八分目に医者いらず」と言いますね。
私なんか腹六分目しか食べないんですよ。
井筒屋: そうですか。
池見: ええ。
「腹八分目に医者いらず、腹六分目に薬なし」という諺があるんですよ。
ところが、現代はみんな飽食の時代なんですね。
グルメと言って、ただ美味しいものをどんどん腹に相談せずに食べる。
ただ、自分の食欲だけで物を食べちゃっているわけです。
それでろくに噛みもしない。
ですから、どんどん肥えちゃって、
これが成人病のルーツになっている。
よく物を噛むということは、
消化をよくするだけでなくて、脳を活性化する。
学生たちは、なるべく物を噛ましたほうが記憶力がよくなる。
老人なんかでもよく咬む人は呆けがきにくい。そういうことがわかった。
井筒屋: お酒の話も出ていましたが、お酒も適量はいいですか。
池見: ええ。
お酒は昔から「適量のお酒は百薬の長」といいますね。
一合ぐらいの酒はほんとに動脈硬化の予防にもなりますし、
気分が爽快になります。これは大変いいですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
すこやかな人生A
日本心身医学会名誉理事長 池見 酉次郎 (いけみ ゆうじろう)
大正四年福岡生まれ。一九四一年九州大学医学部卒業。
九州名誉教授。北九州市立小倉病院名誉院長。日本心身医学会理事長。
自律調整法国際委員会委員長。国際心身医学会前理事長。医学博士。
著書「セルフコントロールの医学」「自己分析」「心で起こる体の病」「心療内科」ほか
き き て 井筒屋 勝 巳
平成三年九月十五日 放送
池見: ですから、姿勢のいい人は呆けがきにくいことがわかっております。
その次ぎは呼吸です。
呼吸は肋骨を広げてする胸式呼吸と、
それから息を吸ったら横隔膜をスーッと下げて、
吐きだしたら横隔膜を上げる横隔膜呼吸ですね、
俗に腹式呼吸と言います。
この二つがあって、
横隔膜呼吸(腹式)のほうが肋骨を広げる胸式呼吸よりも、
ズーッと効率がいいんです。
禅の調息の呼吸法は横隔膜呼吸ですね。
これで横隔膜をグーッとあげて、吐けるだけ吐く。
吐いて吐いて吐き切るんですね。
吐ききると、今度は一番よけい多くの酸素がズーッと入ってくるんです。
この呼吸法は、「釈尊の呼吸法」と言って、一番大事な呼吸法なんです。
昔から中国では、「息長ければ命長し」という諺があります。
それは、なが〜く息を吐く訓練ですね。
それが一番です。
尺八を吹かれる方や
詩吟、謡曲、義太夫、長唄、民謡などを
若い時からずーっとやっておられる方は一般に長生きされる、
ということもわかっております。
その次には、歩かれるということですね。
われわれの筋肉の中にはだいたい二通りありまして、
一つは、「相性筋(そうせいきん)」です。
これは私どもの手の筋肉みたいに、
私ども頭の発令によって動く筋肉です。
この筋肉と
頭の指令を受けないで反射的に動く筋肉―これを「緊張筋」と言います。
この「緊張筋」と言いますのは、
私どもの背骨を支えている脊髄の脊椎起立筋、
それと腰から下、足にかけてわれわれの姿勢を支えている筋肉ですね。
この緊張筋は、個々の指令を受けないで反射的にパッとやる。
車で危ないと思ったらパッと反射的に避けるんですね。
その代わりにこの筋肉が脳に活を入れている。
人間が六十歳位になりますと、
相性筋
(大脳の新皮質内にある運動中枢からの命令でものを投げたり走ったりするときに働くもの)
の筋力は若い時の七十パーセント位に落ちる。
ところがこの緊張筋
(意識されずに、反射的に筋の緊張と弛緩をくり返すものであり、
同時にその活動は、脳の活性を高めるのに重要な役割を演じている。
すなわち、緊張筋は、大脳からの指令を受けるのではなく、
自分の方から大脳に向かって情報を送りつづけている)の筋力は
実に四十パーセントにガタンと落ちてくる。
従って、「老化(ボケ)は足から」と言われる理由はここにあるのです。
井筒屋: 随分落ちてしまうものですね。
池見: だから、「足から歳を取る」と言うんですね。
井筒屋: なるほど。
池見: 老人はちょっとした病気で一月(ひとつき)も寝ていますと、
もう腰に活が入らないから呆(ぼ)ける。
ですからせっせと歩いて、
脊椎起立筋と下半身の緊張筋を鍛えるということが、
これが長生きの秘訣です。
井筒屋: それは運動すると言いましても、
あまり過激な運動をしますと、
かえって体によくないということもあるわけですね。
老人の方でジョギングをやっていて、心筋梗塞を起こされた、
というような話がよくありますね。
池見: まことにその通りで、
NHKでも放送されたんですが、一番いい運動は速歩です。
早足でサッサと歩く速歩ですね。
実は福岡大学スポーツ科学部運動生理学研究室の進藤宗洋(しんとうむねひろ)教授が、
そういう研究の第一人者ですけれども、
この方が「ニコニコペースの運動」を起こされたんです。
それはわれわれが持っているスタミナです。
これはマラソン選手の耐久力を算出しておりますが、
体重一キロに付き一分間で消費する酸素の量で計るんです。
最大酸素摂取量というんです。
われわれのスタミナですね。
それの五十パーセント位の運動が一番健康である。
そうすると、五十パーセント位の体力ですと、ニコニコ笑いながら歩くことができますね。
そして激しい運動をした時に起こりやすい怪我をするとか、
血圧が上がるとか、心臓を傷めるとか、
それから面白いのは背筋運動がアップしますと、
血液の糖分だけがどっと消費される。
ニコニコでやりますと、糖分と脂肪分とが五十パーセントずつ消費される。
そうすると、肥満の防止になるわけです。
いいことづくめなんですよ。
井筒屋: その面でもニコニコと、
池見: ええ。
だからそういうことで高僧はまさに歩かれて理想的な運動をしておられるわけですね。
四番目に昔から「腹八分目に医者いらず」と言いますね。
私なんか腹六分目しか食べないんですよ。
井筒屋: そうですか。
池見: ええ。
「腹八分目に医者いらず、腹六分目に薬なし」という諺があるんですよ。
ところが、現代はみんな飽食の時代なんですね。
グルメと言って、ただ美味しいものをどんどん腹に相談せずに食べる。
ただ、自分の食欲だけで物を食べちゃっているわけです。
それでろくに噛みもしない。
ですから、どんどん肥えちゃって、
これが成人病のルーツになっている。
よく物を噛むということは、
消化をよくするだけでなくて、脳を活性化する。
学生たちは、なるべく物を噛ましたほうが記憶力がよくなる。
老人なんかでもよく咬む人は呆けがきにくい。そういうことがわかった。
井筒屋: お酒の話も出ていましたが、お酒も適量はいいですか。
池見: ええ。
お酒は昔から「適量のお酒は百薬の長」といいますね。
一合ぐらいの酒はほんとに動脈硬化の予防にもなりますし、
気分が爽快になります。これは大変いいですね。
これは、平成三年九月十五日に、NHK教育テレビの
「こころの時代」で放映されたものである
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