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2019年07月01日

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える7

3 まとめ

 ハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」に登場人物についてデータベースから心理学統計による人物評価をしてみると、記憶範囲に関して差があることが分かった。

参考文献

実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 2018
花村嘉英 ハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」のデータベース2019
Heinrich Böll Wanderer, kommst du nach Spa… Reclam 1982

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える6


1 最初は記憶の範囲に差がないと予測する。しかし、二人の平均値を取ると、主人公 1.8、医者1.6になる。同様の方法で他の登場人物についても調べる。例えば、管理人ビルゲラー2.0になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう記憶の度合いは弱強で従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2、3が要因で、独立変数が実際にとる値、記憶の度合いが水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、記憶の範囲という要因は、参加者内要因になる。
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を報告する。
[記憶範囲のt検定]
主人公の平均1.8 医者の平均1.6、よってt値=0.2。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は、0.2にする。ここでは5%未満のため、対立仮説の差があるを採択する。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える」より

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える5

解答 登場人物の記憶範囲
医者の不安度
Dann stand der Arzt vor mir; er hatte die Brille abgenommen und blinzelte mich an; er sagte nichts; hinter ihm stand der Feuerwehrmann, der mir das Wasser gegeben hatte. 具体度 1

Er flüsterte dem Arzt etwas ins Ohr, und der Arzt setzte die Brille auf: deutlich sah ich seine großen grauen Augen mit den leise zitternden Pupillen hinter den dicken Brillengläsern. 具体度 2

Er sah mich lange an, so lange, daß ich wegsehen mußte, und er sagte "Augenblick, Sie sind gleich an der Reihe..." 具体度 1

Dann hoben sie den auf, der neben mir lag, und trugen ihn hinter die Tafel; ich blickte ihnen nach: sie hatten die Tafel auseinandergezogen und quer gestellt und die Lücke zwischen Wand und Tafel mit einem Bettuch zugehängt; dahinter brannte grelles Licht... 具体度 2

Nichts war zu hören, bis das Tuch wieder beiseite geschlagen und der, der neben mir gelegen hatte, hinausgetragen wurde; mit müden, gleichgültigen Gesichtern schleppten die Träger ihn zur Tür. 具体度 2

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える」より

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える4

2.3 「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」の不安度

 「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」は、主人公が過ごしたギムナジウムの校内にある廊下や製図室が舞台であり、実体験に即した空間で成立している。ここでは本この小論の研究テーマ、登場人物の記憶範囲の違いについて作成したデータベースを基に考察していく。

解答 登場人物の記憶範囲
表1 主人公
Ich spuckte meine Zigarette aus und schrie; es war immer gut, zu schreien; man mußte nur laut schreien; schreien war herrlich; ich schrie wie verrückt. 具体度 2

Als sich jemand über mich beugte, machte ich immer nocht nicht die Augen auf; ich spürte einen fremden Atem, warm und widerlich roch er nach Tabak und Zwiebeln, und eine Stimme fragte ruhig: "Was ist denn?"
具体度 1

"Was zu trinken", sagte ich, "und noch 'ne Zigarette, die Tasche oben." 具体度 2

Wieder fummelte einer an meiner Tasche herum, wieder zischte ein Streichholz und jemand steckte mir 'ne brennende Zigarette in den Mund. 具体度 2

"Wo sind wir?" fragte ich.
"In Bendorf."
"Danke", sagte ich und zog. 具体度 2

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える」より

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える3

2.2 実験計画

【研究テーマ】
質問 登場人物の記憶範囲の違い。
帰無仮説 登場人物間で記憶範囲に差がない。
対立仮説 登場人物間で記憶範囲に差がある。
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でというと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える」より

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える2

2 心理学統計

心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定では仮説を立てて成り立つかどうか作ったデータから決めていく。そこに有意性の差があるのかどうかが検定の対象になる。例えば、男女で不安度に差があるのかどうか、高齢者と成人とで記憶の範囲にどの位差があるのか。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値の間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える」より

心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える1

1 先行研究との関係

データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでにバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、ハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を題材にして登場人物の記憶範囲の違いについて考えていく。 

花村嘉英(2019)「心理学統計の検定を用いてハンリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」を考える」より

ハンリッヒ・ベルとの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」の多変量解析−クラスタ分析と主成分8

6 まとめ 
 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分か説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析が研究をさらに濃いものにしてくれている。

【参考文献】
片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 日本成人病予防協会 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 ハインリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」の執筆脳 2019
花村嘉英 ハインリッヒ・ベルの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」のバラツキ 2019
Heinrich Böll Wander, kommst du nach Sp… Reclam 1982

ハンリッヒ・ベルとの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」の多変量解析−クラスタ分析と主成分7

【カラム】
A平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
B平均1.0 標準偏差0 中央値1.0 四分位範囲1.0
C平均1.8 標準偏差0.45 中央値2.0 四分位範囲2.0
D平均1.6 標準偏差0.55 中央値2.0 四分位範囲1.0
【クラスタABとクラスタCD】
AB 平均1.4 普通、標準偏差0.22低い、中央値1.5普通、四分位範囲1.5高い
CD 平均1.7 高い、標準偏差0.5普通、中央値2.0高い、四分位範1.5高い
【クラスタからの特徴を手掛かりにし、どういう情報が主成分なのか全体的に掴む】
Bの数字が他と比べて低いため、直示の言動で当時の様子を詳述している。
【ライン】合計は、言語の認知と情報の認知の和を表す指標であり、文理の各系列をスライドする認知の柱が出す数字となる。
@ 7、視覚以外、直示、新情報、未解決 → 場面の始まりは未解決が多い。煙草吐き出す。
A 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → 誰かがお辞儀をしたとき、目を開けずにいると、呼吸を感じる。煙草と玉ねぎの臭い。 
B 6、視覚以外、直示、旧情報、未解決 → 上のポケットに煙草がまだある。
C 6、視覚、直示、新情報、未解決 → マッチを擦る。誰かが私の口に煙草を入れた。
D 6、視覚以外、直示、新情報、解決 → どこにいるんだ。ベンドルフにいる。
【場面の全体】
 視覚情報は2割余りであり、脳に届く通常の五感の入力信号の割合よりもかなり少ないため、視覚意外の情報、特に聴覚や嗅覚が問題解決に役立っている。

花村嘉英(2019)「ハンリッヒ・ベルとの「旅人よ、汝スパ…にいたりなば」の多変量解析−クラスタ分析と主成分」より
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プロフィール
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール