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2020年07月06日

ヘルマン・ヘッセの“Schön ist die Jugend”で執筆脳を考える2

2 ヘッセの“Schön ist die Jugend”のLのストーリー

 ヘルマン・ヘッセ(1877−1962)の“Schön ist die Jugend” (青春は美わし)は、1916年にFischerから出版された。立派な人になろうと社会の中で自分の居場所を探してから、故郷にある両親の家に戻る青年時代の自分を題材にしている。外国のとある場所に出かける前の、過ぎ去る夏の数か月が描かれている。詳細で和やかで気持ちのいいことばを用いて子供時代の思い出や健全な家族の安心感を描き、危機と痛みの時代を忍耐強く形にした。
 しかし、感情豊かな物語は、当時のヘッセの生活状況と極端に対立している。1916年、父の死や夫人の発病により結婚生活が崩れ、末の息子も病気になった。第一次世界大戦のさなかドイツの捕虜救援機関でも働いた。戦争に対する不安やストレスも強く、精神障害を発症し、ユング学派のL.B.Langの下で精神分析の治療を受ける。この精神分析が内面の葛藤を表現できるようにことばを開示し、佐藤(1979)によると、ヘッセの作品の構成や展開に重要な役割を果たしている。以降、ヘッセの作風に変化がみられたのも当然である。

花村嘉英(2020)「ヘルマン・ヘッセの“Schön ist die Jugend”の執筆脳について」より

ヘルマン・ヘッセの“Schön ist die Jugend”で執筆脳を考える1

1 先行研究

 文学分析は、通常、読者による購読脳が問題になる。一方、シナジーのメタファーは、作家の執筆脳を研究するためのマクロに通じる分析方法である。基本のパターンは、まず縦が購読脳で横が執筆脳になるLのイメージを作り、次に、各場面をLに読みながらデータベースを作成し、全体を組の集合体にする。そして最後に、双方の脳の活動をマージするために、脳内の信号のパスを探す、若しくは、脳のエリアの機能を探す。これがミクロとマクロの中間にあるメゾのデータとなり、狭義の意味でシナジーのメタファーが作られる。この段階では、副専攻を増やすことが重要である。 
 執筆脳は、作者が自身で書いているという事実及び作者がメインで伝えようと思っていることに対する定番の読み及びそれに対する共生の読みと定義する。そのため、この小論では、トーマス・マン(1875−1955)、魯迅(1881−1936)、森鴎外(1862−1922)の執筆脳に関する私の著作を先行研究にする。また、これらの著作の中では、それぞれの作家の執筆脳として文体を取り上げ、とりわけ問題解決の場面を分析の対象にしている。さらに、マクロの分析について地球規模とフォーマットのシフトを意識してナディン・ゴーディマ(1923−2014)を加えると、“The Late Bourgeois World”執筆時の脳の活動が意欲と組になることを先行研究に入れておく。
 筆者の持ち場が言語学のため、購読脳の分析の際に、何かしらの言語分析を試みている。例えば、トーマス・マンには構文分析があり、魯迅にはことばの比較がある。そのため、全集の分析に拘る文学の研究者とは、分析のストーリーに違いがある。言語の研究者であれば、全集の中から一つだけシナジーのメタファーのために作品を選び、その理由を述べればよい。なお、Lのストーリーについては、人文と理系が交差するため、機械翻訳などで文体の違いを調節するトレーニングが推奨される。
 メゾのデータを束ねて何やら予測が立てば、言語分析や翻訳そして資格に基づくミクロと医学も含めたリスクや観察の社会論からなるマクロとを合わせて、広義の意味でシナジーのメタファーが作られる。

花村嘉英(2020)「ヘルマン・ヘッセの“Schön ist die Jugend”の執筆脳について」より

2020年06月02日

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える7

3 まとめ

 カフカの「変身」のザムザと家族との不安度に関しデータベースから心理学統計による評価をしてみると、差があることが分かった。

参考文献

大山正・中島義明 実験心理学への招待 サイエンス社 2012
実吉綾子 心理学統計入門 技術評論社 2013
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015 
花村嘉英 日语教育计划书-面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム-中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁/戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 フランツ・カフカの「変身」の執筆脳について ファンブログ 2020
Franz Kafka Die Verwandlung Reclam 1984

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える6

1 最初はザムザと家族との不安度に関し差がないと予測する。両方の平均値を取ると、ザムザ1.0、家族0.9になる。この差は誤差の可能性がある。
2 具体度の1、2は独立変数であり、それにともなう不安度は、従属変数になる。
3 独立変数そのものの1、2が要因で、独立変数の実際の値である不安度が水準になる。
4 ここでは、どちらの水準も同じ標本からデータを集めているため、具体度という要因は、参加者内要因になる。 
5 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する。危険率は通常5%未満のため、ここではt検定を採用する。 
6 t検定では、二つの平均の差を表す統計量(t値)、データの規模を表す自由度(df)、p値(p-value)を説明する。
[満足度のt検定]
ザムザ1.0、家族0.9、よってt値=0.1。
自由度は、独立した標本の個数から1引いたものである。よってdf=8。
p値は0.02にする。ここでは5%未満のため、対立仮説を採用し有意な差があるとする。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの『変身』を考える」より

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える5

表2 具体度

Einmal während des langen Abends wurde die eine Seitentür und einmal die andere bis zu einer kleinen Spalte geöffnet und rasch wieder geschlossen; jemand hatte wohl das Bedürdnis hereinzukommen, aber auch wieder zu viele Bedenken.→ザムザ1、家族2

Gregor machte nun unmittelbar bei der Wohnzimmertür halt, entschlossen, den zögernden Besucher doch irgendwie hereinzubringen oder doch wenigstens zu erfahren, wer es sei; aber nun wurde die Tür nicht mehr geöffnet und Gregor wartete. Vergebens. →ザムザ1、家族0

Früh, als die Tür versperrt waren, hatten alle zu ihm hereinkommen wollen, jetzt, da er die eine Tür geöffnet hatte und die anderen offenbar geöffnet worden waren, kam keiner mehr, und die Schlüssel steckten nun auch von außen.→ザムザ1、家族0

Spät erst in der Nacht wurde das Licht im Wohnzimmer ausgelöscht, und nun war leicht festzustellen, daß die Eltern und die Schwester so lange wachgeblieben waren, denn wie man genau hören konnte, entfernten sich jetzt alle drei auf den Fußspitzen. →ザムザ1、家族1 

Nun kam gewiß bis zum Morgen niemand mehr zu Gregor herein; er hatte also eine lange Zeit, um ungestört zu überlegen, wie er sein Leben jetzt neu ordnen sollte. →ザムザ1、家族1

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの『変身』を考える」より

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える4

2.3 「変身」の作者と登場人物間の距離が違う   

 「変身」は、ある朝害虫に変じたザムザが家族の様子を観察する内容である。ここでは、この小論の研究テーマ、グレゴール・ザムザと家族との不安度に関し違いがあるかどうかについて作成したデータベースを基に考察していく。 

解答 グレゴール・ザムザと家族との不安度に関し差がある。

表1 具体度

Aber bald zog er ihn enttäuscht wieder zurück; nicht nur, daß ihm das Essen wegen seiner heiklen linken Seite Schwierugkeiten machte - und er konnte nur essen, wenn der ganze Körper schnaufend mitarbeitete -, so schmeckte ihm überdies die Milch, die sonst sein Lieblingsgetränk war, und die ihm gewiß die Schwester deshalb hereingestellt hatte, gar nicht, ja er wandte sich fast mit Widerwillen von dem Napf ab und kroch in die Zimmermitte zurück.→ ザムザ2、家族0

Im Wohnung war, wie Gregor durch die Türspalte sah, das Gas angezündet, aber während sonst zu dieser Tageszeit der Vater seine nachmittags erscheinende Zeitung der Mutter und manchmal auch der Schwester mit erhobener Stimme vorzulesen pflegte, hörte man jetzt keinen Laut.→ ザムザ1、家族2

Nun, vielleicht war dieses Vorlesen, von dem ihm die Schwester immer erzählte und schrieb, in der letzten Zeit überhaupt aus der Übung gekommen. Aber auch ringsherum war es so still, trotzdem doch gewiß die Wohnung nicht leer war.→ ザムザ1、家族1

>Was für ein stilles Leben die Familie doch führte<, sagte sich Gregor und fühlte, während er starr vor sich ins Dunkle sah, einen großen Stolz darüber, daß er seinen Eltern und seiner Schwester ein solches Leben in einer so schönen Wohnung hatte verschaffen können. → ザムザ0、家族1

Wie aber, wenn jetzt alle Ruhe, aller Wohlstand, alle Zufriedenheit ein Ende mit Schrecken nehmen sollten? Um sich nicht in solche Gedanken zu verlieren, setzte sich Gregor lieber in Bewegung und kroch im Zimmer auf und ab. → ザムザ1、家族0

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの『変身』を考える」より

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える3

2.2 実験計画 

【研究テーマ】 
質問 グレゴール・ザムザと家族との不安度に違いについて。 
帰無仮説 グレゴール・ザムザと家族との不安度に関し差がない。 
対立仮説 グレゴール・ザムザと家族との不安度に関し差がある。 
【実験計画】
独立変数 実験や調査をする人が仮説を検証するために使用する変数。原因と結果でいうと原因である。
従属変数 独立変数の操作に応じて変化すると考えられる変数。原因と結果でいうと結果である。
【要因と水準】
要因 実験者が使用する変数。独立変数そのもの。
水準 実験者が使用する種類。独立変数が実際にとる値。
【参加者間要因と参加者内要因】
参加者間要因 水準のデータが異なる標本から集められる場合。
参加者内要因 水準のデータが同じ標本から集められる場合。
【有意確率】
帰無仮説を前提としたときに、誤差から偶然ある程度の差が標本に生じる確率のこと。危険率とかP値という。また、誤差には、本当はないのに誤って誤差があるとする第一種と誤差があるのに誤ってないとする第二種とがある。実吉(2013)では、5%水準を基準にしている。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの『変身』を考える」より

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える2

2 心理学統計 

 心理学統計では、心の働きを数値化しながら客観性を計り、集計や分析を試みる。心を測定する時は、様々な要因がデータに含まれるため、データには誤差が付き物である。そのため、統計学により誤差を取り除き真の値を求めていく必要がある。そうすると、限られた人数のデータから人間一般に共通する心の働きも推測可能になる。

2.1 有意性検定

 科学では全般的に仮説を立てて検証する方法が使われる。実吉(2013)によると、検定の際に仮説が成り立つかどうかは、作成したデータから決めていく。検定の対象は、そこに有意性の差があるかどうかである。例えば、男女の性差で満足度に差があるのかどうか、または不安度に差があるのかどうか考える。こうした問題に対してデータを集めながら検定すると、解答が見えてくる。

【検定の流れ】
帰無仮説と対立仮説を立てる → 独立変数と従属変数を具体的に決め、実験計画を立てる → データを取る → 実験計画に応じた統計検定を行う → 得られた有意確率(p値)を有意水準と比較する → 帰無仮説の棄却、採択を決定する

 ここで、帰無仮説とは、比較する数値間に差がないという仮説である。対立仮説は比較する数値間に差があるとする仮説である。検定では、まず帰無仮説が正しいことを前提に検討され、帰無仮説が成り立たなければ、それを棄てて対立仮説に移り、差があるという結論にする。つまり背理法による命題の証明である。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの『変身』を考える」より

心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの「変身」を考える1

1 先行研究との関係

 データベースを作成ながら購読脳と執筆脳を分析するシナジーのメタファーの研究も次第に安定してきている。これまでバランスを意識して二個二個のルールに基づき多くの組み合わせを作ってきた。統計についても、バラツキ、相関関係、多変量分析と進み、今回の心理学統計を含めれば、バラツキと相関、多変量と心理という組み合わせができる。この小論では、実吉(2013)の心理学統計の検定の手法に従い、カフカの「変身」を使用して害虫に変身したグレゴール・ザムザと家族との不安度に違いがあるかどうか考えていく。

花村嘉英(2020)「心理学統計の検定を用いてフランツ・カフカの『変身』を考える」より

フランツ・カフカの「変身」の多変量解析−クラスタ分析と主成分9

3 まとめ 

 データベースの数字を用いてクラスタ解析から得られた特徴を場面ごとに平均、標準偏差、中央値、四分位範囲と考察し、それぞれ何が主成分なのか説明できている。そのため、この小論の分析方法は、既存の研究とも照合ができ、統計による文学分析がさらに研究を濃くしてくれている。

【参考文献】

片野善夫 ほすぴ162号 知っているようで知らない五感のしくみ−視覚 ヘルスケア出版 2018
加藤剛 多変量解析超入門 技術評論社 2013
日本成人病予防協会監修 健康管理士一般指導員受験対策講座 ヘルスケア出版 2014 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2018 
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默 ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 川端康成の「雪国」から見えてくるシナジーのメタファーとは−「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日语教学研究会上海分会論文集 華東理工大学出版社 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日语教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 フランツ・カフカの‟Die Verwandlung”の購読脳について ファンブログ 2020 
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花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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